35-4・桐生るな~咬合わない会話~19年前
-放課後・2年A組-
生徒会の会議に行った麻由を除いて、昨日に引き続き【愉怪な仲間達】部は定例報告会をする。夜間に鎮守の森公園でサトリの妖怪反応があったが、直ぐに消えたので追跡はできなかった。
「そう言えば、鎮守も森公園と言えば、こんな情報があったよ。関係あるかな?」
真奈がスマホを弄って美穂に見せる。画面には昨日の夜の投稿で「公園は危険だから通っちゃダメ」という注意喚起が書いてあった。優麗高3年生の長澤尚実のX(旧ツイッター)画面だ。真奈は、直ぐに画面を変え、今度は同じく優麗高3年生の田村環奈のXを見せる。こちらにも「公園で拉致られそうになった。近付いちゃダメ」と書いてある。真奈にスマホを借りてスクロールすると、「公園の注意喚起」以外にも、喫茶店でパフェを写した画像や、「私、今から一世一代の大勝負をします!みんな、応援してっ!」って自分に気合いを入れた投稿もあった。同性の美穂が見ても、環奈と長澤のマメな投稿には、一定の女子力の高さが感じられる。ちなみに、環奈の「大勝負」の結果については、特に何も触れられていない。
「オマエ、いちいち、こんなのチェックしてんのか?」
「はい、3年生女子のツートップ、優麗高の憧れの的ですからね。
私以外にも、チェックしてる人は結構いますよ」
「ふぇ~~・・・センパイ達、マメだね~~」
「確かに・・・2年のツートップって噂されてる2人とは、だいぶ違うな」
紅葉のX(旧ツイッター)は基本的に食べ物しか投稿されていない。食べ物以外の投稿を探して遡っていくと4ヶ月前の優麗祭の記事だった。その前の食べ物以外の投稿はバルミィの記事(羽里野山遠足)で、更に遡ると1年前の初詣(紅葉&亜美&美希&優花の振り袖姿)の記事だった。
麻由に至っては、Xもフェイスブックもインスタもやっていない。本人曰く「勉学に必要ありません!そんなものに使う時間があるのなら、英単語の一つも覚えたらどうなんですか!?」らしい。
見た目や行動力では3年生ツートップを凌ぐ2年生ツートップだが、アピール力や女子力では3年生ツートップにコールド負けをしている。
「公園の記事の投稿ゎ、ァタシが妖気を感知したのと同じくらいの時間だねぇ
昨日ゎ公園ゎヤバぃ日だったんだよなぁ~。なんか関係あるかな?」
「関係あるかもしんない。もう少し情報が欲しいな」
「美穂さんて、去年は長澤先輩と同じクラスでしたよね?
何があったのか聞き出せませんか?」
「あれ?同じクラスだっけ?あんま、話したこと無いから覚えてないや」
今まで何も接点が無い長澤尚実に、いきなり「昨日何があった!?」なんて尋ねたら、あきらかに不自然だろう。なによりも、大半の3年生は家庭学習期間なので、環奈と長澤は2月に入ってからは学校に来ていない。どうやって情報を得ようかと思案していたら、良太が廊下を通過するのが見えた。美穂が大声を上げる。
「おいっっ!!桐生るなっ!!」
「・・・・ん?」
「ちょっと話がある!こっち来い、桐生るな!!」
良太が驚いた表情で振り返ると、ドSな笑みを浮かべた美穂が手招きをしている。「桐生るな」ってなんだ?「鬼龍院凱」と「獣騎将ルナティス」がゴチャ混ぜにされて、全く別の女の子の名前にされている。良太=ルナティスとバレないように気を遣ってるのだろうけど「桐生るな」はイヤだ。
「彼女の名前か?」
「良太に彼女が居るわけないだろ」
良太の周りを歩いていたクラスメートが冷やかしながら通り過ぎていく。
(バカにすんな、彼女は居る。ただし『るな』ではなく『咲輝』だ。)
良太は大きく溜息をついてからA組の教室に入る。
「3年の田村と長澤に、昨日、何があったのか聞いてくんない?」
「・・・はぁ?田村先輩と長澤先輩?何で俺が?」
「他にツテが無いから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
良太は、美穂の言い分が全く理解出来ない。美穂にツテが無いのは、まぁ、理解出来るとして、何故、一度も話したことの無い良太が、諸先輩と接触しなければならない?平民の良太に、3年女子ツートップ様との間にツテがあるとでも思ってるのだろうか?
「聞けば良いんだろ、聞けば!
長澤先輩は、確か、咲輝の中学時代のバスケ部の先輩で、仲が良い!」
直接的では無いがツテは有った。
「咲輝って言うのは、下鎮守町より更に東に住んでいる早山咲輝さんだね。
紅葉ちゃんと小学校は別だけど、中学校は同じ東中。
学業は中学時代はトップクラスで、
市内ナンバー1進学校の文架高に進学しました。
お医者様のお父さんの影響で、早山さんも医者を目指しているみたい。
一昨年の年末、鎮守の森公園で鈴木君が不良に絡まれてるのを、
早山さんが助けたのがキッカケになって、交際がスタートしだんだよね」
「逆だ!俺が咲輝を助けたの!!」
「GW中に初キスをして、その後も、たびたびキスはしていますが、
それ以上の進展は無し。
ちなみに、鈴木君のファーストキスの相手は早山さんですが、
早山さんのファーストキスは中学時代に先輩と済ませています」
「うぐぐっ・・・聞きたくない話だけど本人から聞いたよ。
渡帝辺に行ってる奴だろ!」
「夏休み中に、襟周りがルーズな薄着の早山さんを見てムラムラした鈴木君は、
キスをしながら軽く胸を触ったのですが、その時はドン引きされてます。
早山さんは、大学に行くまでは、そういう男女の関係は不要らしいですね」
「故意じゃない!偶然触れちゃったんだ!」
「いいえ、故意です!
数日前からネットで‘彼女と自然に進展する方法’を調べていますよね?
ちなみに、早山さんは、
ご両親から『もう少し頭の良さそうな人と付き合え』と言われています。
つまり、進学先次第ではお預けのまま終わってしまう可能性があるわけで、
鈴木君は、かなり真面目に勉強をやって先日のテストでは学年で32位。
欲望達成の為に、数系特進クラスに入れるくらいまで順位を上げました」
「ふぇ~~~~・・・スゲー!おあずけパワー、スゲー!」
「何で、そんなに詳しいんだ?熊谷、怖いよっ!!」
「真奈、その台詞は、ナレーションに語らせろよ。
・・・てか、その情報、誰も興味ないからイラネ」
「え~~~~~~~~~・・・・・
散々、人の恥を暴露しておいて、興味無しの一言で終わり?」
この人達と絡むと損しかしない。半年前にヒーロー気取り&暴走のツケが、まさか、こんな形で戻ってくるとは思わなかった。良太は頭を抱えてしまう。
-数十分後・川西堤防-
本日の弓道部の練習メニューは基礎体力作り。全員で堤防道をジョギングする。麻由は長距離走は得意だが、言うまでもなく「真面目に練習する男子」には勝てない。スタートは全員一緒だったが、時間が経過すると、「真面目な男子」、「麻由」、「不真面目な男子&真面目な女子」、「不真面目な女子」くらいの塊になる。
後方から、女子部員の「こんにちわっ!」なんて黄色い声が聞こえたが、麻由は気にせずに走っていた。
「よぉ、葛城。お疲れさん」
「・・・あら?」
後ろから声を掛けられたので横目で見たら、ジョギング中の海跳が追い付いてきて麻由と並走をする。後方の女子達は、海跳との遭遇に黄色い声を上げていたようだ。
「今日のメニューは基礎トレか?」
「はい。先輩は自主トレですか」
「まぁな。勉強漬けで鈍った体に喝を入れている」
「先輩のご自宅は川東でしたよね?
頻繁にこちらの方に走りに来られるのですか?」
「普段は、鎮守の森公園や川東の堤防をジョグするのだがな。
今日は、たまたまだ。
昨日の夜の事件で公園に警察やマスコミが集まっていて、物々しいからな」
海跳は弓道部が堤防を走ってるのは知らなかったので、実際に偶然なのだが、「こっちを走れば麻由に会えるかも」的な下心は少なからずあった。そして、実際に会えた事は嬉しい。
「なぁ、葛城」
「はい」
「君はバイクには興味はあるか?」
「憧れはありますが、在学中は原動機付自転車までしか許可をもらえません。
先輩のように教習所に通える事を羨ましく感じています」
「原付でも良いから取得をしたらどうだ?夏になったらツーリングに行こう」
「え?そ、そうですね。楽しそうですね。でも、先輩、なんで私なんかと?」
「決まっているだろう。君とツーリングをしたいからだ。
いや待てよ、僕が大型2輪に乗るのに、君が原付ではサマにならんな。
君は、僕の後ろに乗って欲しいのだがな」
「えぇぇ!!?じ、実は私も同じ事を!!
私、今まで隠していましたが、以前から先輩の事が・・・」
「皆まで言うな。こういう台詞は、男の方から言うべきだ。
葛城麻由、僕と交際をしてくれ!」
「はいっ!嬉しいです、海跳先輩!」
眼に涙を浮かべた麻由を、海跳が優しく抱擁して、ハッピーエンド。
上記みたく成ってほしいな~って、チョッピリ期待したんだけど・・・。
「なぁ、葛城」
「はい」
「君はバイクには興味はあるか?」
「いえ、全く」
「そ、そうか」
ダメだ、バイクには全く興味が無いらしい。海跳的には「ツーリングに行く」展開を期待していたが、見事な空振りで会話が終わってしまった。
(何を話せば会話が弾む?)
勉強もスポーツも人間関係も、それなりに無難に熟している自信は有るのに、何が足りないのか解らない。亜美と石松の会話を聞いてると、どうでも良いような下らない話題で盛り上がる。亜美は雄弁ではないが、石松がドラマや雑学の話をしたり、おちゃらけたりして、会話が途切れる事が無い。海跳だって、話題のドラマやバラエティ番組は見るし、雑学知識なら石松に負けない自信は有る。だけど、どのタイミングで、そんな話をすれば良いのかが解らない。「コンブが海の中でダシが出ないのは何故か知っているか?」等と雑学の質問をしたり、「道という漢字は生首で・・・」と雑学知識をひけらかせば間が保つのだろうか?
「・・・ん?」
校長先生が堤防上に突っ立って、何か言いたそうな表情で麻由と海跳を眺めている。海跳は通過をしながら挨拶をした。
「なぁ、葛城。弓道部の顧問は校長だったかな?」
麻由には、校長が此処に居る理由が解っている。麻由を眺めに来ているのだ。弓道場で行射の練習をしている時も、「全国大会に進出する可能性を秘めた生徒を見たい」って理由を付けて、時々、弓道部に見学に来る。以前ならば、部活終了を待って校長がデートに誘い、麻由は応じていた。
「こ、校長先生は、たまたま散歩をしているだけでは?」
「・・・なるほどな」
情事を知らない海跳は、麻由の意見に納得をする。
「それじゃ、お先に」
もう、会話のネタが無い。間が保たないので、海跳はジョグのペースを上げて麻由を置いていく。
〈今スグ 戻ッテ 抱キ締メロ・・・人目ナンテ 気ニスルナ〉
海跳は、ふいに沸いた悪心を、「弱い心」として脳内から掻き消して、ハイペースでジョグを続ける。
「僕はバカか。・・・そんな事、できるわけがないだろう」
堤防が眺められるビルの上で、麻由のストーカー(後見人)の龍山剛太郎が、海跳を眺めていた。
-19年前・鎮守町付近-
まだ聖幻ファイターのデビューをして日の浅いヤク○(龍山剛太郎)が妖怪を追う。同様に、年齢は若いが妖幻ファイターとしてはベテランのハーゲン(源川有紀)が同じ妖怪を追う。2人に共闘の意思は無い。互いに、「目障り」に思いながら、任務遂行の為に標的を追っている。
追われている妖怪はサトリ。心を読む特殊能力が「ハーゲンとヤク○が意思の疎通をできていない」事を把握する。サトリは大通りに飛び出して通過する車の屋根に飛び乗った。車は文架大橋を西に走る。ヤク○は慌てて進行方向を変え、サトリの乗った車から5台後ろの車の屋根に飛び乗った。一方のハーゲンはバイクを駆ってサトリを追う。車が文架大橋西詰めの信号機で停車したので、バイクを駆るハーゲンがサトリとの距離を詰める。
〈シャァァァッッッッッッ!!!〉
サトリは、ハーゲンを引き付けた上で、飛び上がって中央分離帯を越え、右折をしてきた対向車の屋根に着地をした。ハーゲンは信号機で足止めをされてしまう。
「しまった!!」
ハーゲンはマスクの下で苦々しい表情になる。緊急時とは言え信号無視は拙い。一方のヤク○は、中央分離帯を飛び越え、サトリが乗った車の3台後方に移ろうとする。しかし、車の屋根をポンポンと飛び移ってきたサトリに、着地の瞬間を狙われて蹴落とされて地面を転がる。サトリは走り去っていく車の屋根で、ハーゲンとヤク○を嘲笑った。
「チィィ!」
ヤク○は体勢を立て直して、炎虎(指ミサイル)の照準をサトリに合わせる。しかし、直ぐに構えを解いた。普段ならば、職業柄、街中での白昼堂々の発砲は有りだが、変身をしたヒーローが街中で発砲をして無関係の人を巻き込むワケにはいかない。
妖怪サトリは人の心を読む。ハーゲンやヤク○が「次にどう行動するか?」の思考を読んでいるので、捕まえる事ができない。彼等が街中で無茶をできないのも読んでいるので、あえて大通りに誘い込んだ。ハーゲンとヤク○は、「これ以上の追走は難しい」と悔しい思いをしている。サトリは、彼等の「悔しさ」を読んで笑うと、車の上から飛び上がって鎮守小学校の屋上に着地をした。振り返って文架大橋方向を見下ろすと、バイクを駆るハーゲンと、地面に立つヤク○が見える。彼等から逃げ切るのは今回で7度目になる。
サトリは、今のところ討伐対象になるほどの悪事は働いていない。適当に目立つ悪戯をして退治屋達の出動を待ち、逃げ切って嘲笑う愉悦を楽しんでいる。完全な愉快犯だ。だからこそ、毎回からかわれているハーゲンとヤク○は腹立たしくて仕方が無いのだ。
〈ケ~ッケッケッケッケ!!〉
甲高い笑い声を上げ、踵を返して、その場から立ち去ろうとする。
〈ケケッ!?〉
目の前に身長2m50cmを越える大きな鬼が立っていた。いつの間に接近された?鬼は鋭い爪を振り上げている。鬼の心に有るのは明確な破壊衝動のみ。その心中に「どう攻撃するか」等という細かい思考は無い。
「騒がしい!静かにしてろ!」
サトリが鬼の顔を見上げた時には、鬼が振り下ろした手刀が、サトリの上半身と下半身を分けていた。ハーゲンやヤク○をコケにするほどの実力を持つサトリだが、読んでも意味の無い意思と、全てを踏み潰す絶対的な破壊の前には無力だった。
鬼は下半身と腕を失ったサトリの首を掴んで、ゆっくりと力を込めた。千切り落とされたサトリの下半身が闇の煙となって蒸発する。
「オマエがウロチョロすると、妻の機嫌が悪くてな。
個人的な恨みは無いから完全に潰しはしないが、しばらく温和しくしてくれ」
〈オマエハ・・一体?〉
「酒呑童子。
一端の妖怪であるオマエなら、名くらいは聞いた事くらいはあるのだろう?」
〈バカナ・・・酒呑童子ハ 死ンダト 聞イテイタゾ〉
「ふんっ。確かに、つい先日までは死んでいたが、内助の功で復活したのだよ。
僕は妻と子作りがしたいのだが、オマエがチョコマカと動き回る所為で、
妻にずっと待機命令が出ていてな、一向に子作りをさせてもらえんのだ」
〈ソンナ・・・下ラナイ理由デ・・・〉
「下らない?『愛』は下らぬものではないぞ。
『愛』が有ればこそ、僕は1年程度で復活をする事ができたのだからな」
酒呑童子が、掴んでいたサトリの首に軽く力を込めてへし折る。サトリは、血の代わりに、口から大量の闇を吐いて脱力をした。酒呑の目的は、悪事を働いた妖怪の討伐ではなく、騒がしい妖怪の一時的な無力化。愛しき妻と、ゆっくりと語らいたいだけ。酒呑は、虫の息にしたサトリを、亜弥賀神社の方に放り投げる。龍穴のある神社付近ならば、比較的早くサトリのダメージを回復させると考えたのだ。
「しばらく寝てろ!」
ヤク○は、鎮守小前の歩道から、酒呑童子の圧倒的な戦闘力を見上げている事しかできなかった。
鬼の頭領が戦いに参加をしたのは、剛太郎(ヤク○)が知る限りでは、この時の1回のみ。以後、とてつもない怪物は、人間との共存を望み、その力を眠らせて、人間社会に溶け込んで生きている。
-今に至る-
ビルの上の剛太郎が海跳の背中を見つめる。
19年前に無力化をされて捨てられたサトリは、その後、どんな経緯を辿ったのかは知らないが、人間の姿で復活をしている。温和しく少年の人格の中に潜んでいれば問題無いが、暴走をすれば確実に討伐対象になる。
「知り合いだから見逃す・・・と言う選択肢は許されない」
優しすぎる麻由に、サトリの討伐なんて出来るのだろうか?心配で仕方ない。だけど、あえて手助けはしない。天の巫女の力は、教わる物ではない。経験する事により、自分で掴み取るのだ。




