42-3・粉木の回想~刃吾幻変身
一方、現場から逃げた老人が、カツラと付け髭を外した。変装を解いた男は、退治屋文架支部長の粉木勘平だ。岩場の影から様子を覗う。
「いきなり変身するんかいな?
まぁ、お膳立てはしたった。あとは有紀ちゃんしだいや」
少し離れた物陰に骨董品レベルのバイク(ドリームCB250)が隠してある。粉木は、ヘルメット被って愛車に跨ると、早々に採石場から走り去った。
―粉木の回想・昨日の昼過ぎ―
自宅での雑務に一区切りついた粉木のスマホが着信音を鳴らす。発信者は有紀だ。
「何やあ~?」
≪お昼時に、いきなりゴメンナサイね~。
陽快町の喫茶店まで来ているんだけど、ちょっと来て頂ける?≫
粉木は、有紀が何かを企てていることを知っている。
「解った、ちと待っとれや」
粉木邸から徒歩で3分ほどの場所に建つ昔ながらの喫茶店に到着。店先に有紀のバイクが停まっている。店内に入り、マスターに挨拶をして「ホットコーヒー」と注文してから、有紀が待ってる窓際のテーブルに行って対面に座って、挨拶もそこそこに切り出した。
「燕真から苦情が来てんで」
粉木はスマホを操作して、出向中の部下から送られたメッセージを表示して読み上げる。
「『有紀さんが仮装をして彷徨いていたけど何の祭りだ?』・・・だとさ。
何企んでるんや?」
「あら、バレちゃってたの?お化粧をして素顔を隠さなきゃダメみたいね。
まぁ、いいわ。既に知っているなら話が早いわ。
崇さんから聞いているわよね?サトリにウルティマバスターを破られたって話」
「あぁ、模倣までさてれもうたようやな」
「しかも、あの子ったら・・・
お友達を勝たせる為に弱点をバラしちゃたわ」
「確かに困った話やな」
「サトリが再戦を挑んでくるとは思えないけど、
今後、同じような事をする敵が出現しないとも限らないわ。
それなのにあの子ったら、事の重大さに全く気付いていないのよね」
「そこまでの話は解る。
せやけど、オマンのチンドン屋みたいな仮装と何の関係があるんや?」
「あの子に、新しい必殺技を会得させようと思ってね」
有紀の目的は「謎のライバルを演出して紅葉にプレッシャーをかける」こと。当然、相応のリスクはある。母親だと気付かれたくないので、紅葉以外で身近な存在の燕真で「バレるかどうか」で試してみた結果、茨城童子が色々と気を使ってくれたがモロバレだったらしい。
「オマンのこっちゃ。
仮装に煌びやかな着物を選らんだんは、
ただの趣味やなくて意味があるんやろ?」
「もちろんよ。伊達や酔狂であんな格好をしているわけじゃないわ」
妖怪に変装するからには、相応の戦闘能力を発揮しなければならない。その為に、ヘイシ(退治屋の一般隊員)のプロテクターを装備する。プロテクターのままでは直ぐに退治屋関係者とバレるので、上からユッタリとした服で隠さなければならない。その結果、派手な色彩と装飾の和装を選んだ。
「有紀ちゃんがライバル役をする件、崇君は同意してるんか?」
「私の意思を尊重してくれたわ。
ただのプロテクターを装備した程度で紅葉と戦うなんて不可能よ」
ヘイシプロテクターは、妖怪を封印して防御力を底上げすることが可能。有紀の言葉は「崇(酒呑童子)から妖力の一部を借りてヘイシプロテクターに充填してある」と伝えている。
「なるほどな。崇君の妖力に守られているちゅうことか」
そこまで話したとこで、ウエイターが有紀が注文したナポリタン&&プリンアラモード&レモンスカッシュと、粉木のホットコーヒーをテーブルに並べる。
「私がサトリと同じ事をやって、
新しい必殺技を会得せざるを得ない状況に追い込むわ」
「無茶な事を考えよるなあ。だけど、今のままでは拙いのも事実やな」
「話は決まりね。ちょっと、お手伝いしてもらう事になるかも。
また連絡するから、よろしくねっ」
「しゃ~ないの。尻拭いは、上司の役目や」
食べ終えた有紀は去り、粉木は冷めたコーヒーを啜りながら考える。一歩間違えれば、紅葉に正体がバレる危険な計画だ。妖幻ファイター同士の模擬戦以外の私闘は禁止されているので、本部にバレれば大問題になる。
だが、今の状況では、サトリのような上級クラスの妖怪には対抗できない。必殺技を破られたのに焦る気配の無い紅葉にも問題はある。今後、現状維持のままで命の危機に瀕するよりは、謎のライバル(有紀)に叩きのめされて、自主的に「特訓をしなければならない」と感じてもらった方がマシだ。有紀の想いを理解して「応援する」と腹を括る。
-回想終わり・市街地から採石場に続く未舗装道-
粉木は「変身は切り札で、幽姫の状態のまま戦う」と思っていた。だから、いきなり変身をしたのは想定外。年増扱いされて逆上したのか、対峙した瞬間に「変身しなければ倒せない」と判断したのか、それは有紀(幽姫)しか解らないが、(前者のような気がするが)後者が理由ってことにしておく。
「・・・ん?」
対面側から砂埃が上がって接近してくるのが見えた。粉木はバイクの進路を変えて岩場に身を隠す。数十秒の間を置いて、キグナスバイクを駆るネメシス(美穂)が通過をした。
「白鳥の嬢ちゃん・・・か」
ネメシスを見送った後、再びバイクを走らせる粉木。一方のネメシスは“対面側から砂埃を上げて近付いてきた何者か”に避けられたことは気付いていた。だが、今は現着を優先させて“何者か”はスルーをする。
―採石場―
幽姫がゲンジと似た青い鎧武者に変身をした。
「戦姫・刃吾幻推参!」
正式名称は妖幻ファイターハーゲンだが偽名を名乗る。
戦姫・刃吾幻の両翼に金熊童子&熊童子&虎熊童子&星熊童子が並び立った。
「にゃははっ!戦鬼四天王・金熊童子!」
「グロロッ!戦鬼四天王・熊童子!」
「いくさひめに因んで、俺達は『せんき』か。
その名前、カッコイイじゃん!俺は戦鬼四天王・虎熊童子!」
「か、格好良い・・・のか?我が名は星熊童子」
ゲンジの本能が「こいつヤバい」と告げている。だが、刃吾幻から「強い敵と戦って勝ちたい」と指摘された通り、相手が強いからって腰が退けるゲンジではない。
ジャンヌとアイコンタクトをして「最初から全力で行こう」と決め、巴薙刀を召喚して構えて大声で気合いを発しながら刃吾幻に突進する!
「んぉぉっっっ!!いっくぞぉ、イクサヒメっ!!」
「良い覚悟だ!かかって参れ!」
ジャンヌはゲンジの突進を援護すべく、ベルトから6本のナイフを抜き、黒炎を纏わせて投擲した!
「行けえっ!!ノイエ・ペティ・ディアブルっ!!!」
意思を宿した6本のナイフが、不規則に軌道を変えながら刃吾幻&戦鬼四天王に向かって飛んでくる!
「熊君、星熊君、虎熊君、金熊君、作戦実行よ!解るわね!」
「承知っ!」×4
虎熊童子が一歩前に出て、神速の剣閃で6本のナイフを全て弾き落とした!続けて熊童子が突進をして、ジャンヌに向かって巨大金棒を振り下ろす!数歩後退して回避するジャンヌ!土砂が舞い上がり、巨大金棒が叩き付けられた地面が大きく抉れる!その間に瞬足の金熊童子が、離れて戦いを見守っていた真奈に接近をしている!
「・・・くっ!卑怯なっ!」
ジャンヌは慌てて真奈の救援に向かおうとするが、星熊童子が銃を発砲!弾丸がジャンヌに着弾して弾き飛ばす!更に、熊童子が接近してきて大金棒を振り下ろした!ジャンヌは辛うじて回避をするが、これでは真奈の援護に行けない!
「マナっっ!!とぇぇぇぇぃっ!!!」
察知したゲンジが、すかさずステーキナイフを召喚して妖力を纏わせ、真奈を援護する為に投擲!子供が落書きをしたステーキナイフ発動!しかし、ゲンジの行く手を塞ぐようにして刃吾幻が立ち塞がり、日本刀を振るってステーキナイフを全て弾き落とした!
「活きの良い小娘。そなたの相手は、わらわが直々にしてやるぞ」
ゲンジは足止めされ、ジャンヌも思うように動けないのなら、真奈自身に危機を回避してもらうしかない!
「マスター、命令権の発動をっ!!」
「う、うん!真奈の名において命じます!ジャンヌよ、私と一体化をしてっ!!」
ジャンヌが幽体化をして熊童子の正面から消え、真奈の全身から魔力は放出されてジャンヌの姿に変化!再び青銀の甲冑が装着されて、マスクドウォーリア・ラピュセルへと姿を変える!
「にゃははっ!待ってましたっ!
召喚主を攻められちゃ、融合か強制召喚しかないよなっ!」
ナックルダスターを装備した金熊童子の連打が、ラピュセルに襲いかかる!ラピュセルはフィエルボワソードで受け止めて拳を弾き返した!力負けをした金熊童子は数歩後退!ラピュセルは力強く前に踏み込んで、金熊童子との間合いを詰める!
だが、それまでは様子見程度の牽制しかしていなかった熊童子&星熊童子&虎熊童子が、ラピュセルの出現を合図にして一斉に動き出した!
その様子を見た刃吾幻は、マスクの下で冷たい笑みを浮かべる。
「ふふっ!ジャンヌちゃんは、バルミィちゃんと並ぶオールラウンダー。
闘志と戦士としての誇りは、メンバー内で最も高く、
戦闘中に無様にブレず、心技体のバランスは最も良い。
ただし、闘志と誇りよりも優先させる“熊谷真奈ちゃん”が最大の弱点。
“切り札”を強制的に使わせて“奥の手”にさせないのは戦いの定石」
星熊が銃を発砲!熊童子が大金棒を、虎熊が日本刀を構えて、ジャンヌに突進!既に交戦中だった金熊は、腰にぶら下げていた瓢箪に口を付けて、中の酒を口に含み両拳に吐き出した!すると、両拳から炎が発生する!金熊童子は炎の拳を構えて、ラピュセルに襲いかかる!
「んんぁっ!4人がかりなんてズルいっ!」
「甘いのう。これも、戦術じゃ。
悔しければ、わらわを退けて援護に向かうが良い」
「ふぬぅっ!言ったなぁっ!!」
ゲンジは奇声を発して巴薙刀を振り上げて突進!刃吾幻に向かって何度も振り回すが、悉く受け流されたり弾かれて掠りもしない!
「威勢は良いが、この程度か!?」
「こんにゃろうっ!」
徐々に焦れて、力任せ一辺倒な打ち込みになってしまう。
「なんだ、その無様な薙刀さばきは?
手合わせをしても無駄じゃな。・・・・ハアッ!!」
渾身の力を込めて振るった巴薙刀を力任せに弾かれ、地面に叩き落とされる!
「んげっ!?」
更に、ゲンジが巴薙刀に視線を向けた僅かな隙を突かれ、刃吾幻が懐に飛び込んで蹴りを入れた!弾き飛ばされたゲンジが地面を転がる!
「話にならん。薙刀の利点を全く活かしておらぬではないか」
「ふぬぅぅっっ!!だったらっ!!」
指摘された通り、薙刀では攻めきれない。ゲンジは気持ちを切り替えて徒手空拳で構えた。
「ほぉ、肉弾戦か?面白い。受けて立とう」
刃吾幻が応じて日本刀を納刀。突進してくるゲンジに対して素手で構える。
「とりゃぁぁぁぁぁぁっ!!はぁぁっ!!こんにゃろっ!!これでもかっ!!」
ゲンジが、数十発のパンチ・チョップ・キック・ショルダーアタックを繰り出す!刃吾幻はゲンジの攻撃を見切って、手足を使って的確に受け流す!だが、本能任せの攻撃に押されて僅かに後退!そこにゲンジの拳が飛んで来て、刃吾幻の頬を掠る!
「薙刀に振り回されているよりは、少しはマシになったか?・・・だがっ!」
刃吾幻が迎撃に徹した途端、ストレートを掌で受け止められ、そのまま手首を極められて捻られた!ゲンジの身体は宙で1回転して地面に激突する!めげずに飛び起きて掴み掛かるが、構えた刃吾幻は、まるで地面に根が生えたように動かない!しばらくの力比べの後、根負けをしたゲンジが打撃に切り替える為に間を空けたら、途端に刃吾幻の掌底が腹に撃ち込まれて仰向けに倒される!
「手数と攻撃の重さはそれなりに認めよう。
しかし、攻撃一辺倒で防御のイロハが全くできていない」
「ぼうぎょ?」
不動明王ツヨシ戦、リベンジャー戦、オルタナティブ・アポロ戦、サトリ戦、そして今の戦い、ゲンジは防御無視で挑んでいる。仲間がサポートをしてくれる戦いでは攻撃に専念できるが、サトリ戦のようなサシの戦いでは、必要以上にダメージを喰らってしまう。刃吾幻(母)はゲンジ(娘)の攻撃スタンスの危うさを伝えているのだ。
「んんっ!防御イヤっ!守ってたら、イクサヒメをやっつけられないぢゃん!」
「・・・・・はぁ?」
「攻撃ゎ最大の防御だぁぁっっっっ!!」
せっかく防御の重要性をアドバイスしたのに、ゲンジは聞く気が無いらしい。
「こぅなったら、スピード勝負だぁっ!!
ゲンジはYスマホに指を滑らせて『合体』と書き込み、表示された動物達の中からネコを選択。化け猫が召喚されてゲンジと重なり、ゲンジ・ねこフォームにチェンジした。
「サッサとオマエをやっつければ、防御なんてしなくてイイにゃぁ~~!」
「ふんっ!いつまでそう言ってられるか見物じゃな」
ねこゲンジが、刃吾幻の周囲を飛び廻り、死角から飛び込んで一撃を入れた!そして素早く離れ、再び刃吾幻の周りを走り回る!
(ねこフォームの弱点は、サトリ戦を観察していたので把握済みよ)
刃吾幻は動じない。ねこフォームはフィニッシュ技ではなく牽制技だ。素早い代わりに攻撃力が低く、恐れる必要は無い。油断無く構えて、ねこゲンジの様子を見る。
「先の戦い(サトリ戦)から何も学んでおらぬのか?」
「にぃいっひっひっ!」
ゲンジ(紅葉)はバカではない(バカだけど)。ねこフォームが決め手に欠けることなど把握済みだ。それでも敢えてねこフォームで挑むのは、刃吾幻の足を止める為。ねこゲンジはYスマホに指を滑らせて再び『合体』と書き込み、表示された使役妖怪の中からキツネを選択した。
(ゥサぢゃなくても、使えるはず!海跳センパイは使ってたもん!)
ねこゲンジが全身から炎を発したキツネに変化!
サトリ(海跳)は「技の基本は同じ」「奥義に対する目的による差異」「炎獣は小回りを重視して、爪で大地を掴む形」と言っていた。
(紅葉は漠然と炎を纏ったワケではない)
刃吾幻は、ゲンジが変化をする前の笑い声を聞き逃さなかった。
(仕掛けてくる)
炎狐は、炎獣を思い浮かべて、超スピードで走りながら、ジクザクに動いたり、突撃のフェイントをかけるなど、トリッキーな動きで刃吾幻を翻弄する。
(面白いことをしてくれるわ。
紅葉なりに、色んなことを学んでいるのね)
ゲンジの神鳥&冥鳥、そして炎狐は、ゲンジがイメージをしやすければ、どんな条件でも発動可能。八卦先天図の通過は“ルナティスを真似た発動条件”であり、ゲンジに必須の発動条件ではない。サトリが説明をしながら実践をしたおかげで、紅葉は「自分にも可能」と意識できるようになったのだ。
「だけど・・・私が破りたいのは、それじゃないの!」
刃吾幻は、日本刀を抜刀して構える!炎狐で妖力が集中している部位は大地を蹴る四本の足と、攻撃の基点となる牙と前足の爪!その動きに意識を集中させる!




