37-4・ルナティス復活~美穂の疑念
-数分後・教習所のバス停留所-
海跳は、ユカリと名乗った女に唇を奪われたことを思い出して、指先で自分の唇を軽く触れる。
見ず知らずの女に唇を吸われただけで、意識が朦朧とした。ならば好きな女に唇を重ねたら、どうなってしまう?麻由の唇ばかりを思い浮かべてしまう。
何故、麻由のことを思うと心が落ち着かないのか、それでいて麻由の前では何も出来なくなるのか、理解が出来ない。
〈確カ 口吻ハ 人間ノ ツガイガ 愛ヲ確カメル行為・・・愛トハ 何ダ?
雌トハ 子ヲ宿ス為ノ 生物デハナイノカ?
何故 力尽クノ 発想ニ 及ベナイ?〉
送迎バスが来たので乗り込み、ボケッとした表情で窓の外の風景を眺めている。
女が言った“真価”が何なのか見当が付かない。これまで、努力は怠らず、何事にも全力で取り組んできた自覚があるので、無駄に潜在能力を眠らせているつもりは無い。だけど“真価”かどうかは解らないが、一度だけ、自分では説明できない奇跡の力を発揮したことはある。
去年の“夏の全国高校野球・地方大会”の準々決勝。ピッチャーが投げる前から何処に球が投げ込まれるか解っている気がして、その通りにバットを振った。スポーツには「ゾーンに入る」って言葉があるが、あの時のほんの一瞬だけ、その類いに目覚めたと思っていた。だけど、「ゾーンに入って球が止まって見える」って話は聞いたことがあるが、投げる前からコースが解ることなんてあるのか?
「あれが、真価?・・・・・・ふん、まさかな。
バカバカしい。そんな力が存在するわけがない」
-優麗高・放課後-
麻由が「試してみたいことがある」と提案をしたので、良太を呼んで、皆(バル&ジャンヌ込み)で、ひとけが無くて広い多目的室に行く。
「なにすんの、マユ?」
「鈴木君の変身アイテムを作ってみます」
「・・・俺の?」
真奈&ジャンヌは把握してる素振りだが、紅葉&美穂&バル&良太は、麻由の発案が理解出来ずに麻由を眺める。
「なぁ、バルミィ?変身アイテムって何だ?バルミィが開発を手伝ったのか?」
「ボク、何もしていないばるよ」
「なぁ、紅葉、どうやって作るんだ?」
「ァタシに聞かれてもヮカンナィョ~。ど~すんのかな?」
「鈴木君を玉兎の憑依体にするには、紅葉の力が必要です。
手伝ってもらえますか?」
「んぁっ?い~ケド、ァタシ、なにすんの?」
「それから、鈴木君、アナタの愛着のある物を1つ貸していただけますか?」
「ん?何をするんだ?」
「愛着のある物の方が、念が隠って妖怪が憑きやすいんです」
「ふ~ん・・・愛着ねぇ?ならレプラスが一番かな?」
「れぷらす?・・・ですか?」
「あぁ、俺のバイクのこと」
「そ、そうですか。
可能ならば、普段から身につけている物の方が良いのですが・・・」
良太は、自分のバイクのことを「レプラス」と名付けているらしい。美穂と真奈は、良太を眺めながら「この男、普段は普通だけど時々痛いな」と感じてしまう。
「なら、これかな。いつもは、これで、第三の目を封印しているんだ」
良太はしばらく悩んだ後、バンダナを麻由に差し出す。
「第三の目?・・・ですか?」
「あぁ、いや、額の傷」
「そ、そうですか。解りました」
「え~っと、確か、鈴木君の額の傷は、第三の目なんかじゃなくて、
ラフな格好の女性に、ボケーッと見とれながら歩いていて、
電柱に激突した時にできた傷だよね?」
「チゲーよ!!そのマヌケな情報の発信源は何処だ!?正確な情報を喋ってくれ!
ただの傷だけど、そんなマヌケな理由で作った傷じゃない!喧嘩の傷だ!」
良太は額の傷のことを「第三の目」と名付けているらしい。真奈は、良太を眺めながら「だいぶ痛いな」と感じ、美穂は「DBの天津飯かよっ!」ってツッコミを入れたくなる。恋人の前では「レプラス」と「第三の目」、ついでにHNの「鬼龍院凱」は公言しているんだろうか?ちょっと気になる。
「鈴木君は、そのバンダナを手前に置いて立っていて下さい。
紅葉は、先日と同じように、
鈴木君のプロテクターと玉兎の召喚をお願いします。
先ずは、鈴木君に、ルナティックになっていただきます」
「ルナティ?・・・まぁいいや、了解」 「んっ!」
「麻由ちゃん、ルナティックじゃなくてルナティスだよ」
「細かいなぁ真奈は。似たようなもんだろ?」
「全然違うよ。Lunaticとは“狂気”って意味だよ。
麻由ちゃんは、鈴木君に『狂って下さい』と言ってるって事になっちゃうの」
「細かいなぁ真奈は。似たようなもんだろ?」
「まぁ、そうかもね」
「そこで納得をするなっ!」
紅葉は、良太の正面に立ち、Yスマホに指を滑らせて「ウサギちゃん」と書いてタップして玉兎を召喚。続けて「ルナティス」と書き込んでタップ。左掌を良太に向けて突き出す。
同時に麻由が、Hスマホに「玉兎」と書いてタップしてから画面を玉兎に向ける。玉兎が闇霧化をして良太の着たプロテクターと融合したのを確認した後、今度はカメラ機能を起動させて、画面に映ったルナティスプロテクターを、ルナティスの手前にあるバンダナにドラッグする。
途端に、ルナティスプロテクターは闇霧化をして、良太からバンダナに移って封印をされた。バンダナからは先程までと違い、玉兎の妖気が感じられるようになる。
「どうなってんだ?」
「んぁっ?マユ、何したの?」
「ルナティスのプロテクターを妖気の状態で圧縮して、
鈴木君のバンダナに封じ込めました。
おそらく、これで、鈴木君の意思に応じてルナティスに変身できると思います」
「マジで!?」
「すげ~!マユすげ~!!」
「ただし、何度も変身できるわけではなく、
封印を解く度に、私と紅葉で理力や妖力で再封印をしな・・・」
「よぉ~し!試してみる!!」
「ぅんぅん、やってみっ!」
「覚醒っ!!獣将チェンジっ!!」
「・・・ければならないので、
力を解放するタイミングは気を付けてくださ・・・・・・・あっ!」
獣騎将ルナティス登場!
良太に玉兎が憑いていた以前のルナティスとは違って、紅葉と麻由の協力がなければ変身できない上に、変身解除も自分ではできず、一定のダメージを受けて強制解除されるか、紅葉がプロテクターを消さなければならず、その上、あくまでもバンダナに封印されているだけなので、戦いが終われば、玉兎は所有者の紅葉のところに戻っていくので、麻由が「変身は慎重にお願いします」と注意しようとしたんだけど、手遅れだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん
紅葉がルナティスプロテクターを消して、妖力を消耗させて玉兎と鎧を召喚するところからやり直しである。
ややお粗末な展開ではあるが、良太をルナティスの変身させるアイテムを作る実験は成功をした。紅葉&美穂&バルは「マユはいつの間に、こんな手段をできるようになった?」と驚きを隠せない。対照的に、真奈とジャンヌは顔を見合わせてから微笑む。
「実は、ここ数日間、ジャンヌに手伝っていただき、
昨日は真奈さんに手伝っていただき、色々と試してみました」
「すっげ~ぢゃん!だったら、マナにも妖怪の鎧を着せられるって事!?」
「昨日、麻由ちゃんが私に試したけど、残念ながらできませんでした」
「私もマユユに試していただきましたが、妖怪は定着しなかった」
昨日までの実験で、ジャンヌと真奈は、麻由が具現化したプロテクターを身につけることはできた。だが、様々な妖怪で試したが、プロテクターに定着できる妖怪はいなかった。
「んぁっ!?どぉ~してっ!?」
「鈴木君は、玉兎の依り代になっていたので玉兎の妖力が定着しやすいのか、
元々、玉兎に憑かれやすい体質だったので憑依をされたのかは解りませんが、
おそらく、変身者と憑依妖怪に相性のような物があるんでしょうね」
変身者と関係の無い妖怪は憑依することはできないらしい。封印した妖怪を戦力として扱えるゲンジ(紅葉)とセラフ(麻由)が特殊なのだ。
プロテクターを圧縮してアイテムに封印して、且つ、変身者の意思で召喚する手段については、真奈が「命令権を使えば、物理的法則を無視してジャンヌを召喚できること」を応用した。
麻由が召喚したプロテクター(妖怪は憑いていない)を真奈やジャンヌに着せ、理力化した状態で圧縮して、何らかのアイテムに封印する。大切に扱われて念が籠もったアイテムほど長時間安定をする。ただし、真奈やジャンヌが「変身」と呼び掛けても、アイテムに封印されたプロテクターを装備することができない。また、アイテムにプロテクターを封印しておける時間は、長くても1日程度。封印していられる時間が経過すると、理力の塊は空気中に溶けて消える。
「プロテクターではなく、プロテクターに宿った妖怪の意思が、
変身者の意思に反応していることになります。
つまり、妖怪が憑依したプロテクターを纏ったりアイテムから召喚できるのは、
過去に依り代を経験した人だけになるようですね」
「凄いばるっ!よく、そこまで調べたばるね。」
「だったら、モヤシ(尾名新斗)は雲外鏡のプロテクターを纏えるってワケか。
まぁ・・・アイツじゃ、戦う力を得ても何の役にも立たないだろうけど」
紅葉と麻由が1日に一回程度の補助をすれば、良太は変身できる(連続変身は不可)わけだ。流石と言うべきか、相変わらず、麻由はサポートの能力が高い。発想や理力コントロールは、紅葉にはできない芸当だ。紅葉&真奈&ジャンヌは麻由を褒め、良太は勇み喜び、麻由は嬉しそうな笑顔を見せる。
だけど、美穂だけが集団から一線を引き、怪訝そうな表情をしていた。バルミィが、美穂の表情に気付く。
実験が終わったので解散をする。麻由&ジャンヌ&良太は海跳の調査をする為に教習所に行かなければならない。
「サトリ、いつもと違ったんだろ?一応、注意しろよ。」
「はい、承知しています」
校長調査チームが、海跳調査チームを見送る。紅葉&美穂&真奈&バルは、窓越しに校長室が見える場所に陣取り、紅葉が感知力を強化した状態で張り込みを開始した。
-十数分後-
感知力の強化など、今の紅葉からすれば難しいことではない。索敵をしながら「ドラマがど~だ」「アニメがこ~だ」「お笑いタレントが云々」とマシンガントークを続けて1時間以上が経過した。ひたすら喋り続けて喉が渇いたので、「自販機でジュース買ってくる」と言って、学食に向かって駆けていく。
「私もジュース買ってくるね。美穂さんも何か飲みますか?」
「ん?サンキュー。気が利くじゃん!なら、紅茶、買ってきてもらっていいか?
紅葉も、どうせ買いに行くなら、もう少し。気を利かせってんだよな」
「バルちゃんは?」
「ありがとうばるっ!でもボクは要らないばるよ」
真奈が紅葉の後を追って駆けていき、その場には美穂とバルミィしかいなくなった。
「どうしたばるか?美穂、なんか不満そうばるね?」
「ん?・・・紅葉の気が利かないこと?」
「違うばる。さっき、麻由が、少年(良太)を変身させた時、
凄いことなのに、美穂だけ喜んでなかったばる」
「ん?・・・解っちゃった?」
「ここで紅葉が喋り倒してる時も、
考え事して、あんまり会話に参加してないばる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美穂は、美穂の変化に気付いていたバルミィを見て驚き、周りに誰も(紅葉&真奈を含む)いないことを確認してから、不機嫌な理由の説明を始めた。
「なぁ、バルミィ、アイツ(麻由)、ちょっとおかしくないか?」
「ばるっ?」
「最初に鈴木が調査に参加したいって言った時、
アイツは、あたしと一緒に反対をしたんだ。
常識人のアイツなら、当然の反応だと思う。
なのに、どういう事だ?なんで今は、鈴木の参加に、あんなに協力的なんだ?」
「ばるっ!言われてみれば確かに・・・」
「ずっと、考えを変えた理由を想像していた。
だけど、どう解釈しても、説明が付かない。
公言する気は無いけど、あたしはアイツの才能を買っている。
アイツの努力も認めている。
臆病すぎるくらいの慎重さが、伸び悩みの原因てのも理解してる。
だから、あたしはアイツの背中を押す。
だけど今のアイツは何だ?
麻由はあんな奴じゃない。何で、鈴木を巻き込んでることを何とも思わない?
優麗祭であたし達を目の敵にしてた時と同じで、
何かが破綻しているような気がする」
「・・・ばるっ?美穂には、そう見えたばるか?」
「うん、違和感しか感じなかった。
まぁ・・・考えすぎかもしんないけど」
階段を駆け上がってくる足音が聞こえる。紅葉と真奈が戻ってきたようだ。美穂は、もう少し話してバルミィの意見も聞きたかったが、紅葉達にまで確証の無い疑心を話すつもりはない。
「なぁ、バルミィ。
あたしの勘に不自然なところがなければ、麻由のフォローに廻ってくれ。
校長の調査は、こっちで何とかするからさ」
「ばるっ!了解ばるっ!」
美穂の依頼を受けたバルミィは、窓を開けて、空高く飛び上がった。




