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37-1・ジャンヌの教習と海跳

武面拠むめんきょ自動車学校―


 綺麗で設備の整った建物。受付や教官達の応対は丁寧。客層を眺めても、これと言って目障りな連中は見当たらない。

 ジャンヌは、住民票や身分証明書の提出・視力と色覚の検査・写真撮影etc.順調に手続きを済ませ、真新しい会員証と学科の教科書を渡されて、事前審査開始までの時間を待つ。


「頑張ってねっ、ジャンヌ!」

「大丈夫だろ。

 麻由の知り合いの田木とかってオッサンのところで練習をしてたんだよな?」

「うむ、基本は学びました」

「緊張しすぎてミスらないでね、ジャンヌさん」

「安心して下さい、マナ。

 イザとなれば、手の平に“人”の書いて呑むまじないをすれば、

 心を穏やかに保てます」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4

「ジャンヌさん、何処でそんな古風な迷信を覚えたの?」

「なんか、ちょっと違う気がするけど、ジャンヌが落ち着くならそれで良いや」


 時間になり、ジャンヌはヘルメット(麻由に買ってもらった)を持って指定された場所へ行く。受講者は同年代~30代くらいで大半が男性だった。やがて時間になり女性教官が来て笑顔で挨拶をする。


「よろしくお願いします」

「お願いしま~す」×たくさん

「まず、本格的な教習を始める前の事前審査を受けて頂きます。

 これをクリアできないと先に進めません」


 教官が「倒れたバイクの引き起こし」の手本を見せてくれる。



 送迎バスが教習所の敷地内に入ってきて、海跳が下車をする。住民票や身分証明書の提出・視力と色覚の検査・写真撮影etc.順調に手続きを終えて、階段を上がって2階の待合所へ。女子4人が黄色い声を上げながら、窓からコースを眺めてる脇を「我関せず」と通過して、見覚えのあるロングヘアの後ろ姿を見て息を飲んで足を止めた。


「葛城?」

「あら、先輩。やはり、こちらの教習所に通うのですね」

「ん?やはり・・・とは?」

「先程、送迎バスを追っている先輩が見えたので・・・」

「あぁ、なるほど」


 海跳は、市街地から近い自動車学校では「優麗高の卒業生で溢れ、女子達に絡まれる可能性が高い」と考えて、意図的に少し離れた武面拠自動車学校を選んだ。だから、優麗高の同期どころか、麻由に出会うなんて全く予想していなかった。


「些か意外だな。

 バイクには興味が無いと思ってたのだが、原付の免許を取得するのか?」


 海跳は2人で免許を取得してツーリングに行く妄想に期待を膨らませてしまう。


「いえ、友人に付いてきただけです」

「・・・そ、そうか」


 一緒に居た美穂は、表面上はクールを装いつつ動揺している海跳を見て、「少し意外」と感じる。2年生を2回留年した美穂には、優麗高の生徒は年下しか存在しない。基本的には「男共は全部ガキ」と解釈して、相手にしていないどころか名前すらロクに覚えていないのだが、3年生の凸凹コンビ・冨久海跳と石松英邦だけは、別格の“優秀な男共”と評価していた。


「おいおい、勝組優等生・・・態度が解りやすすぎるぞ」


 麻由以外は全く眼中に入ってない。その他扱いをされてる3人からすれば、もの凄く失礼な態度だ。しかも、全校生徒の前で流暢にスピーチをする度胸が有るのに、今は露骨に緊張している。

 生徒会役員同士で、成績トップ&スポーツ万能の優等生同士で、オマケに美男美女。美穂が第三者の目で見ても、お似合いすぎて批難する点が全く無い2人なのだが、肝心の麻由が表情1つ変えずに「あら偶然ですね」程度の態度だ。


「冨久の一方通行か?ちょっと面白いな」


 紅葉が麻由&海跳の会話に割り込んで3人で・・・てか、紅葉が1人で喋って麻由&海跳は頷いている。


「美穂さん。・・・紅葉ちゃん、邪魔だよね?」


 隣に居た真奈が美穂の腕を軽く引っ張る。振り向いたら、真奈の眼が笑っていた。真奈も気付いているようだ。美穂が同調して集団から離れる。そして、タイミングを図って紅葉を手招きして呼んだ。


「冨久先輩の緊張感が凄いね」

  「バイクのキョーシューするからキンチョーしてんだね」

「麻由にも春が来たか?」

  「ぅん!3月だもんね。もぅ春だね!」

「どうなんだろ?麻由ちゃんは、なんとも思ってないみたいですよね」

「真奈にも、そう見えた?」

  「んへ?だって、グーゼンでしょ?」

「紅葉ちゃん、ちょっと黙ってって」


 これで麻由と海跳のツーショット完成。「さぁ、冨久。麻由を好きなように料理していいぞ」って状況を作ってやる。もちろん、海跳の為ではなく、ましてや麻由の為でもなく、面白いネタになりそうだから。だが、真奈の奇策は、ものの見事に失敗をした。


「次も、友人に付き添うのか?」

「さぁ、どうでしょう?まだ詳しくは決めていません」

「そうか。・・・じゃ、僕はこれで」

「はい」


 紅葉を呼び寄せて会話から外した途端に、麻由の海跳の会話は途切れた。海跳は麻由から遠ざかり、離れたベンチに腰を降ろしてしまう。麻由は、ワザワザ気を利かせて離れてあげた仲間達の処に寄ってきた。


(気付いてよ麻由ちゃん。

 『次も友人に付き添うか?』には

 『また会えるか?』って意味が含まれてるんだよ)

(冨久も冨久だ。チョット会話が続かなくなったくらいで引き下がるな)


 察して様子を見ていた美穂と真奈は、もどかしくて仕方が無い。


「こ、これは重傷ですな。」

  「んぁっ?誰か怪我をしたの?」

「脳ミソに“勉強”しか詰まってないと、

 あんなふうに成ってしまうんだろううか?」

「あの2人は特殊すぎますよ。

 あっ!そうだ!

 冨久先輩から愉怪な仲間達に

 『葛城さんと仲良くなりたい』って依頼をしてもらいますか?

 推理研究会だった時に同じような依頼を受けた事ありますよ。

 ・・・まぁ、失敗しましたけど」

「失敗したんかい?・・・てか、推理関係無いじゃん。

 そもそも、その依頼は、生徒会経由で降りてくるんだろ?

 麻由が握り潰して終わりなんじゃね~の?」

「あ~そっか。まぁ、いいや!せっかくなんだから、チョット行ってきます」

「んへっ?マナ、どこに行くの?」

「えへへっっ!優麗高とスーパーアイドルとお近付きになりに!」

「物好き!大ケガする前に帰って来いよ」


 真奈が、1人でポツンとベンチに座っている海跳の処に寄っていく。


「こんにちは」

「ん?」


 海跳は顔を上げ、一瞬だけ「面倒臭い」って顔したけど、直ぐに何時ものクールな態度で応じた。さっきまでの、足元が覚束ないくらいに浮ついていたのとは、まるっきり別人だ。


「2年の熊谷か」

「卒業、おめでとうございます」

「ありがとう。葛城と一緒に来ているようだが、君が原付の免許取得を?」

「いえ、私も友人の付き添いです。

 バイクの免許を取るのは、麻由ちゃんと一緒に住んでる人ですよ」

「なにっ?」


 受講者は大半が男性だ。クールに決めてた海跳が僅かに動揺する。


「あぁ・・・もちろん、女の子ですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(・・・わ、解り易すぎ)


 一瞬だけ動揺した海跳が、真奈の言葉を聞いて直ぐにクール戻る。


「今、校舎の正面で教習を受けてるグレーのヘルメットの女の子です」

「グレー・・・SHARK(仏)のSPARTAN-GTか?」

「さぁ、ヘルメットの種類はよく解らないって言うか、

 私には、色以外は全部同じに見えちゃいますけどね」


 真奈&海跳と同様に、紅葉達が待合所の窓から眺めていたら、やがて、教官が自分用のバイクに跨がってコースに出た。その後に続いてゼッケン順に発進。かなり広大なコースを、教官を先頭にして1列で走る。


「んぁっ!3番目を走ってるのがジャンヌだよね?」

「ちゃんと走れてるみたいですね」

「普段から“バイクにソックリなバイクではない物”をプロ並みに操ってるからな。

 基本操作なんて今更だろ」


 数日前、ジャンヌが「バイクの免許を取得したい」と言い出した時、麻由は驚いた。だが、理由は「ハスラーⅢを乗りこなす為」と聞き、更には「代金は労働バイトをして返す」と決意をしていたので、麻由は出資を決めた。「昭兵衛の思いを無駄にしたくない」と言う気持ちが嬉しいので、教習代を返却してもらうつもりは無い。


 麻由のポケットで、Hスマホが着信音を鳴らす。ディスプレイを見なくても、着信音で発信者が誰なのか解った。仲間達に「ちょっと失礼します」と言って退席し、階段を駆け下りて校舎の外に出て通話に応じる。


〈今、君のマンションの下に居るのだが、これから行っても良いかね〉

「こ、校長、急に困ります。私は、ただ今、外出中なので、また後日に」

〈いつにする?〉

「こ、こちらから連絡しますからっ!」

〈うむ、それでは、連絡を楽しみにして待ってるよ〉

「・・・はい」


 2階で美穂とガールズトーク中だった紅葉のアホ毛がピクンと震えた。真奈に話しかけられていた海跳も、プレッシャーを感じて立ち上がる。そして同時に、北(麻由のマンション)の方向を見つめた。


「・・・んぁ!?」

「どうした、紅葉?妖怪か?」

「んっ!ベトベトさんっ!前に麻由のおうちで麻由を襲った奴が、また出たっ!」

「しつこい奴だな」


 美穂は、紅葉を眺めながら違和感を感じていた。紅葉と麻由が同時に同じ反応をするのは見慣れている。だが、海跳が同じような反応をしているように思えた。偶然、紅葉が妖怪を索敵したのと海跳が別件で動いたのが、同一の行動に見えたのだろうか?


「ん~~~~・・・反応、消えちゃった」


 紅葉の表情が緩和する。一方で、海跳は緊張した表情のまま、まだ北の方角を眺めていた。それを見た美穂は「妖気に反応したわけではなくやはり、別件だったかな?」と解釈する。

 下に行って電話をしていた麻由が、やや引き攣った表情で戻ってきた。


「マユも気付いた?」

「えっ?何ですか!?」

「んぁっ?気付かなかったの?

 マユのおうちの近くに、ベトベトさんが出たんだよ」

「そ、そうだったんですか?電話中だったので気付きませんでした」

「電話中で気付かないって・・・そんなに、切羽詰まった電話をしてたのか?

 一体誰と?」

「・・・ちょっと知人と」

「そっか。まぁ、何か悩みがあったら相談しろよ」

「はい、ありがとうございます」


 美穂は、麻由の何かを誤魔化した態度が気になったが、友達だからって交友関係の全てを把握して管理するのは不可能なので、聞き流す事にした。麻由が美穂から目を逸らし、教習コースを眺める。


「あっ!そろそろ終わりみたいですよ」

「んぁっ?」 「もうそんな時間か」


 ジャンヌの乗るバイクがウィンカーを点滅させて、前を走るバイクに続いて元の場所に戻る。


「ジャンヌさん、何処かで練習したのかしら?

 とてもスムーズに操作できてるしフォームもしっかりしてますね。

 初めてと思えないわ。」

「は、はい。知人の私有地で少々・・・」


 さすがに「普段から乗っています」とは言えないので、事前に麻由と打ち合わせた通りに答える。

 今日のノルマは終了。仲間達と合流をして待機をしていたら、「リバーサイド鎮守経由・文架駅行きのシャトルバスが、10分後に出発します」と放送が流れたので、皆で海跳に一礼をして階段を降りていく。

 ちなみに、帰りの送迎バス内で、真奈はずっと白目で放心状態だった。海跳に取り入ろうと積極アプローチをしたが、全スルーをされて大怪我をしたっぽい。


「・・・ったく。だから、怪我する前に帰って来いって言ったのにさ。

 だけど、冨久は麻由以外には全く興味無し。冨久→麻由は、これで決定か」


 紅葉と麻由はジャンヌに教習の感想を聞いている。美穂は帰路の町並みを眺めながら「そう言えば、麻由は彼氏イナイ歴=年齢」とか「ボーイフレンド多数は見栄だっけ」等と考えていた。たまに、麻由に海跳の話題を振るが、麻由は「冨久先輩がどうしたんですか?」程度の扱いだ。


(ネタ的には面白いけど、麻由にその気が無いみたいだな。

 麻由を弄れないなら、冨久ががコクろうがフラれようが、どうでも良いか)


 美穂は窓の外の風景を眺めながら大欠伸をする。


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