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36-1・老人達の暴走~麻由の嘘

-夜・サンハイツ広院-


 パジャマ姿の紅葉が、自室でベッドに寝転がってスマホのゲームをしていた。不意にアホ毛がピクンと震える。続いて複数の不気味な獣が人を襲うビジョンが頭に飛び込んできた。


「妖怪!?」


 サッシを開けてベランダに飛び出して精神を集中。場所は紅葉達が頻繁に訪れてるマンション。ベトベトさんと、アカナメと、エンエンラと、天井サガリが、同時に出現した!


「んぇぇっっ!?4匹も!?何で、倒したはずの天井サガリが!?

 ってか、この場所って、マユのマンションなんじゃ!?」


 4匹とも下級妖怪だ。麻由のマンションに出現したなら、麻由とジャンヌでどうにかなるだろう。でも、少し心配なので、スマホで麻由に連絡をしてみる。




-ヘブンズパレス穂登華(麻由のマンション)-


 麻由の部屋で、Hスマホが紅葉の名前を表示してコール音を鳴らしているが、麻由の姿は無い。


「うわぁぁっっっっっ!!!」


 ジャージ姿の麻由が、水の張られた浴槽の中に頭を引き摺り込まれる!浴室の掃除中に4匹の妖怪の襲われたのだ!

 エンエンラが纏わり付いて麻由の視界を奪い、天井サガリに押さえ付けられ、アカナメが浴槽側から麻由を引き摺り込み、ベトベトさんが麻由の背を踏み叩いて浴室に押し込む!


 自分の家で襲われるとは思っていなかったので、Hスマホは部屋に置いてきた!妖怪の正体を知っていて、危害は加えないとタカを括っていたのがミスだった!息が続かなくなった麻由は、大量の水を飲みながら脱力して意識を失う!


「マユユ!どうしたのですかっ!?」


 騒ぎを聞いたジャンヌが浴室に踏み込もうとするが、妖怪が脱衣室にロックがかけていたので入る事が出来ない。


「くっ!何があったのかは解らぬが、扉を破壊して押し入るしか無いか!」


 ジャンヌが丹田に力を込めて気合いを発し、首からぶら下げた懐中時計が反応をして青い光を放つ。


〈ケケーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!〉


 ジャンヌが変身をする直前、浴室内から獣の嘶く声が漏れてきた!




-サンハイツ広院-


「ど、どぅなってんの!?」


 ベランダで麻由のスマホへのコールを続けていた紅葉は、麻由のマンションに5匹目の妖怪が出現を察知する。先に出現した4匹とは格が違う。これまで戦った妖怪と比較すると、巨大化した火車すら凌いでいる。上級クラスの妖怪・サトリだ。これまでは、一瞬だけ出現して、人助けをして痕跡を残さずに消えていた妖怪が、今はハッキリと出現をしている。


「ヤバぃっ!!」


 パジャマ姿のままベランダからダイビング!落下をしながら変身カテゴリーをクリアさせて、妖幻ファイターゲンジの姿で地面に着地をする!

 町中を駆け、東側堤防をダッシュ。文架大橋の照明灯飛び移り、西側堤防ダッシュして、民家の屋根伝いに飛び跳ねて麻由のマンションを目指す。




-ヘブンズパレス穂登華-


「はぁぁぁっっっっっ!!!テュエ・ディユ・セルパン(縮小版)!!!」


 マスクドジャンヌが、奥義で脱衣室と浴室の扉を吹っ飛ばして踏み込む!


「ん!?」


 浴室床に、ズブ濡れの麻由が仰向けに倒れているが、他に変わった事は何も無い。「ケー」という嘶きは何だったのか?麻由が発した声とは思えないのだが、麻由以外は誰もいない。ジャンヌは麻由に寄り添って頬を叩いて声を掛けるが意識が無い。呼吸が有る事を確認してから抱きかかえてリビングに運び、ソファーの上に寝かせる。


ドンドンドン!

 ベランダの窓が叩かれたので、ジャンヌが警戒をしながらカーテンを開けたら、うさぎフォームのゲンジ(紅葉)がゼイゼイと肩で息をしながら立っていた。ジャンヌは変身を解除してから、鍵を開けてゲンジを招き入れる。


「クーチャン?まさか、ジャンプでここまで?」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・

 ジャンプじゃ届かなぃから、途中までジャンプして、あとゎよじ登ってきたっ!

 何があったの?」

「わ、私にもよく解りません。

 浴室で不審な音がしたので踏み込んだら、マユユが・・・」


 ゲンジはジャンヌに促されてソファーで眠る麻由を見て、マスクの下で安堵の表情を浮かべる。


「やっぱ、なんかあったんだ?でも、無事で良かった~~」


 ゲンジは、息を切らせながら索敵をしてみるが、もう妖気は感じられない。5匹とも消え失せたようだ。移動による体力の消耗、且つ、緊張感が途切れた為、変身が解除されて紅葉の姿に戻る。途端に紅葉の腹がグゥと鳴った。


「有り物で良ければ、食事をしていくか?」

「・・・ぅん。なんかある?」


 ジャンヌが苦笑をしながらキッチンの戸棚からカップラーメンを引っ張り出した。




-数分後-


 麻由が意識を取り戻すと、ルームメイトのジャンヌだけでなく、紅葉&美穂&バルが集まっていた。皆、心配そうに、麻由を見つめている。紅葉が出動する際に連絡をして、夜間は外出をしにくい真奈以外の全員が駆け付けたのだ。


「何があったばる?

 まさか、お風呂が大きいから溺れたなんて事はないばるよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ヨーカイと遭遇したのぉ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうした、麻由?まだ意識がハッキリしないか?」


「・・・私は一体?」


 まだ、状況が良く飲み込めていないようだ。仲間達は互いの顔を見合わせた後、先ずはジャンヌが、「浴室で何らかの異変が起きて、駆け付けたら麻由が意識を失っていた」と説明して、続けて紅葉が、「4匹の下級妖怪と、1匹の上級妖怪が同時に出現した」と説明する。

 麻由は仲間達の説明を聞きながら、自分の身に何が起きていたのか、徐々に思い出した。


「私達の周りを彷徨いていた妖怪を、マユユは放置して良いと言いましたが、

 その妖怪達に襲われたのですか?」

「そ、そうね。私の考えが甘かったみたいです」

「ばるっ。ねぇ、紅葉?今まで、こんな事あったばる?

 複数の妖怪が同じ目的で同時に発生するなんて?」

「ん~~~~~~・・・無いとゎ言えなぃケド、ちょっと珍しぃパターンかな」

「複数の奴が、同時に麻由を恨んでる事になるのか?なぁ、麻由。心当たりは?」


 心当たりはある。下級4妖怪に関しては、麻由への愛情が歪んでしまったのだ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 妖怪のうちの1体は、恋人の水戸校長が依り代だ。残る3体は、西村教頭&学年主任&マンションの管理人。彼氏以外の3人も麻由に好意を持っており、理解力の有る彼氏は「麻由が他の男と食事をする」くらいは許してくれる。

 紅葉達と行動を共にするようになり、且つ、ジャンヌが同居をしている為、最近は恋人達と疎遠になっていた。麻由は4妖怪が「自分を求めている」と知っている。

 5体目については、気絶をしていたので解らない。


「こ、心当たりは・・・ありません」


 だけど、こんな事を説明できるわけが無い。麻由は、咄嗟にウソをついてしまう。


「マユユを殺したいほど憎んでいる者が、5人も存在するとは思えません」

「ん~~、ちょっと考えらんない~」

「あたしも同感だ!麻由は、そこまで恨みを買う奴じゃない」

「麻由個人を狙ったってのとは別のセンで、

 たまたま5匹が同時に出現したって考えた方が良さそうばるね」


 皆が麻由の言い分を信じている。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 麻由は誤魔化した罪悪感を感じて、黙って俯いてしまう。次に妖怪達が出てきたら即座に浄化をするべきか、その前に依り代の要望を受け入れて念を晴らすべきか?いずれにせよ、いつまでもこのままでは拙い。

 仲間達は、麻由の思惑など知る由も無く、押し黙った麻由を“落ち込んでいる”と解釈する。


「マユ~、あんまり思ぃ詰めなぃ方がィィよっ」

「紅葉の言う通りだ。

 あたしだって、風呂でアナザービースト数体に襲われたら対応できない」

「念の為、今日はボクがココに泊まって、麻由の護衛をするばるよっ」

「んぁっ!バルミィ、ズルいっ!なら、アタシもっ!」

「紅葉は、パパさんとママさんに黙って出てきたばるよね?

 家に居なきゃマズいばるよ!」

「ん~~~~~~・・・そっかぁ~~~~」


 その日は、バルミィを残して、紅葉と美穂は帰宅をする。




-深夜・海跳宅-


「うわぁぁぁっっっっっっっ!!!!」


 ワケの解らない夢を見て跳ねるようにして飛び起きる海跳。いつもの夢は、起きた途端に半分以上を忘れてしまうのに、「溺れた子供を助ける夢」や「火事になった家から老夫婦を助ける夢」と同じように、今の夢は明確に覚えている。たかが夢なのに、ズブ濡れで倒れている麻由の姿が、生々しく脳裏に焼き付いている。



 「助けて」という声が聞こえる。


 夢の中の海跳は広い浴室に立っていた。意識を失った麻由が床に仰向けに寝かされていて、4匹の醜い獣が群がっている。獣だと思っていた4匹は、良く見たら獣ではなかった。水戸校長と、西村教頭と、2年の学年主任と、見知らぬ老人(マンションの組合長)だ。


「麻由ちゃん、愛しているよ」


 獣のような澱んだ眼をしたジジイ達が、4人がかりで麻由を汚そうとしている。


「やめろっっ!!!汚い手で葛城に触れるなぁぁっっっ!!!!」


 海跳はハッキリと言葉を発したつもりだったのに、海跳の耳には自分の言葉が〈ケー〉という嘶きに聞こえた。

 麻由を守る為に無我夢中だった。先ずは、麻由に覆い被さろうとしていた校長に向かって拳を振り下ろす。海跳の拳は、まるでスイカの果実を叩くように校長の背中を楽々と貫通。風穴の空いた校長は、黒い霧に姿を変えて蒸発をして消える。続けて、見知らぬ老人(マンションの組合長)の顔面を殴ったら、卵を割るかのように簡単に潰れ、校長の時と同じように黒い霧に姿を変えて蒸発をして消えた。


「な、なんだオマエは!?」 「くっ!逃げろ!!」


 教頭と2年の学年主任は、全身を黒い霧状に変えて換気口を伝って逃走をする。海跳は2人を追う。何故かは解らないが、海跳の体は入るはずの無い換気口を潜り抜け、建物の外に出て、自由落下をして地面に着地!並んで逃げる教頭と学年主任に追い付いて手刀で抉った!


「ぐわぁぁぁっっっっっ!!麻由ちゃぁぁぁぁん!!!」

「麻由ちゃん、振り向いてくれぇぇぇっっっっ!!」


 2人は断末魔の言葉を発し、校長達と同じように黒い霧に姿を変えて蒸発をして消える!


 そこで夢は終わった。



「僕は・・・なんちゅー、たわけた夢を見ているんだ?」


 海跳本人が麻由と愛を育む夢なら、思春期と考えれば納得出来る。だけど、麻由が4人の老人に汚されそうになる夢ってなんだ?しかも、怒り狂った海跳が、校長達を片っ端から叩き潰していくなんて、どんな深層心理がこんな夢を見せたのだろうか?


 『麻由ちゃん、愛しているよ』


 夢の中で校長が発した言葉が耳に残っている。夢の所為で、以前見たチョットしたことが妙に気になってしまう。去年の夏、野球部の活動が終わって、帰宅をしている最中、信号機で停車をしていた校長の車の後部座席で麻由に似た姿を見た。窓が閉まっており、しかもスモークが貼られていたので、実際に麻由だったのかどうかも解らない。


「心の奥底で、あの時の事が気になっているから、こんな夢を?」

〈真実カラ 目ヲ 背ケルナ〉

「バカバカしい!葛城のワケがない!」

〈ソウ思ッテイルノハ 僕自身ノ 上ッ面ノ心ダケデハナイノカ?〉

「えぇい!下らない事を妄想するなっ!!」

〈葛城麻由ハ 僕ガ妄想スルホド 清ラカナ 女デハナイ。

 コノ2年間 僕ハ 彼女ノ為ニ 頑張ッテイルノニ 

 僕ノ アプローチニ 全ク反応シナイノヲ 不自然ニ思ワナイノカ?〉

「葛城の為ではない!僕は僕自身の為に努力をしているんだ!」

〈ドウダカナ?

 自分自身ノ為ト言イナガラ 常ニ 葛城麻由ヲ 意識シテイタンジャナイノカ?

 消極的ナンダヨ。 葛城麻由ガ 欲シイナラ 力尽クデ 獲得シロ。

 僕ニハ ソノ権利ガ有ル〉

「僕は・・・何を考えているんだぁっっ!!」


 海跳は、髪の毛を掻きむしるようにして悪心を振り払い、布団の仲に潜り込んで目を瞑る。

 卒業まで、あと僅か数日、次に麻由に会える機会があるとすれば、卒業式前日の予行演習の日。麻由に気持ちを伝えるつもりは無いのだが、「本当に伝えないままで良いのか?」という自問自答が心の中で繰り返され、その日は眠る事が出来なかった。




-ヘブンズパレス穂登華-


 麻由も布団を被ったまま眠れずにいた。麻由が発した嘘を自分自身で困惑していたからだ。皆、麻由の言葉を信用していた。


「今更、依り代は恋人達です・・・なんて言えるわけがない」


 何故、妖怪達が消えたのか解らない。だけど、数時間前に倒したはずの天井サガリが復活をした事を考えると、依り代の思念はかなり深くなっているの。どの妖怪も、また直ぐに出現をするだろう。

 仲間達に嘘がバレない為には、妖怪達の成敗も、依り代の浄化も、麻由自身の手で行わなければならない。

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