35-2・環奈玉砕~海跳の怒り~公園の無法者達
海跳が会話のネタを考えていたら、スマホがメール着信音を鳴らす。未だに補習に捕らわれている出来の悪い友人=石松からだ。「生徒玄関で待つ」とメッセージが入っていた。
「待ち人、来たる・・・か」
2人揃って生徒会室から出て、階段を1階層分降りたところで別れ、麻由は仲間が待つ2A教室へ向かう。海跳が階段を駆け下りて生徒玄関に到着したら、石松が亜美と共に待っていた。
「こんにちは!」
「なんだ?平山も一緒か?僕が待つ必要はなかったな」
「ぶひひっ!たまには3人で飯でもどうかと思ってのう」
「まぁ、良いだろう。僕が邪魔じゃなければな」
「邪魔なんて・・・そんなわけありませんよ」
「了解。どこに行く?最近の僕は暇人だ。どこにでも付き合うぞ」
3人が校舎から出たら、3年D組の女子=長澤尚実が待機をしていた。
「冨久くん、チョット、時間ある?」
「・・・ん?なんだ?
君は補習組ではないだろうに、なんで学校に?」
「冨久君に会って欲しい人がいてね」
正門のところに隠れていた美女が顔を出す。だけど、恥ずかしそうに眺めているだけで寄ってくる気配が無いので、長澤尚実が寄って行って腕を掴んで引っ張ってきた。
3年E組の田村環奈。彼女も補習組ではない。E組(文系一般)の生徒だが、勤勉で内申点も良く、一足早く関東の私立大学への推薦に合格をしている。今は長期春休み中で、登校をする理由は無いはずだ。
「何故、田村が学校に?」
「海跳君が来てるって聞いたの!」
「・・・ん?」
海跳が学校に来た事は、先生以外では麻由と石松しか知らない。海跳が石松を睨み付けたら、石松は笑みを堪えつつ目を逸らしてしまう。なるほど、情報源は石松らしい。事情を知らない亜美は「何事か?」と首を傾げ、長澤尚実は「頑張れ!」と環奈の背を押す。
「海跳君!ずっと好きでした!付き合って下さい!!
良かったら、一緒に卒業旅行に・・・・・・」
「すまん、君とは付き合えない」
「がび~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!!」
即死。サクラチル。初々しい告白から拒絶まで僅か3秒。今年度の優麗高美少女トップスリーの一角が、白目を剥いて変顔で固まる。高1の時は「野球と勉強以外は考える余裕が無い」とフラれた。だから「野球も勉強も終わっている今ならば!」と高校生活最後の大勝負をしたが、またフラれた。3年生で最も多くの男子から告白をされた田村環奈の、高校時代の恋愛戦績は2戦2敗(同じ人に2連敗)で終わる。
「うわぁ~~・・・返事、早っ!!」
「ぶひぃ~~~~~・・・おいん聞き間違いかな?
今、田村が喋り終わる前に、お断りされっしもうたよね?
1秒も悩んどらんばいね?」
見守っていた石松が驚いてる。亜美はこの場に居にくい。変顔でフリーズ中の環奈に、掛けるべき言葉が見付からない。
「チョットくらい考えてよ!」
長澤が不満そうな表情で海跳の前に立った。
「環奈の、何がダメなの!?」
「『何がダメ』と言われてもなぁ」
「ずっと、冨久君のことを想い続けていたんだから、気持ち汲んであげなよ」
「気が無いのに受け入れるのは、田村に失礼だろう?」
最初は戸惑った海跳だが、前髪を整えてメガネ上げて、冷静さを保つ。
「田村の器量と積極性なら、
その気になれば、直ぐに僕以上の相手を見付けられるさ。
それに、失恋を癒やしてくれる素晴らしい親友もいるのだからな」
「・・・ふ、冨久くん」
流石は、冨久海跳と言うべきか。女心はまるで解らないが、人心掌握能力は高い。交際は断固拒否しつつ、環奈を褒め、且つ、長澤まで褒めている。これで、フリーズ中の環奈のフォローは、長澤が引き受けてくれるだろう。海跳は、長澤に「頼んだよ」と言い残して、その場から立ち去る。
「のう、海跳?OKしても良かったんじゃなかとね?」
正門から出たところで、石松が海跳に話しかけた。
「先程も言ったが、好意が無いのに交際するのは失礼だ」
「交際しとるうちに好きになることだってあるやろうに」
「それに“”卒業旅行”というのは拙速すぎて気に入らん」
田村環奈は「あげても良い」つもりで勇気を振り絞った。だが、その勇気を蛮行を解釈され、逆効果になってしまった。実にクソ真面目で融通が利かない海跳らしい判断だ。
「どうせ“例の彼女”には気持ちを伝える気は無いんじゃろ?」
「余計なお世話だ」
「え?冨久先輩、好きな人がいるんですか?英邦先輩は知っているの?」
海跳と石松の会話に、亜美が割って入る。海跳は、亜美の初恋であり、女子達からは断トツの人気を誇っていたにも係わらず浮いた噂が全く無い。そんな海跳に「好きな人がいる」と知った亜美は興味を持ってしまう。
「ぶひぃ!知っとるよ。2年の・・・・」
「たわけっ!余計なことは言わんで良いっ!!」
即座に口止めをされた。海跳が珍しく怒鳴り声を上げたので、石松は黙り、亜美は追究をやめる。
-仁共町-
文架大橋西詰めにある龍神ビルが見えてきた。1階は龍神うどん本店。2階はうどんカフェ・ドラゴン。
ちなみに、龍神うどんを大型チェーン店にまで経営を拡大させたのは龍山剛太郎だが、今は経営権を他人に売却して、大切な“お嬢様”のストーカーになっている。
「おいは、1階の龍神うどんで特盛りうどんが食いたいのう」
「ならば、オマエはうどんを食ってろ。僕と平山は、2階で軽食を食べる」
「ぶひぃ!それはなかとねっ!!
こういう時は、『一緒に軽食にしよう』と誘うもんたい!」
「なんだ、誘って欲しかったのか?」
「当然たいっ!」
「だったら最初から、足並みを乱すようなことは言うな」
「ぶぅぅひぃぃっっっっ!!!」
「あははははっ!相変わらず、仲が良いですね!」
うどんカフェで軽食を取ることに決まった。待っていた信号機が青に変わったので、3人は揃って歩道から横断歩道に出る。・・・その時。
ブロロロロロロロロロッッッ!!!
歩行中の3人などお構い無しに、2台の暴走バイクが左折してきた!恐怖で足がすくむ亜美!
「危ないっ!!」 「きゃぁっっ!!」 「ぶひぃぃ!!」
無我夢中で、亜美に突進して抱きかかえる海跳!共に、センターラインを越えた反対側の横断歩道を転がる!石松は足を縺れさせながら後退して、歩車道境界の縁石につまずいて尻もちをついた。
咄嗟の判断で、バイクとの接触は回避できた。暴走バイクは「ひゃっひゃっひゃ」と大声で笑いながら走り去っていく。
「ぶひひっ!2人とも大丈夫とねっ!?」
石松が駆け寄ってきた。海跳は、亜美の介抱を石松に任せて立ち上がる。
「最低な奴等とねっ!」
「す、すまん、平山。怪我をさせてしまった」
「だ、大丈夫です。助けてくれて、ありがとうございました」
亜美は気丈に振る舞うが、動揺を隠しきれない。轢かれかけたのだから当然だろう。暴走バイクの後ろ姿を睨み付けた海跳の足元に、僅かな闇が上がる。
〈・・・屑ニ鉄槌ヲ〉
例えようのない衝動に駆られる。だが、直ぐ「僕らしくない」と冷静さを取り戻した。亜美が当てられたならともかく、無事なのだから深入りをせずに忘れるべきだ。
所詮は、いかついバイクが無ければ何も自己主張できない負け犬。相手にする価値なんて無い小者だ。この悔しさは、自分を高める原動力にする。自分がやがて権力を持てば、あんな小者など、高見から見下すことも、容易く支配することもできる。
海跳の足元から上がっていた闇が消える。この程度の闇の量と発生時間では、よほど近くに居ない限り、紅葉や麻由でも気付けないだろう。
-穂登華町-
トコトコトコトコ×2
下校中の麻由の身近で足音が2つ聞こえる。1つは麻由の足音、そしてあと一つは麻由の直ぐ後ろ。しばらくは足音を無視をしていた麻由だったが、軽い溜息をついて立ち止まって端に避ける。
「ベトベトさん、お先にどうぞ」
トコトコトコトコトコトコトコトコ
麻由に道を譲られた“足音”は、麻由を追い越してしばらく歩いた後に消えた。この足音に尾行されるのは、今日が初めてではない。足音の正体は、妖怪・ベトベトさん。ストーカーチックで気持ち悪いが、人間の後をつけてくるだけで特に危害は加えない妖怪だ。
-夜・亜美の家-
石松からのLINEメッセージで、亜美は「海跳の意中の相手は、2Aの葛城麻由」と知った。
「え~~~~~~~~~っっっっっっ!!!そうだったのぉぉっっっ!!!!?」
亜美は、足の擦り傷のことを忘れて、自室で大声を上げて驚く。友人の美希が、「アプローチをしても全く隙を見せない」と零していたが、2学年で人気トップの女帝がライバルでは相手が悪すぎる。もし付き合ったら、まるで隙の無いベストカップルだ(実際は隙だらけ)。
-麻由のマンション-
ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・ぺろぺろぺろぺろ
麻由とジャンヌが入浴を終えてリビングで寛いでいたら、浴室から妙な物音が聞こえてきた。ジャンヌが首を傾げて確認に行こうとするが、麻由が止める。
「害は無いから、放っておけば良いですよ」
ガサゴソ・・・ガサゴソ・・・ぺろぺろぺろぺろ
浴室内で蠢いているのは、妖怪・アカナメ。その名の通り、浴室に付いた垢を舐めているのだ。ヘンタイチックで気持ち悪いけど特に危害は加えてこない妖怪だ。基本的に、浴室の清掃は入浴前に行うので、入浴後の浴室が汚れているのは仕方が無い。
「早めにデートしなきゃね」
麻由は、ベトベトさんとアカナメに付きまとわれている理由や、依り代が誰なのかを知っている。水戸校長と西村教頭の「麻由を愛おしむ」願望が妖怪に憑かれたのだ。つまり、妖怪発生の原因は、麻由にもあるの。少々目障りだが、わざわざ倒さなくても、欲求を解消させてやれば消えるだろうから放置をする。
―鎮守の森公園―
公園内での焚き火は禁止なのだが、燃えさかる焚き火の周りに革ジャン&革パンツ&ブーツの連中が数人集まっている。昼間、亜美をバイクで轢きそうになった男達も居る。
半年前(外伝・鈴木良太)に、ウサギ仮面(獣騎将ルナティス)によって壊滅させられた卑夜破呀の復活祭だ。復讐をしたいのだが、肝心なウサギ仮面の正体が解らない。だから、派手に暴れてウサギ仮面を誘き出そうと考えている。
その日は、年に何度かある“亜弥賀神社付近に霊気が集まりやすい日”だ。彼等が、集合場所に此処を選んだのは、彼等の邪気が引き寄せられたから。そして、邪気を持つ者以外にも、一定の霊感がある者は無意識に引き寄せられてしまう。
「元気出しなって。東京で、いい男見つけて見返してやんなよ」
「・・・・う~ん」
「環奈の魅力を解らない冨久君がマヌケなの」
「・・・・でもぉ」
「まだ諦めてないの?」
「・・・・う~ん」
田村環奈と長澤尚実が歩いてきた。【環奈を励ます会】を開催して、喫茶店でパフェ食べながら愚痴を聞いて慰め、カラオケでストレスを発散して帰宅する途中だ。
「やるか」 「あたりめ~だ」
“大当たり”の2人を見つけた卑夜破呀の面々は揃って目をギラと光らせて、申し合わせたように近付く。ナンパの体裁で声かけるような甘ちゃんではない。相手の意思など関係無し。腰から引き抜いたのは「それ、熊でも解体すんの?」って巨大なナイフ。防犯灯を反射して刃が光る。
「ひゃはあっ!!」 「ちょっと一緒に来いや!!」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!」×2
女子2人が悲鳴を上げる。卑夜破呀メンバーは有無を言わせず環奈と尚実の腕を掴んで、ナイフで抵抗意思を削ごうとする。
「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」
いきなり、獣の雄叫びのような不気味な声が響き渡った。
「なんだ?犬か??」
「犬の鳴き声じゃね~よ!」
「もしかしたらウサギ仮面!?」
警戒して臨戦態勢になる卑夜破呀達。
その隙に尚実が環奈の手を引いて逃げ出した!20mほど距離が開いたところで卑夜破呀達に気付かれる!
「逃げやがった!」 「追え追え~~!!」 「ひゃはあっ!!」
此処は鎮守の森公園の真ん中。公園の外までは、かなり距離がある。追い付いて、女達を捕獲するには充分余裕が有る。逃げる獲物を追うのも楽しみの1つ。卑夜破呀達が奇声を上げながら、環奈達を追おうとする!
「ケーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!・・・屑ニ鉄槌ヲ」
何処からやって来たのか解らない。いつの間にか、逃げる環奈達と、追う卑夜破呀達の間に、全身が毛で覆われた怪物が立っていた。卑夜破呀達は「誰でも構わない」「血祭りに上げろ」と言わんばかりに、ナイフを振りかざして怪物に飛び掛かる。
-数十秒後-
必死で逃げていた環奈達が、背後から気配が無くなったのを感じて振り返ったら、卑夜破呀達は何処にも見えなかった。暗いので数十m向こうは見えないが、追うのを諦めてくれたのだろうか?足はまだ震えている。よく解らないんだけど、こんな怖い場所にいつまでも居たくないので、安全圏(住宅街)まで逃げたところで、スマホで警察に連絡をしてから帰宅をした。




