36-3・麻由と海跳と環奈~亜美の希望
-3階(3年生のフロア)-
いつの間にか、優花は卓球部の女子の先輩と、美希はテニス部の男子の先輩と談笑をしている。
麻由は、生徒会で2年間世話になった海跳に礼を言う為に、3年A組に来ていた。麻由と記念撮影をしたい卒業生は多数居るが、取っ付きにくいし、「どうせ断られる」と思っている。皆、遠目に眺めるだけで、誰も依頼をしない。
それまでクラスメートや野球部の仲間達と談笑したり記念撮影をしていた海跳だが、麻由との会話が始まると、優麗高英才のツーショットを妨害する者はいなくなる。
傍から見ればお似合いの2人だ。多くの者が「そのうち付き合う」と予想していたので、最後まで交際しなかった事を意外と感じていた。
「今まで、ありがとうございました」
「ふっ、君の為に働いたワケではない」
「それでも、お礼を言わせて下さい。先輩には、かなり助けていただきました」
「そうか?なら、君の礼の言葉、素直に受け取っておこう。
来年の優麗高は頼んだぞ」
「はいっ!」
挨拶終了。「それでは」と立ち去ろうとする麻由。海跳は踵を返して教室に戻ろうとするが、直ぐに振り返って麻由を追い、3Eの前で追い付いて、肩を軽く叩いて呼び止める。
麻由は立ち止まって「はい」と振り返る。何故か、振り返った麻由がとても綺麗に見えた。話すべき話題があるわけでは無い。何を話せば良いかと戸惑ってしまう。だけど、2年間、共に生徒会の仕事を頑張ってきたのに、これで終わりでは早すぎる。
いや、違う、生徒会云々なんて関係無い。麻由と話がしたい。途端に海跳の心臓の鼓動が高鳴る。
「・・・か、葛城」
「はい」
「君は・・・」
海跳は脳内が飽和状態に成り、自分でも何を質問しようとしてるのか解らなくなっていた。つい、口から「君は校長と何か関係があるのか?」と夢で見た話をしそうになって慌てて口籠もる。違う、こんな妄想話をしたいわけではない。自分の気持ちを麻由に伝えたいのだ。
「海跳く~~~ん!!」
「・・・ん?」
このツーショットを全ての者が応援するわけではない。「海跳と麻由はお似合い」「そのうち付き合う」を快く思っていない者がいる。3E教室内でモブと記念撮影をしつつ、海跳のただならぬ雰囲気を察した長澤が、環奈の手を引っ張って寄ってきた。
気持ちを昂ぶらせていた海跳からすれば、凄まじい妨害だ。
「どうしたんだ?」
「もう帰りたいのに、記念撮影ばっか頼まれてイヤんなった!
アイツ等、追っ払って!」
「・・・はぁ?」
海跳は、興味の無い女子に「一緒に写真撮りませんか?」と頼まれてもキッパリと断る。本日、生徒間で撮影した写真は、同性の仲間だけで撮影したのと、同性だけのハズなのに端っこに女子が写った画像のみ。女子とツーショットやスリーショットの撮影など、時間の無駄なので一切受ける気は無い。
環奈と長澤が海跳と一緒になった途端に、記念撮影の無理強いをしてくる者は寄って来なくなった。校内で最もお似合いと思われているのは、「麻由&海跳の優等生ツーショット」だが、「海跳&環奈の3年ツーショット」をお似合いと思っている者も、それなりに多い。
「僕は虫除けスプレーか?」
「うん!海跳君以上の虫除けは無いね!」
「校門まで用心棒をすれば良いのか?」
「うん、お願いっ!」
「ゴメンね、海跳君」
海跳は困っている同級生を突っぱねるほど自己中心では無い。環奈と長澤の求めに応じて学校を出るまでの虫除け係を演じる事にした。
その代償で、麻由と海跳の会話は完全に途切れてしまった。海跳の意思に反して「自分が邪魔だ」と空気を読んだ麻由が「それでは」と集団から離れ、同じ生徒会に所属をしていた3年生メンバーに呼び止められて会話を始める。
海跳も加わろうとしたら、環奈が「守る約束でしょ」って目で海跳を見つめる。海跳からすれば、環奈達はあきらかにお邪魔虫だが、ボディーガードを引き受けた手前、放置をする事が出来ない。
一方、環奈は環奈で必死だ。6年間、ずっと想い続けてきた。接点がわずか2年の頭が固い後輩(麻由)に、海跳を持って行かれたくない。長澤は、自分が介入して、もう一度チャンスを作って環奈にコクらせるつもりでいる。
長澤亜沙美(第35話登場)・3年D組
バスケ部に所属。3年ツートップの1人。田村環奈とは小学校時代からの幼馴染み。文架高に通う咲輝(良太の彼女)と仲が良い。家から通う為に、地元の文架大学を受験した(後に合格)。
田村環奈(第5話登場)・3年E組
演劇部に所属。今年度の優麗高人気トップスリーの一角で、3年生では人気ナンバー1。紅葉と麻由が入学するまでは、優麗高のナンバー1だった。誰と一緒にいても「環奈の引き立て役」にされてしまう為に仲の良い友達は少ない。中学1年生の時から海跳に一途に思いを寄せている。高一の夏と卒業間際に交際を申し込んだが断られた。文系一般のクラスだが、生活態度が良く、勤勉だった為、秋のうちに関東の大学に推薦で進学を決めている。
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卒業生と在校生が、学舎で思い出を語る最後の日だが、鈴木良太はサッサと下校をした。理由は、文架高の彼女が、部活の先輩にコクられて、「彼氏が居ると」と言っても信用してもらえず、「どうしよう?」と連絡が来たから慌ててお迎えに行ったのだ。彼女は、今は部活の打ち上げで、その先輩を含めた多数の部員と駅前のカラオケに行っている。
「現時点での学力スペックは負けてるけど、
あと1年で絶対にソイツを越えてやるぞっ!」
自転車を立ち漕ぎする良太が、駅前のカラオケ店に向かう。
-2年D組-
「結局、オマエとのツーショット写真頼んできたうちで、金を払ったのは1人。
しかも値切られて利益は2000円かぁ・・・。」
「5000円は高すぎますよ。」
「でも、金を払ってでもオマエの写真が欲しい奴は、
それなりにマジって事だよな」
美穂&真奈が話していたら、紅葉と麻由が合流してきた。
「お待たせしました。」
「なにがマジなの?なんの話してたの?」
「ああ・・・3年の中に、真奈を好きっぽい奴が1人いたって話だ」
「そんなんじゃありませんよ。・・・多分」
「んぉっ?マナ、付き合うの?」
「付き合わないよ。全然タイプじゃなかった」
皆が揃ったところで、話題は「それぞれの恋愛歴について」になる。
「紅葉はどうなんだっけ?確か、彼氏イナイ歴=年齢だよな?」
「ん!そ~だよっ!」
「夢で会った男が好きなんだろ?」
「えっ!?紅葉ちゃんの好きな人って二次元?」
「夢ぢゃないもんっ!ニジゲンぢゃないもん!
小学生の時に会った60番だもんっ!」
「紅葉は、ずっと素敵な片想いをしているのですね?」
「小学生で一目惚れして、ずっと引き摺ってるなんて、
『素敵』じゃなくて“病み”だろ?」
「真奈さんはどうなんですか?」
「ちょっと格好良いって人はそれなりに居るけど、
『これだ!』って人は今のところ会った事ないかな。
美穂さんが男子だったら、絶対にコクってますけどね」
「『ちょっとカッコイイ』って例ぇばダレっ?」
「優高だと、冨久先輩がダントツだよね。
でも、一強すぎて、他の男子が普通なのにザコに見えちゃうのが可哀想」
「へぇ?冨久先輩って、そんなに人気あったんですか?」
「麻由ちゃん、ずっと生徒会で一緒だったのに、
冨久先輩を格好良いって思わなかったの?」
「アミの初恋ゎ海跳センパイだよっ!」
「冨久先輩は、頼れる先輩ですが、異性としては特に・・・」
「おいおい、男に興味の無いあたしですら、
冨久と石松だけはマシな部類って思ってるのに、眼中に無しかよ?」
「ミホゎど~なの?高一の時(3年前)、担任のジジイと付き合ってたんだっけ?
カレシ、ミホにヴァルカン託して、ろーすいで死んだんだよね?」
「ジジイじゃなくて新任の若造だっ!ジジイと恋愛するほど飢えてね~!
あたしの事ほったらかしで、外国に行って死にやがったんだよっ!」
新任教師的には「教え子の生徒に付きまとわれただけ」なんだけど、美穂的には付き合ってたつもり。
それまでは話題に加わっていた麻由だが、「美穂がジジイと付き合っていた?」って話になった途端に、俯いて口数が少なくなる。麻由の変化に気付いた美穂が、麻由に話を振ってみた。
「麻由はどうなんだ?
クソ真面目すぎて彼氏イナイ歴=年齢なんだろうけど、結構、モテんだろ?
今まで、何回くらいコクられた?」
「い、いえ・・・告白された事なんて全く・・・」
「前に話した時、ボーイフレンドならイッパイいるって言ってたよね?」
「え?そうでしたっけ?」
「えっ?麻由ちゃん、ボーイフレンドもいないの?」
「なんだ、オマエ、あたし達の前で見栄張ってたのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、はい、すみません」
「相変わらずキャパが狭いなぁ。まぁ、オマエらしいっちゃオマエらしいけどさ」
麻由は咄嗟に嘘をついてしまう。確かに以前、「ボーイフレンドならそれなりに」と話した事がある(第12話)のだが、今更「年配者です」とは説明できない。「ボーイフレンド」を曖昧にした事で、「見栄っ張り」と思われてしまったが、歪んだ交際遍歴がバレるよりはマシだろう。「彼氏イナイ歴=年齢」で通す事にする。
誤魔化す事に必死な麻由は、これが「嘘に嘘を重ねる」ヤバい兆候って事に、まだ気付いていない。
「さて、そろそろ行こう」
恋バナで盛り上がってた仲間達だったが、美穂がスマホで時間を確認して立ち上がる。
「いっぺん帰ってリバサイ(大型ショッピングモール)集合な」
「えっ?えっ?何の話ですか!?」
「決まってんぢゃん!
マユだけ、ジャンヌと一緒に行くのズルいから、ァタシ達も行くの。」
「一度、見てみたかったんだよね。良いよね、麻由ちゃん」
ジャンヌは、麻由の祖父・葛城昭兵衛からハスラーⅢを引き継いだ。だが言うまでもなく、ユニコーンとは違って免許が無いと公道を走れない。だから、今日から、ジャンヌが自動二輪の免許を取得する為に、自動車学校に通う事になっている。
「ジャンヌ1人の為に、4人も付き添うんですか!?」
「なんだ麻由、オマエは行きたくないのか?
だったら、オマエだけ留守番でも良いぞ」
「わ、私が出資するのに、私が行かないわけにはいきませんっ!」
ジャンヌ1人では不安なので初日は麻由が付き添う約束になってるのだが、皆で「付いてくる」と言い出すとは思ってなかった。
「リバサイに送迎バスが来るんだろ?」
「まぁ・・・そうですが・・・」
特に断る理由は無いので、麻由は「皆で教習所見学」を受け入れる。
-文架大橋西詰め付近-
亜美&石松が並んで自転車を引いて歩き、その後ろを、同じく自転車を引いた美希&優花が付いていく。いつもなら、バカップルを置いて、正門のところから自転車に乗る美希と優花なのだが、本日は卒業式ってイベントを終えた直後で、亜美がやや不安になっているのを察した美希が、様子見の為に途中まで一緒に帰る事にした。
「ねぇ、英邦先輩?」
「・・・ぶひぃ?」
「冨久先輩は気持ちを伝えないのかな?」
亜美は、石松から「海跳が麻由に気持ちを寄せている」事を聞いている。先程は、3D教室前で、麻由と海跳が会話をしていたのを見ていた。だけど、事務的な会話のみで特に発展する事は無く、それどころか3年の田村環奈と長澤尚実が割り込んできて、2人の会話は中断されていた。お似合いの2人なのに、傍目に見てもあまり芳しくないように思える。
「海跳は、東京に進学するじゃろからね。
上京前に交際を始めても、あんまり会えなくなるから、
意味が無いと思っとるんよね」
「へぇ・・・そ、そうなんだ?
そ、そうだよね、もう、会えなくなっちゃうもんね」
石松は、亜美が同じ理由で不安に駆られている事に気付いていない。後ろで話を聞いていた美希が「ちっ」と舌打ちをしてから、1人だけ自転車を止めて、スマホを取り出してポチポチ操作する。石松のポケットで、メール通知のコール音が鳴ったが、石松は亜美と会話中なので確認は後回しにする。すると、小走りで自転車を引いて合流してきた美希が、そのままの勢いで、前輪で石松の尻を軽くド突いた。
「ぶひぃ?」
「あっ!先輩、ゴメン!ぶつかっちゃった!」
美希は口では謝罪をしているが、石松が振り返ったら、怖い顔で睨んでいた。なんとなく察した石松がスマホを取り出して確認したら、差出人が美希で「チゲーだろ、デブ!亜美を不安にさすな!」って文字と、「プンプンと怒ったお姫様」のスタンプが貼ってあった。彼女には、石松を先輩として敬う気持ちは無いらしい。
「ぶぅぅひぃぃ・・・
で、でも、そんなのは関係ないと!
あまり会えないなら、会えた時を充実させれば良いとね!
それに、離れたからって、好きな気持ちは変わらんよ!」
「そ、そうだよねっ!私達は、離れてもダメにはならないよねっ!?」
「もちろんばいっ!」
亜美の表情が明るくなった。亜美は石松の「遠距離なんて関係ない」を待っていたのだ。根拠が無くても、彼氏がそう言えば信じる。一連を見た美希は、もう一度自転車を止めて立ち止まり、石松に「次に亜美を不安にさせたら、自転車で猛スピードで体当たりします」とメールを送ってから駆け足で合流をしたが、石松は「絶対に美希からの脅しメールだ」と予想しているのでスマホをポケットに入れたまま確認をしない。
「私、冨久先輩なら、絶対に上手く行くと思うの。先輩、コクれば良いのにね!」
「ぶひぃ・・・そうじゃね。
海跳が生徒会長さんを好いとるんは、間違いなかよ。
多分、1年以上前からとね」
「そっか~。そんなに前から好きだったんだ?葛城さん、素敵だもんね。
でも、本当にコクる気は無いのかな?」
「ぶひぃ・・・もう卒業するから気持ちを伝えても意味が無いとか言って・・・
海跳らしくなかよね。おいには、言い訳にしか聞こえんよ」
「だよね。ウジウジしてるなんて、冨久先輩らしくない」
「生徒会長さんは、海跳の事、どう思っちょるんじゃろか?」
「聞いた事無いから解らない。でも、特定の彼氏はいないみたいだよ。
2人は、絶対にお似合いだと思う!私達で2人をくっつけようよ!」
「ぶひぃぃ?どうやって!?」
「う~~~ん・・・どうしよう?
冨久先輩の事をどう思ってるか、葛城さんに聞いてみよっか?」
「ぶぅ~~~・・・それは厳しいかいのう。
アイツ、多分、他人の力は借りたがらないとね。
海跳を“コクらせる”ように説得した方が良いんじゃなかか?」
「冨久先輩、プライド高そうだもんね。
なら、私と英邦先輩で、冨久先輩にお話ししてみようよ!」
「ぶひぃ!それが良かと!」
自分が満たされていれば、他人に“幸せのお裾分け”をしたくなるお年頃。石松と交際をする過程で、海跳には結構お世話になった(実際には、お世話をしたのは美希で、海跳は役に立ってない)。
亜美と麻由は友達で、石松と海跳も友達だ。石松も海跳も卒業後は上京する。どちらも交際して、グループで行動したりして、亜美&麻由の2人で石松&海跳のところに遊びに行く。1人じゃ不安だけど、優等生の友達と一緒なら何とかなりそう。亜美は、そんな思いを張り巡らせつつ、石松とグルになって、海跳の告白を後押ししようと決めた。
ちなみに、優花と並んで、後ろで話を聞いていた美希は、「海跳のステータスは欲しいが、好きってワケでもない」から、「海跳→麻由」と聞いても「確かにお似合い」と思う程度で特に驚かないし、麻由とは友達ではないので恋のキューピットをする気も無い。・・・てか、亜美と石松で“海跳と麻由”の話題で会話が弾むのは、美希的には不満。
「もっと、ちゃんと愛を育めや」
再び自転車を止めて立ち止まり、スマホを取り出して、ポチポチと文字を入力して送信する。すると今度は、亜美のスマホがLINE着信音をコールする。
「ん?なんだろう?」
確認した亜美は赤面をしてしまった。ディスプレイには、「そろそろ、先輩は止めて『英邦くん』とか『英ちゃん』とか呼んでみたらどうよ」とあり、「ニッヒッヒと悪戯っぽい笑顔」のスタンプが貼られている。




