38-1・教習所の麻由と海跳~亜美と石松の誘い
-自動車学校-
麻由&ジャンヌ&良太が到着をすると、海跳がコースで教習を受けていた。
麻由は、いつも通りに感知力を上げて索敵を開始する。やはり、海跳からは何も感じられない。麻由の印象では、海跳は妖怪に付け入る隙を与えるような弱さを持たない。彼を見張ることに意味は無いのではないか?
そんな事よりも、紅葉達に見張られている校長が心配だ。会って依り代にされている念をどうにかしてやりたいのだが、美穂が校長を疑って以降、麻由は校長と接触すらできなくなった。何らかのキッカケで関係がバレてしまうのが怖い。
本来の麻由ならば、海跳に生じている僅かな変化を感じ取れたかもしれない。しかし、焦りと「海跳の見張り」に集中できない精神状態は、麻由の索敵能力を著しく低下させていた。
ジャンヌが教習の予定があるので受付に行く。良太は大型二輪に興味があるらしく、「近くでしばらく見ていたい」「変化があったら教えてくれ」と言ってコース脇で教習風景を眺めている。麻由は待合所に行ってベンチに座り、本を読みながら時間を潰す。
教習を終えた海跳が“妙な気配”に気付く。弁才天ユカリが発していた気配と似た空気に包まれているような気がする。首を傾げながら待合所に戻ろうとしたところで、見学中の良太を発見した。2人に接点は無いのだが、海跳は「理不尽と思えば格上にも突っ掛かっていく根性の座った後輩」を知っているし、良太が「優麗高のトップスター」を知らないわけがない。
「ん?2年の鈴木?」
「ども、冨久先輩。武面拠に通っていたんすね」
「君は原付の免許でも?」
「あぁ、いえ、見学です。バイクが好きなので」
「そっか」
良太から離れた海跳は、再び“妙な気配”を確認する。気にしなければどうってことの無い気配なのだが、気になってしまう。待合所に入った海跳は、気配の一番強い(ような気がする)場所を突き止めて息を飲んだ。
“妙な気配”の理由を知らない海跳は、「ピンポイントで麻由の気配に引かれたのか?」と運命的な妄想してしまう。午前中に“あんな事”が有った所為で麻由の唇が気になる。
しかし、動揺や高揚を隠し、前髪を整えてメガネを上げるルーティンで気持ちを落ち着かせ、「隣、良いか?」と確認してから麻由の隣に座った。
「今日も付き添いか?」
「はい、知人は、今、教習中です」
「そうか、御苦労様」
「先輩も、お疲れ様です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
海跳の話したいことはコレじゃ無い。もっと、最優先で報告したいことがある。可能なら、自分から自慢するのではなく、麻由に催促されてから話したかったのだが、麻由は今日が合格発表って事を知らないのか?そんなハズは無い。海跳の知る麻由は、生徒会長として優麗高の生徒の進学率に興味があるはずだ。それとも、不合格の可能性もあるから気を遣って聞けない?海跳は、もう一度、前髪を整えてメガネ上げて、深呼吸をしてから足を組む。
「無事に合格できたようだ。
これで僕は、来月からは東京都在住の大学生になる」
「え?そう言えば、今日が合格発表日でしたっけ?第一志望ですか?」
「あぁ、そうだ」
「おめでとうございます」
「サンキュー」
質問が来ないので、少し格好悪いが自らアピールする。いつもは表情をあまり表に出さない麻由だが、この報告ばかりは、さすがに笑顔を見せてくれた。ただ、海跳としては、麻由からは「先輩スゴいです~!」「憧れちゃいます!」「私も先輩の後に続きます!」みたく盛大に祝って欲しいので、物足りない感はある。
「次(来年)は君の番だな」
「そ、そうですね」
「何処を志望するんだ?」
「まだハッキリとは決めていません」
「君の成績なら、首都圏の上位も狙えるだろう?
学部くらいは決めてあるのか?」
「いえ、それもまだです。漠然と理数系に進みたいとは考えていますが・・・」
海跳は「なら同じ大学に来い!」って言葉が喉まで差し掛かったが、下心を見透かされたり断られるのが怖くて、口に出すことができない。かなり曖昧に濁した言葉に置き換えて発する。
「しゅ、首都圏の大学に来ることがあれば、1年先に行く僕が、案内するぞ」
「ありがとうございます。その時は是非、お願いします。
そう言えば、田村先輩も東京でしたよね?」
「あぁ・・・確か、そうだった・・・かな?」
何故、ここで、田村環奈の話題になる?今の話題に田村環奈は関係無い。麻由は進路の話題に全く興味が無いのか?それとも話をはぐらかしたいのか?「進学の方向性を決められないけど、どうしよう」って相談してくれたら、超親身になってアドバイスをして、どんな大学に進学すれば良いか一緒に探す(ただし、首都圏限定で)。
海跳は麻由の内心を知りたくなる。ユカリと名乗った女は「真価を発揮しろ、海跳が理性を抑えて、本能を優先させれば、心を読む能力を使える」と言った。到底、信じる気にはなれない。だけど、本当に麻由の心を読むことができるのならば試してみたい。どうやれば、人の心を読めるのか解らないが、試しに「心の声が知りたい」と念じてみる。
(あ~、かったりぃ~)
(あの髪の長い子、可愛いなぁ。隣に居るの、彼氏かな?)
(ベンチに座っている眼鏡の彼、イケてるんじゃない?)
(今日は○○ちゃん、来ないのかな?)
(昨日、教習の先生にコクられちゃった。今日の教習、やりにくいな~)
(腹へったなぁ~)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
心の声なのか実際に喋っている声なのか解らないが、色んな声が聞こえてきた。だけど、麻由っぽい心は読めない。バカバカしくなってきた。人の心を読むなんて有り得ない。ユカリって女は喋ってないフリをしてただけ。今、聞こえた声は、心ではなく、耳を澄ませたから実際の会話が聞こえただけ。妙な虚言に欺されて下らないことを試してしまった。
※サトリが読めるのはオープンにした心のみ。気持ちを閉ざした者の心は読めない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やはり、先輩が?」
隣に座っていた麻由は僅かに顔をしかめる。ほんの一瞬だが海跳から妖気が発生した。この妖気は、ここ数日間、一時的に発生して直ぐに消えた妖気と同じ。発生が一瞬過ぎて、離れている紅葉には感知できないだろう。
「あ、あの・・・先輩?」
「ん?なんだ?」
ハッキリと確信した。海跳はサトリの依り代になっている。何らかの深い悩みが依り代になってる可能性があるならば、聞き出して軽減させるべきだ。
「何か、悩み事はありますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
(うむ!悩み事なら有る!君を僕1人で永遠に占領したい!
どうすれば、卒業後も君と一緒に居られるかって事で悩んでいる!)
そんな事、張本人に言えるわけがなかろう。格好が悪すぎる。まぁ、そ~ゆ~告白パターンが無いとは言えないが、海跳には出来ない方法だ。ここで打ち明けられるくらいなら、とっくに気持ちを伝えている。
「一番の悩みの種だった入試が終わったんだ。
合格直後に悩みなんて有るわけが無かろう」
「そ、そうですよね」
海跳は麻由のことで悩んでるので、麻由本人には相談しない。
麻由のスマホがメール着信音を鳴らす。確認をしたら、差出人は亜美で「相談したいことがあるから、今からショッピングモールで会えないか?」とメッセージが入っている。一方、時を待たずして、海跳のスマホもLINE通知音を鳴らす。差出人は石松で「今から、ショッピングモールで、合格祝いの仕切り直しをしよう」って内容だった。海跳が「今は教習所なので無理」と返信をしたら、直ぐに「亜美経由で麻由を呼んだ」とメッセージが戻ってきた。海跳は小さく舌打ちをする。
「葛城のスマホも着信音を鳴らしてたと思ったら、そういう事か?」
石松達は、麻由&海跳をお見合いさせる魂胆のようだ。海跳は、それとなく麻由に話を振ってみる。
「どうした?急用か?」
「い、いえ、平山さんからのメールなんですが・・・」
「僕のところには、英邦からメッセージが来た。
『ショッピングモールで会おう』ってな」
「平山さんのメッセージも同じような文面です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
麻由は、海跳の見張りをしなければならないので「後日にして欲しい」と返信をしようとした。すると、再びメールが入る。今度の差出人はマンションの組合長だ。「合い鍵で部屋に入って待っていて良いか?」と書かれたメッセージを見て驚く。帰宅はジャンヌと一緒になるのに、部屋で待たれるのは拙い。
(こ、こんな時に?
・・・でも、上手く調整すれば、纏めてクリアさせられるかも!)
麻由は一計を案じる。平日のショッピングモールの立体駐車場の隅なら、何度か待ち合わせに利用した。目立たずに会える穴場だ。彼には「1時間後ならショッピングモールで会える」と返信をして、直ぐに亜美にも「OK。30分後なら行ける」と返信を送った。
「仕方ありませんね。どんな相談なのかは解りませんが、行ってみます」
「・・・ん?行くのか?」
「はい、優麗高生徒の相談に乗ることだって、生徒会長の職務です」
「・・・そ、そうか」
海跳は「それは職務過剰だ」と感じたが、麻由のやる気が空回り気味なのは“いつもの事”なので、「あまり気張るな」とだけアドバイスをする。石松の呼び出しに応じるつもりはなかったが、麻由が行くなら話が変わってくる。石松の魂胆は見え透いているが「知らん顔をして行くべきか?」と迷う。
「先輩も呼ばれているんですよね?一緒に行きませんか?」
「ん?あ・・・あぁ・・・」
海跳は、珍しく麻由から積極的に誘われたことに少し動揺する。麻由は石松達が目論んでいる“お見合い作戦”には気付いていないようだ。
「まぁ、確かに、僕も英邦に呼ばれているからな」
「あっ!でも、直ぐまた教習なんですよね?」
「君は友人の付き添いはどうするんだ?」
「ジャンヌなら、理由を説明すれば、納得をしてくれますよ」
「そうか。了解だ、ならばお供しよう。
僕は、一日中、教習所に詰めることができる。
良いペースで進捗をしているから、一度くらいキャンセルしても問題は無い」
麻由の策略成功。海跳の見張り担当なのに海跳を残して帰るわけには行かない。「急用ができた」と言って、紅葉に代わってもらうのは可能だが、それでは「急用=亜美の相談」と解った時に、皆から「優先順位がオカシイ」と文句を言われそうだ。
だけど、海跳が同席するなら状況は変わってくる。教習中のジャンヌとも別行動が可能になる。亜美の相談と、海跳の見張りをしつつ、タイミングを見計らって元恋人と会える。
「数分後には、シャトルバスが出ますね」
「では、それに乗ることにしよう」
海跳が受付で教習のキャンセルをする。麻由が先に停留所で待っていたら、外で教習を眺めていた良太が寄ってきた。
「もう帰るのか?」
「はい、冨久先輩がショッピングモールに行くので、調査を兼ねて同行します」
麻由は「海跳が友人に呼ばれた」と嘘の理由を説明する。「海跳の調査」は必須なので、海跳が帰るなら、来ばかりなのに何もせずに帰る理由になる。
「そっか、大変だな。でも、ジャンヌはどうするんだ?」
「教習中に呼び出すわけにはいきませんからね。
一足先に帰るので、鈴木君がジャンヌに伝えて下さい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
麻由が居なかったらジャンヌは驚くだろう。麻由が言伝に良太を残そうとする気持ちは解る。だけど、良太がここに居る理由は「教習を見たいから」や「ジャンヌの付き添い」ではない。海跳の張り付く為なのに、海跳の帰宅を見送るなんてのは本末転倒だ。良太は「麻由を好きなら、サトリの可能性が高い」と海跳を疑っている。麻由&海跳のツーショットから目を離せるわけが無い。
「なら、俺も帰るよ。ジャンヌにはLINEで伝えておいてくれ」
「・・・え?あ、あの・・・平山さんのカップルが待っているので、
ダブルデートみたいな形になるのですが・・・鈴木君も参加するのですか?」
「げっ!・・・マジで?」
麻由からすれば、真の目的をクリアさせる為に、同行者は増えてほしくない。だから、更に誤魔化して追い払おうとする。交際中の亜美&石松と、校内でベストカップルと噂の麻由&海跳。良太は4人のうちの誰と仲が良いワケでもなく、成り行きで麻由と行動を共にしているだけ。一緒に居たら、あきらかに場違いだ。
「そ、そっか・・・だけど、冨久先輩が帰るのに、俺がここに居ても意味が無い。
なら、俺は咲輝を呼び出して別行動すっかな」
麻由は、紅葉や美穂には、この予定外の行動を報告する気は無い。彼女達まで逢い引きの場所に来られたら困るので、事後報告で済ますつもりだ。海跳とサトリ関連はハッキリしたので、警戒を海跳にしぼり、元恋人と密会が終わってから報告すれば良いだろう。
教習中のジャンヌには「先に帰る」とLINEメッセージを入れた。置いてけぼりジャンヌにも、その場しのぎで誤魔化した海跳や良太にも罪悪感はある。だけど、皆に不審に思われずに元恋人に対処をする方法が、他に思い浮かばない。
-ショッピングモール・フードコート-
石松が安堵の溜息をつき、向かい合わせに座っていた亜美が笑みを浮かべる。ダメ元でアプローチをしたが、麻由と海跳は誘いに乗ってきた。この件に関しては「海跳の恋愛を応援したい」と亜美も乗り気・・・てか、亜美の方が率先して、麻由の連絡を入れてくれた。
「海跳先輩には頑張ってもらわなきゃね!」
「ぶひぃ・・・亜美ちゃん、嬉しそうとね?」
「だって、私と英邦先輩の時には、海跳先輩にお世話になったもん。
今度は私たちが海跳先輩のお世話をしなきゃね」
麻由に相談する内容は「3年生になってからのバイトのこと」と決めてある。先日の進級試験で上位を獲得できて、特進クラス入りと4年制大学への進学が現実的になってきた。以前から「バイトと受験勉強が両立できるか?」「塾に行くべきか?」を麻由に相談したいと思っていた。難関大学への合格を決めた海跳のアドバイスも聞ければ、更に心強い。進路を相談をした後で一緒に遊んで、2人に親密になってもらうつもり。亜美は「今日の私は冴えている」と内心で自画自賛する。




