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40-4・石松vs海跳~石松へのご褒美~討伐指令

 見守る亜美が「やり過ぎ」と言うが、石松は「まだまだ足りない」と聞かない。


「まだ解らんのか、海跳っ!!」

「オマエの理屈に合わない感情など、全く理解出来ん!!」


 再び海跳に殴りかかる石松!しかし海跳は、今度は石松の心を読んで素早く回避をする!理由も無く殴られるつもりはない!空振りをした石松の4発目の拳が、カラーボックスを薙ぎ倒す!振り返り海跳を睨む石松!海跳も石松を睨み付けている!


「理屈に合わん感情やと!?やったらオマンの感情はなんやっ!?

 生徒会長しゃんや源川しゃんば憎むきしょくは、理屈に合うとるんか!?」

「・・・なに?」

「なして、惚れた子ば傷付けたんとっ!?

 なして、その友達ば八つ当たりしとるとっ!?

 なして、小っこい動物(玉兎)ば嘲笑ったと!?

 情けがなかっ!おいは、そぎゃん海跳ば成敗するばいっ!!」

「・・・ちぃぃっ!」


 海跳に飛び掛かる石松!石松の言い分に苛立った海跳は、石松の“隠すつもりの無いバカ正直な心”を読み、的確に石松の拳を回避して、石松の腹に拳を叩き込んだ!カウンターの直撃を喰らった石松が苦しそうに後退る!


「何も解らんクセに知ったふうな事を言うな!!

 オマエに僕の何が解るっ!!」

「何も解っとらんのは海跳ん方やっ!!」


 再度、海跳に殴りかかる石松!しかし、石松の攻撃方法と攻撃方向は、海跳が持つサトリの能力に読まれ、パンチも張り手も蹴りも体当たりも全て回避され、海跳の拳が石松の顔面や腹に叩き込まれる!


「オマエは、バカか!?

 ただの人間が、妖怪に覚醒した僕に適うわけがなかろうっ!」

「・・・ぶぐぅぅっっ!!!」


 弾き飛ばされ、大の字に倒れる石松。生徒会室内は、もうメチャクチャだ。亜美が「もうやめて」と叫ぶが、石松に引く意志は全く無い。その“心”は海跳にも伝わってくる。ただの人間の石松の攻撃なんて、海跳が棒立ちにならない限りは当たらない。石松が勝つ見込みは全く無い。


「いい加減にしろ!!目障りだ!!これ以上、僕を逆撫でするな!!

 引かなければ大ケガをするぞ!

 相撲部屋への入門直前で入院をするつもりか!?

 平山を連れて、サッサと帰れ!!」

「い・・・いやだ!海跳ば成敗するまでは帰れんっ!」

「ふざけるなっ!僕は手を抜いてまで、オマエに殴られる気は無い!!」

「当然・・・だ!手ば抜いた海跳なんて倒したっちゃ、意味が無かっ!」


 口元に滲んだ血を拭い、痣だらけの顔でファイティングポーズを整える石松!海跳も苛立ちながら構える!


「どこまで解からず屋なんだ!」

「あぁ、解らん!海跳ん考えとる事なんておいには全く解らん!

 好いた子ん事が何も見えとらん海跳ん言う事なんて、何も解らん!」

「・・・!!!?」


 海跳に向かって飛び掛かってく石松!


「おいはなぁ、初めて亜美ちゃんに会うた時から、

 亜美ちゃんが海跳ば好いとるんな知っとった!

 亜美ちゃんの視線ば見て直ぐに解った!

 だばってん、好きになってしもうた!」


 石松の心を読んで回避をする海跳!


「相手が海跳じゃ適わんけん、何度も諦めようて思うたばってん、

 諦めきれんかった!」


 亜美は「石松が、そんなに前から、自分の事を好きでいてくれた」なんて、初めて知った。驚きと嬉しさで感極まって涙ぐむ。


「やけん、俺ん意志ば貫いたんやっ!!

 それなんにオマエは何なんや?海跳は、生徒会長しゃんの何ば見よるったい?」

「・・・なにぃ!?」


 諦めずに海跳に掴みかかる石松!


「オマエん目玉は、様々な事ば頑張ってきた生徒会長しゃんが見えとらんのか?」

「何が言いたいっ!!?」


 心を読んでいる海跳は素早く回避をする!


「生徒会長しゃんな人形やなかっ!彼女にだって色々な事情はあるっっ!!」

「!!!!!!!」


 素早くターンをして、海跳に襲いかかる石松!


「何があったんかは解らんばってん、

 オマエが好いた気持ちは、そん程度なんかぁぁっっっ!!?」


 その瞬間、石松の“言葉の拳”が、海跳の心を抉った!石松が全身全霊で発した言葉が、海跳の心に届いた!


「ぼ、僕はっっ!!」


 海跳は石松の攻撃が読めているのに、頭の中が真っ白になって体が動かない!足が止まった海跳に、石松の拳が迫る!


「本気で好きになったなら、

 生徒会長しゃんば丸ごと好きになれやぁぁっっっっ!!!」


バチィィン!

 石松の渾身の拳が、海跳の顔面にクリーンヒット!弾き飛ばされ、棚に叩き付けられ、床に尻もちをつく海跳!棚に整えられていたファイルが、海跳の頭の上に崩れて落ちてくる!


「・・・くっ!」


 ファイルを退けて立ち上がる海跳。立った瞬間に脱力して床に片膝を付く。今の拳は肉体的にも精神的にも効いた。海跳は書庫を掴んで、もう一度立ち上がり、痣だらけになって仁王立ちをしている石松を睨み付ける。


 やっと解った。石松英邦はバカだ。この男は、口撃された亜美の復讐の為に来たわけでも、妖怪サトリを倒しに来たわけでもない。人間の海跳の為に此処に立っている。こんな殴り合い、石松には何のメリットも無い。数日後には相撲部屋に入門する石松にはデメリットしか無い。だが、損得勘定など度外視で此処に立っている。

 海跳は人の心を読む能力を持っていながら、表面的な「心」または「動揺した心」のみを見て、一番大事な「心の根底」を見ていなかった。


「ぶひぃ!」


 大馬鹿者が、再び突進をしてくる!


「・・・ま、まて、英邦!」


 海跳には、突っ掛かってくる石松の攻撃手段と攻撃方向が解る。だけど、こんなバカな男を相手にして、心を読んで当たり前のように勝って、何の意味がある?もちろん、ワザと負けるつもりも無い。だったら、どうすれば良い?どうすれば、このバカと対等に戦える?


「喧嘩に待ったは無かっ!」

「待つんだ、英邦!!」


 制止を聞かず、お構い無しに突っ込んでくる石松!海跳は、妖怪ではなく、人間として石松英邦に勝ちたいと強く願う!海跳は何よりも“人間の能力が欲しい”と強く願う!


「えぇぇい!!

 待てというのが解らんのか、この大たわけがぁっっっっっっ!!!!」

「ぴぎぃぃぃぃ~~~っっっ!!!?」


 海跳があまりにも大声で怒鳴りつけたので、石松は慌てて突進を止める。そして「何事か?」と海跳を見て、その変化に気付き驚いた。

 何かに憑かれたように険しかった海跳の表情が、今は、いつもの冷静な好青年の表情に戻っている。若干の霊感を持つ亜美も変化に気付いていた。海跳の周りに立ち込めていた暗い雰囲気が消えている。

 海跳自身、自分の変化に気付いていた。心の声が聞こえなくなった。無尽蔵に溢れて心を冷たく覆っていた攻撃的な感情が消えた。


「・・・海跳?」 「・・・冨久先輩?」

「僕は・・・人間に戻った・・・のか?」



-屋上-


 室内が散乱した生徒会室から場所を変え、海跳と石松が睨み合っている。どちらも痣だらけだが、どちらも退く気は無い。海跳は妖怪として勝つのではなく人間として戦う事を望んだ。相撲部屋への入門が控えている石松にとって、恐らくこれが生涯最後のストリートファイトになる。最後の喧嘩相手は、見知らぬ他人よりは自身が認めた男が良い。共に闘争心が沸き立つ。


「2年前ん春ん海跳が勝って、半年前ん優麗祭でおいが勝って、1勝1敗。

 ここで勝った方ん勝ち越しばい!」

「ダメージはオマエの方が大きいはずだ!

 仕切り直しを望むなら、僕は構わんぞ!」

「いや、今で良か!こんくらいんダメージ、ちょうど良かハンデや!」

「フン!言ってくれる!後で吠え面かくなよっ!」

「未来の横綱相手に、大口を叩いてくれるばいっ!」


 2人は呼吸を合わせて突進を開始!駆け引きも策も無用の、純然たる殴り合いが始まった!互いに容赦なく拳を振るいながら、言葉を交える!


「散々、バカにしやがって!」

「色恋については、おいの方が上手やっ!」

「ならば問おう!直ぐに遠距離になるのが解っていて、何故、交際に及んだ!?」

「亜美ちゃんを好いとるけんばいっ!」

「答えになっていない!僕は、離れ離れが怖くないのかと聞いている!」


 石松にとって、海跳はかけがえのない親友だ。見た目も価値観も全く別物だが、不思議とウマが良く合った。熊本時代の“チョイ悪”は、見た目から周囲に付けられたレッテルだ。だが、レッテルの所為で、その力を利用したがる者や、倒して名を上げようとする者ばかりが集まった。文架市に越してからは、レッテルは一人歩きをしなくなった。恐らく、いつも隣に海跳がいてくれたから、周りの評価が変わったのだろう。おかげで石松は、相撲に打ち込み、活き活きとした学校生活を楽しむ事ができた。海跳への感謝は、一言や二言では終わらない。


「怖いに決まっとる!不安でいっぱいばい!

 ばってん、おいは亜美ちゃんば好きで居続くる自信がある!

 昇進ばして偉うなって、必ず亜美ちゃんば迎えに来るつもりばい!」

「バカかオマエは!?

 それはいつの話だ!?昇進をしなければ、永遠に無理なんだぞ!

 それまで彼女が待ってくれると思うのか!?」

「知らん!ばってん、出来んば考えたら何も前に進まんくなる!

 おいが遅くて亜美ちゃんが待てんなら、そん時に考ゆる!

 ばってん、おいは必ず迎えに来る!」

「結局は何の確証も根拠も無い気合いだけの話!!バカ丸出しではないか!!」


 海跳は石松とは違って、あえて言葉には出さないが、石松はかけがえのない親友だ。才能豊かな海跳の周りには、お零れを欲する者ばかりが集まった。「海跳に楯突くのは損」と、面と向かって意見をする者は無かった。だが、石松だけは違った。意見が正しいか間違いかなんて関係なく、自分が思った意見を海跳にぶつけてきた。海跳は石松と一緒に居るのが新鮮で楽しかった。多分、こんなバカには、2度と会えないだろう。だけど、今は、感謝の気持ちを伝える気は無い。どちらかの今際の際で、「ありがとう」と伝えるつもりだ。


「何も行動ばせんで諦むるよりはマシや!

 海跳は頭が固すぎるったい!海跳もサッサと告白してしまえっっ!!」

「くっ!言ったなぁぁっっっ!!!」

「何度でも言うばい!男らしゅう、サッサと気持ちば伝えてスッキリせいっ!!」


 互いの拳が互いの顔面に炸裂!

 共に精も根も使い果たした。同時に仰向けに倒れる。1勝1敗1分け、それが、海跳と石松にとって、高校生活最後の戦績となった。どちらも仰向けのまま日が暮れた空を眺める。


「死に物狂いでサッサと昇進して迎えに来ると、今ここで約束しろ!

 周りは平山の器量を放って置かんぞ!」

「あぁ、約束する!」


 起き上がり、石松に向かって拳を突き出す海跳。石松が応じて起き上がり、海跳の拳に自分の拳をコツンと当てる。海跳の視線の先では、2人の喧嘩を見守っていた亜美が涙目で安堵の表情を浮かべている。売り言葉に買い言葉で、可能かどうかは不明だが、石松は亜美に向けて事実上の「プロポーズ」をした。もちろん、亜美は全て聞いていた。


「さて、邪魔者は退散してやるよ」

「・・・ぶひぃ?」


 海跳は痛む体を押して立ち上がり、痣だらけのくせに、いつものようにクールを決め込んで、亜美に「英邦を頼んだ」と言い残して去っていく。



-優麗高が見えるビルの屋上-


 紅葉の父・崇が、優麗高の屋上を眺めている。


「自力で妖怪の能力を押さえ込むなんて大したものだ。大昇格だよ。

 彼は自分の中のスイッチ1つで人間と妖怪を使い分けられるようになった。

 覚醒から、たった半日・・・

 あんなハイペースで成長したら、そのうち追い抜かれそうだ。

 僕も、悠長にしてられないな。」


 愛は異性に対する熱情だけではない。友情という親愛もある。彼なりに何かを掴み始めた影響で、妖怪の生態が変化をしたようだ。



-屋上-


 仰向けに寝転がった石松の隣に亜美が座って、2人で星を眺めていた。亜美は、決闘中の石松が言った「亜美に対する想い」が嬉しくて、もっともっと色々と聞きたいが、胸がいっぱいで何も言えない。ただ、「この人を好きになって良かった」と心の中で何度も繰り返し、黙って星を眺めていた。やがて、石松の方から口を開く。


「のう、亜美ちゃん」

「・・・はい」

「おい、息巻いたあげく、ボコボコじ格好悪いのう」

「そんな事ないよ。格好良かった」

「そうかいのう?」

「・・・うん」


「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


「のう、亜美ちゃん」

「・・・はい」

「おい、口下手じ、上手う言えんけん、ようけ不安にさするかんしれんけんど、

 亜美ちゃんを好きな気持ちは絶対に変わらん自信がある」

「・・・うん」

「・・・やけん、離れ離れになってしまうばってん、俺ん事ば信じてくれんかね」

「うん、『英くん』の事、信じてる」


 石松の手を握る亜美。起き上がり照れ笑う石松。2人は無言のまま見つめ合う。石松には、亜美の唇が美しく見えて、妙に意識をしてしまい恥ずかしそうに視線を逸らす。

 石松が視線を逸らす時は、興味が薄れた時ではなく、何かを言いたいけど言えない時。交際を開始して2ヶ月以上が経過して、亜美にも少しは解るようになった。


 亜美は、石松が逸らした視線の正面に廻り込んで、「言いたい事があるならちゃんと言って」と言いたげに、もう一度視線を合わせる。観念をした石松は、今度は視線を外さずに亜美を見つめた。


~~~~~~~~~~


石松英邦(第6話登場)・3年E組

 相撲部に所属。2年生の春に熊本から優麗高に転校をして、直ぐに海跳と意気投合し、優麗高の凸凹コンビと呼ばれるようになる。学業成績については下から数えて○番目。亜美が入学した当初から、なんとなく意識しており、3年時の優麗祭で縁が出来て、クリスマスから交際をスタートさせた。

 亜美とのファーストキスをした3日後、東京の相撲部屋(猪鼻部屋)に入門する為に、文架市を旅立つ。


~~~~~~~~~~


-文架大橋-


 帰宅途中の、痣だらけの海跳が、立ち止まって優麗高の方向を振り返る。色々と苦し紛れの言い訳はしたが、石松からグゥの音も出ないほど論破された自覚はある。

 ポケットの中でスマホのメールの着信音が鳴ったので確認をしたら、差出人は麻由だった。「明日、キチンと説明をしたいから、何処かで会えないか?」と書いてある。少し会いづらいが、それは、きっと、お互い様だろう。麻由が勇気を持って接触をしてきたのなら、逃げるわけには行かない。それに、海跳も麻由に伝えたい事がある。

 今日は様々な事がありすぎて、学校への合格の発表が出来なかった。明日、報告に行こうと思う。海跳は麻由に、「放課後、生徒会室で会おう」と返信をする。


「・・・・・・・・・・あっ!」


 生徒会室は大喧嘩で乱雑になっていた。麻由が見たら腰を抜かすのではないか?放課後よりも少し早く行って片付けねばならない。


「参ったな、格好を付けて退散などせず、英邦に手伝わせるべきだったか」




-リバサイ鎮守裏の堤防-


 海跳から来たメールを見た麻由は安堵の溜息をつく。無視をされても仕方が無いと覚悟していたが、ちゃんと返信が来た。両隣と後ろで様子を見ていた紅葉&真奈&ジャンヌが「頑張って勇気を出した!」と褒めてくれる。


 号泣から時間が経過して、紅葉と真奈とジャンヌに慰めてもらって、少し落ち着いた。紅葉達に「二度とジジイ達とはデートをしない」「海跳にはシッカリ説明をする」と約束をした。見捨てずに受け入れてくれた紅葉達に心から感謝をする。


 海跳には、どう説明すれば納得してもらえるのか解らない。でも、嘘や誤魔化しは、もうダメ。ありのままを正直に説明して、それで見損なわれても仕方が無い。麻由は、それくらいダメな事をしてきたのだから、全部が丸く収まるなんてのは虫の良い話だ。不安しか無いけど、「全部正直に話す」で腹を括ろうと思う。


 まだ、皆と一緒に居たい気分なので、紅葉の無駄話を軸にしながら4人で時間を潰していたら、紅葉のスマホがメールの着信音を鳴らした。


「・・・んぇ?」


 差出人は【(株)パウダーウッド】。確認をした紅葉の顔が曇る。


 『仕事の依頼です。妖怪【サトリ】を討伐して下さい。

  諸事情により、19年前に前任が取り逃がしましたが、

  この度は、確実な討伐をお願いします。』


 困惑した表情の紅葉が、麻由達を見つめる。

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