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石松&亜美編③・盛り下がるカラオケ~KY石松のKY告白

-カラオケの館・リバーサイド鎮守店-


 美希が中心になって、揚げ物セットやピザやスパゲティやパフェやケーキ等々、テーブルの上が豪華にする為の注文する。注文数が多すぎて、海跳&石松は、最初の揚げ物セットとピザ以外は何か運ばれてくるのか把握できなくなった。優花が「注文しすぎ」と注意をするが、美希は気にしない。


「冨久先輩、夕ご飯まだでしょ?お腹空いてますよね?」

「あぁ・・・まぁな」

「石松先輩も食べますよね?」

「・・・うん」


 皆で揃ってドリンクバーに行って、ジュースを注いで戻ってきて準備完了。歌っているうちに注文した料理が揃うだろう。

 座る席は、男女が向かい合わせで、亜美と英邦は斜向かいで一番遠い。これでは会話にならない。だけど、美希からすれば、最初に座る場所など大した問題ではない。

 誰がトップバッターかを決めようと思ったら、美希がリモコンを手にして手際良く操作をする。海跳は「積極的な太刀花が一番手か」と思ったが、美希はリモコンを置くことなく、手際良く3曲ほど立て続けにエントリーした。


「連続で歌うつもりか?」


 聞き覚えのある伴奏が流れて、美希が海跳にマイクを渡す。


「・・・ん?」

「トップバッター、冨久先輩どうぞ!」

「え?・・・僕か?何で、僕の歌う曲を知ってる?」

「同じクラスの野球部にリサーチ済みです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 勝手に選曲しやがった。仕方なくリクエストに従って、マイクを受け取って席に座ったまま歌う。何をやらせても合格点と言うべきか、ちゃんと上手い。

 続けて美希がステージに立って女性シンガーの歌を歌う。次は亜美が「え?私なの?」と言いながら、美希にステージに引っ張り出されて、勝手に選曲された歌を歌い始めた。

 ステージから戻ってきた美希は、自分が元居た席には戻らず、リモコンを持って海跳の隣に来て密着するように座る。


「ねぇ、先輩。石松先輩の歌う歌が解りません。何の曲を入れれば良いですか?」


 先ずは、最初の自然を装った席移動を完了。いきなり、亜美と英邦が隣り合わせになるような露骨な席移動は仕向けない。ついでに、美希はしれっと海跳の隣をゲットした。


「ん?そんなもん、僕ではなく本人に聞けば・・・」


 英邦は亜美の曲に聴き入っていた。今、話し掛けるのは邪魔になりそうだ。仕方なく、海跳が「英邦が歌いそうな曲」をエントリーをする。

 美希が海跳に「2巡目に何を歌うか」と質問をする。これが一般男子なら、美希の接触に対して「え?なに?この子、俺に気がある?」と勘違いすると言うか、美希的には「意図的に勘違いさせる」為の行動なんだけど、朴念仁な海跳は、美希の「女を武器にした様子見の攻撃」に全く気付いていない。

 歌い終わった亜美は、ステージから自分が元居た席に戻る。4番手の優花がステージで歌い終えたところで美希に呼ばれ、自分が居た席には戻らずに、美希の隣の床にしゃがむ(同じ側に、美希、海跳、英邦が並んでいるので、座る場所が無い)。海跳が選曲した英邦の歌う曲がスピーカーから流れてきた。


「石松先輩!ステージステージ!」

「・・・ぶひぃ?」


 英邦は、美希の魂胆には気付いていないが、ステージに行ったら空いた席を優花に奪われる事には気付いた。歌い終わった時には、亜美の隣の席しか空いてない?もしくは、交代で海跳がステージに立ち、自分は美希や優花の隣に座る?どっちもキツい。海跳が隣に居てくれないと間を保たせられない。


「い、いや、ステージには行かず、ここで歌うとね」

「ちぇっ!」


 作戦失敗。亜美がポツンと1人で座ってるのは可哀想なので、優花は亜美の隣に戻る。一方、美希の小さい舌打ちを聞き逃さなかった海跳は、なんとなく魂胆に気付いて美希に耳打ちをする。


「英邦と平山を接触させるつもりか?」

「そ~です。先輩も協力して下さいよ。

 どうやれば、亜美と石松先輩の、しらけた感じを元に戻せると思います?」


 後輩から質問されたが、海跳には恋愛の成就方法なんて解らない。


「そ、それは、本人達次第だろう?それに、親密になることが正解とは限らない」

「そ~です。上手く行ってもダメになっても、最後は本人達次第です。

 でも、離れた席で2人してウジウジしてたら何にも話が進みませんよね。

 石松先輩も奥手みたいだし、キッカケは作ってあげなきゃですよ」


 つい、冷静ぶった回答で誤魔化したが、アッサリと反論をされて、海跳の方が納得させられた。


「ま、まぁ・・・な」


 ちなみに、今回のイベントは「亜美と英邦をくっつける」のが目的なんだけど、傍から見たら、密着して座ってチョイチョイと耳打ちをしている海跳と美希が仲睦まじく見える。これはこれで、美希的には思惑通り。ただし、海跳は自分がアプローチされてることは気付いてない。


 2巡目くらいからは徐々に無礼講ムードになって、単独で歌うのではなく、臨機応変に割り込むようになり、美希が海跳に「デュエットをしよう」と切り出した。


「先輩はヨネズとAAAAAなら、どっち行けます?」

「その選択肢ならヨネズだな」

「は~い!」


 もちろん、後々、亜美と英邦をデュエットさせる為の布石を作るのが目的。海跳も察して応じる。ただし、亜美達にデュエットさせるのが目的と思わせつつ、実は美希が海跳デュエットするのも目的。海跳は、こっちの思惑は察していない。海跳が美希に引っ張り出されるようにして、2人でステージに立って息の合ったデュエットを披露する。

 その後、美希の相変わらず勝手なエントリーで、優花と石松が一緒に歌い、海跳と亜美が一緒に歌い、やがて、亜美と英邦で歌う順序になる。


 ディズニーアニメ映画のデュエット曲だ。

 美希&優花が、亜美と英邦にステージに行けと盛り上げる。亜美は少し恥ずかしそうに、重たい腰を持ち上げようとする。

 しかし、英邦は席から動こうとしない。魂胆は見抜いている。歌う時だけ2人が並ぶのではなく、歌い終わったら片側のソファーが埋まっていて、必然的に同じソファーに座らされるのだろう。英邦は、海跳の隣の席をキープしたまま歌い始めた。

 なんとなくステージに行く気になっていた亜美だったが、英邦が動く気配が無いので、少しガッカリして、結局は座ったまま歌った。


♪~♪~♪~


 酷すぎる。英邦は「歌いたくないんだけど、皆が言うから仕方なく歌っている」って態度だ。この期に及んでノリが悪すぎる。上がっていた皆のテンションが下がる。重い雰囲気は、海跳や優花にも伝わった。

 美希は苛立ってきた。亜美は何で、こんな暗い奴に好意を寄せているんだろう?イイコの亜美には似合わない。この場に海跳が居なければ、ここで打ち切って撤収をしたい。今日のパーティーが終わったら、別会場で反省会をして「デブはやめた方が良い」と助言してやろうかと考える。


♪~♪~♪~


 場の雰囲気は消沈して、誰も合いの手や歓声も入れない。歌い終わって、しらけムードを察した英邦は居づらくなって、「トイレに行く」と言って部屋から出て行った。亜美は「そんなに一緒に歌うのが嫌だったのか?」と無言で項垂れ、優花が隣に座って亜美の肩を抱いて無言でフォローをする。

 海跳は、英邦を追って怒鳴りつけたい気分だ。だが、ここで自分まで部屋から出たら、女の子達は悪口大会を始めて、海跳と英邦が部屋に戻った頃には「帰り支度を済ませてある」パターンになりそうなので、退席することが出来ない。


 美希は、喉まで出かかった暴言を飲み込み、スマホを睨み付けるようにして素早くメールを打った。




-トイレ前の通路-


 肩を落として自信なさげに歩く英邦のポケットで、スマホがメール着信音を鳴らす。差出人は太刀花美希。美希からメールが来るのは今が初めてだ。


 『亜美がかわいそうすぎます。

  仲良くする気が無いなら、帰ってもらえませんか?』


 メチャクチャ怒っている。壁に寄りかかって項垂れる英邦。単文だが凄まじくトゲのある文章が、英邦の胸に突き刺さる。さすがに今の態度が最悪だってことは、自分でも解っている。体裁を繕いたいが、こんなキツい文章に対して、どんな言い訳をすれば理解してもらえるのか全く解らない。




-カラオケルーム-


 スタートから1時間強。終了まであと1時間弱有るが、誰が見ても終了の雰囲気だった。ここからどう盛り上げようとしても空回りにしかならない。

 海跳は俯いている亜美を見つめ、美希と優花に視線を移し、徐に立ち上がって「すまん」と頭を下げた。


「こんな華やいだ日に、皆に嫌な思いをさせてしまったことは謝罪をする。

 ヤツには、僕から厳しく注意を入れておく」

「やめて下さいよ。先輩が謝ることじゃありません。

 悪いのはアイツ(石松先輩)なんですから」


 辛辣に答える美希。30分前の、海跳にモーションをかけていた時とは別人のような、目をつり上げたキツい表情をしていて、海跳でも彼女を直視が出来ない。どう、英邦の立場を代弁しても、美希が防波堤になって受け入れず、下がりきってしまった彼の株を上げることはできそうに無い。海跳は「英邦は玉砕した」と判断をする。


「なぁ、平山」

「・・・は、はい」

「この事実は君に言うつもりは無かったんだがな」

「・・・?」

「英邦は、今の状態では内申が足らずに卒業が危うい。

 1月下旬からは、3年生は家庭学習になるが、

 アイツは補習で内申を補う為に、登校をしなければならない。

 内申が順調なら、相撲部屋に仮入門していただろうにな」

「そ・・・そうなんですか?」


「優麗祭での無許可のライブ。

 あれだけの騒ぎを起こして、処罰が反省文だけってのは、

 不自然だと思わなかったか?」

「は、はい・・・もっと厳しい処分を覚悟していました」

「普通なら、あれだけの事をやれば停学は確実だろうな。

 だが、そうはならなかった。何故だか解るか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「英邦が被ったんだよ。君達に無理矢理ライブをさせた首謀者は自分だってな」

「・・・・・・・・・・え?だったら?」

「そういう事だ。

 ライブと無関係にもかかわらず、オマエ達を庇った結果、

 アイツは、ギリギリ足りていたはずの内申点を大きく下げたんだ。

 尤も・・・英邦からは『絶対に言うな』って釘を刺されていたんだがな」


 海跳は、この事実を誰にも言うつもりは無かった。だけど、石松英邦の名声を下げたままには出来なかった。少しでも良いから、英邦が「亜美のことをどう思っていたのか」を知って欲しかった。もう、亜美と英邦に接点が無くなるならば、「言うな」と言われたことを伝えたところで、英邦にバレることはないだろう。


「あのバカの方を振り向いてくれと言うつもりは無い。

 だが、あのお人好しを、これ以上は嫌わないで欲しい。

 可能ならば、アイツの卒業を、笑って見送ってやってもらえないか?」


 優花は驚いた表情で何も言えない。美希は、やるせない表情で「ならサッサと気持ち伝えろ、デブ」と愚痴を呟く。


 亜美は言葉を詰まらせていた。全く知らないところで英邦に守られていた。いや、違う。ゲリラライブでMCをミスして会場が静まりかえった時、大きな拍手で温め直してくれたのは英邦だった。優麗祭の買い出し中に火車事件が発生して、不安に思っていた時に一緒に居てくれたのも英邦だった。

 何で今まで気付けなかった?彼は、ずっと亜美を見守り続けていたのだ。いつの間にか、亜美は眼にいっぱいの涙を浮かべていた。


「す、すまん。泣かすつもりはなかった」


 亜美の涙を見た海跳が慌てて謝罪をする。直後、扉が力強く開けられて、鼻息を荒げた英邦が部屋に入ってきた。海跳は「バラしたのが聞かれた?」と焦ったが違うらしい。リモコンを掴んで操作してカラオケ機に送信。英邦が選んだ曲がエントリーされた。

 先程とは別のディズニーアニメ映画のデュエット曲。誰でも何処かで聞いたことある、初めてでも、なんとなく歌えそうな歌だ。


「さっきは雰囲気壊してスマンかったとね!この曲で仕切り直しばい!」


 美希に退場を迫られた英邦は、「言い訳は無理」「ならば玉砕覚悟」と最後の勇気を振り絞って戻ってきた。息巻いてマイクを2本取って、1本を亜美に差し出す。

 だけど、タイミングが悪すぎる。今さら手遅れ。しかも海跳が“良い話”なのか“聞かない方が良かった話”なのか、なんとも微妙な事実を告げたばかり。海跳&美希&優花は「今、そのテンションじゃねーよ」「空気読め」と心の中でツッコミを入れる。

 亜美は、申し訳なさと涙を隠す為に顔を伏せて、マイクを受け取ることが出来ない。イントロが流れて曲が始まった。このままでは、またしらける。英邦は“KYなバカ”で終わってしまう。


「えぇい!こうなったらヤケクソだ!」

「ぶひぃ?」


 見かねた海跳が、予備のマイクを握って男性パートを歌い始める。石松英邦はバカで根性無しだが親友だ。ダメなりに勇気を持って戻ってきたのに、1人に恥をかかすことは出来ない。「共倒れ覚悟、汚点を残しても、どうせ卒業」と腹を括って声を張り上げる。


♪~♪~♪~

「ぶぅひぃぃぃぃっっ!!!海跳っっ!!!?」

「今更、恥も外聞もあるまい!良いから歌えっ!!このたわけっ!」


 美希と優花は呆然と海跳を眺める。一番驚いたのは英邦だった。どうしてこうなった?男女デュエットの曲で、海跳が男性パートを歌うってことは、必然的に・・・。


♪~♪~♪~


 英邦が女性パートを歌う羽目になる。巨漢の英邦が男性パート、中性的な海跳が女性パートなら、まだマシだろうけど、逆だとチョット気持ちが悪い。海跳は自棄っぱちで腹の底から声を出して歌い、最初は戸惑っていた英邦も腹を括って本域で歌う。


♪~♪~♪~

 ♪~♪~♪~


 いつの間にか美希が大笑いをしていた。優花も笑っている。そして、亜美は、笑いを堪えて肩を揺らしていた。起死回生なんて都合の良い展開ではないだろうけど、どうにか最悪の雰囲気からは脱することは出来たか?

 このまま、滑稽を演じて押し切る!海跳は声を潰す覚悟で歌う!


♪~♪~♪~

 ♪~♪~♪~


 海跳は“やりきった感”を出して脱力しながら椅子に座った。美希&優花は、この滑稽さも含めて海跳を格好良く感じる。


 そして、英邦は、歌い終わったところで、大きく深呼吸をして亜美の前に進んだ。 

 デュエットをする為に戻ってきたわけではない。「亜美にデュエットに応じてもらって、少し汚名を払拭してから」と考えていたが、だいぶ予定が違った。

 だけど、海跳が力業で戻してくれたテンションが、英邦の勇気を後押しする。


「ひらやまさんっっ!!!」

「は、はい!」


 マイク無しで大声を張り上げる英邦。驚いて目を見開く亜美に対して、手を差し出して深々と頭を下げた。


「あたんことが好いとる!!おいと付き合うてくれんっっ!!!」


 アウトロが終わって静まりかえった室内に、英邦の大声が響き渡る。美希&優花、恋愛スキルの無い海跳でさえ、「今じゃね~だろ、デブ」と心の中でツッコミを入れた。だけど・・・。


「・・・はい」


 亜美は恥ずかしそうに英邦を見上げ、差し出した手を、そっと握った。


「・・・・なっ!?マジか!?」

「きゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!」×2


 海跳の驚嘆して、美希&優花は互いの手を握って歓喜の声を上げる。誰1人として、このゴールを予想した者はいなかった。


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