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43-2・紅葉の薙刀稽古~麻由の特訓

―20時・源川家―


 入浴を終えた紅葉がジャージ姿で自室のベッドに寝転がる。もし麻由の計画が実行されていたら、今の時間帯は特訓中だろう。今朝、麻由に「地獄のスケジュール」を押し付けられた時は、「私は再戦前に死ぬんだな」と命を諦めそうになったが、美穂が上手い事フォローして麻由を諦めさせてくれた。

 寝るには少し早いが何して暇潰そう?とりあえずX(旧Twitter)開いて、夕食の画像を貼りつけて呟いた。


♪~♪~♪~

「ぁりゃ?ミホから・・・・・もしもし~っ」

≪今から、一暴れする元気あるか?≫

「んぁ?ぅん、大丈夫だけど・・・でも妖怪ゎ感知してないよ~?」

≪ちょっと、運動公園まで来てくれ≫

「ん!りょ~かぃっ!!」


 呼び出しの理由はよく解らないが、緊急事態ではなさそうだ。ツインテール結ってデニムパンツを履いて、着ていたTシャツの上からジャケットを羽織り、コッソリ玄関へ行ってスニーカー取って来て、自室ベランダの手摺りを飛び越える。妖力をブレーキに軟着陸するなり、駐輪場へダッシュ。

 寝室にいた有紀は察していたが「当分は監視を止める」と決めているので、黙って見送る。




―十数分後・運動公園―


 紅葉が到着をしたら、片隅に停められら原チャリに美穂が跨ってスマホをいじりながら待っていた。隣にはバルミィの姿もある。


「来たか」

「どーしたの?『ひとあばれ』ってな~に?」

「『どうした』じゃねえよっ。今から特訓だ、特訓っ!

 麻由みたく分刻みの計画を立てる気はね~けど、考えてる事は同じだ!

 朝、真奈に散々煽られてたけど、オマエどう思った?」

「んっ!・・・何とかしなきゃって」

「だったら、何とかするしか無いよな」

「今日から毎晩、お手伝いする事に決めたばるっ」

「・・・ミホ・・・バルミィ」

「言葉で教えて、どうにかなるもんじゃねえ。実戦形式で身体で覚えるんだっ」

「・・・んっ!」


 紅葉だって呑気に構えてちゃマズいことくらいは解っていた。だが、真奈に一方的に煽られても、どうすれば上手く行くのか解らなかった。麻由のスケジュールを見てもクリアできる自信が無かった。だけど、美穂とバルミィのアプローチは解りやすくて助かる。俄然、やる気が出て来た。


「バルミィは打ち合わせ通り、撮影ヨロシクなっ!」

「了解ばるっ!」


 バルミィがふわりと飛んで少し離れ、ビデオカメラを向ける。


「よーし!本気で行くょっ!!・・・・・げ~んそうっ!!」


 紅葉がゲンジに変身して構える。


「もちろん『本気』同士だ!変身っ!!」


 美穂はネメシスに変身をして、ヴァルカンのカードを取り出して翳した。ネメシスの全身が炎に包まれ、ネメシスヴァルカン(以下、ネメシスV)に変化する。


「幽姫って奴・・・オマエが正面からぶつかって、手も足も出なかったんだろ?」

「ぅんっ!」

「だったら、ノーマルのパワーじゃ、オマエの練習にならね~からな。

 こっちのパワーを上げていくぞ!あたしを刃吾幻だと思ってかかってきな!」

「ぅんっ!」

「いきなり、オマエに『新しい必殺技を考えろ』ったって無理だろうし、

 あたしじゃ、ゲンジのスペックが解らないから、必殺技はイメージできない」

「んぇぇっ!?必殺技の練習ぢゃないの!?」

「必殺技だけ考えても、使う前に倒されちゃ意味が無い!

 相手の隙を作るには、小手先の技も必要なんだよ!

 どうせ、いつも通りに薙刀を力任せに振り回してたんだろ?

 それくらい見なくても想像できる」

「ん~~~~~~~~~っ!」

「付け焼刃でも何もしないよりマシだから、とりあえず薙刀の基本だけ覚えろ!」

「ぅんっ!」

「必殺技は授業中にでも考えて、イメージができたら麻由に相談しろ!

 どうせ、授業なんてロクに聞かずに、ボケッとしてんだろ。

 その時間をイメトレに使え!」

「ゎかったっ!!」


 ゲンジが巴薙刀を召喚して構える。ネメシスVはレイピアを構える。美穂とガチでタイマンは久しぶりだ。しかも、一方的に翻弄された記憶しか無い。それなり場数を経験して少しは強くなったけど、それは美穂も同じ。


「いっくぞぉっっ!!とぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃっっ!!!!」


 ゲンジは真っ直ぐに突進をして、ネメシスV目掛けて巴薙刀を力任せに振り回す。


「・・・・相変わらずだなっ!」


 ネメシスVは余裕で見切って回避を続けて、ゲンジが思い通りに攻められずに苛立つのを待つ!


「んんんっっ!!」


 ネメシスVは「待っていました!」と言わんばかりにゲンジの大振りを回避!柄にブレードを充てて滑らせながらゲンジの懐に飛び込んだ!


「やばっ!」

「気付くのが遅いっ!」


 ゲンジは薙刀で防ぎたいのだが、ネメシスVに抑え込まれているので体の正面に戻せない!次の瞬間には、レイピアのポイント(切先)が首筋ギリギリで寸止めされる。


「はい、1回死んだ!」


 ネメシスVは、瞬殺(?)されたゲンジを眺めつつ、バルミィに声かける。


「撮れてるか?」

「バッチリばる~っ」

「くっそぉ~っ!!」

「薙刀を全く解ってない・・・・・・・刀と薙刀の違いを言ってみな」

「長ぃっ!!」

「長いと、どうなる?」

「ん~~~と~~~~、シャテーキョリが違ぅ」

「リーチな・・・それ解ってんのに、何で薙刀の利点を生かさないんだよ?」

「んぁ~~~~」

「ちょっと交代してみっか・・・薙刀貸してくれ。紅葉は、あたしのレイピアな」


 言われるまま巴薙刀を渡し、ヴァルカンレイピアを受け取った。軽くて扱いやすそうだ。


「ん~~~・・・ァタシも、今度からは、剣を使おっかな~」

「そう言うことは、使い熟してから言え!」


 ネメシスVは巴薙刀を握って振り回して重量や重心を確かめてから構え、早速仕掛けてきた!


「ハアアアアッ!!」

「ゎゎゎゎっ!?」


 ゲンジ目掛けて素早い突きを何度も繰り出す!突きを警戒すると今度は斬りつける!真後ろに後退して回避をしたら、再び突きの連打が飛んで来た!ゲンジは、堪らずに大きく後退をして、薙刀の射程圏から離れる!


「どうしたどうした!そんなに離れてちゃ、レイピアは届かないぞっ!」

「わ、わかってるモンっ!!」


 ネメシスVの指摘通りだ。ゲンジがレイピアで攻撃したくても踏み込む隙を見出せない。


「ミホゎァタシが薙刀を大っきく振った時を狙って突っ込んできたっ!」


 突進をしてきたネメシスVが、薙刀を大きく横薙ぎに振るう!チャンスと判断したゲンジがネメシスVの懐に飛び込む!だがネメシスVは、薙刀を素早く手の中で回して、石突きをゲンジの腹に叩き付けた!


「んぎゃぁ!!」


 弾き飛ばされて尻餅をつくゲンジ!ネメシスVが振り下ろした薙刀が、ゲンジの頭の真上で寸止めされる!


「はい、2度死んだ」

「ん~~~~・・・なんでぇ?」


 ネメシスVの方が巴薙刀を使いこなしてる。


「何が足りないのか少しは解ってきたか?」

「ん~~~~~~~~~~~~~~・・・」

「撮影して正解だったな。あたしと紅葉の違いを比べてみな」


 バルミィを呼び、ビデオカメラを受け取って再生にして液晶画面をゲンジに見せた。ゲンジは、とにかく力任せ。攻撃もワンパターンで、挙動だけで動きを読まれている。ネメシスVの動きをロクに見ていない。


「どうよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・かっこゎりぃ・・・・」


 対するネメシスは、突きを多用して、たまに斬撃。アウトレンジから攻めまくって懐に入らせず、薙刀のリーチを充分に生かした使い方をしている。構える姿が持ち主より様になっていて、一言で表現するなら“華麗”だ。


「あたしが正解とは言わない。だけど、オマエに比べればマシだろ?」

「ミホ、なんでこんなに上手なのぉ~?」

「別に上手とは思ってねーよ。習ったことも無い。

 だけど、武器の重量に逆らわないようにしながら、

 相手をちゃんと見て、どう隙を突くかは考えてる」


 ゲンジは、しばらく“ネメシスの映像”を眺めたあと、脳内で“華麗な自分”を想像して立ち上がった。


「第3ラウンド、やろっ!次ゎァタシが薙刀ねっ!」


 ネメシスVから返された巴薙刀を軽く振り回してから構える。




―杉田家―


 真奈がベッドに寝転んで物思いに耽る。スマホを操作してX(旧Twitter)を開いてみたら、紅葉の呟きが載っていた。「ママと一緒に作ったよ~っ!!」なんて短い文章と一緒に、晩ごはんを前にサムズアップした姿を自撮りしたのが貼られている。

 苛々が募る。紅葉に色々相談したのに何も考えてない雰囲気だった。麻由が立ててくれた計画も紅葉が曖昧にした。負けたら皆の変身アイテムを奪われる重大性を、ホントに解ってるんだろうか?

 不安なので、LINEで美穂に「紅葉ちゃん勝ちますかね?」とメッセージを送るが既読にならない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・もうっ!」


 心が落ち着かない真奈は、ベッドから起き上がって、ジャケットを着て、自室を出て階段を駆け下りる。


「ちょっと、友達のところに行ってくる!」

「え?こんな時間に?ちょっと待ちなさい。」

「直ぐ戻ってくるから!」


 リビングに居た叔父に呼び止められるが、スルーをして玄関を飛び出す。念の為にLINE画面を再確認したが、やはり、美穂に送ったメッセージは既読になっていない。美穂は、この時間帯は部屋に居るはず。スマホが繋がらなくても、直接行って今後の方針について美穂と相談をしたい。

 真奈は自転車に跨がって、美穂のアパートに向けてペダルを漕いだ。




-優麗高グラウンド-


「やぁぁっっっ!」 「ハァッ!」


 照明1つ灯されていないグラウンドの中央で、セラフ(麻由)とマスクドジャンヌが、模擬戦を行っていた!ノイエ・ペティ・ディアブル(黒炎の小悪魔達)がセラフの周りを飛び、タイミングをずらして四方から向かってくる!セラフは静薙刀で最初の2本は叩き落とすが、3本目が被弾して体勢を崩し、4本目を喰らって弾き飛ばされる!転倒したまま体勢を立て直せないセラフに、5本目と6本目が向かって行くが、「これ以上は意味が無い」と感じたジャンヌが念じて黒炎の小悪魔を解除したので、推進力を失ったナイフは地面に落ちた。


「大丈夫ですか、マユユ?」

「・・・は、はい。申し訳ありません」


 ジャンヌが駆け寄って手を差し出し、掴んだセラフが起き上がる。この模擬戦では、ジャンヌはひたすらノイエ・ペティ・ディアブルを発動させるのみ。セラフがナイフの群れをかいくぐって接近してきた時のみ剣で対応をする事になっているのだが、セラフはナイフ群をクリアする事ができない。

 熊童子&星熊童子戦では、星熊の銃弾で徹底的に牽制されて、武器を召喚する余裕や得意な間合いを一度も許してもらえずに、熊童子に接近をされて敗れた。悔しくて仕方が無い。セラフがちゃんと熊童子&星熊童子に対応できていれば、バルミィが1対4の数の暴力に追い込まれる事も無く、ジャンヌの到着まで戦線を維持して3対4の戦いをできたはずだ(美穂を待って4対4で戦える可能性もあった)。


「紅葉に“その気”が無いなら、

 私が幽姫と戦って、ジャンヌや、ミーメさんのUFOを守ります!

 ジャンヌには教習のキャンセルまでさせて申し訳ありませんが、

 引き続きサポートをお願いします」

「もちろんです!

 私が消滅してしまえば、教習も免許も何の意味の無くなってしまうからな。

 今は、幽姫を攻略が優先です」


 数歩後退して静薙刀を構えるセラフ。同じく数歩後退して6本のナイフを準備するジャンヌ。セラフが理力を全身に纏った状態なら、ノイエ・ペティ・ディアブルを喰らって体勢を崩したとしても、弾き飛ばされたしはしない。だが、星熊の銃弾と同じ体感でなければ特訓にはならないので、今のセラフは意図的に防御力を弱めている。



-校舎屋上-


 崇(紅葉の父)が手摺りに凭れ掛かってセラフの特訓の様子を眺めていた。今朝から有紀が紅葉のストーキングを中断しているので、頼まれたわけではないが代わりに崇が監視をしている。ただし崇の場合、ずっと紅葉に張り付いているのは性に合わないので、適度に動き回り、今はセラフ&ジャンヌの特訓現場に立ち寄っていた。

 足元に置いた鞄の中で妖気が発せられて「物申したい」雰囲気なので、ケースを取り出して開けて、鬼の顔を模したリングを1つ摘まんで念を込めた。リングから念が沸き出して、崇の脇に星熊童子が出現する。


「オマエの感想は?」

「天の巫女・・・奥方様に『真価を発揮する前に潰せ』と指示をいただいたので、

 その通りに致しましたが、潜在的にはかなりの物かと・・・。

 虎熊と金熊がバルカン人のサポート能力を封じていなければ、

 もう少し善戦したと思われます」

「長所を完封した有紀の戦術が見事って事だね。

 あの特訓は、どう感じる?

 あれで、オマエと互角に戦えるようになると思うかい?」

「ナイフが飛んでくるだけなら、2~3日もあれば彼女は順応するでしょうな。

 そうすれば、私の銃弾には対応できるようになります。

 だが、裏を返せば銃にしか対応できません。

 そして、私の攻撃手段は銃ばかりではありません」

「・・・だよね。少々盲目的。彼女には、もう少し多角的な視野が必要だ」


 崇はスマホを操作して耳に宛てる。


〈貴方が電話をしてくるなんて・・・何か、緊急事態ですか?〉

「うん、緊急事態。上京前の最後の大仕事だ。

 惚れた子に恩を売っておかないか?耳寄り情報を教えてあげるよ」

〈・・・はぁ?〉


 同族に優しい崇(酒呑童子)は、応援を込めて海跳サトリに「麻由が特訓中」「手伝ってあげれば?」とアドバイスを送る。

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