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41-4・石松旅立~レコーダーを探せ

-数十分後-


 麻由&ジャンヌと別れ、紅葉&美穂&バル&真奈が文架大橋を歩いていた。美穂が立ち止まり、カバンからボイスレコーダーを出して眺める。麻由を守る為に録音をした“証言”だが、今の“自信を持った麻由”ならば、ジジイ共が障害になっても自分の意思を貫くだろう。ならば、麻由の汚点などサッサと消去した方が良い。

 少し先行をしていた紅葉&真奈&バルが、立ち止まったままの美穂に気付いて寄ってくる。そして、紅葉が美穂の気持ちを察して美穂の手からボイスレコーダーを奪い取り、橋の歩道から河川敷の草むらに向かって「えいっ」と投げた。ボイスレコーダーは暗くなった草むらに落ちて、見えなくなる。


「・・・あっ!」

「にぃっひっひっひっ!あんなの、もう、要らないよね!」

「ま、まぁ・・・そうだけど・・・」

「ばるっ!なにも、捨てなくても・・・」

「ボイスレコーダーって、結構高いですよ」

「んっ!ボィスレコ~ダくらい、ァタシのお給料でベンショー出来るょ!

 だったら、あんなボィスレコ~ダゎ、無い方がィィよねっ!」

「・・・ま、まぁ・・・そうだけど」


 紅葉は「良い仕事をした」って表情で再び歩き出す。確かにボイスレコーダーなど、それなりの機能の物が4000~5000円で買える。だけど捨てるか?美穂は「やれやれ」って表情で、名残惜しそうに真っ暗な草むらを眺めながら、先に歩いて行った紅葉を早足に追った。




-更に数十分後・鎮守の森公園-


 海跳がベンチに座って夜空を眺めていた。それなりに納得のいく終わり方は出来たが少し寂しい。心の真ん中に大きな穴が空いたような気持ちだ。不意に目の前に、ビールの缶が差し出される。


「・・・ん?」

「やぁ、今の気持ちはどんな感じだい?」


 海跳が視線を向けると、アルコールとツマミの入ったレジ袋を持った源川崇が、そのうちの1本を海跳に差し出して立っていた。許可を得るわけでもなく海跳の隣に腰を降ろす。


「何百年も生きているんだから飲めるんだろ?

 1本付き合え。かわりに君の愚痴に付き合ってやるからさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ、どうも」


 海跳は差し出されたビールを受け取って、しばらく眺める。そして、崇に突っ返した。


「ん?ゲコだったのか?」

「いえ、ビールは飲んだことがありませんが、アルコールなら飲めます。

 ですが、お忘れですか?今の僕は世間的には未成年ですよ。

 通行人の往来がある此処で、

 大人の貴方が僕にビールを奨めるのはどうかと思います」

「あぁ・・・そっか。見た目は高校生だったね」

「僕の事は気にせずに呑んでもらって構いませんよ」

「そっか?なら、悪いけどそうさせてもらう」


 崇は、ビールのタブを開けて一口呑んでから、海跳に語りかける。


「失恋の味はどうだい?」


 海跳は困惑の表情を見せたが、苦笑いをして口を開いた。


「『愛』は難しいですね。

 確かに『愛』で強くなれましたが、まだ酷く不安定です」

「うん、難しいね。

 僕だって『愛』で強くなれるのは知っているけど、

 『愛』を全部理解しているわけじゃない」

「貴方でも、理解出来ていないのですか?」

「うん、まだまだ理解出来ていないよ。

 それに、今回、君が得た『友情』については、僕は君ほど上手く得ていない。

 僕達の故郷(地獄)なら、『力』さえあれば、何でも思い通りにできる。

 だけど、人間界で生きるには、

 『力』だけでは思い通りにならない事が沢山あるんだ。

 僕は、それが楽しくて仕方が無いんだよね」

「ふっ、確かに、それは言えてますね」


 ちなみに、崇は「サトリ討伐指令の解除」で機嫌が悪くなったママに家を追い出されたので、今日は帰る場所が無い。




-翌日・優麗高-


「そっか、全部丸く収まったんだな」


 愉怪な仲間達は、放課後の定例会に良太を呼び出して事後報告をした。誰も死なずに済んだ事に、良太は安堵の溜息を漏らす。そして、一連の解決のキッカケとなった玉兎の行動を誇りに感じる。


「ところで、鈴木君。

 彼女さんと良い感じだったけど、結局、キス以上のことはできなかったよね?」

「しねーよ、熊谷!あの状況でキス以上を求めたら、俺、頭オカシイだろう!!」

「でも、それなりに気持ちが盛り上がった結果、約束はしたよね?

 確か、全国統一模試で、冨久先輩が合格した帝央ていおう大学の合格率が、

 95%(A判定)になったら卒業を待たずにOKだっけ?」

「な、なんで熊谷が知ってるんだっ!!?

 それは、約束を破っちゃった俺への、

 咲輝からのペナルティーと達成後の報酬で・・・」

「鈴木君の今の成績では、帝央大学の合格率はE判定。

 高校在学中の『キス以上』は無理だね」

「なんで熊谷が俺の偏差値を知っている!!?オマエ、怖いよっっ!!」

「麻由ちゃんですら、帝央大の合格率はB判定の下位~C判定の上位なので、

 調子や出題傾向次第では、不合格になる可能性があるよ。

 ちなみに、冨久さんは、常に合格率90以上のA判定の上位。格が違うね」

「ま、真奈さん!何故、私の偏差値まで知っているんですか!?」

「んっふっふっふっふ。元・優麗高の何でも屋の情報網を舐めないで下さい」


※A判定=合格率80%以上。合格圏

 D判定=合格率20~40%。受からない

 E判定=合格率20%以下。受かる受からない以前の問題


 昨日、紅葉がパウダーウッドに【玉兎/LOST】の意味を問い合わせたら、「存在は残っているが使用不能の状態」「完全に消滅した場合はメモリが消える」とメッセージが返ってきた。一定の時間が経過すれば復活をする。

 だけど、仲間達に相談をして、良太には伝えないことにした。いつか、また、良太がルナティスとして起つ時はあるかもしれない。でも今は、その時ではない。ウサのことを良き想い出に変えて立ち上がった彼なら、ウサの「その後」を伝えなくても大丈夫だろう。




-2日後・文架駅-


 新幹線のホームに、大きな弁当(亜美から渡された)を持った石松、石松の両親、ボストンバッグを持った海跳、そして麻由と亜美が立っている。今日は石松の旅立ちの日。そして、石松の上京に合わせて、海跳も一泊二日で新生活の下見に行く。石松の相撲部屋と、海跳が4月から下宿をする親戚の家は、2駅ほど離れた場所にあるらしい。


「亜美ちゃん、皆、行ってくるばい」

「・・・うん、頑張ってね。連絡待ってるね」

「手紙もメールも、たくさん送るばいっ!」


 亜美は寂しさでいっぱいだが涙は堪えている。麻由は見送る気は無かったのだが、「亜美が号泣した場合の保護者」として、美穂の命令で引っ張り出された。ただし、美穂の思惑は「亜美の保護者」を理由にして「麻由に海跳の見送りをさせる」だ。


「葛城も首都圏の大学を狙え。君の成績なら充分に可能なはずだ」

「は、はい・・・考えておきます」

「以前、進学の方向性が決まっていないと言ってたよな?」

「・・・は、はい」

「実はな、僕も先日までは同じようなものだった。

 闇雲に、上の大学に行きたいって思いだけで、

 その先の進路など考えていなかった」

「え?冨久先輩が明確な目標無し・・・ですか?」

「まぁな。だがな、ようやく、僕にも進むべき目標が出来た」


 海跳が「目指したい」と考えた未来。それは、僅か3日前に決まった。公園で崇と意見を交わし、「彼のようになりたい」と考えた。崇は「海跳の学力で退治屋への就職は勿体ない」と言ったが、それならば学力を駆使して退治屋の天辺を目指して、「彼の上で、倒すべき妖怪、生かすべき妖怪、そして、更生が可能な妖怪を判断して、現場の彼に伝えたい」と考える。妖怪の立場を理解出来る海跳には天職だ。


「あら?それでは、数年後は、紅葉の上司になるんですね」

「あぁ、源川では滅多に会えないくらい上層の立場になるかもしれんがな」

「ふふふっ、それは“天”の側としても楽しみですね。その時はお手柔らかに」


 ホームに新幹線が入ってきた。海跳と石松は、床に置いておいた荷物を持って、他の乗客達と共に出入口の線に並ぶ。


「あっ!いたいたっ!お~~~~~いっ!!私もその新幹線に乗りま~す!

 海跳くん、新生活の下見に行くんでしょ?一緒に行こ~~~~~~~~~っ!」

「・・・・・・・ん?」

「ぶひぃひぃ♪」


 ハスキーな大声が響き渡る。皆で視線を向けたら、大きなリュックを背負った田村環奈が、友人の長澤尚実と、小柄で見た目がソックリな妹をお供にして、手を振りながら満面の笑みで駆け寄ってきた。


「なんで、田村が此処に?」

「ぶっひぃっひぃっひぃっひぃ!」

「ま、まさか、英邦!ソースはオマエかっ!?」

「失恋したのなら、まだ、可能性があると思って、声を掛けたばいっ!」

「こ、このたわけっ!人の恥を言いふらしおってっっ!!」

「おいばかり幸せじゃ悪いけんね。親友に幸せのお裾分けばいっ!」

「余計なお世話だっ!」


 海跳と石松が乗った乗車口に環奈が飛び乗った。そして、一緒になって見送り組に手を振る。


「環奈、ガンバ!」 

「かんちゃん、お土産、買ってきてね~!」


 出発時刻が来て扉が閉まり、麻由&亜美&石松の親&環奈の妹に見送られながら新幹線は動き出す。見送りが見えなくなったところで、3人は向かい合わせの2シートの席に、片方に海跳と環奈、向かい合わせで石松が座り、東京までも道のりを寛ぐ事にした。


「なぁ、田村?」

「ん?どうしたの、海跳君?」

「僕、君の告白は断ったよな?なのになんで?」

「あははっ!

 1回や2回断られたくらいじゃ、6年間想い続けた海跳くんを諦められないよ!

 きゃはぁ~~~~~!言っちゃったぁ~~~~~~!!」

「ブヒブヒ、頑張れ、田村ちゃん」


 自分で暴露して赤面して照れまくる環奈。親友に“次の恋”を斡旋中の石松も嬉しそうだ。そして、環奈の気持ちを聞いた海跳は、いつもの癖で、気障ったらしく前髪を整え、メガネを上げて、組んでた長い足を戻し、クスリと笑う。


「なるほどな。『愛』とは、拒否をされても想い続けて良いんだな。

 それならば僕も、もうしばらくは、今の『愛』を貫いても良いってことか」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぶひぃ?」

「がびぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!!」


 田村環奈即死。健気な告白から僅か5秒。白目を剥いて変顔で気絶する。海跳攻略の道のりは、まだまだ険しい。


「あ~、こいつ、ダメな子なのね」


 通路を挟んだ反対側の席で、変装をした弁才天ユカリが“活き活きとした海跳”を眺めながらドン引きをする。空気読めや。この状況で、麻由への「諦めない宣言」はダメだろう。するなら、せめて、麻由の目の前でやれ。こんなに女心を理解できないようじゃ、麻由は永遠に振り向かないぞ。

 ユカリは暇人だ。サトリを覚醒させた立場上、海跳が人間として東京でちゃんと生活出来るか心配で、見守るつもりなのだ。


~~~~~~~~~~


冨久海跳(第11話登場)・3年A組

 野球部に所属。中学3年の時点で、野球の強豪校からの推薦や、市内トップの文架高に合格する学力はあったが、勉強と野球の両立をする為に優麗高を選択した。国内トップクラスの帝央大学に進学をする。3月中に大型2輪の免許を取得して、3月末に文架市を旅立った。優麗高創設以来の英才。亜美&環奈&その他多数にとっては初恋の相手。容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能で、人望・決断力・指導力にも恵まれているが、恋愛スキルのみゼロ。


~~~~~~~~~~


-その日の夜-


 文架大橋下の河川敷で、美穂&紅葉&バルミィが、懐中電灯を片手に、泥だらけになって、草むらを掻き分けて捜索をしていた。


「あったかぁ~!?」

「無いばるぅ~~~!」

「んぁぁ~~~~・・・もぅ、三日目だよぉ!諦めょぅぉ~~~~~!!」

「ダメだ!何が何でも、ボイスレコーダーを探し出せ!!」

「もぅ、疲れたょ~~~~~!!」

「オマエが考え無しに投げるからこうなったんだ!!紅葉のアホッ!!!」

「ふぇ~~~~~んっ!弁償するから、いいじゃ~~~~ん!!」

「アレじゃなきゃダメなんだ!!つべこべ言わずに探せっっ!!」


 紅葉がその場のノリで、校長達の証言が記録されたボイスレコーダーを河川敷に投げてから3日が経過。美穂&紅葉&バルミィによる捜索活動は連日に及んでいた。確かに“あの証言”は麻由には必要無いかもしれない。だけど美穂には必要だ。今は学業成績は順調だが、今後どうなるかは解らない。アレを交渉材料にして内申点と卒業を勝ち取らねばならない可能性があるのに、紅葉のバカが棄てやがったのだ。


「ばるぅぅ~~~~~~~~~。

 美穂が校長達に“成績オール5”を要求してたの、

 てっきり冗談かと思っていたのに本気だったばる?

 美穂、セコいばるぅ~~~!!」

「うっせ~~~~ぞっ!無駄口を叩いている暇があったら探せっっ!!!」

「お腹すいたよぉぉ~~~~~~~!!!!」

「見付かるまでは飯抜きだっ!!」


 美穂&紅葉&バルミィによるボイスレコーダーの捜索活動が続く。

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