39-4・神鳥攻略~ゲンジ敗北~魂抜の咆哮
-鎮守の森公園-
ゲンジ(紅葉)とサトリ進化態が肩で息をしながら睨み合う。ゲンジは、バル&麻由&美穂を倒したサトリがムカ付いて仕方ないし、サトリは浅はかな行動で一般人を巻き込みかけたゲンジが許せない。どちらも拳を引く気は無い。
「んぁぁっっっっ!!!」 「おぉぉぉぉっっっ!!!」
ゲンジの短刀(邪今剣)と、サトリの日本刀がぶつかり、鍔迫り合いになる!押し合う力は互角で拮抗する!
ゲンジの剣技は勢い重視の素人技術だが、それはサトリも同じ。野球一筋で剣道なんてやった事が無いので、日本刀は上手く扱えない。パワーが互角で互いに素人なら、覚醒したばかりのサトリより戦闘実績の高いゲンジの方が有利。「長引けば劣勢」と判断したサトリ進化態は、素早く数歩退いてゲンジの力押しを回避する!
眼前の鎧武者は、麻由が優麗祭の時期に最も嫌っていた源川紅葉。なのに何故、麻由はこんな連中と手を組んだ?何故、こんな連中に笑顔を見せる?麻由がこんな身勝手な連中と仲良くできるわけが無い。
サトリが、「昨日まで思い描いていた麻由」を想像した直後、初めて知った「ジジイに汚される麻由」を思い出してしまう。サトリの全身が憎悪で覆われる。
「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」
咆哮を上げ、ゲンジに向かって突進をするサトリ進化態!ゲンジは根性で目眩を耐える!
「んぇ?」
ゲンジの本能は、サトリの異常性を察知して「回避しろ!」と告げる!素早く数歩後退するゲンジ!サトリが振り下ろした日本刀が空振りをして地面を叩く!今の一振りは、先程までの攻撃より、あきらかにパワーが乗っていた!「今までと同じ」と短刀で応戦していたら、多分、力負けして弾き飛ばされていた!
「んぁぁ!?なんでっ!?」
サトリは、ウルティマバスターを強引に破って消耗していた。セラフ、バルミィ、ネメシスの連戦で、かなりのダメージを受けている。公園に落ちた時点では、ゲンジ方が妖力が充実していたはずなのに、今はサトリの方が妖力が充実しているように見える。
源川崇(酒呑童子)が、ゲンジ達の戦いを傍観しながら「紅葉単独じゃ勝てない」と言った理由は、ここにある。
妖怪は依り代にした人間の念を糧にして力を得る。憑いた妖怪の攻撃意思と、依り代の攻撃的な念が上手くリンクしない事は多々ある。
例えを上げるなら、新斗が最も憎悪をしたのは不良達だった為、ゲンジ&ネメシス戦では雲外鏡の妖力には限界があった。良太は悪人を憎む正義の心が依り代だった為、憎む必要の無いゲンジ戦では真価を発揮できなかった。
サトリは、人間社会で生き、人間の理性を持った冨久海跳の念を糧にして力を得る。海跳=サトリの攻撃的な念がダイレクトに妖力の糧となる。つまり、サトリは戦いながら体力(妖力)が回復している。サトリが怒りや憎しみを維持し続けるうちは、サトリの妖力は無限。だから、源川崇は「僕でも簡単には勝てない」と表現した。
ましてや、紅葉の、飽きっぽく、堪え性や執着心の無い念では、理性で欲を押さえ付けてきた海跳の、底に蓄積された思念には勝てない。
「こんにゃろぉぉぉっっっっっっっ!!!!」
剣の戦いは不利と判断したゲンジは短刀を捨て、拳を握ってサトリに突進をする!振り下ろされた日本刀に手甲を当てて受け流し、サトリの懐に飛び込んで拳の連打を叩き込んだ!サトリは痛みで表情を顰めながら、日本刀を手から離して徒手空拳で対応する!
ぶつかる拳と拳!ゲンジは徐々に自分が力負けをして押されていく事に納得が出来ない!だけど、ゲンジの拳はサトリに受け止められ、サトリの拳はゲンジにヒットする!乱打戦を続けるほど、サトリの拳を喰らう確率が上がる!
「んぁっっ!ちょ~、ムカ付くっっ!!!」
ゲンジは、後退をしながらYスマホを取り出して、指を滑らせて『合体』と書き込んだ!画面に表示された、クマ・ウサギ【貸出中】・ゾウ・ネコ・タヌキ・キツネ・チョウチン・ニグルマの中から、ネコのイラストをタップ!
化け猫が召喚されてゲンジと重なり、手足が毛で覆われ爪が生え、頭にネコ耳!【ゲンジ・ねこフォーム】に変身!
「にゃぁぁ~~~~~~~~~~~んっっ!!!」
俊敏になったゲンジ・ねこフォーム(ねこゲンジ)は、「フー!!」と威嚇をしながらサトリの周りを動き回り、死角から飛び込んで、鋭い爪の一撃を叩き込んだ!そして、サトリが反撃に転ずるよりも早く飛び退いて、再びサトリの周りを動き回り、ヒットアンドウェイを繰り返す!
「ん!?猫になった!?」
「その通りだにゃ~~~ん!!」
サトリ進化態は、敏捷性が増して捕らえられなくなったゲンジに一時は苛立ちを見せたが、何度か爪で引っ掻かれるうちに「攻撃が軽くて、必要以上の警戒は無用」と防御に徹し始めた。
「攻撃が致命傷に成らない事を承知で猫攻撃をしている?
それならば、目的は何だ?」
ねこゲンジは、サトリが防御に徹して追ってこなくなるのを待っていた。飛び退いてサトリから距離を空けて、ねこフォームを解除。Yスマフォ画面にナイフと指でなぞって、ステーキナイフ×8を召喚。左右の手に4本ずつ持って気合いを込め一斉に投擲した。8本のステーキナイフがサトリ目掛けて不規則に飛んでいく。
更に、ナイフを追って突進しながらウルティマバスターを発動!8本のステーキナイフは、ゲンジの意思に反応して大きく軌道を変え、ウルティマバスターと8本のナイフが並んで、サトリに向かって飛ぶ!
「やはり、猫は前フリか!」
今後の神鳥は、妨害用のオプション(ナイフ×8)付きだ!この一連のコンボに、ゲンジの思考や判断は、全く感じられなかった!ゲンジは、考えて攻撃をしているのではなく、本能で突発的に攻撃をしているのだ!
「だが・・・僕は、漠然と防御をしていただけではない。
防御をしながら妖気を溜め込み、思考を重ねていた。
オマエのように、奥義を使いこなす為に!!
光る鳥に飛び込んで、共倒れになるのではなく、
オマエだけを倒せる奥義をな!!」
一呼吸して、神鳥に突進をしていくサトリ進化態!先程の神鳥への突入で、奥義の性質は理解した!攻撃の先尖となる頭、軌道変更に必要な両翼、推進力を押し出す尾翼、この4カ所は光の力が潤沢だ。つまり、他の場所への攻撃は通りやすい!そして、エネルギーバランスが繊細なので、一点が崩れると制御が難しくなる!
「その突進技は、初手で見切った!もはや、僕には通用しない」
サトリの、全身を覆う妖気が爆発的に高まる!突っ込んでくる神鳥を囲むようにして、サトリ進化態の妖気が広がり、無数のサトリが出現!全方位から一斉に神鳥目掛けて跳び蹴りを叩き込んだ!
「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!百華霊撃っっ!!!」
たった8本のナイフでは迎撃不可!幾重ものサトリの蹴りが降り注いで、ゲンジの全身に闇を纏った打撃が叩き込まれる!光と闇の繊細なバランスが必要なウルティマバスターの内側に無数の闇が打ち込まれ、ゲンジは神鳥を維持できなくなり、暴走をした妖力がゲンジを中心に大爆発を起こした!
「んぁぁぁっっっっ!!!」
衝撃波が広がり爆煙が上がる!そして、爆発の中心では、サトリ進化態がゲンジの首を掴んで立っていた!ゲンジは全身傷だらけで捕らわれているが、それでもサトリを睨み付ける!
「ぬぐぐぐぐっっ!離せ、こんにゃろうっ!」
「ふんっ!強がるな!
2度の大技自爆、もはやオマエには余力は残っているまい!?」
「まだ・・・戦えるもんっ!!」
「そうは見えんが、闘争心だけは大したものだな。
聞きたい事がある。オマエは何者だ?」
「んんぁっ!!?」
「僕と同じ闇属性の攻撃。神鳥の光の暴走によるダメージ。
到底、人間とは思えないのだが?」
「ァッ・・・ァタシゎ・・・人間だっ!」
「人間?その闘争心、その思考の浅さ、規律よりも愉悦優先、それで人間か?」
「だ、だまれっっ!!!」
サトリは「自分と同じ種族ではないか?」と聞きたかったのだが、ゲンジの動揺の心にスイッチが入ったようだ。紅葉の「自分は人間じゃないかもしれない」って不安が伝わってくる。仲間達に不安を打ち明けた時は、「紅葉は紅葉」とありのままを受け入れたが、もし、人間ではなかった場合、一般社会が受け入れるとは限らない。
人間じゃないって解った途端、パパとママに捨てられて、近所の人に迫害されて、幼稚園児に石を投げられて、残酷な人間に捕獲されて、どっかの大学で解剖されたり、首輪付けられて動物園の檻に入れられたり、1日3食しか餌をもらえなかったり、オヤツが無かったり・・・。
陸上のユニフォームを着てゼッケン60を付けた男が、彼女とのデートで動物園に来て、紅葉を見物する。紅葉は「会いたかった」「助けて」と一生懸命に手を伸ばすんだけど、ゼッケン60番は「あの動物、こっち見て吠えてるぞ」と紅葉を眺めながら、彼女と一緒に笑っている。
サトリの脳にゲンジの心が流入するんだけど、何かバカバカしくて胸焼けがしてきた。
「・・・オマエ、正真正銘のバカか?
要は“60番の男”と寄り添えないのが怖いのか?」
「んぁぁっっっ!!!なんで、ァタシのスキなヒトを!?」
サトリ進化態に持ち上げられたまま藻掻くゲンジ。動揺が伝わってくる。ピンポイントで一番の不安を言い当てたらしい。これまで連戦した4人で一番解りやすい。ゲンジの根底は「生殖行為に必要な雄」を必要としている。複雑な思考を持って様々な不安を抱える人間とは根本が違う。
「オマエには些か興味がある。だが、それ以上に目障りだ」
ゲンジの腹に掌を当てるサトリ進化態。動揺は充分に煮詰まった。これで仕上げだ。
「群れから孤立し、餌も無く、愛を育む雄の存在しない。
オマエは、それを恐れている」
「んぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」
ドォォンッッ!
サトリ進化態の放った妖気がゲンジの腹に打ち込まれた。ゲンジは、サトリの咆哮を聞いた時と同じような肉体から意識が飛び出すような錯覚がして、目眩に襲われる。
「んんぁっっ!ビ、ビックリしたぁっ!」
「なにっ?」
だが目眩だけで終わり。紅葉の魂は、ゲンジの肉体からは飛び出していない。ゲンジ(セラフも同様)は、魂に干渉する能力と、一定の魂防御が出来る。だから、バルミィや美穂と同じ手順を踏んでも、魂は肉体から外れない。
「あれほど咆哮を浴びたのに、
魂が肉体から抜けやすい状態に成っていなかったって事か!!
ならば、嫌と言うほど、咆哮をくれてやるっ!!」
サトリ進化態が、ゲンジを持ち上げたまま息を大きく吸い込み、咆哮を直接浴びせようとしたその時、また「これまでとは別の攻撃的な意識」がサトリの脳内に流入してきた!
「はぁぁぁっっっっっ!!!テュエ・ディユ・セルパン!!!」
サトリ進化態の背後に蛇のように伸びる光が迫る!しかし、サトリは“攻撃的な意識”の距離と方向から、攻撃の来るタイミングを把握していた!持ち上げていたゲンジを、光蛇が向かってきた方向に向けて盾にする!
「んげぇぇっっっっ!!!」
「見抜かれていたっ!?」
マスクドウォーリア・ラピュセルは、光る蛇の軌道を操作!ゲンジに直撃する直前で軌道を下に変えて地面を抉った!ギリギリのところで同士討ちを回避できたゲンジとラピュセルは、大きく安堵の溜息をつく。
「惜しかったな。
振り向きざまゆえに、盾を翳す少しタイミングが早かったか?」
サトリ進化態は、駆け付けてくるラピュセルを見て首を傾げる。ネメシス、バルミィ、ゲンジとは、また違う種類の生命体だ。生きた人間の中に別の魂が混在して、人間の周りが妙な力(魔力)で覆われている。力の根源は違うが、最初に瞬殺したエンエンラと近い構成か?そんな脆弱な魂ならば、強さなど二の次で警戒は微塵も必要無い。
サトリ進化態は、既に余力を無くしたゲンジを地面に叩き付け、足で踏みつけて押さえ付け、ラピュセルに対して構える!そして、息を大きく吸い込み、腹に力を込めて喉を開く!
「ケェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッ!!!」
「んわぁっっっっっっっっっっ!!!!」
「うぐぅぅぅっっっっっっ!!!」
今まで以上に大きくて長い咆哮!中心地で聞かされるゲンジは激しい目眩に襲われる!ただでさえ足で踏みつけられて動けないのに、目眩で意識が朦朧として更に動けない!肉体と魂を結び付けている鎖が、破壊されていくような錯覚に陥る!
ラピュセルに至っては、マスクドウォーリアの姿を維持しておく事すら出来ない!変身が強制解除されてジャンヌ(真奈と融合中)の姿に戻り、その姿は崩れんばかりに揺らいでいる!
肉体と魂のリンクを希薄にする咆哮。それは、人間の中に潜り込んだ別の魂にも作用する。そして、魔力で編まれた肉体から魂が抜ければ肉体は消滅をする。ジャンヌにとって即死効果に近い攻撃なのだ!それに、このままでは真奈の魂も抜けやすい状態に成ってしまう!
「くっ!合体をしても、咆哮には近付けないかっ!!
クーチャン、スマナイっ!!マスター、撤退をします!!」
到着して何秒も経たず、一太刀浴びせる事も適わず、ジャンヌは悔しそうな表情をして、撤退をするしかなかった。
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良太は、戦場から少し離れた木の陰で、息をするのも忘れるほど夢中になって戦いを見守っていた。ゲンジが自分を破った時よりも強くなっているのは、見ていれば解る。だけど、強いはずのゲンジが、サトリには全く歯が立たない。
「本当にアレが・・・冨久先輩なのか?」
紅葉と麻由の協力でルナティスへの変身が可能になった時、良太は「また戦える」と喜んで一連の事件に首を突っ込んだ。だが強さのレベルが違いすぎる。あんな戦場に飛び込んでも、戦況を変えられる自信など無い。
ゲンジの敗北は時間の問題だ。美穂&麻由&バルは敗れ、ジャンヌは撤退をした。この場に居て戦えるのは、自分しかいない。どうすれば良い?良太は、迷いながら、ルナティスが封印されたバンダナを握る。
〈おう、リョータ。ありゃ かなりヤベ~ゾ〉
「・・・ん?」
〈ツレの雌を連れて逃げた方がイイ〉
バンダナから握った手を通して、良太の脳内に懐かしい声が聞こえてくる。7ヶ月前に共に生活をしたウサ(玉兎)の声だ。
「オマエ、記憶が戻ったのかよ?」
〈ま~ナ。久しぶりに ルナティスってのに なった時にナ〉
「何で、その時に声を掛けてくれないんだ?」
〈面倒クセ~から 知らんぷりスルつもりダッタ。
だけど そうも言ってらんなくなったみて~ダ。
オマエは気付いてね~ケド サトリの咆哮は 人間にも影響を与エル。
霊感の強い奴は 一溜まりもネ~ゼ〉
「霊感?俺は無いって事か?」
〈大抵の人間はナ。
だけど この公園で阿呆共に襲われた経験がある奴は要注意ダゾ〉
「なんのことだ?」
亜弥賀神社付近には、時折、霊的磁場が異常に強くなる時がある。邪気が集まり悪人が引き寄せられる。だけど、引き寄せられるのは悪人だけではない。鎮守の森公園の犯罪率が高いにもかかわらず、通行をする被害者が後を絶たない理由は、被害者も無意識に霊的磁場に引き寄せられるから。間違いなく、その人間は強い霊感を持っている。
「・・・え?」
鎮守の森公園で犯罪に巻き込まれて、良太が助けた者がいる。彼女は、良太にとって、一番大切な人になっている。目を見開いて振り返る。
「咲輝っ!!」
サトリ進化態がゲンジに向けた咆哮が鳴り響き続ける中、亜美が青ざめた顔をして木に凭れ掛かって俯いている。咲輝に至っては苦しそうに蹲っている。石松が亜美を気遣い、亜美は「大丈夫」と呟く。だけど、良太が駆け寄って咲輝を抱き起こそうとするが、咲輝は立ち上がる事さえままならない。
「ご、ごめんね、良くん。なんか、急に・・・気分が悪くなって・・・」
戦いを見るのに夢中になりすぎて、咲輝や亜美の異変に気付けなかった。霊感を持っている2人は、サトリ進化態の咆哮で魂が抜けかかっている。2人を連れて此処から遠ざかるべきだ。
『早輝は、友達を見捨てて逃げる俺なんて、嫌だろ?』
『・・・う、うん』
ショッピングモールで屋上に上がる前、咲輝とした会話を思い出す。常識的に考えれば、咲輝を連れて此処から逃げるのが正解だ。だけど、それでは、友達(紅葉)を見捨てる事になる。
「・・・どうする?」
バンダナを握りしめる良太の手に力が籠もる。




