43-4・美穂ダウン~真奈の怒り
-数時間後-
紅葉が「空腹すぎて死んでしまう」とごねたので、紅葉&美穂&バルミィは、近くのコンビニで弁当を買って、反省会を兼ねてベンチに座って食べていた。紅葉は、「これから、腹ごなしにもう一運動するの?」って勢いで、3つ目の弁当を貪り食っている。
「ばるっ?どうしたばる、美穂?」
「んぁっ?」
バルミィが美穂の異変に気付いて声を掛けたので、紅葉も手を止めて美穂を見る。美穂は飲み物ばかり飲んでいて、弁当の中身が全然減っていない。
「あぁ・・・あんま食欲が・・・な。
紅葉みたいな変人と違って、あたしは真人間だから、
こんな時間に腹一杯食っちゃうと太るし」
「んぁっっっ!?ァタシ、ヘンジンぢゃないもんっ!」
「はははっ!まぁそんなわけで、こんなに食えないから半分食ってくれ」
美穂は、ご飯2/3とメインのおかずを紅葉の弁当容器に分けてやる。
「うほぉっ!こんなにもらっちゃってィィのミホっ!」
「ほら、やっぱ変人だ。
普通の女子高生は、この時間帯に弁当3つ半も食えね~ぞ」
「ヘンジンぢゃないっ!」
「なら、返せ」
「ぅんにゃ!食べるっ!」
紅葉は「コレゎもうァタシのもの!」と言わんばかりにモシャモシャと食べ始めた。美穂は紅葉の“相変わらずな光景”を見て笑った後、自分の手元に残った弁当をチビチビと食べる。
解散となり、紅葉が帰宅をしたのは23時近かった。女子高生が出歩くには遅い時間である(言うまでもないが、両親は承知の上で放置)。風呂と歯磨き済ませてベッドに潜ったが、通常だったら2分とかからず眠りに落ちるのに、興奮と余韻でなかなか寝付けなかった。
―翌日―
毎度の如く寝坊をして、忙しなく自宅を飛び出した。ギリギリで亜美との待ち合わせに間に合う。
「クレハ遅~いっ」
「ごめぇ~~~~~んっ!!」
コンビニの駐輪場で美穂&真奈と合流して一緒に登校をする。心なしか美穂に覇気が無く、口数も少ない。眠れなかったのだろうか?それとも、夜食の半分以上を紅葉に提供したので、お腹が空いたのだろうか?
「美穂さん大丈夫ですか?顔色悪いですよ」
「ん・・・ただの寝不足だ。気にすんな」
真奈は、一昨日の夜も「疲れ切った美穂」に遭遇しているから心配で仕方が無い。
―優麗高の終業式―
体育館に全校生徒達が集まって整列する。2B最前列の紅葉は、あくびを噛み殺しながら校長の話を聴き流していた。
(・・・ねむてぇ~・・・はょ終ゎれ)
明日からは楽しい春休み。そして来月からは3年生。
終業式後のホームルームで“恐怖の儀式”が待ち受けてるのを思い出して憂鬱になった。調理実習と体育が5で、それ以外の大半は3と2。そして担任からの一言が書かれた【備考欄】には、中1から今に至るまで、まるで判で押したかのように『明るく元気で結構ですが、もう少し落ち着いて行動しましょう』と書かれている。
(ホームルーム、イヤ。やっぱり、終業式、終わるな)
ばった~ん
誰か倒れた音と、ザワつく声。何の気なしに目を向けたら、美穂が倒れていた。駆け寄って抱き起こした女生徒が、額に手を当ててから担任の山本先生に「酷い熱です」と伝える。真っ青な顔色の美穂は、保健係の女生徒に肩を借りて、力ない足取りで体育館を後にした。
紅葉と麻由は視線を重ね合って「大丈夫かな?」とアイコンタクトをする。真奈は「やっぱり調子が悪かったんだ」「私がもっと気に掛けていれば」と自分を責めてしまう。
―終業式が終わって2B―
北村先生が1人1人に言葉かけながら成績表を渡す。だが、紅葉は美穂が心配で気が気じゃない。先生達の言葉は聞き流している。
「起立!気をつけ!礼!」
ホームルームが終わるとクラスメイトの数人が「カラオケに行こう」と誘ってきたが、紅葉は「また今度」と断って、教室を飛び出した。息せき切って保健室に到着するが美穂と保険医の姿は無い。
「んぇっ?ヒドいビョーキとかでニューイン?」
困惑をしていたら、同様に美穂を心配した麻由と真奈が寄ってきた。
「どうしよっ?ミホが居ないの」
「担任の山本先生に尋ねてみましょう」
「うん、そうだね」
3人は階段を駆け上がって教務室へ。2C担任を見付けて駆け寄る。
「山本先生っ!美穂さんは!?」
「悪いビョーキぢゃないよねぇ!?」
「桐藤なら文架総合病院へ行ったよ」
「んぇぇ!?悪いビョーキなの!?」
「まだ何も解らん。俺も連絡待ちだ」
3人は気がもんで「連絡」なんて待ってられない。紅葉の「行こう」を合図にして教務室から飛び出し、文架総合病院へと向かう。
―1時間後・文架総合病院―
結果から言うと美穂は過労だった。とりあえず酷い病気じゃなかった事に安堵をする。
そこらの下手な大人顔負けだが、世間的には女子高生。姐御肌のリーダー格なので、つい頼ってしまうが、体力は一般人と変わらない。「気ままな独り暮らしで食事も睡眠も適当」程度なら若さでカバーできるだろうが、愉怪な仲間達が直面をしているのは“日常的”を遥かに超える出来事ばかりだ。肉体的・精神的に疲れが溜まっても不思議ではない。
「ミホ・・・寝てるね」
処置室を覗いたら、美穂は栄養剤の点滴を受けて眠っていた。3人は目覚めるまで待つことにする。待合室に戻る道中で、バルミィ&ジャンヌと合流してきたので、麻由が「単なる過労」と伝えて安心させる。だけど、紅葉と真奈が黙って俯いたまま元気が無い。不思議に思ったバルミィが訪ねてみる。
「美穂さん・・・一昨日の夜も、今朝も、調子が悪そうだった。
私が、もっとちゃんと気遣っていれば、倒れなくて済んだかもなのに・・・」
「・・・ばるっ?」
「そ、そうだったんですか?申し訳ありませんが、私は全く気付けませんでした」
「皆と一緒の時は、私にも“いつもの美穂さん”に見えたよ。
でも、きっと、無理して普通にしてたんだと思う」
「なるほど、ミポリンは無理強いや無理難題をしたのだな」
「ジャンヌ・・・
『無理強い』とは『嫌がる事を無理矢理押し付けてやらせる』事、
『無理難題』は『道理を外れた言いがかり』ですよ。
確かに美穂さんは頻繁に『無理強い』や『無理難題』をしますが、
現状の表現としては間違っています。
『極めて苦しい状況の中でなんとか物事のやりくりをつける』という意味の
『無理算段』が該当するのではないでしょうか?」
「あ・・・あのさっ」
しばらく黙りっぱなしだった紅葉が口を開く。そしてバルミィに視線を向けた。
「話しちゃっても良いよね、バルミィ?」
「うん、こうなっちゃったら、内緒にはできないばるね」
「・・・?」×3
「ミホゎ『みんなまで巻き込む必要は無いから黙ってろ』って言ったんだけどね、
ァタシとミホとバルミィゎ、昨日と一昨日とァタシの特訓やってたの。
ミホが倒れちゃったの、そのせいかもしんない」
麻由とジャンヌは「紅葉がシッカリしないなら、自分達がやらなければ」と単独で特訓をしていたので、美穂がちゃんと紅葉をサポートしていた事を知って驚いてしまう。
「自分が紅葉を煽った所為で大変な事になったって、責任を感じていたばる。
だから、紅葉と模擬戦やって、きっと無理してたばる。」
一人で焦ったり、紅葉の呑気さに苛立っていた真奈は、怒りが込み上げてきた。眉間にシワを寄せて紅葉を睨みつける。
「結局は、紅葉ちゃんの所為じゃん!」
「・・・んぁっ?」
「一昨日、私が聞いた時、紅葉ちゃんは何にも考えてなかったから、
美穂さんが頑張るしか無くなったんじゃん!
なんで、そんなに自覚が無いのっ!?」
紅葉は動きを止めて見つめ返すばかり。真奈が詰め寄って堰を切ったように捲し立てた。
「勝手に皆の変身アイテムやUFOを賭けて戦うなんて約束してっ!!
『負けたら皆が戦う力を失う』『ジャンヌさんは消える』って事、
ちゃんと理解してるのっ!?」
「・・・・・・・ぃゃ、ぁの・・・・」
「今回にだけじゃなくて、いつもそうっ!!
気まぐれと勢いで皆を振り回して、引っ掻き回してばっかりっ!!
美穂さんが倒れたの、紅葉ちゃんの所為じゃんっ!!
紅葉ちゃんが何にもしない所為で、美穂さんが責任を感じたんじゃんっ!!
紅葉ちゃんが、ちゃんと考えていれば、
美穂さんは無理しなくて済んだんじゃんっ!!」
〈ァタシだって、何とかしなきゃって思ってるよぉ〉
「!!!!!」
真奈の脳内に、紅葉の心の声が聞こえた気がした。
「だったら、ちゃんとやってよ!!
これで負けるような事になったら一生恨むからっ!!」
真奈は大きな目に涙を浮かべながら言い散らし、皆に背を向けて小走りで去ってしまう。真奈の剣幕に圧された紅葉と仲間達は、ただ黙って聞いて見送ることしか出来なかった。
-処置室-
通路で響いた真奈の怒鳴り声で、美穂は目を覚ました。
(くそっ!・・・情けない)
悔しそうな表情を浮かべて拳を握りしめる。倒れた理由は「無理のしすぎ」と解っている。一昨日の夜、真奈に心配された時に、素直に「体力がヤバい」と言えていたら、今よりはマシな状況になっていたのだろうか?少なくとも、真奈にあそこまで言わせずには済んだだろう。
ヴァルカンの長時間使用に体が付いていけなかった。どうにか再戦までの1週間は保たせたかったが、たった2日間でダウンしてしまった。美穂以外なら、同じ程度に体を酷使しても、疲労で倒れたりはしないだろう。そう思うと、自分が人間の体力しか持っていないのが悔しくて仕方が無い。




