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41-3・不屈のサトリ~海跳の失恋

 セラフ・ブラフマンは着地と同時に構えるが、パワー消費が限界を迎えてた為、ブラフマンモードが強制解除されてノーマル形態に戻り、脱力して肩で息をしながら地に片膝を付く。

 一方、直撃を受けたサトリは、倒れたまま動けない。ダメージが重く、纏っていた妖力を維持出来ず、全身から闇が蒸発をして獣の形をした手足が人間の形に戻っていく。


「愛とは・・・どんなに強い意志で貫こうとしても、

 思い通りにはならない歯痒いものだなんだな」


 サトリは、最後まで気持ちを貫き通す難しさを知り、敗北を覚悟して目を閉じた。


  『オマエが好いた気持ちは、そん程度なんかぁぁっっっ!!?』

  『男らしゅう、サッサと気持ちば伝えてスッキリせいっ!!』


 だが、石松の言葉を思い出して目を開く。暑苦しいバカは、これで終わらせてくれないらしい。サトリの体が熱くなる。再び強い念が発せられ、念が妖気に変化をしてサトリのダメージを回復させる。人間の形に戻りかけていた手足が再び獣の形に変化して安定をする。力強く立ち上がるサトリ進化態。全身から発せられる妖気は、戦いが始まったばかりの頃のように瑞々しい。


「そ、そんなっ!!」


 セラフは全ての力を使い果たして、ブラフマンどころかインドリアにパワーアップする余力も残されていない。無限としか思えないサトリ進化態の耐久力に驚愕をしつつ、どうにか立ち上がって構える。


 観戦をしていた紅葉達も驚いていた。セラフの勝利で戦いは終わったと思っていたのに、サトリが復活をした。紅葉は初戦でサトリの無尽蔵な妖力に力負けをしたことを思い出す。あの時のサトリは、自身の腹から沸き上がる憎しみを糧にしていた。だけど、今のサトリからは憎悪は感じられない。別の感情を糧に妖力を維持している。それはどんな感情だ?その感情を断たなければ際限なく復活をしてしまう。


「うおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 サトリが気勢を上げながら、セラフに向かって突進する!


「まだ終わっていない!いや、まだ何も始まっていない!

 何も伝えられないまま負けて終わるつもりはない!」


 心の中で「英邦、力を貸せ!」「見てろよ、英邦!」と叫びながら、渾身の妖気を放った!


「百華霊撃っっ!!!おぉぉっっっっ!!!」


 セラフを囲むようにしてサトリ進化態の妖気が広がり、無数のサトリが出現!全方位から一斉に跳び蹴りが放たれた!セラフは残された力を振り絞ってサトリに向かって駆けていく!だけど、もう大技を放つ理力は無い!パワーダウンで神性が低下したセラフには、どれが司令塔なのか見分ける事が出来ない!


「かつらぎぃぃぃっっっっっっっっっっ!!!」

「くっ!!」

「君が、好きだぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!!

 絶対に後悔はさせん!!僕と付き合ってくれぇぇぇっっっっっっ!!!!」

「!!!!!!!!!!!!!」


 突然の告白に動揺をするセラフ。初めて知った海跳の気持ち。改めて思い起こすと、麻由が1年生の頃から、海跳は傍で様々なアドバイスをくれた。会議で麻由が言葉を詰まらせた時は、必ずフォローをしてくれた。

 何で今まで気付けなかった?海跳は、ずっと麻由を見守り続けていた。そして今は、麻由の大きな過ちを知ったにもかかわらず、変わらずに麻由を想い続けてくれる。麻由セラフは、大恩ある先輩の気持ちを知って言葉を詰まらせる。


 観戦をしていた紅葉達も言葉を詰まらせる。・・・ってか絶句して「なんで、今?」「絶対に告白のタイミングじゃね~だろう」「アイツ、バカなの?」と、全員揃って心の中でサトリにツッコミを入れた。


 セラフは、幾重にも襲いかかってくるサトリに突入をしながら、マスクの下で決意の表情を見せる!


「ごめんなさぁぁぁぁいっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 観戦をしていた紅葉達は驚いた。・・・ってか呆れて「え?即答?」「ここまで盛り上がってる状況で断るの?」「せめて、友達から始めてやれや」「空気読め、麻由」と、全員揃って心の中でセラフにツッコミを入れた。


「がびぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっっっっ!!!!」


 即死!サクラチル!熱い告白から拒絶まで僅か3秒!動揺しすぎて、強い念と妖気が維持出来なくなり、奥義の体勢になっていた無数の分身が消滅!


「見えたっ!本体は、そこだぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!」


 だろうね。分身、全部消えて、本体しか居なくなっちゃったんだからさ。

 フリーズしたサトリに、ヘロヘロのシャイニングキック炸裂。弾き飛ばされたサトリが、ポテリと地面に落ちて転がった。強烈な(精神的)ダメージで、念と妖気が維持出来なくなり、サトリを覆っていた妖気が蒸発して、あっという間に海跳の姿に戻る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×数人


 観戦をしていた紅葉達は目が点になる。この状況で告白タイムとか、ソッコーでフラれるとか、動揺しすぎて敗北とか、こんな展開は全く想像していなかった。

 メインキャラ全敗とか、玉兎の犠牲とか、熱い友情とか、色々あったけど、終わってみれば、ここに居る全員が壮大な告白タイムに巻き込まれただけ?


「んぇ~~~~~~~~~~~~~~~っと・・・

 海跳センパイ、フラれちゃった・・・のかな?」

「ふむ、一切悩むことなく、即時、マユユにフラれたようですね」

「ばるるっ!それで、ショックで念が維持出来なくなって、

 妖気が発揮出来ず、技が消滅して敗北ばる?」

「先輩って、頭が良くて万能で、色んなパターンに対応できるくらい器用なのに、

 フラれるパターンは全く想定していなかったのかな?」

「だろうな。だから、フラれただけで、あんなに動揺したんだろう。

 フラれるパターンを1%も想像しないとか、ある意味スゲーな。

 恋愛経験値、低すぎるだろう」

「んぁぁっっ!!

 無限っぽかった妖力が、いきなりゼロになったってことゎ、

 冨久センパイが妖力のにしてたパワーって、マユを好きって気持ち?」


 紅葉の想像通り、今のサトリは、麻由への愛の情念を妖力の糧にしていた。因って、失恋をした今、サトリには立ち上がる気力や体力が一切無い。今度こそ、サトリの敗北である。なんてザマだっ!


 散々な言われようだが、当の本人達は至って大真面目。

 セラフが倒れたまま動けない海跳の元に近付いて見つめ、小草薙(小太刀)を抜刀して振り上げた。

 海跳は「覚悟」をする。成敗をされた妖怪は、浄化作用で全てがリセットされた状態で地獄に戻される。地獄で妖力を蓄えたとしても、次もサトリとして復活出来るかは解らないし、冨久海跳の記憶は無くなる。

 麻由との戦いを選んだ時点で覚悟はしていた。気持ちは伝えたのだから思い残すことは無い。


 だが、セラフは、小太刀を振り下ろそうとはせず、刀身に気合いを込めて天を仰ぐ。海跳の目には、その姿は、いつもに増して神々しく見えた。


「天の巫女の名において裁定を下します!サトリに恩赦を!!」

「・・・なっ?」


 雲間から穏やかな光が差してきて海跳を照らす。セラフは、その光を「許可」と判断した。祖父は、孫の判断に任せてくれたのだろう。まだ“ひよっこ”とは言え、神の血を引く“天の代行者”だ。その判断が正しいか間違っているかは別として「サトリを処罰しない」が神の裁定となる。


「君は、僕を無罪放免にするというのか?」

「はい、これが私の裁定です。」



-体育館屋根-


 剛太郎と並んで戦いを見ていた弁才天ユカリが、驚いて身を乗り出す。


「バカなっ!何故、殺さない!?神が妖怪を許すだとっ!

 そんな甘い裁定はありえないっ!」


 剛太郎が、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「その甘い裁定が出来るのが麻由お嬢様だ。

 人間社会で昭兵衛様に育てられ、良き仲間達と出会い、優しく成長をされた。

 敵だったはずのジャンヌダルクも、

 そしてオマエも、お嬢様に生かされただろう」

「・・・くっ!だったら、何故、ツヨシを殺したっ!!?」

「お嬢様が不殺を心掛けるようになったのは、不動明王との戦いを経たからだ。

 お嬢様は、ご自身を害される敵を葬って終わらせたわけではない。

 奴の存在と言葉は、お嬢様の中でシッカリと生きている」

「なにっ?」

「今際の際の不動明王の言葉を思い出せ」


  『闇と光の融合・・・

   嬢ちゃんが継いだあとの極楽浄土は、今とは変わりそうだな。

   俺のようなハンパもんでも、住み良い世界になりそうだ。

   ・・・ちと、見てみたかったが・・・もう遅いか。

   俺は、判断を誤って、急ぎすぎちまったのかもしれんな。こんちくしょう』


「お嬢様は、闇雲に暴走をするオマエよりも、

 よほど、不動明王の意志を継いでいる」


 不動明王ツヨシは「麻由の元でなら、自分の才能を活かせる」と気付き、「選択を誤ったこと」を後悔しながら死んでいった。ユカリが愛した男は「復讐」など望んでいないのだ。

 ユカリは苦々しい表情で舌打ちをしてグラウンドにいるセラフを見つめた後、光球に姿を変えて飛び去っていく。



-グラウンド-


 セラフによる海跳サトリへの裁定が続いていた。


「今後、先輩が、妖怪の力で社会を乱すような暴走をしない限りは、

 神の血族は先輩を処罰しません。

 そして“天”が恩赦をすれば、おそらくは“地”も・・・。」


 昨夜、紅葉からの「サトリ討伐指令」を聞いた麻由は、帰宅後に“過去のサトリの所行”を調べた。愉快犯的な犯行は行っているが、血生臭い罪は一つも犯していない。今回の出現でも、社会秩序を乱すような犯行は何もしていない。つまり「何が何でも討伐をしなきゃならない」理由は無さそうだ。

 そして、サトリのデータの中で、麻由が気になったことが一つ。19年前に出現をした時、退治屋から「討伐不要」の指示が出て、神の血族は同調をした。何故、天が同調をしたのか、何故、地が「討伐不要」にしたのか、政治的な理由は麻由には解らない。だけど「過去に天が同調をしたのなら、今度は、天の裁定に、地が同調をしてくれるはず」と麻由は確信をした。



-校舎屋上-


 気配を消して眺めていた有紀が脱力し、隣にいた崇はと感心をする。

 サトリの持つ“心を読む能力”の使役は、19年前から続く悲願だった。だが、19年前、いきなり酒呑童子が介入して独断でサトリを逃がした。その後、サトリは雲隠れをして所在は解らなくなった。退治屋は責任の追及をしたかったが、酒呑童子と争うわけにはいかず(まぁ、お説教はしたけど)、体裁上「討伐不要」の指示を出したのだ。「討伐不要」にするからには、サトリが行った軽微な犯行以外は全て抹消をした。一方の神の血族は主義主張の違いで退治屋との争いに至る事を避け、退治屋の決定に同調をした。

 19年前の経緯を考えれば、今度は退治屋が神の決定に従わなければ、天と地の争いの火種になりかねない。やっと悲願のサトリが出現したのに、まさか19年前の裁定に足元を掬われるとは思わなかった。


「天の巫女・・・やる時はやるね。お見事!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「心を読む能力を獲得出来ないのは残念だけど、

 決まっちゃったんだから仕方が無いね。はははっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あれ?ママ、もしかして怒ってる?なんか顔が怖いよ」


 大元を辿れば、サトリ獲得を諦めなければならないのは、19年前に崇(酒呑童子)が勝手に逃がしたからだ。チョッピリ思慮が足りない紅葉にサトリ能力の使役をさせたくて、強引に討伐指令を出したんだけど、見事に失敗した。

 しかもバカ娘は、ステルス性の高いペトペトさんの使役を放棄したり、自分の奥義の弱点を大っぴらにバラして、監視役の有紀としては泣き面に蜂だ。



-グラウンド-


 紅葉のYスマホに、【(株)パウダーウッド】から「サトリ討伐指令解除」のメールが入った。メッセージを見た紅葉が、安堵の表情を浮かべる。


「んっ!マユのおかげで、冨久センパイ、やっつけなくて、よくなったょっ!」

「ばるばるっ?また、不殺?相変わらず甘いばるね~~」

「ふふんっ!良いんじゃね~か。あの甘さが、麻由なんだろうからさ」

「『一寸の虫にも五分の魂』ですね。私もマユユに命を救われましたからね」

「ジャンヌさん、その例えは、ちょっと違うかな?

 そのことわざは、小さく弱い者にも意地や根性があるって意味だよ。

 ジャンヌさんは、自分や冨久先輩を『小さくて弱い』例えてるの?」


 変身を解除して海跳を見つめる麻由。海跳も寝転がったまま麻由を見つめる。


「お、教えてくれ、葛城?僕には何が足りない?君はまだ校長達を・・・?」

「いえ、そうではありません。先輩は最高の男性だと思っています」

「だったら、何故?」

「足りないのは、先輩はなく、私の方です」

「・・・ん?」

「先輩達のおかげで、悪い関係は清算しました。

 ですが、今までの行いが権力者を頼っていただけで恋愛ではないと解った今、

 私は恋愛について何も知りません。

 どんな恋愛が適しているのか、先ずは、他人を見て、学ばなければなりません」

「だったら、僕と一緒に学べば・・・・」

「それに私、今は、恋愛よりも、もっと大切なモノがあるんです」


 麻由は自信に満ちた目で、離れたところで見守っている紅葉達を見つめる。それを見た海跳は、何も言えなくなった。海跳は、麻由が紅葉達と行動を共にして自然な笑顔を見せるようになった頃から、心の何処かで解っていた。「麻由の信頼を得る」において、紅葉達に負けたという事実を。特に、麻由の危機を救う為に、自身の奥義の弱点をオープンにした紅葉の決意には驚かされた。


「ふんっ!今の僕じゃ、アレ(紅葉)には勝てんか・・・」

「・・・え?」

「いや、独り言だ。君は良い仲間に恵まれたな。

 さぁ、仲間のところへ戻れ。

 フッた男をいつまでも眺めているのは、フラれた男としては惨めだ」


 海跳は、麻由から視線を外して空を見上げる。それ以上は語らず、初恋の終焉を受け入れることにした。麻由は、海跳に一礼をして、仲間達のところに駆けていく。麻由が去ると同時に目に薄らと涙を浮かべ、空に向けた視線を麻由の後ろ姿に戻す海跳。麻由は仲間達に囲まれて嬉しそうに微笑んでいる。何度となく、石松からは「麻由が好きなのか?」と聞かれ、その度に海跳は否定をした。もっと早く恋心に気付き、もっと早く行動していたなら、自分が麻由を笑顔に出来ていたのかもしれない。だが全てが手遅れだった。


 紅葉&バル&真奈&ジャンヌが、麻由を囲んで労をねぎらう。輪から外れていた美穂が徐に近づいて、麻由を睨み付けて軽く掌を翳した。麻由は、いつもの条件反射で身を引いてしまう。


「誰にだって秘密にしたい事の1つや2つはある。

 全部オープンにしろとは言わない」

「・・・・・・・・・・・え?」

「だけど、あたし達に嫌われる可能性ばかり考えるな。そんな理由で隠すな」

「・・・美穂さん」

「あたし達を友達としてもっと信用しろ。

 それが、もう一度、仲間に認めてやる条件だ」


「はいっ!」


 麻由は笑顔になって、美穂の手の平にハイタッチをする。ハイタッチを受けた美穂もクスリと微笑む。


(けっけっけ。これで当分は、あたしに頭が上がらないな。

 さ~て、パシリ、金蔓、溜まり場、宿題代行・・・どうやって使おうかな~~)


 美穂の心はガードが堅いので、動揺させてない時は海跳には殆ど読めないハズなんだけど、今は聞く気が全く無いのに凄くハッキリと聞こえた。根っからのドエスは麻由をこき使う気が満々のようだ。

 まだ不安要素が多い麻由だが、美穂が強権で押さえ付けてくれるなら、もう、間違った希望にしがみつくことは無いだろうし、美穂がさせないだろう。まぁ、美穂が、間違った道に導く可能性が無いとは言えないが・・・。


「葛城を・・・導いてやってくれ」


 海跳は、寝転がったままポツリと呟いて苦笑をした。


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