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37-2・校長&海跳の疑惑~ルナティス復活?

-翌朝・弓道場-


 麻由が1人で朝練をしている間、ずっと校長と教頭が外から窓越しに麻由の行射を眺めていた。足音だけで姿が見えない妖怪=ベトベトさんが弓道場内を歩き回り、舌が長くて小柄な妖怪=アカナメが畳の汚れを舐めている。


(や・・・やりにく)


 見られている事を意識して心は乱れ、矢は的を外す。校長達が何を要求しているのかは解っている。朝練を切り上げて、校長達の希望の応えてやるべきか?そうすれば、心が満たされて妖怪達は消えるかもしれない。


(次を外したら、朝練を切り上げる)


 弓道にプライドを持っている為、可能ならば練習を途中で投げ出したくない。立ったまま瞑想をして心を静かに保つ。校長と教頭の気配、そして、ベトベトさんとアカナメの存在が気にならなくなってきた。矢を番え、弓を押して弦を引く。


「マユっっっっ!!!ダイジョブっ!!?」

「へっっ!?」


 いきなり、麻由を呼ぶ紅葉の怒鳴り声。一瞬で集中力が切れた麻由は、矢を明後日の方向に飛ばしてしまう。振り返ったら、息を切らせた紅葉が弓道場に上がり込んでいた。


「ど、どうしたのですか、紅葉?」

「どうしたぢゃないよ!

 ベトベトさんとアカナメが出現したから、慌てて来たのっ!」

「ベトベトさんとアカナメですか・・・」

「あ・・・あれ?もしかして、マユ気付いてなかったの??」


 気が付いたら、ベトベトさんとアカナメは弓道場内から居なくなっていた。いつの間にか、校長と教頭も居なくなっていた。紅葉が来たので慌てて身を隠したのだろう。


「も、申し訳ありません。行射に集中していたので気が付きませんでした」

「ん~~~・・・そっか」

「そ~言えば、校長センセ達が見学してたけど、どこに行っちゃったんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「校長センセ・・・ちょっと怪しいかもっ!」


 紅葉が妖怪の発生源に気付き始めた。感知して学校に来て校長達に遭遇し、妖怪が居なくなったと思ったら校長達も居なくなった。疑うのは当然の成り行きだろう。だけど「妖怪が付きまとってる原因は、私が校長達の気持ちを受け入れないから」「原因は解るから放置して良い」とは言えない。麻由は、「気付かなかった」と誤魔化すだけで精一杯だった。そして、いよいよ誤魔化しきれなくなってきたと焦り始める。




-放課後・2年A組-


 定例ミーティングの開始(バルミィ&ジャンヌも召集)。先ずは、美穂が、昨日、教習所で感じた違和感を疑問にしてみる。


「なぁ、紅葉。

 仮に、他人を好きって感情が拗れたらさ妖怪に憑かれたりすんのか?」

「んぁっ!それゎあるかもねっ!ヌリカベもそんな感じだったもんね」

「もしかして、最近、麻由の周りを彷徨いてる妖怪って・・・」

「えぇぇぇっっっっっ!!!!

 そ、それは、まさか、校長先生が私を愛していると言っているんですか!?」

「はぁ?アホか?それはヤベーだろ。

 どう話が飛躍すれば、そうなっちゃうんだよ?」


 美穂は「冨久は麻由を好きなんじゃね?」って匂わせたつもりだったが、麻由は「校長に愛されてる」と解釈をした。麻由は「海跳に興味が無い」どころか「海跳に好かれている」思考すら無いらしい。


「ならさ、妖怪に憑かれた人間て、妖気を察知することが出来るのか?」

「ん~~~・・・たぶん、それゎデキない。

 憑ぃてぃる妖怪ゎ察知するだろうけど、

 依り代ゎただの依り代で、憑かれても感知力が高まるわけぢゃないからねぇ」

「美穂さんは、何を確認したいのですか?」

「昨日、紅葉が妖怪を感知した時、冨久も同じような動きをしていたんだよ。

 最初は偶然かな?って思ってたけど、気になっちゃってさ。」

「そう言えば冨久先輩、私と話してる途中で急の立ち上がって怖い顔してたね」

「ん~~・・・海跳センパイってヨーカイなのかな?」

「あほっ!真面目に考えろ!アイツが妖怪ならオマエが直ぐに気付くだろ?」

「んぁぁっっ!そっか!

 だったら、海跳センパイゎ、きっとレイカンが強いんだよっ!

 アミもレイカン強いから、調子がイイ時ゎそ~ゆ~の気付くもん」

「う~ん・・・そんな単純な話なら良いんだけどな」


「ヨーカイって言えば、校長センセーも怪しいよっ!

 朝、ヨーカイを感知したんだけど、

 校長センセー達が居なくなったらヨーカイも居なくなっちゃったの」


 海跳の件は曖昧なままだが、校長と教頭は“黒”の可能性が高い。


「なぁ、麻由?今の話を聞いて何か気付いたことあるか?」

「い、いえ・・・特には」

「そっか・・・校長も冨久も怪しいんだけど、決定打は無しか・・・」

「もう少し、調査が必要みたいばるねっ!」


 情報を整理する。海跳については、調査対象だが怪しさは「低」。校長については、調査をすれば白黒が直ぐにハッキリしそうだ。麻由に敵意を向けている可能性があるので、黒ならば放置はできない。調査の優先度は「高」。


「で、では、校長先生の調査は、私が責任を持って行います。

 美穂さんや紅葉達は、皆で冨久先輩の調査をして下さい」

「・・・ん?」 「・・・ばるっ?」


 美穂とバルミィが互いの眼を見て首を傾げる。言っていることがオカシイ。狙われている可能性が高いのに、単独で対応するつもりか?麻由が無駄に張り切ってる時は、色々とダメな時だ。何となく解る。もちろん、こんな歪な采配を了解するつもりは無い。


「よしっ!妖気の感知が出来る紅葉と麻由は分けるとして、

 麻由とジャンヌは冨久の調査、あたしと紅葉とバルミィで校長の調査だな。

 真奈が居てくれれば、イザって時にジャンヌを呼び出せるから真奈はこっち。

 つまり、校長の調査を優先させて、尻尾を見付け次第、ブッ叩く!」

「えぇぇっっ!?なんで私が冨久先輩なんですか!?私は校長先生を・・・」

「麻由、魂胆は解らんけど、私情は挟むな!

 何か気付いたことでもあるならともかく、何も気になる点が無いんだろ?」

「きっと、生徒会長って立場上、校長先生にお世話になってるから心配なんだよ」

「・・・だとしても、私情で判断をミスる可能性があるからダメ!

 校長の方は、早めに白黒ハッキリさせるから、

 それまでの間、オマエ(麻由)は冨久の動きに気を付けてろ!

 都合が良い事に、冨久はジャンヌと同じ自動車学校に通ってる。

 麻由は、ジャンヌの付き添いって立場で、冨久をマークしやすいだろ」

「で、ですがっ!」

「もう決定事項だ!」


 美穂の独断で、麻由チームは車学に長時間滞在すると思われる海跳を見張り、美穂チームは放課後もしばらくは学校に残って校長の動きを探る事になった。


「美穂さん・・・

 それっぽい説得力で麻由ちゃんを冨久先輩の担当にしたけど、

 下心がありますよね?」


 真奈が美穂に密着して耳打ちをする。


「あ、解っちゃった?

 危険度は低そうだし、冨久に、もう少しチャンスを恵んでやろうと思ってな」

「あら、美穂さん、優しい」

「2人が上手く行けば、あたしは恩人。ダメなら弱味を握れる。

 どっちに転んでも、あたしは特をするからな。」

「うわぁっ~~・・・」


 2Dの鈴木良太が廊下を通過するのが見えたので、美穂が大声を上げる。


「おいっっ!!そこの、おっぱい星人!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちょっと話がある!こっち来い!!」


 良太は悟りきったような冷めた表情で天を仰いだ。「鬼龍院ルナティス」→「桐生るな」と来て、次は「おっぱい星人」。恋人の胸をタッチしたのをバラされたし、昨日もタッチしてドン引きされたけどさ。女子の胸に興味があるのは、年相応の健康的な男子なら当然のことなんじゃないのか?


「あぁぁっっ!そ~いえば、アタシ、リョータと戦った時、おっぱい触られた!

 もしかして、アレゎグーゼンぢゃなくてワザとってこと?」

「えぇぇっっ!!?彼女さんだけじゃなくて、紅葉ちゃんも触られたの!?」

「ほぉ?良太殿は、女性ならば、何でも良いのだな?」


 良太の周りを歩いていた男子のクラスメートが「オマエ、おっぱい星人だったのか?」と笑ったり、女子が汚物を見るような視線を送りながら避けていく。もう、アイツ等と絡むのヤダ。でも「おっぱい星人」を連呼されたくないので、仕方なくA組の教室に入る。ちなみに、ジャンヌが言った「女性ならば、何でも良い」は遠からず正解。


「今度は何だよ!?」

「いや、大した用は無いんだけどさ、

 その後、何か気付いたことあるかと思ってさ」

「・・・・・・・・・・・・・」


 特に用も無いのに汚名で呼びつけたらしい。女番長様(美穂)は、良太に恨みでもあるのか?ホント、コイツ等と絡むと損しかしない。だけど、今回の一件は良太も興味がある。


「かくかくしかじか、こ~ゆ~わけで・・・」

「校長と冨久先輩ねぇ・・・確かに不自然だな」


 良太は、サトリの依り代を「麻由の身近の人物」「麻由に好意を持ってる」「一定の正義感と理性を持っている」と予想している。そして海跳は「麻由の身近」「正義感と理性」に該当する。これで、海跳が麻由に好意を持っていれば、サトリの依り代になっている可能性が高いと考えているが、今は麻由が居るので、あえて口には出さない。

 妖怪の依り代になった経験のある良太は、依り代では妖気に気付けないことを知っている。感覚が研ぎ澄まされるのは、妖怪の力を借りてルナティスになった時だけだった。同じ解釈だと、海跳も妖怪と融合している?でも、妖気に反応した時は、異形ではなく、いつも通りの冨久海跳だった。校長に関しては、怪しいと言えば怪しいが、あまり興味は無い。興味の対象は、過去の自分と同じような行動をするサトリのみだ。


「なぁ、桐藤?」

「ん?」

「俺も、君達の調査に加わって良いか?冨久先輩の担当で」

「おぉっ!リョータも手伝ってくれんのっ?」

「はぁ?一般人のオマエがか?

 遊びじゃないんだ。中途半端に首を突っ込むと大ケガすんぞ」

「そうですよ、私も、美穂さんの意見に賛同します。

 鈴木君の介入は賛成できません」

「なぁ、源川?君の能力で、ウサを俺にレンタルすることは出来ないのか?」

「んぁぁっ!?ウサちゃんを!?」

「うん、桐藤や生徒会長に言われた通り、

 中途半端な気持ちで首を突っ込む気は無い。

 もしもって時は、自分の身くらいは守れなきゃだからな」


 美穂と麻由に拒否をされた良太は、以前から想像していた未練を紅葉に提案した。唐突な提案を聞いた紅葉は戸惑ってしまう。封印した妖怪を一般人に貸し出すことなんて出来るのか?ゲンジ(紅葉)とセラフ(麻由)で封印妖怪の貸し借りが可能なのは実証済みだが、一般人の場合はどうなる?ルナティスのことを考えれば、一般人が妖怪の能力を支配することは可能(ただし暴走の危険有り)って事になるが、封印した妖怪でも同じように扱えるのか?

 紅葉は暫し「ぅ~ん」と言って首を傾げて考え込み、やがて何か思いついたらしくて頭上に「!」マークを浮かべた。




-体育館裏-


 愉怪な仲間達&良太は、ひとけの無い場所に移動をした。紅葉が良太の正面に立ち、精神集中しながらYスマホに指を滑らせて「ルナティス」と書き込んでから、左腕を良太に向けて突き出す。


「え~~~~~っと・・・

 ぢゅ~きしょ~ルナティスの格好は・・・え~~と、え~~~と、

 あっ!思い出した!行くよリョータ!」

「うんっ!!」

「適当にポーズして『変身』って叫んで!」

「わ、わかった!」


 良太は呼吸を整え、精神を統一して、額の第三の目(ただの傷跡)を開眼(した妄想)!昂る闘志で、全身が火照る(って錯覚)!


「ヤバい。鈴木君、変なスイッチが入っちゃってる」

「人目に付かないところで良かったな」


 良太は仰々しい変身ポーズを決めた!見守っていた美穂と真奈がドン引きをする。


「覚醒っ!!獣将チェンジっ!!」

「行ぃぃぃっっっけぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~っっっ!!!!!」


 Yスマホから飛び出した白光が良太の全身を包み込み、マスクやスーツや諸々のパーツに実体化!

 ウサ耳、真っ赤な吊り上がった目、鋭い牙と爪、全身に装飾を施した姿。ただし、玉兎が憑依したのではなく、紅葉のイメージで作られた装甲服なので、あちこちの意匠は微妙に可愛くて細部は雑だ。美穂&麻由&真奈&バル&ジャンヌは「おぉ」と小さく感歎の声を上げる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 変身後の手足を見回すルナティス(良太)。形は「こんなんだったかな?」と及第点なんだけど、体感的には、以前とは違って強くなった感じがしない。


「おい、桐生ルナ、試しにそこ(コンクリ製の腰壁)を殴ってみな」

「獣騎将ルナティスだっ!」


 真奈が「学校の壁に風穴はマズい」と注意すると、美穂は「風穴が空いたらばっくれる」と言いつつ「多分、大丈夫」と言って麻由に同意を求め、麻由は小さく頷く。ルナティスは、美穂に指示されるがまま、壁の前で派手なポーズを決めてから構え、呼吸を整えて正拳を突き出した!


「全てを打ち砕け!アルティミス・オラクル!!」

ぼこんっっ!

「ぐわぁぁぁっっっっっっっっ!!!!」


 コンクリート壁には風穴は開かず、拳を押さえたルナティスが悲鳴を上げて蹲る。紅葉は「ありゃ?」と首を傾げ、美穂は「だろうね」と頷き、麻由は「やっぱりね」小さく溜息をついた。ルナティス自身「何か違う」と思ってたので、本気の拳は放ってなかった。ガチでコンクリ壁を殴っていたら、きっと拳が潰れていただろう。


「なぁ、麻由?あれって、鈴木がウサギ人間の着ぐるみを着ているだけだろ?」

「はい、鈴木君の周りにある妖力は、紅葉が作ったプロテクターの妖力のみです」

「ど、道理で以前みたいな躍動感を感じられないと思った!

 源川ッ!ウサは憑依させてないのか!?」

「んぁぁっっっ!!?そ~いえば、させてないっ!!

 ゴメン、今、ウサちゃん出すっ!」


 紅葉はYスマホにウサギと書いてルナティス(着ぐるみ)の方に向ける。Yスマホから、玉兎ウサが出現して、ルナティスの周りで飛び跳ねる・・・のみ。憑依をする気配は全く無い。


「んぁぁっっっ!

 ァタシに憑依させるならできるけど、

 どうやれば人に憑依させられんのかワカンネ!

 ウサちゃん、リョータに取り憑いて?」

「キュキュ?」


 玉兎は「急にそんなん言われても無理っす」と言いたげな表情で何度も首を横に振る。玉兎が自立した妖怪なら憑くも憑かぬも独自の判断を出来るが、今は紅葉の管轄下。ゲンジとセラフの互換性が特殊なだけ。勝手な判断で他人に憑くことは出来ないのだ。

 紅葉が困り果てていたら、麻由が割り込んできて、玉兎を抱きかかえてルナティス(着ぐるみ)に渡してから、Hスマホを取り出した。


「鈴木君への憑依が出来るかは解りませんが、

 鎧に憑依させるなら可能だと思います。

 一定の攻撃力や防御力や機動力を玉兎に補って貰えば良いワケですよね」


 麻由は、Hスマホに玉兎と書いてタップして支配下に置いてから、画面をルナティス(着ぐるみ)に向けた。Hスマホから発せられた光が、ルナティス(着ぐるみ)を包み込み、玉兎が霊体化をして良太の纏っている鎧に融合されていく。


 先程までとは違い、良太は全身に漲る力を感じる!一定の手応えを感じたルナティスは、コンクリート腰壁と向き合い、呼吸を整えて派手なポーズを決めた!


「わっ!バカ、やめろ鈴木!!調子に乗るな!!」


 美穂が慌てて止めようとしたが手遅れだった。


「ハァァァッッッッッッ!アルティミス・オラクル・マキシマム!!」

ドゴォォォォッッッッ!!!


 コンクリートが弾け飛び、腰壁にルナティスの拳よりも2周りほど大きな風穴が空いた!

 マスクの下で満足そうな表情を浮かべる良太。紅葉&バル&ジャンヌは「おぉ~」と拍手をするが、美穂&麻由&真奈は青ざめる。


「桐生のアホっ!」 

「もう少し考えてから行動してください!」 

「鈴木君のバカ!」


 先程、美穂は「風穴が空いたらばっくれる」と言った。公約通りばっくれるしかなさそうだ。体育館で部活動をしていた連中が、破壊音を聞いて「何事か?」と顔を出した時には、愉怪な仲間達&ルナティスはの姿は無かった。

 とりあえず、良太がルナティスの力を行使する為には、紅葉と麻由の能力が必要らしい。一般人1人を戦力にするのと、紅葉&麻由が妖力&理力を消耗させるので、どっちが効率的なんだろうか?

 もう少し情報交換をしたいが、腰壁を壊した責任を取りたくないので、慌てて散り散りに下校をする。


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