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40-3・麻由の白状~石松と海跳

-山頭野川堤防(リバサイ鎮守付近)-


 斜面の芝生に横たわった麻由に、紅葉が闇祓いの治療を続けていた。かなり沢山の闇を注ぎ込まれたらしく、なかなか目を覚まさない。紅葉自身が疲労困憊だが、根性で闇祓いを続ける。


「・・・んんっ?」


 ようやく麻由が目を覚ました。意識を取り戻してくれれば自力での闇祓いが可能になる。安堵と同時に脱力する紅葉。途端に腹がグゥ~と鳴り、周りで様子を見ていたバル&真奈&ジャンヌがクスクスと笑った。


「ここは・・・一体?」

「お店の屋上ゎケーサツが現場ケンショーしてぃて邪魔だから、

 ここまでマユを連れてきて治療してたんだょ」

「それは、ありがとうございました」

「この度は、リョーチンが、どうにか退けてくれました」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうですか」

「ボクのフリーズ光線の盾にされちゃったお爺さんは、

 家族が迎えに来て帰って行ったばる」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 麻由は、海跳を激怒させてサトリを覚醒に導いてしまった自覚はある。知られた秘密を追及されるのが怖い。サトリと面と向かう事が出来ない。罪悪に汚れた手でサトリを倒す事なんて出来ない。サトリとは戦えない、戦いたくない。

 こんな時、美穂ならばサトリ打倒の為にどんな作戦を立ててくれる?美穂は、いつも、弱気になった麻由の背中を押してくれる。


「美穂さんっ!」


 美穂は仲間達の輪から外れて、1人で斜面の上の方に座って麻由のことを見つめていた。その表情は、麻由のことを睨み付けているように見えて少し怖い。


 美穂は意識を取り戻してから、ずっと考えていた。今回の一件は、最も重要なピースが埋まらずに、ずっとスッキリしなかった。

 サトリは「麻由はジジイ共の手で汚れている」と言った。最初は、動揺を誘う為の虚言だと思ったが、美穂が聞き返しても、サトリはそれ以上のことは言わなかった。デマではなく追い詰められたサトリが口を滑らせた?本心では言いたくなかった?だから、それ以上は何も言わなかった?

 何故、美穂ですら認めるほどの何もかもが整った優等生が、いきなり暴走をした?何故、麻由の前に立っただけで動揺するような純情男が、気絶した麻由を汚そうとした?

 麻由は、何故、マンションで妖怪に教われたことを曖昧にしか説明しない?麻由は何を庇っている?麻由は何を隠している?


 仲良くなる前の麻由は「ボーイフレンドはいる」「相手は社会人」と言った。当時の美穂は「社交的な優等生様は社会人に顔が利く」と鼻高々に自慢をしていると解釈した。だけど、仲良くなって、実際に付き合ってみたら、社交的で嫌味どころか、内向的で頼りない。数日前の麻由は、過去に「ボーイフレンドはいる」と言ったことを忘れていて、「ボーイフレンドなんていない」ような素振りだった。美穂は「見栄を張っていた」と解釈して「キャパが狭い」とバカにしたが、麻由はノーリアクションだった。事実を指摘されて反論できなかったのではなく、隠したいから反論をしなかった?

 最近の麻由は様子がおかしい。校長は妖怪に憑かれていて麻由は妖怪に襲われたのに、何故、全く対処をしない?


 美穂の中で今回の一連の最も重要なピースがイメージされる。そしてそのピースに繋がる情報を、全て麻由が隠蔽していると仮定する。

 全部繋がった。だから、麻由の様子がおかしくて、海跳は暴走をした。

 バル&美穂は魂を抜かれ、紅葉も魂を抜かれそうになったが、麻由だけは魂を抜こうとせず体を汚そうとした。


(綺麗だと妄想していた物が想像以上に汚れていた。

 だから、違う色でもっと汚そうとした。それが、純情を裏切った復讐・・・)


 ただし、これは、あくまでも仮説。麻由に真実を確かめる必要がある。


「なぁ、麻由。オマエさ、校長と、どういう関係なんだ?

 バルミィの攻撃の盾のされたオッサンは何か関係あるのか?」


 美穂が麻由を見つめる。「校長」がキラーフレーズだったらしい。麻由は、あからさまに動揺をして目を泳がせる。


「あたしさ・・・オマエが隠していること、何か、全部、解っちゃったみたい。

 確証は無いんだけど、あたしの考えが正しいと、

 今回の件の辻褄が、全部、合うんだよな。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「聞こえなかったのか?もう一回、聞くぞ!

 オマエは校長とどういう関係なんだ!?」

「・・・冨久先輩から何か聞い・・・」

「アイツは関係ない。あたしは、オマエに聞いているんだ。

 マンションをアジトやジャンヌの居候先にするって話、かなり抵抗したよな?

 あれって、あたし達が騒がしいって以外にも、

 あたし達を追い出したい理由が有るんだろ?

 あたし達にも説明出来ない理由がさ。

 社会人のボーイフレンドって誰だよ?」


 麻由は沈黙して、怯えた眼で美穂を見つめ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなり、しばらくの後、力無く、その場に腰を落とした。

 やっと友達に恵まれたのに、一番恐れていた“孤立”が確定した。観念をした麻由は、俯き、蚊の泣くような声で自信なさそうに、隠し続けてきた事実を話し始めた。


 マンションでの1人暮らしは不安でいっぱいだった。そんな時に優しく世話をしてくれたのが管理組合長の管老人だった。麻由は彼の愛を受け入れたが、彼には家族があったので「一緒に住みたい」と言う希望を叶えてくれず、週に数回遊びに来るだけだった。

 次に、愛を与えてくれたのは水戸校長だった。毎日会えて、親身になってくれたので、麻由は満たされた。彼は器が大きくて話が解る人で、西村教頭や学年主任の老教師など、麻由に好意を持つ者との食事デートは許容してくれた。

 紅葉達と仲良くなって以降は、愛を拠り所にする必要はなくなったが、これまで優しくしてくれた恋人達と別れることは恩を仇で返すような気がして出来なかった。


 紅葉や真奈はドン引きをしている。バルミィは「意外」って視線を向けている。ジャンヌも驚きを隠せない。


「ふふふっ・・・驚いたでしょ?でも、これが私なの」


 何で今、麻由は笑った?笑えるところなんて何も無い。開き直ってる?自暴自棄?皆、麻由の笑い声に違和感を持つが何も言えない。話を終えた麻由は、力無く立ち上がり、堤防斜面を上がって、逃げるように去ろうとする。


「・・・マ、マユっ!」


 心配をした紅葉が麻由を呼び止めるが、どう接して良いのか解らない。麻由は呼び止める声を聞かずに、俯いたまま斜面を上がっていく。斜面の一番上に居た美穂が立ち上がり、脇を通過しようとした麻由の腕を無言で掴んだ。


「離して下さいっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「離してよっ!どうせ、私のこと、気持ち悪いって思っているんでしょ!

 笑いものにしたいんでしょ!!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「不潔って軽蔑しなさいよっ!私は、そうやってこれまで生きてきたのっっ!!

 色んな事に恵まれた貴女たちとは違うの!!

 私のことは放っておいてくださいっ!!」


 美穂が、麻由の腕を掴んだまま麻由を睨み付ける!


「言いたいことは、それだけか?」


パァン!!

 問答無用の平手打ちが、麻由の頬に炸裂!軽く弾き飛ばされ、斜面に転ぶ麻由!美穂は、目をつり上げて麻由を睨み付けている!


「オマエがそのつもりなら、あたしは、この件からは手を引く。

 オマエの所為で暴走をした冨久に同情するよ。

 オマエなんて、サトリに食われちまえ」


「美穂さん、ちょっとそれはっ!」

「ミホっ!そんな言い方しなくてもっ!!」


「・・・フンッ!」


 麻由に罵声を浴びせる美穂。ちょっと前までドン引きをしていた紅葉と真奈が、慌てて麻由を庇うが、美穂は聞く耳を持たず、踵を返して足早に立ち去っていく。


「うっうっ・・・私はずっと独りぼっちだった!!

 どんなに頑張っても、・・・優等生って言われても、

 いつかは転がり落ちるような気がして怖くて・・・

 ずっと、いっぱいいっぱいで・・・

 先生達だけが、私の存在価値を認めてくれた!!

 悪い事って解らずに関係を持って、

 悪いことだって解ってからも独りぼっちが怖くて、

 どうする事もできなかったっ!!

 うわぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっっっっ!!!!」


「ぅんぅん、マユゎ独りぼっちで怖かったんだねぇ。

 でも、ァタシ達が居るからダイジョブだよぉっ!」

「悪い事って解ったなら、これから直せば良いんだよ。麻由ちゃんなら出来るよ」


 ようやく腹の中に溜まっていた物を大声でぶちまける麻由。紅葉と真奈が、蹲って号泣する麻由を抱き締めて慰める。

 だけど、美穂は振り返ろうともせず、無言のまま離れていった。バルミィは、麻由と美穂を交互に眺めた後、飛んで美穂を追い掛けていく。

 堤防道を歩き、文架大橋の辺りまで来たところで、美穂の少し後ろを飛んでいたバルミィが呟いた。


「麻由の方は、紅葉達が居れば大丈夫ばるよね?」

「・・・フンッ!」

「美穂は損な性分ばるね。ワザと憎まれ口叩いちゃって・・・」

「・・・・・・・・・」

「でも、美穂が麻由を見捨てるフリをしなきゃ、

 ドン引きした紅葉達は、麻由と、どう接して良いか解らなかったばるよね」

「・・・・・・・・・・・・」

「あのまんま、麻由が壁を作って縁が切れちゃう可能性もあったばるよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「美穂は、自分が皆から冷たい目で見られても、

 麻由が孤独にならないようにしてあげたばるよね」


「ちぇっ!スゲー嫌な奴だな。全部、バレバレかよ?」


 ようやく立ち止まり、空を見上げる美穂。その眼には涙が浮かんでいる。

 美穂と麻由の生い立ちは似ている。美穂は独りぼっちの辛さは知っている。美穂が独りになる前から、麻由がずっと独りぼっちで辛かったのも知っている。

 2年半前、孤独になった美穂は、自分の未来が想像出来なくなり、自分自身を大切に出来なくなって、犯罪スレスレの破滅型の生き方に転がり落ちた。麻由は、見えなくなった未来を求め、存在感を認識してくれる相手を探し、間違った希望に縋り付いた。比較して、どちらが正しいのかなんて、美穂にも解らない。どっちも間違いだけど、多分、希望と存在価値を探した麻由の方が少しはマシなのだろう。

 2人の違いは、ウザ懐っこいチビに出会った時に、美穂は「何も背負っていなかったから直ぐに上昇出来た」、麻由は「様々な間違えたしがらみを背負っていた為に直ぐのは飛べなかった」、その程度の違いしかない。


「なぁ、バルミィ」

「ばるっ?」

「あたしって・・・バカだよな」

「急のどうしたばるっ?」

「あたしさ、麻由や紅葉の姉貴分みたいな気になってて・・・

 アイツ等のことなら、何でも理解してるつもりになってて・・・

 麻由が一番苦しんでいたところ・・・なにも、気付いてやれなかった。

 ・・・ごめん・・・麻由っ」


 美穂は空を見上げて涙が零れないように堪えているが、涙は容赦なく溢れて頬を伝う。バルミィは美穂の隣に降りてきて、美穂の背中を撫でる。

 バルミィは解っていた。麻由には紅葉達がフォローに入ったから大丈夫。だけど、誰よりも麻由を理解して才能を評価しているクセして悪役を演じなければならなかった美穂は、自分がフォローしなければならないと・・・。


「美穂っ!美穂が紅葉や麻由の理解者になれるように頑張るなら、

 ボクは美穂の一番の理解者になれるように頑張るばるよっ!」

「ありがとう・・・バルミィ」

「美穂が、ワザと悪役やったこと・・・紅葉達には話して良いばるよね?」

「・・・・・うん」


 美穂はバルミィに寄りかかり、声を殺して泣き続けた。珍しく弱さを見せる美穂を、バルミィが優しく抱き締める。まだ、この時期の薄暗くなった時間帯の風は冷たい。だけど、抱き締めてくれたバルミィの温もりを、美穂はとても暖かく感じた。




-優麗高・生徒会室-


 海跳がポツンと座っている。疲れ果てた表情で目を閉じる。ここで発生をした楽しい思い出ばかりが、脳内を巡る。

 可愛がってくれた先輩の引きで、1年生の頃から生徒会室のは出入りをしていた。2年生になり、副会長になってからは、優麗高の運営方針に積極的に口を出すようになった。実りある会議だけでなく、下らない無駄話も沢山した。価値が高い3年間を過ごせたと自負する。

 約2年前の春、生徒総会で“葛城麻由”って名の女子を認識した。数日後の臨時会議で、麻由が生徒会室を訪れた。少々頭が固くて融通の利かないが、懸命で賢明と感じた。放っておけない存在と感じた。「人を好く」感情を肯定した今にして思えば、多分、一目惚れだった。だけど、当時の海跳には理解の出来ない感情だった。もっと早く「愛」の感情に気付ければ、「今」は違うものになり、彼女が汚れる前に救うことが出来たのだろうか?


「・・・くっ!」


 いつの“麻由”を思い浮かべても、最後には汚れに染まった麻由に行き着いてしまう。どうして、こんなことになった?何を間違えた?酒呑童子は「『愛』を知れば強くなる」と言ったが、苦しいだけではないのか?人間社会で生きて理性を得た結果、人々の感じる恐怖心が重たく感じられるようになった。19年前ならば、人々の恐怖心は愉悦だった。理性など持たなければ良かった。人間社会で生きたのが失敗だった。海跳の中にある憎悪が、麻由に向けられて膨らんでいく。

 今ならば、校長&教頭&学年主任は校内に残っているだろうか?麻由に絶望を与える為に八つ裂きにしてやる!闇に憑かれた表情で立ち上がる海跳!


「・・・ん?」


 海跳の脳内に“真っ直ぐにこちらに向かってくる強い心”が流入してきた!この“暑苦しい心“は良く知っている!海跳は“心”が来る方向を睨み付ける!生徒会室の扉が開き、よく知る男が扉の外側で仁王立ちをする!


「やっぱり、こけおったんばい・・・海跳!!」

「・・・英邦っ!」


 訪れたのは石松英邦。真っ直ぐに海跳を睨み付けている。良太からは「冨久先輩がいる可能性が有る場所を桐藤達に伝えろ」と言われたが、石松は伝えていない。根性を見せた後輩から託された“バトン“を、直ぐに別の後輩に渡すつもりはない。自称「海跳の親友」として、自分に出来ることをやる。


「海跳ぉぉっっっ!!!!」


 拳を振り上げ、海跳に向かって突進をする石松!海跳は、石松の明確な攻撃意思を読んでいたが、あえて抵抗をせず、石松の拳を受け入れる!石松の拳が海跳の頬に炸裂!海跳は弾き飛ばされ、周りの机やイスが巻き込まれて倒れた!石松は、海跳の胸ぐらを掴んで海跳を引っ張り上げる!海跳に渾身の怒りをぶつけたのに、石松の表情は少しも晴れていない!


「なんで避けんかった!おまえなら楽に避けられたろうにっ!!」

「言ったはずだ。平山を口撃して傷付けた制裁は受けると」

「・・・!?」


 石松は困惑して「そんな事あったの?」って表情で振り返って、生徒会室の外で見守っている亜美に視線を向ける。亜美は少し恥ずかしそうに俯く。海跳の脳内には「詳しくは説明していない」との、亜美の心が流入してくる。


「何だ、オマエ?知らずに僕を殴りに来たのか?・・・だったら、何の為に?」


 海跳の質問に逆撫でされた石松は、海跳をもう一発殴った!弾き飛ばされ、背中を壁に激突させ、床に腰を落とす海跳!


「亜美ちゃんの事は知らんかったど、俺がこけ来たんな別ん理由や!!

 情けなかオマンば成敗しに来たんや!!」

「情けない・・・僕を成敗?」


 「成敗」って何だ?妖怪に覚醒した海跳を、人間の石松が倒すって意味か?それは不可能だ。仮に海跳が無抵抗を貫いたとしても、ただの人間では妖怪は成敗出来ない。「情けない」に至っては見当が付かない。石松の言い分が理解出来ず、不満そうな表情で石松を見上げる海跳。石松は、その頬に容赦なく3発目の拳を叩き込んだ!海跳は再び弾き飛ばされ、机や椅子を薙ぎ倒しながら床を転がる!

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