43-1・美穂の予想~敗戦翌日
―夜・源川家―
惨敗をして、肉体的にも精神的にも疲弊している。さすがの紅葉も、元気なく「ただいま~」と玄関に入ったら、味噌の匂いが鼻腔をくすぐった。今夜のおかずは何だろう?こうなったら、ママの作った晩ごはんだけが楽しみだ。そんな気分で居間に飛び込んで、数秒が経過・・・。
「何んんっぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
「ごめんね~っ、お友達と出かけてたら、買い物に行きそびれちゃった!」
キッチンで紅葉の奇声が響き渡く。テーブルに並んでるメニューは【ごはん・大根の味噌汁・白菜漬け】だけだった。有紀は採石場で年増扱いされたのを根に持っていた。それで「晩ごはんで手抜きする」と言う、地味に堪える嫌がらせをしている。言うまでもなく消耗した有紀や、今回の一件とは全く関係の無い崇も道連れで、【ごはん・大根の味噌汁・白菜漬け】になるが、それは覚悟の制裁だ。
紅葉は露骨に不満そうな表情をして冷蔵庫や戸棚を眺めてみたけど、ツナ缶1個すら発見できなかった。
―美穂の部屋―
テレビを点けているが、見ずに音声も聞き流してるだけ。美穂は幽姫と接した違和感を考えていた。自分が戦いから除外されたのは、偶然ではなく、多分、意図的に仕組まれた。
「・・・なんの為に?」
最初に麻由が巨漢と銃使いに倒された。しかも、徹底的に得意な間合いを潰されて、武器も装備させてもらえずロクに反撃を出来ずに、2分弱で脱落(麻由&バル談)。
バルミィは、麻由が倒されるまでの間は、金髪で肉弾戦のガキと銀髪の剣使いのガキに徹底的に接近戦を挑まれて麻由の援護が一切させてもらえず、麻由脱落後は4人がかりで攻められた(バル談)。
ジャンヌは、真っ先に真奈を攻められて、ほぼ強制的にラピュセルにさせられ、命令権発動によって残存体力を減らした状況で4人がかりで攻撃をされた。ラピュセルは攻撃力が上がる代わりに、真奈が当事者になって第3者的な立場で戦場を見る事が出来なくなる(ジャンヌ談)。
「見事なくらいに、それぞれの長所を潰されているな」
鬼達の親玉が紅葉と戦い、必殺技を破った。配下が4人も居るのに、何故、紅葉だけは幽姫が相手をした?しかも、ラピュセルが冥鳥の弱点をカバーしたにもかかわらず、冥鳥破りに拘った。
「違和感だらけだ。目的は何だ?」
不意に窓が叩かれたので視線を向けたら、バルミィが覗き込んでいたので開錠して招き入れる。
「急にどうしたんだ?」
「軽いオヤツとデザート、見繕ったばる」
「おぉっ、気が利くじゃん!サンキュー!」
スナック菓子やプリンをテーブルに広げ、喋りながら飲み食いして一息つく。やがて美穂から疑問を切り出した。
「バルミィも今日の戦いに疑問があるんだろ?だから来たんだよな?」
「うん・・・・幽姫の行動、どうにも不自然ばる」
「だよなあ。経緯はだいたい解ったけど、もう少し細かい事を教えてくれない?」
「さっさとやられちゃったから、ちょっとしか話せる事ないけども・・・」
バルミィは、幽姫(刃吾幻)と遭遇してから、戦鬼四天王に倒されるまでの経緯を改めて話す。4人の配下は、初めから居たのではなく、幽姫が召喚をした。
「それで、麻由がフリーズしちゃったばる」
「アイツ(麻由)、突発的な状況変化に弱いからな」
美穂とバルミィは、麻由の底力は認めているが、同時に気持ちがブレている時の脆弱さも知っている。
「もしボクが、美穂達と戦うなら、真っ先に潰したいのは、
司令塔の美穂か、潜在能力の高い麻由ばるね。
特に麻由は、ビビらせて闘争心を発揮する前なら楽勝ばるよ」
「あたしも同じかな。
オールマイティーにサポートが出来るバルミィに、
一切サポートさせないってのも有効だ」
「ボク自身、ほとんど何も出来ずに倒されちゃったんだから、
麻由を批難できないばる」
紅葉以外のメンバーの長所を見事なくらいに潰された。それでいて致命傷を受けていない。幽姫は「武者修行をしている」と言うワリには、愉怪な仲間達を知り尽くしている。
「紅葉だけが特別扱い・・・。残りは、最低限の労力で省かれた。
戦闘から除外されたあたしも含めて・・・そうとしか思えないな」
「紅葉だけをやっつけるのが目的ばるか?」
「まぁ、条件を当てはめると、そうなるな」
「なんの為に?」
「そこ、あたしも悩んでるところ」
美穂が、チーム愉怪の戦い方のクセを調査した状態で、紅葉だけを目の敵にするなら、麻由&バル&ラピュセルは、同じように長所を発揮させない手段で潰す。だけど、紅葉を潰す手段が、美穂と幽姫では違う。紅葉の必殺技はラピュセルが弱点をフォローしている。ワザワザ冥鳥に突っ込まず、回避でやり過ごして、後は適当に戦っていれば、紅葉は電池切れで勝手に機能停止するだろう。そもそも、美穂だったら、紅葉に冥鳥は撃たせない。
「リスクを負ってでも、必殺技を破るのが目的か」
「なんか、話せば話すほど、紅葉の身近な人って気がしてくるばるね」
「変身中の姿はゲンジに似ていたような気がする。
そういや、紅葉って、背後の組織があったよな。
同じような形の奴が居ても不思議じゃない」
「幽姫は、組織の反逆者ばる?
でも、それなら、ボク達の周りなんてウロチョロしてないで、
とっくに逃げてるばるよね?
・・・ってことは、紅葉は正規の仲間に倒されたばるか?」
「うん、組織内のヤツが敵のフリをして、
紅葉の必殺技を破ったと考えるべきだろうな。
バルミィはさぁ、冨久が紅葉の神鳥を攻略したのはどう思った?」
「見てないから、上手くは説明できないけど、
そんな事できるヤツか居るのかって驚いたばる」
「だよな、あたしも同じ。でも、事実は事実。
そんなスゲー奴は実際に存在するんだよな。
麻由を助ける為に、紅葉が神鳥の弱点をバラしたことはどう思った?」
「麻由に勝ってもらう為に、仕方が無いとは思ったけど、
自分で弱点をバラしたのに危機感の無い紅葉は呑気と思うばる。
紅葉の冥鳥発動を見て、慌ててフォローしたジャンヌの方が正常な反応ばるよ」
幽姫の目的は「組織の者が紅葉に危機感を持たす」で間違いは無さそうだ。だけどその仮定が成り立つと、新しい疑問が湧いてくる。
「幽姫(刃吾幻)って何者だ?なんで、妖怪のフリをした?」
「紅葉の知らない人なら、変装なんて必要無いばるよね?」
「つまりは・・・紅葉が良く知る女って事か」
「紅葉のママさんとか?」
「ちょっと極論って気もするけど、イイ線かも。
あたし達は冨久に倒された後、紅葉の父親に助けられた。源川家は怪しいよな」
「同感ばるっ!」
状況からの推測で一定の結論に達した。
次の問題は紅葉だ。1週間後のタイマンまでに、何をどうするつもりだろうか?接近戦は、相手の方が数ランク上。必殺技は攻略されている。このままでは確実に負ける。
だけど、幽姫が紅葉の身近な人物と考えたら、変身アイテムを賭けた件については、相手は本気ではなく危機感を煽る為と予想できるので少し安心した。
「ふぅ~~~・・・・気が抜けたら、ビール飲みたくなっちゃった」
「ばるっ?」
「あたしが紅葉を煽った所為で、大変な事になったのは、
それなりに責任を感じててさ。
さっきまでは、アルコールに逃げるような気がして、
飲む気になれなかったんだ」
美穂は、しかめっ面を解いて畳に寝転がる。今の仮説が全部正しければ、紅葉が負けても、バルミィのUFOとジャンヌの命を取られずに済むかもしれない。でも、それは美穂の勝手な憶測で、負ければ約束通りに全部取られるかもしれない。だから、紅葉に教えて安心をさせるつもりはない。切迫状況は維持して、紅葉を焚き付けて追い込むつもりだ。
―翌朝・源川家―
玄関に座った崇が靴を履いていて、後ろで有紀が見送りをする為に立っている。靴を履き終えた崇が立ち上がって、有紀の方に振り返った。
「じゃ、行ってくるよ。・・・と言いたいところだけど、その前に。
もう、役割は終えたんだから良いよね?」
崇が手の平を広げて、有紀の方に差し出した。まだ、紅葉が自室に居るので“主語”は言わないが、有紀は直ぐに察する。
「そうね」
有紀はポケットから鬼顔のリング4つを取り出して、崇の手の平に乗せた。ちなみに、昨日は(紅葉に年増扱いされた所為で)有紀の機嫌がチョット悪かったので、返却を求められなかった。
「ありがとう。おかげで、最初の目的はクリアしたわ」
昨日の戦いで、有紀は対戦相手を紅葉にしぼる為に、崇から四天王を借りて紅葉以外を担当させたのだ。おかげで、冥鳥撃破と再戦の約束を出来た。次はサシの勝負になるので四天王は必要無い。
紅葉だけでなく美穂も焚き付けたのは、有紀が意図的に仕向けた事。美穂を戦いから省いたのは、「司令塔を不在にした」と同時に「最後まで残す為」でもあった。親目線で見ても、紅葉は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」性格なので、負けん気の強い美穂を「紅葉を煽る役」に宛がった。
「紅葉が対策をどう打ってくるか楽しみね」
崇を見送って数分後、紅葉の部屋で騒がしい生活音が聞こえてきた。いつも通り寝坊をしたようだ。昨日は惨敗した上に仲間達の進退を左右するとんでもない賭けをしたのに、「気が病んで眠れない」って繊細さは無いのだろうか?
「まぁ・・・無いから、いつも、あんな感じなのよね」
着替えて鞄を担いだ紅葉が部屋から飛び出してきて、玄関に直行する。
「朝食は?」
「食べてる時間無いっ!遅刻するっ!・・・んぢゃ、行ってきま~す」
紅葉を見送り、専業主婦のフリを終えた有紀は、夫婦の寝室へ行き、巧みに隠されてる電子ロックのキーボードに暗証番号を打ち込んだ。壁の一画がスライドしてクローゼットが現れる。中には【イケてる女性っぽいスーツ】【優麗高の女生徒の制服】【パティシエ】【看護師】【警察官】【動物の着ぐるみ】etc.様々な衣装が収納されていた。
「・・・・・・・・・・・」
いつも通りに変装をして監視をするつもりたっだが、暫く考えてから止めた。おそらく、新必殺技の特訓に明け暮れる日々が続くだろう。「紅葉は自分の秘密を知らないのに、自分は紅葉に張り付いて一部始終を知っている」や「こっそり見張って対策を練る」のはアンフェアだ。どのようにスキルを上げて挑んでくるか、楽しみにして待つべきだろう。有紀は何も取らずにクローゼットを閉める。
-文架大橋西詰め-
紅葉が自転車を飛ばして、先に行った美穂&真奈&亜美と合流する。途端に不満そうな表情をしていた真奈が寄ってきて、自転車を並走させた。
「紅葉ちゃん、勝てるんだよね?」
「ぅん、もちろんっ!」
「作戦は有るの?」
「そんなの無いよっ!」
「ホントに大丈夫なの!?」
「んっ!1週間もあるんだから、なんとかなるっ!」
「いやいや、もう6日間しか無いんだよ!6日間で何をどうするの!?」
「ぇ~~っと、イクサヒメより、強くなるっ!」
「もし負けたらどうするの!?
美穂さんのアイテムと、麻由ちゃんのアイテムと、ジャンヌさんの命と、
バルちゃんのUFOが取られちゃうんだよ!解ってるの!?」
「負けないよ~にガンバるっ!」
「どうやって!?」
「ん~~~~~・・・・超ガンバるっ!」
「だから、どうやって頑張るの!?もしかして何も考えてないの!?
かなりヤバいんだよ!6日間しか無いんだよ!どうするの!?」
「6日間もあれば大丈夫!」
「それはさっき聞いたよ!どう頑張るかを聞いてるんだってば!」
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~」
真奈が怒鳴り気味に紅葉を質問攻めにするので、亜美は驚いた表情で美穂を見て「また何か面倒ごと?」の目で質問をして、美穂は苦笑いをする。美穂は紅葉に会ったら少しばかり煽るつもりだったが、真奈がスッゲー煽っているので口を挟めない。
-優麗高・正門前-
紅葉達が到着したら、麻由が腕組み&仁王立ちをして待ち構えていて、紅葉&美穂&真奈&亜美に「再戦までのスケジュール」と書かれたプリントを配る。
「んへぇ?」
「再戦までの1週間。重要なのは無駄なく何を成すか!・・・です。
修正箇所があれば、提案をして下さい」
「へぇ~!さすがは麻由ちゃん!」
「出たよ、生真面目の極地」
「え?私のプリントもあるの?」
「はい、申し訳ありませんが、平山さんにも手伝っていただきたくて」
~~再戦までのスケジュール~~
5時 起床
5時15分~6時半 授業の予習
6時半~7時 朝食 登校前準備
7時~7時半 登校
7時半~8時半 授業の予習
~~学校生活~~
15時半~16時半 授業の復習
16時半~17時 下校
17時半~18時半 特訓・基礎体力
18時半~19時 夕食を食べながらミーティング
19時~20時 特訓・妖気コントロール
20時~22時 特訓・武器
22時~24時 特訓・新奥義
0時~2時 授業の復習
2時 就寝
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「7時間学校で、5時間勉強で、7時間特訓かよ。スゲーな、おい」
「このスケジュールは、授業が6限目までの場合ですね。
7限目まである日は、必然的に放課後の自学が削られます。
本音を言えば、自学の時間を、もう少し増やしたいのですが、
再戦が終わるまでは、特訓が優先ですね」
「ハードすぎね~か?」
「勝つ為には、多少、厳しいのは仕方がありませんよ。
言うまでもなく、特訓はメンバー全員参加です」
「麻由ちゃん、凄い!これなら、何とかなりそう!」
「ふふっ!どうって事ありませんよ。昨日、入浴しながら考えました。
要は、1週間という限られた時間を、どう有効利用するか?です。」
「か、葛城さん・・・私も特訓に参加なの?」
「平山さんには、紅葉を寝坊させず、7時に確実に登校させるのと、
その後、朝学活までの授業の予習と、
放課後の授業の復習を担当していただけないでしょうか?」
「う、うん・・・それくらいなら手伝えそう」
「この計画で3日くらい経過したら、紅葉、死にそうだな。
・・・てか、あたしも無理」
「マユ~~~!3時間しか寝る時間無いの?」
「はい、3時間です。」
「んぁっ!?でも、このスケジュール、24時の特訓が終わってから、
おうちに帰る時間と、お風呂に入る時間が無いよっ!
このスケジュール、ダメじゃん!」
「あぁっ!確かに!私とした事が、とんでもないミスをしてしまいました。
う~~~ん・・・そうですね。
0時~1時を帰宅と入浴の時間にして、3時まで自学にして、
就寝を1時間遅らせて睡眠を削りましょう。
大変だとは思いますが1週間の我慢です。
再戦で勝てば、ゆっくり眠れますからね」
「ぐはぁっっっ!!!」
紅葉が喀血をして、その場にパッタリと倒れた。白目になっていて、口から半透明の紅葉がハミ出している。
「あぁっ!紅葉が死んでしまったわ!どうして!?」
「まだ、このスケジュールを1秒も熟していないのにね」
「紅葉に、こんな過密スケジュールは無理。
オマエ(麻由)じゃね~んだからさ。それくらい解れや」
こうして、麻由が作成した「再戦までのスケジュール」は、机上の空論で終わった。




