35-3・弁才天ユカリ~良太と新斗~麻由の焦り
-海跳の家-
「・・・ん?」
我に返る海跳。自室で椅子に座ってテレビを見ている。スポーツニュースが始まったところでテレビを点けて、今はニュースが終わっているので、相応の時間が経過をしている。だが、ニュースを見た記憶が無い。見ていたはずなのに、いつの間にか終わっていた。
「・・・疲れているのか?」
野球に打ち込んでいた時期や、根を詰めて受験勉強をしていた時期に比べれば、疲れているはずはない。最近、希に同様の現象が発生する。受験勉強中にも係わらず、数十分ほど記憶が飛んだり、ジョギングしていたのに、いつの間にかベンチに座っていたり、気付いたら30分以上も入浴していたり・・・。
そして、そんな日は決まって不思議な夢を見る。車に轢かれそうになった老人を助ける夢や、川で溺れた子供を救う夢。
「・・・痛っ!」
腕が痛むので確認したら打ち身があった。
「何処でぶつけた?」
室内で暴れた記憶はない。昼間、帰宅中に、暴走バイクに接触されそうになった時に、何らかの理由でぶつけたのだろうか?それを今まで気付かなかった?納得できないが、他に原因は思い当たらない。
テレビのチャンネルを変えて、面白そうな番組が無い事を確認した後、電源をオフにして、スマホで中古バイクの検索をする。せっかく大型二輪の免許を取るなら、そこそこ排気量あるバイクに乗ってみたい。可能ならば麻由を後ろに乗せて走りたい。
麻由は、出会った頃に比べて、だいぶマシには成ったが、まだそれでも目を離すと危険な部分があるように思える。もうしばらく傍に居て麻由をサポートしてやりたい。彼女の変わりゆく様を見届けたい。海跳自身の力で麻由を導きたい。だけど志望校に合格すれば文架市を離れる事になる。もう時間が無い。
「いっそ、不合格になって、文架市の予備校に通った方が・・・
くっ!僕はバカなのか!これまで打ち込んできたことを否定してなんになる!?
葛城の為に1年間を棒に振るなど、有り得ないことだ!」
石松と亜美の交際が成立するとは思っていなかった。卒業寸前で告白など「馬鹿げている」と思っていた。だが、2人は卒業間際の今を充実させている。石松の上京がキッカケで別れるかもしれないが、別れずに続く可能性だってある。だが交際をしなければ「無関係な人間」として離れ離れになって縁は切れる。海跳は、石松を「愚か」と思うのと同じくらい「羨ましい」と感じている。
妙に達観してる海跳だが、一般的な思春期の男子だ。「麻由の真剣な表情や笑顔」や「麻由から漂った甘い香り」を思い出して鼓動が早まる。
〈悩ムナ・・・力尽クデ 手ニ入レロ・・・カッサラエ〉
「僕は何を考えている!?」
やるせないジレンマと、ふいに沸いた悪心を、「弱い心」として脳内から掻き消そうとする。全身から僅かに闇が発せられて直ぐに消えた。
「スポーツで健全に体力を燃焼させてないから、不健全な事を考えるんだ」
身体を動かさないとストレスになるようだ。海跳は、妙なモヤモヤ感を発散するべく筋トレをする。
本日、海跳が見た夢は、公園で暴漢数人と大立ち回りをする夢だった。夢の中の海跳は、ナイフを持って飛び掛かって来る連中を軽々と蹴散らし、バイクに乗って襲いかかる連中を力業で押さえ付けて、バイクごと投げ飛ばしていた。
-鎮守小(海跳の家の近所)の屋上-
手摺りに凭れ掛かり、弁才天ユカリが海跳の家を見下ろしている。
「ふんっ、持って生まれた力を扱う術を知らず・・・
天の巫女(麻由)と同じ、面白味の無い奴みたいね」
公園で発生した妖気を追ってきたら、ここに辿り着き、かなり上等な遊び道具を発見した。だが、クソ真面目と言う人格に、上等な怪物が封印されている。心を少し壊してやれば、解放をされるのだろう。
『この女は・・・誰よりも孤独な女だ。
他者を傷付けて成り上がる野心は欠片も無い』
『汝は、拠り所を求めているだけ。拠り所が無いゆえに暴走しているだけ』
『生きよ・・・それが王が家臣に下す、最後の命令だ!』
「・・・チィィ」
ヴラドの言葉を思い出す。心の内側を見透かした言葉は、何度思い出しても苛立つ。ユカリは愉快犯ではないので、目的無く手を下すつもりは無い。それに、今更、セラフやゲンジに手駒を嗾けて争うつもりも無い。
海跳の家から視線を外し、文架市街地の夜景を眺める。過去の宿敵達は様々な戦いを経験して、2ヶ月前(リベンジャー戦)に比べて底力は上がっているようだが、楽勝出来るはずのザコ(泥田坊や片輪車)を相手に苦戦をしたり、サッサと祓えば良い幽霊とレースをしたり、無駄な労力ばかりを消費している。「ツヨシやヴラドを倒した強さは何だったのか?」「別人なのか?」とさえ思えてしまう有様だ。
「歯痒い小娘達・・・直ぐそこ(海跳の家)で眠っている怪物を見過ごすか、
あるいは気付いて処理をするか、ジックリと見物させてもらうわ」
-麻由の寝室-
もくもくもくもく・・・もわもわもわ・・・
麻由がベッドに入って、スマホのチェックをして「さて寝よう」と部屋の電気を消して目を閉じた途端に、顔のある煙が出現して、間近で麻由の寝顔をじっと眺める。麻由は目を閉じただけで、まだ眠りに落ちたわけではないので、ハッキリと視線を感じるが、あえて相手にしない。
(こっちからも、催促が来ちゃったわね)
もくもくもくもく・・・もわもわもわ・・・
麻由の寝顔をガン見しているのは、妖怪・煙々羅。煙の中に顔が浮かび上がった妖怪だ。監視されてるみたいでウザいけど特に危害は加えてこない。
麻由は、ベトベトさんとアカナメだけでなく、煙々羅に付きまとわれている理由と、依り代が誰なのかを知っている。マンションの組合長をしているお爺さんの「麻由を大切にする」心が、妖怪に憑かれたのだ。少々目障りだが、わざわざ倒さなくても欲求を解消させてやれば消えるだろうから、そのまま放置をする。
-翌朝・2年D組-
「おはよう、ニート!」
「ん?あぁ・・・おはよう。どうしたの?」
登校してきた尾名新斗に、良太が寄って話し掛ける。
「先日、カツアゲされそうになったのって君なんだろ?」
「・・・え?誰に聞いたの?」
「ちょっと、噂でね」
この一件は、数日前に、紅葉や美穂にも聞かれた。呼び出された時は「美少女グループの誰かにコクられるのか」と期待したが、違ったのでガッカリした。女の子達の前で「カツアゲされた」とは格好悪くて言えないので、その時は「僕じゃない!」と言って、質問を回避して逃げた。
「カツアゲされそうになって、助けられたんだよな?」
「う・・・うん」
「どんなヤツに助けられた?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「正義の味方を目指す俺としては、
文架の治安を守る同志の事を知っておきたいんだよ!」
「ふん!ヒーローオタクめっ!
僕を助けてくれた人と鈴木君じゃ、同志になんて成れないよ!」
「ん?どういう事?」
「助けてくれたのは、3年の冨久さん!
悪いけど、君と冨久さんじゃ、格が違いすぎて同志なんて無理だ!」
「・・・ん?前の生徒会副会長の冨久先輩?」
「あぁ、そうだよ!
ヒーローごっこの君とは違う!あの人は本物のヒーローだよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
良太は首を傾げる。話が噛み合わない。てっきり「妙な人外に助けられた」って話が聞けると思ったのに、尾名の救世主は優麗高の先輩だった。紅葉達の話では、彼女達は妖気反応を察知して現場に駆け付けたのだ。紅葉達が言ったカツアゲと、尾名が遭遇したカツアゲは、別の事案なのか?
「その後、冨久先輩は?」
「直ぐに、どっかに行ったよ!」
「そのカツアゲ以外で、前後2~3日でカツアゲされたりしてない?」
「してないよ!僕は、週に何回もカツアゲされるほどバカじゃないっ!
「う~~~ん・・・そっか」
確かに、優麗高内でも人格者として慕われている冨久海跳ならば、同校生徒の危機に遭遇すれば、見て見ぬフリはしないだろう。ただし、不良を伸すって力業な手段が彼らしくない。彼ならば、もう少しスマートな手段で尾名を助けそうな気がする。
「若干の違和感はあるけど・・・まぁ、人外云々に比べれば些細な問題か」
良太は「尾名のカツアゲ」と「紅葉達が追っている妖怪」は無関係と結論付ける。
-昼休み・2階廊下-
紅葉が美穂&麻由&真奈が立ち話をしていたら、いきなり悪寒が走ってアホ毛が立ち上がる。天井に、変な奴がいた。醜い顔つきで、ボサボサ髪の巨大な頭から手足が生えて天井に貼りついて、じ~っと仲間達を見下ろしてる。妖怪・天井下がりだった。
「紅葉っ!麻由っ!」
「ぅん、解ってるっ」
(・・・・ええ~~~~~~~~~~~~)
麻由は天井下がりが現れた理由を察していた。学年主任を放置していたから「麻由を見つめていたい」って心に憑りついて出現したのだ。うっかり「わざわざ祓わなくても私がデートを」と言いかけて、慌てて喉の奥に引っ込める。
「任せてっ!あんなザコ、変身するまでもなぃょっ!」
Yスマフォに指を滑らせて、清めのハリセンを召喚。九字護身法を唱えながらジャンプして、天井下がりを叩く。一撃で浄化された天井下がりが、呻き声を上げながら直径1センチくらいに縮まった。
「どうすんの、これ?コレクションに加えんの?」
「んぁ~・・・・ぃらねっ。天井にくっついて歩くくらぃしか、使い道ねぇもん。
逃がしてゃるから、どっか行っちゃぇっ!」
紅葉が拾って窓から捨てた。麻由は小さく溜息をつく。ショボい妖怪が自分に纏わり付くだけなら構わないが、このままでは皆に迷惑かかる。どうにかしなければならない。




