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40-2・正体を知ってた亜美~良太から石松へ

 徐々に闇が晴れ、視界が開けていく。良太は掴んでいたマスクドジャンヌの手を振り解き、薄暗い霧の中で玉兎の名を叫んで公園の中央に走る。マスクドジャンヌと真奈は、離れて様子を見ていた亜美に気絶中の紅葉を預け、成り行きを確認する為に良太の後を追って公園を駆ける。


「なっ?」 「あれは?」 「そんなっ?」


 薄暗い霧の中、30~40mほど離れた場所に人型のシルエットが立っている。あの憎き姿を見間違う事は無い。

 サトリ進化態だ!奴は、爆発の中心にいたにも係わらず、五体満足で動いていた!動揺をするジャンヌ&真奈&良太!サトリは背中を向けていたが、動揺が発した心を察知して振り返る!


「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」


 咆哮を喰らったジャンヌの体が僅かに崩れて粒子化をする!次の瞬間には、サトリ進化態は、動けなくなったジャンヌの目の前にいた!ジャンヌは慌てて構えるが、腹に拳を喰らって弾き飛ばされ、宙高く舞い上がって地面に落ちる!


「バルカン人、桐藤、源川、そしてジャンヌダルク・・・これで、終わりだな」

「ジャンヌさんっ!」

「そ、そんなバカな・・・奴は不死身なのか!?」

「ふんっ!ザコが下らない事をしやがって!」


 敵意丸出しの眼で、真奈と良太を睨み付けるサトリ進化態。真奈と良太は足が竦んで動けない。良太は真奈を庇うようにしてサトリを睨み付けるが、それが精一杯。何の戦力も持たない2人では、抗う手段は無い。腕を一振りされただけで2人纏めて命が飛ぶだろう。玉兎が身を挺して庇った命は、アッサリと失われることになる。

・・・その時。


『怖いよぉ』 『死にたくないよぉ』

『天変地異の前触れか?』 『誰か助けてっ!』


「ぐぅぅっ!なんだっっ!!?」


 サトリ進化態の脳内に、周りにいないはずの者達が‘怯える心’が流入をしてきた。警察が張った規制線の外側にいる人々、ショッピングモールから避難をする人々、サトリの姿を見ずとも、建物屋上や公園内で発生した異常に恐怖する人々、読心範囲の外側にいる人々の声がサトリの脳内に押し寄せてきた!


『怖いよママ』 『この子だけは助かって欲しい』 『どうなっちまうんだ?』

「ぐぅぅ・・・うぅぅぅぅ!!!これは一体!!!?」


 頭を抱えて苦しむサトリ。これらの心は、玉兎が集め、消化しきれなかった思念。玉兎の目的は自爆によってサトリを倒す事ではなかった。集めたまま処理をしなかった恐怖心で、サトリを囲む事だった!


「ぐわぁぁぁぁっっ!!!この恐怖心は僕が作った物なのかぁぁっっっ!!!!

 違うっ!!そんなつもりはない!!!

 無関係の人々を、巻き込むつもりなんてなかったぁっっっ!!!」


 サトリの中で張り詰めていた集中力が途切れ、攻撃的な“仮面”が剥がれ落ちる。怒りを糧に無尽蔵の強さを誇っていたサトリ進化態が、罪悪感で急激にパワーダウンをしていく。頭を抱え両膝を地に落とす。全身の妖気が拡散蒸発をして、禍々しい獣の形をしていた手足が人間の手足に変化をしていく。


「妖怪が・・・消える?」

「ウサがやってくれたんだ」


 その姿形は、人間・冨久海跳に戻っていた。


「海跳っ!!」


 石松が数歩前に出て大声で海跳の名を呼ぶ。声に気付いた海跳が、苦しみながら視線を向けた。石松は海跳を気遣う視線を向けている。しかし、石松の背後では、青白い顔をした亜美と咲輝が、怯えた眼で海跳を見つめている。


「ち、違うっ!

 僕は、英邦や平山達を苦しめるつもりなんて・・・ぐぅぅっっっ!!

 そ、そんな眼で・・・僕を見ないでくれぇぇぇっっっ!!!」


 海跳に近付こうとする石松。しかし、海跳は、石松の眼を見る事も、言葉を交わす事も拒否をして後退る。

 怯えた心が聞こえ、怯えた視線が突き刺さる。此処にいたら気が振れてしまいそうだ。海跳は、罪悪に押し潰されそうな表情を隠しながら、逃げるようにして立ち去っていく。

 石松は、海跳を追って公園の外までは出たが、鈍足では追い付く事は出来ずに見失ってしまう。しばらく周辺を眺めて海跳の姿を探したが発見できず、亜美や良太の待つ公園中央に戻っていった。




-ショッピングモール屋上-


 美穂の瞳に、空がボンヤリと映る。ゆっくりと瞳を動かすと、バルミィと中年男性が見えた。中年の手は、美穂の腹に当てられている。2~3回しか会っただけなので直ぐには思い出せなかったが、中年は紅葉の父・源川崇だ。

 経緯はよく解らないが、介抱をしてくれたようだ。一応、礼を言う。辺りを見回すと、麻由はまだ倒れていた。


「僕が手を貸すのは此処まで。

 君たちは、いつまでも放置できないから僕が処置をしたけど、

 葛城さんは紅葉でもどうにか手当できるだろう。

 あんまり手を出すとママに怒られちゃうから、僕はそろそろ退散するよ。

 でも、その前に1つ御注進。

 “彼”を倒せるのは、彼と相克の関係にある子だけだろうね。

 まぁ、あまり戦いに向かない子みたいだし、

 かなりのリスクだろうから、判断は君に任せるよ」

「・・・え?」


 僅かな会話だけで、美穂は「この人(紅葉の父)は自分達の知らないことを知っている」と感じた。質問をしようとしたが、崇の方が先に人差し指を口に当てて、ウインクをしつつ「ナイショ」のゼスチャーをする。


「君、なかなかの“切れ者”だから理解出来るよね?

 この事は、紅葉や他の子には、もうしばらくはナイショだよ」

「・・・は、はい」


 立ち上がり、笑顔で「バイバイ」と手を振って去っていく崇。あまりにも飄々としていて、疑問を全部聞きそびれた。アレは、雛子や怜香とは違うが、美穂の思考の上を行くタイプだ。聞きたいことは山ほどあるが、何を聞いても“暖簾に腕押し”ではぐらかされそうに感じる。




-鎮守の森公園-


「・・・んぁ?」


 紅葉が意識を取り戻したら、亜美が心配そうに顔を覗き込んでいた。真奈の姿もある。紅葉が目を開いて上半身を起こしたのを見て、亜美は安堵の表情を浮かべる。


「ぁれぇ?ど~して、アミがここにいんの?」

「どうしてって・・・お店の屋上(リバサイ鎮守)でクレハを見付けて心配で」

「ん~~~~~っ・・・そっか。

 アミもリバサイに、いたんだぁ?心配掛けちゃってゴメンねぇ~。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・んぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」

「えっ!?なになに?私、変なこと言った!?」


 いくら“ちょっとおバカさん”な紅葉でも、亜美が変なことを言ったのに気付いた。ゲンジに変身をして戦っていたのに、何で亜美は「屋上でクレハを見付けて」と言った?亜美が、屋上で紅葉を確認できるわけがない。


「んぁぁっっ!アミ、今、スッゲー変なこと言ったっ!

 ァタシ、屋上に行ってないっ!屋上にいたのゎゲンジで、ァタシぢゃないっ!

 ァタシがゲンジってのゎナイショだから、

 アミゎ屋上でァタシを見ていないっ!」


 真奈は「え?まだ隠してるつもり?」と驚く。亜美は呆れつつ、紅葉が言い張るなら「説得されてあげようかな~」と考えたが、もう、知っていることを隠すのはやめる事にした。知らないふりをしたままでは、命懸けの親友を応援することすら出来ない。


「クレハ・・・さぁ。

 今まで何度も、鎧武者の格好で私のこと助けてくれたよね?ありがとう」

「えっ!?えっ!?ァタシ、ァミを助けた事なんて・・・・・・・・・・・・・・

 ん~~~~~・・・ん~~~~~~・・・・・・ァミ・・・気付ぃてたんだ?」

「うん、クレハや美穂ちゃん達が、いっぱいいっぱい頑張ってたの、知ってたよ。

 あの鎧武者、なんていう名前なの?アレが、ゲンジって名前なの?」

「んっ!妖幻ファイターゲンジってゆ~の」

「これからは、妖幻ファイターゲンジのこと、応援してもいい?」

「んんっ!ゲンジのこと怖くないの?」

「クレハなんだから、ちっとも怖くないよ」

「んっ!・・・ありがと」


 正体がバレたら怖がられると思っていたけど、知った上で友達宣言をしてくれた。紅葉は亜美を見つめ、照れくさそうに「にひひ」と笑う。


 一方、良太は、死闘が終わった公園内で、ウサの名を呼んで探し続ける。「前回は言いそびれたが、今回は言えた」なんて冗談じゃない。一方的な「アバヨ」なんて認められない。


「ふざけるな!今度は俺が、何も言えてないじゃないか!」


 ウサの名を叫びながら、眼に浮かんだ涙を何度も手で拭う。半分焦げたバンダナを握りしめ、何度もバンダナに語りかけるが反応は返ってこない。心の何処かでは解っている。憎まれ口ばかり叩く妖怪だったけど、自爆寸前に良太に向けた「アバヨ」は、皮肉でも嘘でもない純粋な言葉だった。それでも、認めたくない。「バ~カ、妖怪が死ぬわけないだろ」とか「格好付けただけだ」などと言いながら、良太の目の前に現れるのを期待する。だけど、玉兎の姿は無い。受け入れられない、1つも納得を出来ない・・・でも、認めるしかない。


「久しぶりに会ったってのに、散々、俺のことをバカバカ言いやがって!!

 どっちが、バカだっっっ!!!なにが『アバヨ』だっ!!!

 ウサの、大馬鹿野郎っっっっっ!!!!」


 両膝を落とし悔しそうに拳で地面を叩き、焦げたバンダナを抱き締めて泣き崩れる。

 良太とウサが出会ったのは、約8ヶ月前。ヒーローを気取って人助けをして不良共に伸され、自分の力の無さを悔しく思っていた時に、その思念にウサが寄ってきた。最初は喋るウサギに驚いた。だけど、「力を貸してやる」と言われ、ヒーローオタクって気性もあって、比較的素直に受け入れた。ヒーローオタクと口が悪い妖怪の、奇妙な共存が始まった。それがルナティスの始まりだった。


「りょうたっ!」


 泣き崩れていた良太の後ろから駆けてくる足音が聞こえ、後ろから抱き締められる。まだ青白くて辛そうな表情の咲輝が、息を荒げて震える手で良太を抱き締めていた。


「・・・咲輝?」

「良くんのバカぁっ!」

「・・・・・・・・・」

「どっか行っちゃうのかと思ったっ!」

「・・・・・・・・・・・・・」

「無茶しないって約束したばっかりじゃん!うわぁぁぁ~~~~~~~ん!!!」


 良太の背中を抱き締めたまま、大声で泣く咲輝。やるせなさで硬直した体が、咲輝のおかげで少し和らぐ。咲輝は自分が辛いのに、良太が心配で駆けてきてくれた。ウサは「オマエは雌のところに帰れ」と言った。泣いてる咲輝に応えられなきゃ、ウサを裏切ることになる。良太を庇って、良太を非日常から日常に残していってくれたウサに、顔向けが出来なくなる。


「・・・・・・・・・・・ご、ごめん・・・咲輝」


 良太は自分の腹に廻されている咲輝の手を取り、振り返って咲輝を抱き締めた。その表情から憑き物が取れていく。


 これで、彼は大丈夫だ。玉兎を失った悲しみは、少しずつでも恋人が癒やしていくだろう。良太の成り行きを確認した紅葉は、ショッピングモール屋上を見つめる。取り残された美穂&麻由&バルのところに行かなきゃならない。亜美と「行くね」「気を付けてね」と言葉を交わし、真奈&ジャンヌと共にショッピングモールに向かって早足で歩き出した。


 一方、海跳を見失って戻ってきた石松も、落ち着きを取り戻した良太を見て安堵の表情を浮かべる。変身して無謀に突っ込んでいった時は「死亡フラグ全開」に思えて焦ったけど、日常側に戻ってきたようだ。

 抱き合ってる2人の邪魔にならないように、ドタドタと足早で良太と咲輝の脇を通過しようとする。


「・・・石松先輩」


 邪魔をする気は無かったのに邪魔になったらしい。脇を通過する石松に、良太が声を掛ける。


「先輩なら、冨久先輩がどこに行ったのか、多分、見当が付くと思います。

 可能性が有りそうな場所・・・桐藤や源川に伝えてやってくれませんか?」

「・・・海跳が行った場所?見当なんて全く付かん」

「俺、経験者ですから・・・先ずは俺の話を聞いて下さい」


 7ヶ月前、ウサとコンビを組んでいた頃、戦闘で自分の感情を制御できないことが度々あった。そんな時は、愛車のバイクで峠道を走って自分の力を誇示した。今にして思えば、なんで峠道でスピードを出すだけの下らない自己満足が力の誇示なのか上手く説明できない。だけど、だからこそ解る。あれは、妖怪に支配されかけた事への抵抗だ。良太の“人間である事”にしがみつこうとする意思が、無意味な自己顕示に繋がっていたのだろう。


「多分、あの人は、人間としての存在感を発揮できた場所にしがみついています。

 石松先輩なら、そんな場所・・・想像できませんか?」

「ぶひぃ。海跳が、自分の存在感を示せる場所・・・。

 考えてみるばい。だから、安心して後は俺にまかせんしゃい」

「はい、よろしくお願いします」


 朗らかな笑みを浮かべて、良太に託された“バトン”を受け取る石松。思い当たる場所ならある。良太達の脇を通過して、正面を見据えた石松は、穏やかさが鳴りを潜め、決意を秘めた逞しい表情に変貌していた。




-数十分後・優麗高-


 日が沈んで薄暗くなった時間帯、石松の姿は優麗高の正門前にあった。後輩にあれだけの根性を見せられて、自称“海跳の親友”が傍観で終わらせることは出来ない。自分にやれる事をやる。

 隣には亜美の姿も在る。石松は、亜美を連れてくる気は無かったのだが、亜美が言うことを聞かずに付いてきた。亜美からすれば、良太の無茶を見せられたあとなので石松が心配だし、紅葉との友情を確認したばかりなのに、自分だけ何もしないワケにはいかない。


「・・・海跳」


 良太に「海跳がしがみつく場所」を聞かれた石松は、3ヶ所を思い出した。そのうちの2つは、優麗高のグラウンドと文架市民球場。海跳が汗水を流して青春を捧げた場所と、強豪校相手に大金星を飾った場所。海跳にとっての栄光の2ヶ所だ。だけど、石松は、「海跳は、いつまでも過去の栄光にしがみつくタイプではない」と考えた。

 全てが順風満帆だった海跳にとって、唯一思い通りに気持ちを発揮できなかった場所。石松は「海跳は其処に居る」と考え、部活を終えて下校する生徒達と逆流するように、優麗高の校舎に向かって歩みを進める。


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