38-2・麻由の秘密と単独行動~魂抜き(亜美)
-自動車学校-
バルミィが到着をしたのは、麻由達が去って、しばらく経過してからだった。待合室に、麻由の姿が無い。「外で見学かな?」と建物の屋根に座って眺める。教習コースで、操作動作が素人な集団の中に、1人だけ全く無駄の無い操縦をする生徒がいる。アレがジャンヌだろう。
しばらく眺めるが麻由っぽい姿は確認できない。やがて、ジャンヌの教習が終わったので、寄って行って話し掛ける。
「お疲れ様ばるっ!」
「おぉ、ミーミー。マスターやク~チャンも、来たのですか?」
「ボクだけ、こっちに援軍で来たばるよっ!麻由は何処ばるか?」
「待合所に居るはずだが・・・」
「ばるっ?」
2人は待合所に行って改めて麻由の姿を探すが、何処にも居ない。海跳や良太の姿も無い。
「ふむ・・・『三人寄れば文殊の知恵』ってことでしょうか?」
「意味を知ってて喋ってるばるか?」
ジャンヌが、麻由の連絡をしようとスマホを取り出して、LINE通知が入っていることに気付く。差出人は麻由で「海跳を調査するために先に帰る」って内容だった。
「なるほど、麻由はターゲットに張り付いているようですね。
りょーちんも一緒かもしれませんね」
「・・・ばるるっ!!?」
バルミィは直ぐに自分のスマホを確認するが、麻由からの連絡は入っていない。麻由が報告をせずに単独行動?バルミィの脳裏に、美穂の「アイツ(麻由)、ちょっとおかしくないか?」「何かが破綻しているような気がする」と言う言葉が連呼される!
「ばるっ!?あの子、また何か、おかしな事を!?」
美穂の嫌な予感が当たっているかもしれない。麻由が率先して動く時は、ミスをしたり、余計なトラブルを抱え込んだり、ロクな事にはならない。
「なんかヤバい気がするっ!ボク、急いで麻由を追うばるっ!
ジャンヌも可能なら麻由を探して欲しいばるっ!」
バルミィは待合所の窓から飛び出し、真っ先に「麻由が単独行動中」と美穂へのメッセージを入れ、西に向かって猛スピードで飛行をしながら麻由のスマホに電話を入れる。しかし、麻由は着信に応じない。所在地が解らないと目的地を決められない。麻由が乗ったバスを探すしかない。バルミィは飛行スピードにブレーキをかけ、走行する車を確認しながら低速で飛ぶ。
-ショッピングモール・フードコート-
麻由のスマホには、バルミィからの着信と美穂からの着信が計5件入っている。しかし、今、美穂達に合流されるのはマズい。申し訳ないと思いつつ気付かないフリをする。
「海跳っ!生徒会長さん、こっちや!」
「こんにちは、急に呼び出しちゃってゴメンね」
麻由と海跳が待ち合わせの相手を探していたら、石松&亜美の方から見付けて声を掛けてきた。「お邪魔虫」と感じた良太は、4人の合流を見届けてから、呼び出しておいた咲輝に連絡をしてグループから離れる。
「待たせたな」
「あれ?一緒に来たの?もしかして、呼ぶ必要無かった?」
「たまたま、一緒だったんです」
麻由と海跳は亜美達が確保しておいた席に荷物を置き、軽食を求めて出店ブースを眺める。麻由はフレンチトーストセット(サラダ付き)を注文をして番号札を貰って席に戻ってきた。2~3分を経てハンバーガーセットを持った海跳が席に座る。
「合格おめでとうございます」
「サンキュー。もう知っていたのか?」
「ぶひぃ!亜美ちゃんに言うてしもうた」
「まぁ・・・そうなんだろうな」
「ところで、葛城さん、海跳先輩、来てもらった理由なんですけど・・・
私、特進クラスに入れそうだし、
今の成績を維持して、国立や公立の大学を狙おうかと思ってるんですよね」
「ほぉ、それは素晴らしいな」
「平山さん、頑張ってますからね」
「だけど、今までは進学なんて、あまり考えたこと無くて、
成績上位の葛城さんや海跳先輩は、
どんな目標を持って勉強しているのかな?って」
「・・・目標?」
「両親は『4大を目指す為にバイトも止めて塾に行くべき』って言うんです。
でも、何を目指せば良いのか解らなくて・・・
得意なのはピアノで、興味があるのは保育士さんなんですけど、
まだ漠然としか考えられなくて・・・」
麻由は閉息してしまう。亜美は迷いながら先のことを考えている。海跳と石松も着実に目標の為のステップを上がっている。美穂は将来的には警察への就職を希望している。
麻由は将来的な目標なんて無い。成績上位なら皆が認めてくれるから、闇雲にトップを維持しているだけ。
「わ、私は・・・」
〈番号札○○番さ~ん!〉
「あっ、私の番号」
麻由が注文をしたフレンチトーストができあがったようだ。亜美の質問の答えに迷ったまま、会話を切って受け取りに行く。亜美は麻由のことを「明確な目標にあるスゴい人」と思ってるようだが、期待に応えられそうに無いので席に戻りたくない。だけど、戻らなければならない。軽食の乗ったトレイを持って重い足取りで歩いたところで、目を見開いて足を止める。
「やぁ、友達と一緒かい?
待ち合わせ時間まで、あと20分くらいかな?待ってるよ」
元恋人の1人、マンションの管理組合長の管理が、フードコートの、亜美達から少し離れた席に座って、軽食を食べながら時間を潰していた。
彼とは、1人暮らしが心細かった頃に気遣ってもらい交際をしていた。麻由は共に住むことを希望したが、彼は家族を優先させたので徐々に疎遠になり、やがて今の恋人と出会った。今は挨拶を交わす程度だが、共に未練は残している。
「お、おさむさん?」
麻由は焦るあまり「駐車場の車中で待っている」と勝手に思い込んで、待ち合わせ場所の指定を怠った。多少遅れても待ってくれると思っていたので、出迎えに来る想定はしていなかった。「完璧」のつもりだった麻由の予定が崩れていく。
「お友達に何か差し入れでもしようか?」
「い、いえ・・・け、結構です。
あ・・・あの・・・直ぐに行くので、
車の中で待っていてもらっても良いでしょうか?」
「うん、解ったよ。
儂も食べ始めたばかりだから、もうしばらく時間が掛かるがね。
屋上のいつもの場所で良いかな?」
「は、はい、お願いします」
激しい動揺により、麻由が理性で固めた心に隙が生じた。
(どうしよう!急がなきゃ!)
「!!!!!!!!!!!」
海跳の脳内に麻由の心の声が聞こえた。聞く気は無かったのだが、あまりのも大きすぎる声だった。立ち上がり、麻由の声が聞こえた方に視線を向ける。
「葛城?」
麻由は足早に戻ってきてトレイを乱雑に置き、急いでフレンチトーストを食べ始める。その姿に、いつもの気品は感じられない。心を読む必要が無いほどに、麻由には焦りの表情が見て取れる。そして、海跳の脳内には「急がなきゃ」「バレちゃう」と繰り返し連呼する麻由の心が流入してくる。
「葛城さん?」 「生徒会長さん?」
「ごめんなさい、急用ができてしまいました。
平山さんの相談は、また今度にしてもらえませんか?」
「・・・良いけど」
「で、では、また連絡しますね」
「は、はい」
麻由は5分ほどでフレンチトーストを食べ終えて立ち上がり、皆に一礼をしてトレイと荷物を持って離れていく。亜美は少しガッカリして石松と視線を合わせる。進学の相談なら麻由と海跳の共通の話題となり、2人親身に意見交換をしてくれると思ったけどアテが外れた。
石松が上京をする前に「文架市の大学で待つ」か「首都圏に進学する」か「別の地方に進学をしてそれぞれの道を行く」か大雑把なりに方向性を決めたかった。決めた上で、遠距離恋愛になる覚悟をしたかった。だけど、今日の麻由には相談に乗ってもらえそうにない。この有様では、ダブルデートで麻由と海跳の親密度を上げる作戦も叶えられそうにない。
(あの老人と会話をしてから、葛城の雰囲気が変わった。
バレるとは何のことだ?)
管(老人)は去って行く麻由を視線で追い、笑顔を浮かべて急いで軽食を食べ始める。麻由と管(老人)は知り合いなのだろうか?見た感じの余所余所しさから身内ではなさそうだ。何が「バレる」のか気になる。海跳は管(老人)に声を掛けてみた。
「葛城と知り合いなんですか?」
「ん?君は?」
「葛城の友人です」
「あぁ、そう、お友達ね。儂はね、麻由ちゃんの・・・・・・・・・・・・・・・
え~~~っと・・・マンションの管理人じゃよ」
「管理人さん・・・ですか?
急に葛城の様子が変わったのですが、
彼女のマンションで何かあったのですか?」
「ん?・・・いや、別に・・・まぁ、そういう事じゃな」
「そ・・・そうですか。失礼しました」
この老人は何かを隠している。だが教えてくれそうに無い。接吻女は「真価を発揮すれば心を読む能力を使える」と言った。海跳は、「老人の心の内が知りたい」と念じ、老人を見つめて心を澄ましてみる。
(何だ、このクソガキは。何も知らんクセに話し掛けてくるな)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
管(老人)は紳士的な対応とは裏腹に、海跳のことを邪魔者と感じているようだ。人が腹の中では表面とは別の感情を持っていることなど、初めて知ったワケではないが、やはり気分の良い物ではない。海跳は一礼をして亜美達の席に戻り、管は乱雑に食事を終えるとトレイを片付け足早に立ち去っていった。
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階段室から屋上駐車場に出る塔屋で麻由は待っていた。平日の屋上駐車場には、ひとけはない。そのことを知って待ち合わせ場所に決めた。管は息を弾ませながら麻由を抱き締め、麻由は躊躇いつつも身を委ねてしまう。
-リバーサイド鎮守・フードコート-
「なぁ、海跳、亜美ちゃんの相談、どう思うた?」
「・・・ん?・・・あぁ・・・すまん、なんだっけ?」
「聞いてなかったと?亜美ちゃんの進路よね。
おいは相撲1本だったから、進学のことは解らんのよ」
「あぁ、そっか、平山の進学な」
海跳は放心気味で会話を楽しむ雰囲気ではない。このまま解散になりそうな雰囲気だ。午前中に“海跳の合格祝い”を失敗した石松は、また失敗はしたくないと思う。どうにか雰囲気を変えて楽しみたい。急用を終えた麻由が戻ってくる可能性だってある。その為にも海跳を足止めして、解散を阻止しなければならない。石松は気を利かせて「3人分のジュースを買ってくる」と言って席を立った。
「あぁ、すまんな」
「私も手伝うよ」
「いや、亜美ちゃんは待っとってくれんかね」
間が保たないと感じた亜美が石松に付いていこうとするが、海跳を1人にしたくない石松が止める。
席には亜美と海跳だけになった。亜美にとって、海跳は初恋の相手だ。石松と交際をしている今ならば意識しすぎた以前とは違い、ある程度は平常心で会話が出来る。だが、まだ1対1では気恥ずかしい。それでも、海跳を応援したい亜美は、勇気を振り絞って質問をする。
「先輩は、葛城さんのこと好きなんですよね?」
「・・・ん?」
「私、先輩のこと、応援しています」
「・・・僕は別に」
「先輩と葛城さん、絶対にお似合いですよ!
だから、葛城さんと付き合って下さいよ!」
「ま、待ってくれ、僕は彼女と付き合うつもりなんて・・・」
「そういう曖昧なの、先輩らしくないですよ!」
「・・・なにっ?」
「先輩は私の憧れだったんですよ!だから、先輩には頑張って欲しいんです!」
「・・・くっ!(何だ、この女は?)」
何故、自分とは関係の無いことなのに、こんな熱弁をする?海跳は平山亜美のことを「ただの後輩」「友人の恋人」という認識しか持っていない。亜美と麻由は共通の友人(紅葉や美穂)を持った知人でしかない。麻由と海跳の親密度など、亜美には何の関係も無い。何故、「応援する」なんて見え透いた事を言って、土足で踏み込んでくる?海跳を麻由に嗾ける魂胆は何だ?
(先輩が葛城さんと付き合ってくれると心強いんです)
「・・・ん?」
海跳の脳内に、亜美の本心が流入してきた。
(もうすぐ英邦先輩と遠距離になっちゃう。会えなくなるのが不安なんです)
「・・・平山?」
(でも、葛城さんと海跳先輩は付き合ってくれれば、
同じ立場になって、色々相談できるし、
英邦先輩と擦れ違っても、冨久先輩がフォローしてもらえそうだし
・・・だから、2人には付き合って欲しい)
「・・・・・・・・・・・・・・・」
海跳は怒りが込み上げてくる。やはり「海跳の為」は詭弁で、自分を守るのが本心のようだ。尤もらしい理由を付けて呼び出した目的がこれか?あげくに、麻由がペースを崩して離脱か。随分と余計なことをしてくれる。
「君の保身を、僕に任せるのはやめてくれないか?」
「え?何のことですか?」
「自分を守る為に僕と葛城を結ぶ・・・迷惑なんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。私、そんな事、言ってません」
「言わずとも解る!何が『先輩には頑張って欲しい』だ!偽善者め!!」
「・・・先輩?」
「だから僕は、初めから反対だったんだ!
数ヶ月で遠距離になる恋愛など上手く行くわけがない!
それを承知で交際をしたのは君達だろうに!!」
「ひ、ひどい」
海跳の口撃に閉息してしまう亜美。海跳の容赦の無い言葉が心に突き刺さる。大半が、亜美自身が実際に感じていたことなので反論が出来ない。涙を浮かべた目を泳がせる。しかし、ヒートアップをした海跳は止まらない。亜美の呼吸が次第に荒くなってく。
「今更何を言っている!
君は、ちょっと先の、誰にでも解ることすら目を背けて交際をしたのか!?
僕を引き摺り込み、破談をした時は僕の所為にするつもりなんだろう!?
冗談ではない!下らない情事に僕を巻き込むのはやめてくれっ!」
「・・・もう・・・やめて、聞きたく・・・ない」
亜美には、海跳の怒鳴り声が「ケーッ」「ケーッ」という嘶きに聞こえてくる。徐々に、亜美の意識が朦朧としてきた。体の自由が利かなくなる。
「ふざけるなぁっ!
僕は憶測を話しているわけではない!君の内面を言葉にしているんだ!
君は綺麗事で上塗りをして、先の見えない不安を僕に転嫁しようとしている!
身近に同じ立場の人間を作り、駆け込み寺にしようとしている!
そんな独り善がりの為に僕の邪魔をするなっ!!
君は、自分は労せず、傷付かずに・・・・・・・・・・・・・・・・・ん??」
亜美の様子がおかしい。海跳が睨み付けている亜美は半透明で虚ろな目をしており、亜美の上半身の下に、テーブルに突っ伏したもう一人の亜美がいる。何故かは解らないが、半透明の亜美が、とても美味そうに感じて、捕食したくなり手を伸ばす。
「これは・・・平山の魂?」
触れた瞬間に解った。だけど「何故、魂と解ったのか?」は解らない。
(あの子、泣き出したと思ったら、急に寝ちゃったけど大丈夫かな?)
(あの男、クソだな。イケメンだからって調子に乗ってんじゃね?)
「!!!!!!!!!!」
周りの誰かの「亜美を心配する心」が脳内に入り込んで、海跳は我に返る。冷静になって周りを見回し、興奮状態で声を荒げていたことを恥じる。亜美から浮き出ていた半透明の亜美は、もういない。でも半透明の亜美が夢や幻ではないことは、なんとなく理解している。海跳が口撃をやめた為に、亜美の魂は亜美の肉体に戻ったのだ。




