36-4・良太の予想~教習所へ
-文架駅付近-
良太が自転車を引き、恋人の咲輝と並んで歩く。良太が顔を出したので、先輩は「咲輝には彼氏がいる」と諦めてくれた。咲輝のチームメイトからは「咲輝の彼氏なら飛び入り参加OK」と誘われたが、良太は「部外者だから」と断ってカラオケ店の隣の喫茶店で待ち、一次会が終わった咲輝が合流して今に至る。
「こんなに早く離脱して良かったのか?」
「うん、いいのいいの!
先輩、いじけてたし、
きっと、さき(一人称)がいない方が元気になるから・・・」
「そっか、ならいいんだけどさ。でも、咲輝って、結構モテるんだな?」
「そんな事無いよ。数えるほどしかコクられた事無いもん」
「・・・モテるんじゃん」
ちょっと嫉妬をする反面、そんな子が恋人でいてくれるのは嬉しい。良太は女の子に告白された事など1度も無い。小学4年と5年の時のバレンタインにクラスの女の子からチョコを貰った事はあったけど、それが本命チョコだったのか解らないし、良太自身が思春期前だったので特に意識もしなかった。
「学校(文架高)には頭の良い人は多いけど、
良くんみたいに頼れる人はいない・・・かな」
「・・・へぇ~~」
「今日だって助けに来てくれたじゃん」
「顔出しただけじゃん。助けたうちに入らないよ」
咲輝に褒められて、良太は誇らしく感じる。2人の出会いは、良太がチンピラ集団に絡まれてた咲輝を助けた事だった。良太は「咲輝の事はいつでも守ってやる」と内心で誓う。
「・・・でもさ、良くん」
「ん?」
「もう、公園の警備なんてやってないよね?
人助けは格好良いけど、さき(一人称)を助けてくれた時みたいに、
その後、良くんがボコボコにされるのは嫌だからね」
「うん、解ってる。最近はやってない」
咲輝と出会って以降、「ウサがいなくて戦闘力を維持できなくなった」理由と、「守りたい対象が名も知らない市民ではなく咲輝になった」こと、そして「物事を現実的に考えて咲輝の成績に追い付く為に勉強をやり出した」為に、良太は正義の味方から引退をしている。
「約束だよ。もう無茶はダメだからね」
「うん」
自分がウサ(玉兎)と出会ったキッカケは何だった?良太は歩きながら考える。
過去の良太は、悪が許せず、不良共から文架市の平和(とは言っても行動範囲は近所限定)を守る為に戦っていた。相手が1~2人なら中学時代に身につけた少林寺拳法で屈服させる事が出来た。使い慣れていないナイフを振りかざす奴など、ビビって虚勢を張ってるだけで、かえって腰が引けていたので敵ではなかった。だけど、喧嘩慣れした奴が5~6人の集団になると流石に勝てなかった。善良な市民を逃がし、自分も逃げるので精一杯。時には良太は逃げ切れず、ボコボコに伸される事もあった。
悪を叩き潰す力が欲しい。良太が願った時、その思念に誘われたウサ(玉兎)が出現をした。今にして思えば、力への渇望が生み出した妖怪ゆえに、力の暴走を許してしまったのは当然の成り行きだったのかもしれない。
(サトリの場合はどうなんだろう?)
行動範囲や目的は良太と似て限定的なので、良太と同じ学生の可能性が高い。活動内容は「火災からの住人の救助」や「溺れた子供の救出」など。良太よりも非戦闘的で穏やかで人助けに特化している。鎮守の森公園の事件では、卑夜破呀は焚き火をした罪で逮捕されて再び壊滅をした。紅葉曰く、サトリが関与したっぽいが重傷者は出ていない。
唯一の例外が、麻由のマンションに出現した時だ。紅葉の説明だとかなり殺気立っていたらしい。他の4匹と同じように麻由を襲う為に出現した?それとも、麻由を助ける為に他の妖怪と戦った?麻由は意識を失っていたが傷は負っていなかったらしいから、後者の可能性の方が高い。
何故、この時だけ殺気があった?今までの行動パターンなら、先ずは麻由を救出をするはずだ。4匹の妖怪が凶悪で救助ができなかったのか、それとも別の理由で救出の意思が働かなかったのか?
【卑夜破呀】を前にした時、その凶暴さと被害状況を見た良太は忘我状態となり、正義と暴力の境界が解らなくなって、いつもと違う行動に出てしまった。サトリの場合は、麻由のマンションで出現した時だけが、いつもと違い穏やかではない。良太が市民を守る為に暴走したように、サトリは麻由を守る為に暴走をした?
「サトリの依り代は・・・葛城に身近な人物って事か?」
良太は“麻由の身近な人物”に誰がいるのか解らない。せいぜいで、「最近は紅葉や美穂と一緒にいる」くらいしか把握していない。家族構成や学校以外での交友関係も解らない。
サトリがカツアゲを見逃さなかった件から同世代くらいと推測したが、カツアゲ被害者の新斗から「助けてくれたのは冨久先輩」と聞いたので、カツアゲ処理とサトリは無関係と判断した。
「冨久先輩なら生徒会長の身近な人物。正義感も有りそう。
・・・う~~ん、ちょっと話を飛躍させすぎかな?」
「どしたの、良くん?」
「・・・ん?」
隣を歩いていた咲輝が、良太の独り言に反応をして首を傾げた。我に返った良太は「いかんいかん、咲輝を置き去りにしちゃってた」と反省をする。
「ねぇ、咲輝が、いつもの咲輝じゃなくなるとしたら、どんな時?」
「んんっ?意味がわかんない。どういうこと?」
「ゴメン、解りにくかったかな?
咲輝が我を忘れちゃうとしたら、どんな時かって事ね」
「う~~~ん・・・そうだなぁ~
得意の数学と理科で80点以下だった時・・・かな。
英語で平均点以下の時も、ヤバいかも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
テストの点数が悪いと悔しくて忘我か?文架高の定期テストってレベルが高いから、80点以上は優秀な部類のはず。良太は、咲輝と会う前(1年生の時)は平気で赤点スレスレを獲得していたので、少し恥ずかしくなってしまう。
「あとね、良くんが、他の女の子を助けたりして大ケガをしたり、
助けた子と仲良くなっちゃったらヤバいかも。
だからね、良くん、もう無茶はしないでね。
良くんは、さき(一人称)だけの正義の味方なんだよ」
「・・・う、うん」
咲輝が、良太の“正義の味方活動”を嫌がってる理由は、良太の身を案じてるだけではなく、良太の新しい出会いに繋がる可能性を怖がっていたのだ。良太は照れ笑う咲輝を見て胸が高鳴る。同時に「好きな人が取られる恐怖で忘我する」って言葉に引っ掛かる。
改めて言われてみれば良太にだって思い当たる事だ。咲輝が目の前からいなくなるなんて考えたくない。現に、咲輝が先輩にコクられたと聞いて、我を忘れて迎え(監視)に行った。
「同じ現象がサトリに起きていたから・・・サトリは今までと違う行動をした?
葛城麻由が誰かに取られそう・・・
もしくは、葛城が命の危機に瀕していたからサトリは暴走をした?」
サトリの依り代は麻由を好いた男子。確証は無いが、そう考えると辻褄が合う。良太は「麻由の身近にいて」「麻由に好意を持っていて」「一定の正義感と理性を持った」人物のセンでもう少し調査をしてみようと考える。無関係と判断した冨久副会長は「麻由の身近」「正義感と理性」に該当する。これで、「麻由に好意」がヒットすれば一定の可能性は考えられそうだ。
「今日はありがとね、良くん」
「うん」
咲輝の家の手前の角で2人は足を止めた。向かい合って別れ際のチューをする。ここまでは、いつもと同じだが、今日は良い雰囲気なので「今度こそイケるかも!」と軽く胸をタッチした。
「良くんのヘンタイっ!」
咲輝は「アッカンベー」をしながら去って行った。怒ってはいないけど、すげードン引きされた。やはり、まだオアズケらしい。迎えに行って絡んでいた先輩を諦めさせた加点はチャラになったようだ。
―数十分後・ショッピングモール前のバス停―
「紅葉、遅いっ!!」
「近所の紅葉ちゃんが、なんで一番遅いの!?」
「ごめ~んっ!」
紅葉が必死で自転車を漕いで、美穂&麻由&真奈&ジャンヌと合流する。駐輪場に自転車を止めている間に無料送迎バスが来てしまったので、慌てて停留所に駆けてバスに乗り込み、最後尾の座席を占領した。
当初、教習を受けるジャンヌは、送迎バスではなくユニコーンバイクで目的地に行くつもりだったが、バイク(?)通学でバイク免許の取得に行くのは拙いので、麻由が説得をして止めた。いつでも召喚できる便利な足があるジャンヌは、バスに乗った事が無い。「何処でどのバスに乗れば良いのか解らない」「入校手続きも解らない」と言うことで、麻由が保護者(?)を兼ねて付いていく事にしたのだが、まさか、紅葉&美穂&真奈まで一緒に来るとは思ってなかった。
(・・・・あれっ?)
外を見た麻由の目に、必死で自転車を漕いできた海跳が「あ~」って表情をして減速する姿が映った。
「どぅしたの、マユ?」
「いや、別に・・・」
隣に座っていた紅葉に尋ねられ、麻由は素っ気なく返す。そう言えば海跳も「自動二輪免許を取得する」と言っていた。このバスに乗りたかったのだろうか?
「・・・しくじったか」
海跳の目の前でバスは走り去っていく。麻由が乗っていたことには気付いていない。
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自転車籠に花束や小包を詰め込み、ブレザーの上着の前ボタンと腕ボタンを奪い取られ、身も心も疲れ切って帰宅をした。
“環奈と尚実の虫除け”を引き受けて、正門まで送ったところで環奈が何やら言いたそうにしてたが、素っ気なく「じゃあ、僕はこれで」と言い放って早足に校内の戻ったら、今度は“自分目当ての虫”が群れで押し寄せてきた。海跳に憧れてる下級生の女子達だ。海跳は自分が環奈達の虫除けをしていると同時に、環奈が自分の虫除けになっていたことに気付いていなかった。1人や2人なら素っ気なく応対して退散させれるけど、数の暴力には敵わない。
「先輩、これ私の気持ちですっ!!受け取ってっ!!」
「え・・・ああ・・・ありがとう・・・」
「私、先輩と同じ大学を目指しますっ!!」
「頑張れよ」
「記念にボタン下さいっ!!」
「あああ~~~っ!?何するっ!?」
「私も欲しいっ!!」「ああっ、ズル~いっ!!」「あたしも貰おうっと!!」
後輩共はハナっから交際など望んでない。アイドルの追っかけみたいな感覚で「人気No1な先輩との記念に」と目に留まったボタンを奪い取る。
海跳は大量の花束や手紙で両手が塞がって抵抗できずに右往左往。ようやく振り切って駐輪場に走り、まだ群がる後輩共を辛うじて振り切り、這う這うの体で自宅まで辿り着いて一息吐いた。
「さて・・・このプレゼントはどうするべきか?」
海跳はクールだけど冷酷ではない。せっかくの花束やプレゼントや手紙を、そのままゴミ箱に叩き込む発想は湧かない。
「にゃぉ~~~~~ぅ」
「・・・よお」
隣家の塀の上で日向ぼっこしてたネコが、身軽に飛び降りて海跳の足に擦り寄ってきた。荷物を地面に置いて喉を撫でたら、ゴロゴロと鳴らしながら仰向けに寝転がって甘える。愛くるしい姿や仕草が心を癒してくれる。
「オマエは、好きな子はいるのか?恋人ができたら、僕に紹介しろよな」
「ふにゃにゃ?」
「はははっ、言っても解らないか」
この猫だけでなく、他の猫や犬、小鳥等々、海跳に懐く小動物は多い。海跳も動物は好きだ。言葉は通じなくても好意が疏通をしているように感じる。
だが、好きな子に上手く気持ちが伝えられないのは何故だろう?彼女を前にすると言葉に壁を作ってしまう。石松と会話するようにポンポン言葉が浮かばない。
〈悩ムナ、考エルナ・・・
望ムナラ、力尽クデ手ニ入レチマエ・・・カッサラエ・・・〉
「!?・・・・ちっ、またかっ!僕は何を考えてるっ!?」
また“あの声”だ。同時に黒い靄みたいなモノが沸いて出る。無邪気に足元で転がってた猫が、いきなり唸って海跳の手の甲を引っ掻いてから飛び退き、背中や尻尾の毛を逆立てながら威嚇をする。
「おいおい、いきなり何だ?」
海跳が呆気にとられると同時に“靄”が消えた。だが、すっかり警戒モードに突入した猫は一目散に逃げていく。
「・・・・いけねっ!急がないとバスの時間が!」
猫を見送り、荷物を抱えて自宅に入る。
「ただいま。これ、花瓶に生けといて」
花束は母親に任せ、手紙やプレゼントは後で開封する事にして自室のベッドに放り出す。自分で傷を消毒して絆創膏を貼り、教習所が指定をした服装に着替え、新品のヘルメットや必要な書類や筆記用具をカバンに詰め込み、大慌てで自宅を飛び出した。
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バスに乗り遅れた海跳が時刻表を確認したら、次が来るのは約1時間後だった。
「だいぶ間があるな。参ったね」
海跳は、時間を潰す為に、最寄り出入り口からショッピングモールに入った。




