35-1・美穂と良太~麻由と校長~生徒会室の海跳
-放課後・2年A組-
紅葉&美穂&真奈が集まって【愉怪な仲間達】部の定例ミーティングを開始する。
「なぁ、紅葉、ここ最近、たまに発生している、変な妖気はどうなった?」
ここ数日、文架市には妖怪が発生している。紅葉曰く「サトリ」という妖怪らしい。しかし、いつもの妖怪とは違って全く悪さをしない。「車に轢かれそうになった老人の救出」、「川で溺れかけた子供の救出」、「優麗高の生徒からカツアゲをしようとした渡帝辺のヤンキーが簀巻きにされる」等の、良い噂ばかりを耳にする。
(株)パウダーウッドからは「警戒しつつ様子を見ろ」と指示が来ていた。
「ん~~~・・・昨日は、なんにも動きゎ無かったね」
「そっか。なら引き続き、適度な警戒を頼むな」
「んっ!らじゃー!」
「他に何か気付いたことは?」
「ありませ~ん!」
本日の活動終了。世間話で時間を潰しながら、皆で麻由が戻ってくるのを待つ。
「ん~~~~~~~~~~~~~・・・・・・・・」
「どした、紅葉?」
「な~~~んか、前にも、こんな奴がいたよ~な気が・・・」
「こんな奴とは?」
「ィィよ~かい」
「良い妖怪なんて他にもいるの?」
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
頭があんまり良くない紅葉が一生懸命に過去の記憶を思い起こしていたら、2Dの鈴木良太が廊下を通過するのが見えた。紅葉はしばらくはボケーッと目で追っていたが、頭に「!」を点灯させて、大声を上げる。
「んぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!
鬼龍院るなちくすっっ!!アイツだっっ!!!」
「・・・・え?」
良太は、突然の奇声と懐かしい名を聞き、慌てて教室に踏み込んで紅葉の口を塞ぐ。「鬼龍院」はともかく「ルナティス」を公にされるのはマズい。ってか「鬼龍院るなちくす」じゃない。SNSのハンドルネームが鬼龍院凱で、妖怪の力を借りて戦っていた名前が「獣騎将ルナティス」だ。
「突然、半年も前のことを蒸し返して、なんだっつ~の!?
あとルナチクスじゃなくてルナティスだ!」
「んぁっっっ!ガイって、またなんか正義の味方やってんの!?」
「鈴木良太だ!恥ずかしいから学校では凱って言うな!
だいたい、ウサは君に回収されただろうに!」
「んぁっ!?そ~いえば、そ~だった!」
「迷惑な疑惑をかけないでくれっ!」
どうにか口を塞いだつもりだけど、少なくとも、教室内にいる2Aの熊谷真奈と2Cの桐藤美穂には情報が漏れてしまった。
「鬼龍院ルナチクスってなんだっけ?どっかで聞いたことあるな」
「一年くらい前に世間を騒がせた謎の戦士ですよ」
「鬼龍院なんて名前の奴だったっけ?
まぁ、いいや!ソイツが鬼龍院で、紅葉に成敗されたって事な」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あれから7ヶ月間、バレないように意識的に紅葉との接点は作らないように心掛けていたのに、全て台無しだ。
良太は「煮て食うなり焼いて食うなり好きなようにしろ!」と言わんばかりに観念をして、空いて椅子に腰を降ろした。
※愉怪な仲間達は、ルナティスのことを紅葉から聞いている(外伝・鈴木良太)。
「俺がなんだってんだよ?最近は何もやってないぞ!」
「んぁぁ~~~~・・・ごめ~~ん。
実ゎ、最近、良い事ばっかりするヨーカイがいてね。
てっきり、リョータだと思っちゃった」
「良い事をする妖怪・・・?ウサみたいなのは特殊なのか?」
「んっ!だいたいは、暗い念に憑く悪い妖怪だねぇ。
鬼龍院みたいなのゎ珍しぃよっ!」
「鬼龍院じゃなくて、獣騎将ルナティス!」
しばらく、紅葉と良太のヤリトリを眺めていた美穂が、「コイツはバラしても大丈夫だな」と判断して口を挟む。
「ここ数日、妖怪が人助けをしてるんだ。
溺れた子供や、轢かれそうになったジジイや、
カツアゲされそうになったうちの生徒」
「・・・・・・・・・・へぇ?」
「オマエも妖怪で人助けしてたってなら、ソイツの魂胆わかるか?」
「う~~~ん・・・それだけじゃ何も言えないなぁ。
俺の場合は、悪い奴を成敗する力が欲しくてウサと組んでた。
少し気になるのは、うちの生徒のカツアゲだな。
この人助けだけは規模が小さい。
他とは違って見過ごしても命に別状は無いよな。
なんで、こんな些細な人助けまで?
ところで、カツアゲされそうになったってのは誰なんだ?」
「D組のモヤシ。」
「・・・ん?もやし??」 「んぁっ!?モヤシ??」
「美穂さん、『もやし』では皆が解りませんよ。尾名君ね。
優麗高火災で入院して、退院後に体力作りの為にジョギングを始めて、
3年生の犬鰤字明日花先輩のフォローで、
3日坊主には成らずに済んだけど、
明日花先輩が推薦を得られず、受験勉強の為にジョギングを止めた途端に、
本人も走らなくなって、結局、元の木阿弥な、あの尾名新斗君」
「・・・真奈、誰に向かって喋ってる?キャラの紹介はナレーションに任せれ!」
「すげー!マナすっげー!情報ツウだねぇっ!」
「私は、元・何でも屋だよ。優麗高の裏事情はたいてい知っているの」
良太がルナティスとして活動した範囲は、基本的には生活圏。噂の妖怪も比較的狭い範囲で活動しているように思える。何よりも、カツアゲを「見過ごせない凶悪犯罪」と解釈する世代、つまり同世代くらいの犯行だ。
そこまで思案した良太は、我に返って美穂と真奈の顔を見つめる。
「あ、あの・・・君は?」
「あぁ、言い忘れてた。
ここに居る皆、種類が違うけど、紅葉と同じようなことをやってる仲間な」
「えぇっ!!?もしかして、国道の怪物(火車)事件で写ってた!?」
「・・・まぁ、それだ。
他言したら、オマエの情報をオマエがボコった卑夜破呀に売るからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
凄まじい脅しだ。卑夜破呀に情報を売られたら、県外に引っ越さなきゃ生きていけない。C組の友達から「桐藤は、最近、性格が穏やかになった」って聞いてたけどスゲー怖い。
「今まで源川のことを他言しなかったんだ。
これからだって、君達のことを公言する気は無いよ」
美穂は怖いが、それよりも過去の自分と同じような行動をする噂の妖怪の方が気になる。
「新しい情報があったら教えてくれ。こっちも気付いたことがあれば連絡するよ」
良太は相互情報提供の約束をしてA組から退出する。一方の美穂は、姿が見えなくなるまで良太の背中を眺め続けた。
「なぁ、真奈?」
「はい?」
「アイツ、1年?3年?」
「えぇぇ!?知らないで話していたんですか?2Dの鈴木君ですよ!」
「知らん。同じ学年だったんだ?」
「結構有名な人なんですけど・・・
美穂さん、接点の無い人に興味を持たなすぎですよ。
誰なのかも解らないのに、暴徒集団に情報を売るなんて言ってたんですか?」
「あぁ、あれか?アイツの眼を見れば、口の堅い奴って事くらいは解るよ。
あれは、色々聞かれんのが面倒臭かったから、
チョットからかって黙らせただけ。
卑夜破呀の連絡先なんて知らん。
アイツ、すげービビってて面白かったな」
「・・・・・・・・・・・」
「ミホっ、怖っ!」
ドSな笑いを浮かべる美穂。紅葉&真奈がドン引きをする。
-校長室-
麻由は校長先生に呼び出されていた。ノック&一礼をして入室したら、応接ソファーに校長が座って待っていた。久しぶりに訪れた麻由を見て眼を細めて喜び、ソファーに座らせる。
「最近、部屋に招いてくれなくなったね」
「も、申し訳ありません。ルームメイトがいるので・・・」
「ディナーに誘っても応じてくれないね」
「ちょ・・・ちょっと、忙しくて・・・」
「わし等のこと、嫌いになったのかね?」
「い、いえ・・・そんなことはありません」
「ならば、恋人でも出来たのかね?」
「恋人なんて、まさか、そんな」
「冨久君じゃろう?先程も姿を見たよ」
「はぁ?・・・冨久先輩・・・ですか?」
「卒業間際で秘めていた想いを打ち明けて交際に発展をする。
・・・まぁ、若者にありがちな過ちだな。
彼が未だに生徒会室に立ち寄るのは、君と会う為なんだろう?」
「はぁ?・・・なんで、冨久先輩と私が?」
生徒会の前副会長で3年A組の冨久海跳。生徒会引退後も、時々、生徒会室に顔を出してアドバイスをくれる。成績優秀&スポーツ万能で、企画力&発言力&人望もあり、頼もしい先輩とは思っているが好意は無い。そもそも、同世代は恋愛対象にはならない。麻由にとっての恋愛対象は、頼りがいがあり甘えることが出来て、生活が自立して時間に余裕がある年配者だ。
「君と冨久君は、共に成績優秀、スポーツ万能、そして、共に生徒会役員、
以前から、優麗高のベストカップルと噂になってるぞ」
「初耳ですね。その様な根も葉もない噂、冨久先輩も迷惑なのでは?」
「そうかね、それを聞いて安心したよ」
「はい、そんな誤報など信じないで下さい」
麻由は2年A組で紅葉達を待たせているので、ここで校長と色恋話をしている時間は無い。しばらくの沈黙の後、「また電話するよ」「こちらからも連絡します」と言葉を交わし、一礼をして校長室から出て扉を閉めて溜息をついた。
確かに、最近は紅葉達と行動することが多くなり、以前なら愛に巣だった自宅ではジャンヌと共同生活をしている為、3ヶ月くらいデートはしていない。以前の「孤独な麻由を満たして、どんなワガママでも受け入れてくれた恋人」に対して申し訳ない気持ちになってしまう。
「たまにはボーイフレンドと過ごす時間も大切よね」
麻由は紅葉や美穂が待つ2年A組に戻ろうとする。しかし、校長が言った「冨久君が、未だに生徒会室に立ち寄る」「先程も姿を見た」を思い出して、進行方向を生徒会室に変える。まだ、校内に居るだろうか?居るとすれば、生徒会室か3年A組、もしくは野球部として活動をしたグラウンドだろうか?彼には散々世話になった。海跳の後押しが無かったら、生徒会に在籍できたかすら解らない。「挨拶くらいはしておこう」と考えて探す。
1発目でビンゴ。冨久海跳の姿は生徒会室あった。適当なイスに腰を降ろして、懐かしそうに室内を眺めている。海跳は麻由の姿を見て、いつもの癖で指でメガネを上げてから、麻由に向けて軽く手を振る。
「よぉ、葛城。これから、生徒会の臨時会議か?邪魔なら退席するぞ」
「いえ、今日は、会議はありません。
それに、副会長の冨久先輩が邪魔なんて事は・・・」
「元・副会長な。世代交代は終わっている。僕は、もう部外者だ」
「部外者だなんて、そんな・・・」
「今日は、野暮用で学校に来てな。
卒業式を終えたら教習所通いをしたいのだが、
3月末日までは優麗高管轄だから届け出が必要なのだ。
ついでに、未だに補習に捕らわれている出来の悪い友人を待ちながら、
見納めにはちと早いが、この生徒会室を記憶に焼き付けていたんだ。
もう、補習は終わっていると思うのだが、
どこで油を売っているのか、まだ連絡が来ん」
麻由は、海跳と向かいの椅子を引っ張り出して腰を降ろす。
「教習所?自動車の免許ですか?」
「自動車免許は進学先でゆっくりと取得するつもりだ。
今は自動二輪の免許を取ろうと思っている。
・・・尤も、いくら免許を取得しても、
浪人生になればバイクを乗り回す余裕なんて無くなるがな」
「受験はどうだったんですか?確か、首都圏の国立大学でしたよね?」
「うん、帝央大を受験した。それなりには手応えはあるつもりだ。
葛城は、来年、どこを目指すんだ?関東に出るのか?」
「自宅から通えるところが良いのですが・・・」
「ん?県外には出ないのか?
君の実力なら、首都圏のトップレベルを狙えるだろうに?」
「ま、まだ決めていません」
海跳は遠回しに「僕と同じように首都圏に来いよ」って言ったつもりだが、麻由には全く伝わっていない。
「将来の目標は?」
「・・・まだ、決まっていません」
麻由は、海跳のように目標を持って勉強をする者を羨ましく感じる。「トップに立ちたい」、「成績が優秀だと皆が認めてくれる」、「理数系の方が進学の選択肢が多い」、麻由が勉学に励む理由はそれだけ。具体的に、どんな大学に行きたいか、どんな職業を目指すかは、全く考えていない。自分の薄っぺらさが露呈するような気がして、この話題は嫌だ。麻由は「そう言えば」と強引に話題を変える。
「水戸校長が、先輩と私が交際しているんじゃないかって、
随分とおかしな事を言っていましたよ」
「ん?僕と君が?」
「そんな根も葉もない噂、どこから広まったんでしょうね?」
確かに、麻由と海跳は交際をしていない。麻由視点では「おかしな事」「根も葉もない」とハッキリ言い切るほど可能性の無い噂ってことなのだろうか?
「・・・・・・・・・・・・・・・ま、まぁ・・・な」
麻由は、たった二言で冨久に重傷を負わせたことなど気付いていない。
この2人、勉強もスポーツ出来るが、どちらも恋愛スキルはゼロ。年配者の戯れを「大人の恋愛」と勘違いしている木偶の坊と、勉強と野球ばかりで好意を持った相手へのアプローチする手段が解らない小僧だ。
せめて「噂ではない。少なくとも僕の方はな」くらいの発言をして相手の反応を見るべきなのだが、海跳には、そんな気の利いたスキルは無い。
どうにか、恋愛の会話でキャッチボールをせねば成らんと思った冨久は、数少ない恋愛の引き出しから選んだボールを引っ張り出して投げる。
「英邦と君達の友人の交際は、順調なようだな」
「平山さんと石松先輩ですねよ。最近、仲睦まじいようで羨ましいです。
卒業してからも、今と変わらずに交際を続けるんでしょうね?」
「そうだな。
年末から交際をスタートさせたのだが、
英邦はかなり勇気を振り絞っていたぞ」
「平山さんは、学業優秀ですからね。恋愛と勉強を両立させてほしいです」
「君はどうなんだ?恋愛と勉強の両立をする気は無いのか?」
「え?急になんですか?
私に交際を申し込んでくれる人なんて、いるわけが・・・」
「・・・それは意外だな。ならば、些か役不足かもしれんが僕が申し込もう」
「えぇぇっっっ!!役不足なんてそんなっ!」
「そんなに驚かれるとは思わなかったな。
僕が以前から君に好意を持っていたこと気付かなかったのか?」
「き、気付きませんでした。・・・でも、実は私も、前から先輩のことが」
「皆まで言うな。こういう台詞は、男の方から言うべきだ。
葛城麻由、僕と交際をしてくれ!」
「はいっ!嬉しいです、海跳先輩!」
眼に涙を浮かべた麻由を、海跳が優しく抱擁してハッピーエンド。
上記みたく成ってほしいな~って、チョッピリ期待したんだけど・・・。
「英邦と君達の友人の交際は、順調なようだな」
「平山さんと石松先輩ですね。最近、仲睦まじいようですね。
もう卒業なのに、どうする気なんでしょうね?」
「そ、そうだな。
年末から交際をスタートさせたのだが、今後、どうするつもりなんだか?」
「平山さんは、学業優秀ですからね。
恋愛などに意識が向いて、勉強が疎かにならないか心配です」
「・・・ひ、平山には、成績の維持を、頑張って欲しいものだな」
ダメだった。恋愛の話題のつもりでボールを投げたのに、勉強の話題になった。会話が全く続かない。知的な話題ならいくらでも続けられるのに、俗世な会話はてんでダメだ。こんな事なら、いつものように、生徒会議案について意見交換をした方が、しっかりと会話のキャッチボールが出来ただろう。




