41-2・セラフvsサトリ
-グラウンド-
全生徒退校時刻が経過をしてグラウンドや校舎の照明が消える。ベンチに座って待機をしていた麻由と海跳が立ち上がった。
月明かりのみに照らされたグラウンド。このくらい暗ければ、多少暴れても人目には付きにくい。
紅葉達は「誰かが迷い込んでこないように」と、グラウンドの入口側に並んで戦いが始まるのを待つ。
紅葉の父と母は校舎屋上で気配を消して戦いを見守る。剛太郎も屋上で眺めていたが、体育館屋根に座っている弁才天ユカリを見付けて、一足飛びでそちらに移動をした。
「おう、弁才天。色々と余計な画策してくれんさったようじゃのぉ」
「アナタ達が、サトリに消極的対応をしていたから、火を付けてやっただけよ。
アナタが入れ込んでいるヘナチョコ(麻由)の真価を見る為にね」
信頼関係が戻った今、麻由と海跳が争う理由は無い。
討伐指令が発せられているのは紅葉なので、麻由には関係無い。だが、サトリを暴走させた責任は感じている。
海跳は、今までと同じ関係で終わりたくない。もう一歩、麻由に踏み込みたい。
戦う必要は無いが、戦う意味はある。戦わなければお互いに先には進めない。グラウンドの中央まで進み、向き合って構える。言葉は尽くした。あとは意地をぶつけ合うのみ。
「幻装!!」 「覚醒!!」
聖幻ファイターセラフ、サトリ、同時に変身完了!
サトリは突進をしながら、両手・両足・胸への力の流れを意識して、丹田から妖力を発する!手足が獣で海跳の姿をしたサトリ進化態に変化!いきなり全力で戦うつもりだ!
セラフは素早く脇に飛び退き、サトリの突進を回避!「ノーマルのままでは戦力差がありすぎる」と判断して、気合いを発して“一度目の理力”を発動させ、安定状態に落ち着けてから“二度目の理力”を発する!セラフ-iにフォームチェンジ!
直後に、突進をしてきたサトリの攻撃を、両腕をクロスさせてガード!しかし、力負けをして数歩後退をする!
戦いの初手を見た紅葉は表情を顰める。今の一連だけでもサトリが圧倒的に優勢。サトリのフォームチェンジはセラフと同じ行動をしているのに、溜めから発動までがセラフの何倍も早かった。何百年も生きたサトリと超優等生の海跳の理性が融合されたサトリ進化態。とんでもない化け物で、とんでもない天才。確かにセラフの光の攻撃はサトリには有効だが、サトリの闇の攻撃だってセラフには有効。セラフ単独で勝てる相手ではない。
セラフ-iは、後退でサトリ進化態との間合いを空けながら梓弓を召喚!光の弓を出現させて、サトリ目掛けて連射をする!しかし、思考を読めるサトリは、全てを紙一重で回避しながらセラフ-iに突進をしてくる!
「すれすれで避けるのなら、これはどう!?」
セラフ-iは、更に後退して間合いを空けつつ、蜘蛛のストラップを召喚して梓弓に引っ掛ける!そして、絡新婦の妖気で満たされた矢を連射した!サトリには絡新婦の効果は解らないが、「ただの矢ではなく、特殊能力を持つ矢」を察知して、今度は大きく回避!サトリが回避した直後の空中に、光る蜘蛛の巣が広がる!
「・・・くっ!やはり読まれている!」
軌道を誘導する“念糸の矢”は、同時に複数本は扱えない。それに、いくら誘導が出来ても、誘導の思考を読まれては、誘導の意味すら無い。
サトリ進化態は、昨日と比べてセラフの“判断”から“行動”が早い事を察知していた。
「戦いに迷いが無くなった?僅か一夜で立ち直った?
自信を失うと、しばらくフリーズ状態に陥る葛城が?
桐藤達が立ち直らせたのか?」
紙一重ではなく大きく回避をしなければ蜘蛛の巣に捕まる。捕らわれても脱出する自信はあるが、可能ならば面倒な行程は省きたい。サトリは回避をしながらセラフ-iの隙を探す。
相手は、よく知る後輩。「付き合いは紅葉達よりも長い」と自負している。麻由は、絶対的自信の中に隙を生じさせる「詰めの甘さ」というクセがある。
セラフ-iは回避されることを前提にして蜘蛛の矢を射ていた。目的は、捕らえることではなく、間合いを確保すること。直径2m~3mほどの光る蜘蛛の巣を幾つも張り巡らせる。
サトリ進化態が接近しにくくなったと判断して、矢を番えて過剰なほどに理力を注ぎ込む!蓄えきれなくなった光が放電して四方に散った!セラフ-iの決め技は、思考が読まれても回避不能の全方位攻撃だ!
「行けええええええええええええええええっ!!!!」
セラフ-iが夜空に向けて矢を放った!勢い良く飛んだ矢が、サトリ進化態の頭上高い空中で広がって黄金色の曼荼羅を形成!天の曼荼羅・法雨発動!大量のエネルギーが、豪雨の如くサトリ目掛けて押し寄せる!
「読み通り!そこに、君の詰めの甘さがあるっっ!!」
いつの間にか、サトリ進化態の姿はセラフ-iの眼前にあった!一定の距離があったから天の曼荼羅を発動させたのに、聖なる光が落ちるよりも早くセラフ-iの懐に飛び込んできた!
光よりも早く動くなんて不可能!天の曼荼羅が発動してから回避をしても、光の降る範囲からは逃れられない!サトリは「奥義発動直後のセラフは隙だらけになる」と判断して、セラフ-iが矢を番えた時点で接近を計画していた!麻由の癖を熟知した上で、思考を読んでいる!
「・・・くっ!!」
サトリ進化態の横殴りの一撃がセラフ-iを弾き飛ばす!さらに、弾き飛ばされたセラフ-iに素早く追い付き、腹に2発ほど拳を叩き込む!地面に叩き付けられるセラフ-i!サトリは日本刀を召喚して、地に伏したセラフ-i目掛けて振り下ろした!
「!!!!!!!!!!」
サトリが日本刀を振り下ろす直前、セラフ-iの「奥の手を使う」という思考が流れ込んできた!そして、サトリ進化態の振り切った日本刀は地面を叩いていた!完全に捉えたはずのセラフ-iがいない!
「急にスピードが上がった?・・・何をした、葛城?」
「基本能力を上昇させました!」
サトリ進化態から20mほど離れた場所に、セラフ-iが立っている。先程までは読めていた思考が読めなくなった。
「神性値が上昇したと言う事か?」
セラフ-i姿は先程までと変わらないが、放出している理力は3割ほど上昇している。
今までの“インドリア”は「リベンジャー戦の頃のセラフの能力を10倍に上昇させたフォーム」だ。当時は60秒がタイムリミットだったが、レベルが上がった今のセラフならば、「7.5倍の攻撃力アップ」で当時の戦闘力を再現して、タイムリミットは80秒を得られる。それを、再び、意識的に「現在のセラフの基本能力の10倍」にまで引き上げた。タイムリミットは減少するが、「そうしなければ勝てない相手」と判断をしたのだ。
「パワーは上昇して思考は読めなくなったが、生命力の垂れ流しも増えた。
慎重な葛城らしくない戦法・・・
このまま放って置いても自滅をしそうだな。・・・だがっ!!」
消極的に勝つのではなく、ピークの麻由に力の差を見せつけなくては戦う意味が無い。心が読めずとも、葛城麻由の考え方や癖は理解をしている。
「はぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」
「うおぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!」
梓弓を背に掛けて小草薙(小太刀)を装備したセラフ-iと、日本刀を振り上げたサトリ進化態が、互いに向かって突進!
(戦闘向きとは思えない葛城が正面から挑んでくるなら、
必ず策があるはず!)
激突の5mほど手前でセラフ-iが小草薙を振り抜いた!カマイタチの真空波発動!鋭利な真空波が、サトリ進化態を襲う!しかし、奇策を予想していたサトリは、素早い回避から反復してセラフの懐に飛び込んだ!
ぶつかる2つの刃!パワーはセラフ-iの方が上!セラフ-iがド素人と解っていても、サトリにはド素人の剣を裁くような達人スキルは無い!
「ちぃぃっっ!これが、葛城の底力かっっ!!」
サトリ進化態は、力押しのセラフ-iの切っ先を受け流して、セラフ-iの体勢を崩しつつ一足飛びに後退をする!セラフ-iは体勢を崩しながら、後退するサトリに向かって小草薙を振り切る!刀身から真空波が発生してサトリに襲いかかる!サトリは妖気を放出して防御!しかし、僅かに対応が遅れて、胸部に裂傷を負う!
「・・・ぐぅぅっっっ!!」
受けた傷は直ぐに妖気で埋めて回復したが、今のセラフ-iの瞬発力には驚かされた。昨日と比べて、パワー&スピード&反射神経が上昇しているだけでなく、精神的にもタフになっている。「昨日とは別物」と考えるべきだ。だが、昨日と違うのはサトリ進化態も同じ。
「それが君の奥の手ならば、僕も奥の手で応戦するっ!」
サトリ進化態が日本刀を構えて妖気を込めたら、刃が輝いて光球が出現して八卦先天図に変形する!
「彼は、こう叫んでいたな!・・・獣化転神っ!!!」
ダッシュで八卦先天図に飛び込み、炎の獣に変化してセラフ-iに突進!横っ飛びで回避をするセラフ-i!しかし、炎獣は爪で大地を掴んで素早くターンをして、残像を発するスピードで走り回って撹乱!セラフ-iが、炎獣の本体を捕らえきれなくなったタイミングを見計らって突撃をした!
「最終奥義っ!!バニング・バスタァァァァァァァァッ!!!!」
それは、ルナティスの奥義!サトリは、その天才的センスで一度見た奥義を模倣したのだ!
「うわぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」
大きく弾き飛ばされて地面を転がるセラフ-i!どうにか立ち上がろうとするが、凍てつく“闇”のダメージが重くのしかかって片膝を落とす!炎獣は、まだ動きを止めない!セラフ-iの足が止まったと判断して、大地を力強く蹴って宙高く飛び上がり、口から八卦先天図を吐き出した!
「技の基本は同じ!後は、術者の力量と、奥義に対する目的による差異!
炎獣は小回りを重視して爪で大地を掴む形!!・・・そして!!」
「そ、そんなっ!!」
八卦先天図を通過した炎獣が、今度は漆黒の鳥に変化!翼を大きく広げてセラフ-iに突っ込んでいく!
「鳳は、小回りよりも衝突力を重視して、翼で空を駆ける形!!
どちらも、同じ根源を持つ力を攻撃的な形にして、全身に纏った奥義だ!
要領さえ解ってしまえば、模倣など容易い!!」
サトリは、麻由の動揺を誘う為に、あえて“麻由の友達の技”を利用したのだ!
「これで終わりだぁっ、葛城っっ!!」
戦いを見守っていた全員が驚く!それは、ゲンジの必殺奥義!
その場に居る誰もが、「アッサリ模倣出来るくらい簡単な技」とは思っていない。分析をした海跳の器用さと、それを使い熟すサトリの才能が模倣を可能にしているのだ。
「おぉぉぉぉっっっっっ!!!ウルティマ・バスタァァァァァァッ!!!!」
「・・・・・・・・・・くっ!防げない!!」
セラフ-iは動揺で足が動かない!いつも“頼もしい仲間”が使っている奥義が、自分に迫ってくる現実が信じられない!
「マユぅぅぅぅっっっっ!!!!冥鳥の弱点ゎ背中だよぉぉぉっっっ!!!
マユの弓矢なら、必ず射抜けるっっ!!!」
「紅葉っっ!!!!!!!!!」
紅葉からのアドバイスが飛ぶ!途端に硬直していたセラフ-iの体が動くようになった!漆黒の大鳥が降りてくる直前で回避!無我夢中で梓弓を手に取って、至近距離で光の矢を射た!矢は闇の妖気を貫通して、サトリ進化態の背中に突き刺さる!
「ぐわぁぁっっっっっ!!!」
冥鳥の闘気が消え、背に矢を受けたサトリ進化態が転がる!セラフ-iにとっては追撃のチャンスだが、炎獣のダメージと咄嗟に動いた反動で、足が縺れて地面に片膝を付く!サトリは、その間に妖気で光の矢を相殺して、体勢を立て直した!
「今の瞬発的な動き・・・僕が知る葛城の動きではなかった」
観戦者の紅葉が大声を上げた途端に、麻由の硬直が解けた。紅葉のアドバイスに活路を見出した側面もあるが、麻由の硬直を解いたのは紅葉の声その物だ。
「ただの知り合いではなく・・・リスクを覚悟で救いたい親友って事か」
紅葉は友達の危機を救う為に、自分の背負うリスクも顧みずに奥義の弱点を公表した。麻由の信頼を得るライバルとして、「源川紅葉は強敵」だとサトリは確信する。
紅葉達と行動を共にしてからの麻由は、年相応の笑顔を見せるようになった。紅葉達の影響による“麻由の変化”を素直に認めるしかない?海跳には出来なかった事を紅葉達がやった?
「ちぃぃ!今は迷う時ではない!顧みる時ではない!今は戦う時だ!!」
サトリ進化態の放つ強い意志が妖気に反映され、光の矢で受けた傷を癒やしていく。冥鳥と炎獣は、麻由を動揺させる為に使った模倣技に過ぎない。麻由を屈服させるのは、自身で編み出した奥義が相応しい。
「うおぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!!」
妖気を爆発的に高めたサトリが、セラフ-iに向かって突進をする!一方のセラフ-iも、意を決してサトリ進化態に突進をする!
この行動に、観戦をしていた仲間達は驚いた。麻由は接近戦に強いタイプではない。万策尽きて自棄になった?
「いや・・・違う」
美穂は、突進をしていくセラフ-iに「迷いが無い」と感じた。ダメな時の麻由は、駆ける場合でも腰が引けている。だが、今のセラフ-iからは強い意志が感じられる。
「アイツ、ずっと、このタイミングを待っていたのか!!」
セラフがインドリアフォームで戦い続けたのは、サトリ進化態に「その上が無い」と思い込ませる為!消耗を覚悟で神性を上げて「まだ切り札がある」という思考を、サトリに読ませない為!セラフ-iは、サトリが大技を仕掛けてくるタイミングを待っていた!サトリ進化態に突進をしながら、理力を更に高めるセラフ-i!
「百華霊撃っっ!!!」
駆けてくるセラフ-iを囲むようにして、サトリ進化態の妖気が広がり、無数のサトリが出現!全方位から、一斉にセラフ-i目掛けて跳び蹴りが放たれた!
「はぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」
セラフ-iの背中からオーラの翼が発生!ベルトから発した眩い光が、4つに分離して曼荼羅に変形!セラフ-iの手足に曼荼羅が装着される!奥義・ブラフマン発動!既に体力を消耗している為、タイムリミットまで10秒弱!無数のサトリが、セラフ・ブラフマンが放つ光に照らされる!
「なにっ!?更に変化しただと!?」
神性が更に増したセラフ・ブラフマンには、無数に分身したサトリのうち、他よりも妖力が強い司令塔(本体)が見える!この勝負、サトリがセラフを動揺させきれなかった時点で勝敗は決していた!紅葉がセラフにアドバイスを送った時点で、サトリは詰んでいたのだ!
セラフ・ブラフマンは、押し寄せてくるサトリの群れを全身から発する光で弾きながら、一体のサトリ(本体)目掛けて突っ走り、跳び蹴りの体勢になった!
「本体はそこっ!!!」
サトリは読み違えた!セラフの奥の手の更に奥に、切り札が隠されていた事を想定していなかった!出会った頃の“意見を妨害されると直ぐにペースを乱した麻由”とは違う!海跳以外の“他人の影響で変わった麻由”を認めたくないゆえに、想定の外側に排除してしまった!
「シャイニング・キィィィッッッッッッックッ!!!」
オーラの翼を推進力にしたセラフ・ブラフマンが、弾丸のように迫ってくる!慌てて両腕でガードの体勢になるサトリ!だが、セラフ・ブラフマンの高速攻撃には対応出来ず、ガードの隙間に曼荼羅を纏ったキックを叩き込まれた!サトリは、為す術も無く吹っ飛ばされて、地面を転がる!




