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石松&亜美編④・初詣と風邪~海跳最後の仕事

 海跳は「今のダメージを少しでも回復出来れば良い」程度にしか考えていなかった。優花は「パーティーが終わったあとで亜美を慰めなきゃ」と思っていた。美希は、メールで告白を催促したのではなく「どうせ告白なんてできない」と判断して「帰れ根性無し」と切り捨てたつもりだった。

 亜美は、英邦に完全に嫌われたと思っていた。そして、もう後の無い英邦は、亜美に当たって砕けるつもりだった。


 この勢いは押しきるべきと判断した美希が、すかさず、ちょっと良い雰囲気のデュエット曲をエントリーして、マイクを持ってMCを気取りながら亜美と英邦を茶化し、2人をステージに送り出す。亜美と英邦は、気恥ずかしいんだけど、皆の目の前でここまでやらかして、今更引っ込むことも出来ないので、観念してステージに上がった。

 美希と優花が合いの手を入れて初々しいカップルを盛り上げる。海跳だけが「どこで好転した?」と信じられない表情で英邦を眺めていたが、美希が愛想良く寄ってきたので対応をする。




-21時半-


 5人はカラオケ店の前で本日起きた様々な出来事の余韻を話題にしていた。


「次はみんなで初詣に行こう。亜美の家に集合で良いよね?」


 美希が唐突に切り出す。誰も初詣の参加表明をしていないのに、「初詣」は決定事項で選択肢は「集合場所が亜美の家で良いかどうか?」になっている。


「でもでも、冨久先輩はお勉強しなきゃだよ」

「亜弥賀神社ならば近所だ。初詣の時間くらいは作るさ。

 平山は、僕達までオマエの家に集合で問題無いのか?」

「は・・・はい、私は良いんですけど、石松先輩は大丈夫なんですか?」

「参加させてもらおうかな。どうせ家でゴロゴロしとるだけや」

「あっれぇ~?亜美、呼び方が他人行儀!もっとラブラブな呼び方してあげなよ!

 石松先輩は、亜美になんて呼んで欲しいんですか?

 ポッチャリくんと英くんなら、どっちが良いですか?」

「ぶひぃ!!?選択肢がオカシくなかか?」

「み、美希ちゃん、それはまだ恥ずかしいよぉ。

 も、もうちょっと、時間をかけて、ゆっくりと・・・ね。あははははっ」


 美希の暴言と亜美&英邦の慌てぶりを皆で笑う。英邦は、美希の「ポッチャリ」を怒ったり拗ねたりせず、笑って流してくれる。彼の良いところは、この大らかさなのかもしれない。美希と優花は、亜美が英邦に惹かれる理由が少し解った。


 この場にカップルが存在しなければ、自宅が同じ方向同士で、海跳が亜美を送り、英邦が美希と優花を送るべきだろう。だけど、英邦の恋人を海跳が送るわけには行かない。美希は海跳の都合を考えずに「家まで送って欲しい」と言いそうだし、海跳は依頼をされれば送りそうなので、察した優花が既に親に「迎えに来て欲しい」と連絡をしていた。

 優花の親が運転する車が到着して、優花と美希が乗り込み、海跳&英邦&亜美が並んで見送る。そして、海跳達も解散して、英邦と亜美は鎮守の森公園を縦断する方向(亜美の家の方向)に向かう。


「ひとけが無い公園で、送り狼するなよ!」

「ぶひぃ!出来るわけなかとねっ!」


 海跳が1人で自転車のペダルを漕ぎながら、本日の出来事を振り返る。まさか、英邦の交際がスタートするとは思っていなかった。目の前で告白タイムを見るとは思っていなかった。親友がやり遂げてくれた嬉しさと、卒業が目前の不安が、海跳の胸中で同居をする。無関係なカップルを見ても、羨ましいとは感じない。だけど、それが親友になると、違った感情が芽生えてる。


「僕は・・・葛城麻由に、なにをしてやれる?」


 脳内に麻由の顔が浮かぶ。いつから、麻由に好意を持っていたのだろう?彼女が入学をして、生徒会に絡むようになった頃から気にはしていた。ハッキリと「守ってやらなきゃ」と思ったのは、約2年前、嫌な先輩に打ちのめされて、1人で泣いている麻由を見てしまった時だろう。脳では彼女のことを「生徒会の貴重な戦力」と言い聞かせてきたが、心では彼女を「傍に居て欲しい女性」として見ていたように思える。


「僕は受験生だぞ!もうすぐ卒業なんだぞ!無駄なことは考えるな!」


 無意識に、自転車のペダルを漕ぐスピードが早くなる。だけど、気持ちが悶々として、このまま帰っても勉強に集中できそうに無い。海跳は進行方向を家とは真逆に向け、しばらく気ままに自転車を走らせる。そして、自販機でホットコーヒーを買って堤防に上がり、飲みながら優麗高の方角を眺める。麻由は北中出身だ。麻由の家が何処にあるかは解らないが、きっと、海跳が向けている視線と同じ方角にあるはずだ。


 気持ちを落ち着けた海跳は、コーヒーの空き缶を自転車の籠に入れて帰路につく。

 途中でスマホのメール着信音がコールをしたので確認したら、英邦から「もう帰ったか?」と言うメッセージが入っていた。おおかた、本日の武勇伝を語りたいのだろうが、受験生にこれ以上遊んでいる時間は無い。海跳は「自宅で勉強中。ノロケなら明日にしてくれ。」と返信をして、再び自転車のペダルを漕ぎ始めた。

 自宅に到着したタイミングで、またメール着信音が鳴る。確認をしたら、今度は美希からだった。メッセージを見た海跳は「なるほど」と呟いて笑う。




-1月1日-


〈すまん、風邪で参加できない。オマエだけでも参加してくれ。〉

「ぶひぃひぃぃっっっ!!!?」


 初詣の為に“平山邸集合”の30分前に、英邦のスマホに海跳から欠席の連絡が入った。欠席ならもっと早く言って欲しい。風邪を引いたなら、前日か、遅くても当日の朝には連絡が出来たはず。英邦は準備を整えて自宅を出たあとだ。しかも、亜美にLINEで「今から行きます」とメッセージしてしまった。今更、「欠席する」とは言えない。女の子3人と英邦、両手に華状態での初詣。間か保つのか不安でいっぱいだ。




-亜美の家-


「えぇぇっっっっっっ!!!!冨久先輩も欠席!!!?」

「・・・ぶひぃ」


 英邦が「海跳の欠席」を報告した途端、亜美は驚嘆の声を張り上げる。1時間前に優花から、そして、わずか15分前に美希から、「風邪を引いたから欠席」と連絡があったらしい。5人で初詣に行く予定だったのに、3人が風邪でダウンして参加者は亜美と英邦だけ。

 数日前に美希が「紅葉も誘ってみる」と言ってたが、紅葉が来るのかどうかも解らない。・・・てか、多分、来ない。・・・てか、多分、誘ってすらいない。

 美希に謀られた。最初から5人で初詣をする気など無く、英邦と亜美をツーショットに追い込むつもりだったのだ。


「ど、どうしよう?」

「ぶ、ぶひぃ・・・せっかくだから、お参りくらいは行くかいのう?」

「そ、それもあるんですけど・・・」


 初詣後に仲間達に振る舞う料理は、去年と同様に準備をしてある。今年は亜美も張り切って母親を手伝った。母に「誰が来るのか?」と聞かれ、「美希ちゃんと優ちゃんと、あと先輩が2人」と答えたら、ピンときた母に「先輩って?」と追求されたので、誤魔化すことも出来ず「冨久先輩と、その友達」と答えた。

 冨久先輩は小学校時代からの亜美の上級生で、鎮守小学区内では優秀な有名人。母親は、海跳が来ると聞いて驚いたが、それ以上に、亜美があえて名前を出さなかった「その友達」が誰なのかに興味津々だった。

 ・・・で、来たのは「その友達」のみ。なんかもう、どう言い訳しても母親を誤魔化せそうにない。


「えぇと・・・初詣のあと、家にお料理が用意してあるんですけど・・・

 食べていきます?」

「・・・ぶひぃ?」

「お料理がありすぎるんですけど、食べきれなかったら持って帰ります?」

「・・・ぶひぃ??」

「と、とりあえず、初詣に行きましょうか?」

「ぶひぃ!」


 風邪を引いたことになってる3人は、今頃何をやってるのだろうか?海跳は勉強中かな?美希と優花は2人で集まって川西の別の神社に初詣中かな?きっと、今頃は、亜美と英邦のツーショット作戦の成功をネタにして盛り上がってるのだろう。ケケケと小悪魔みたいな表情で笑う美希の顔が想像できる。

 美希の所為で今回が2人きりの初デートになった。亜美と英邦は、緊張した面持ちで初詣に出掛ける。




-冬休み明け・放課後-


 優高内では身近で発生した出来事の話題で持ちきりになっていた。一つは、冬休み前倒しの原因になった“優麗高のグラウンドが荒れた事件”の事。結局、原因は解らなかったらしい。「この学校、呪われてんじゃね?」なんて憶測をする生徒もいる。

 もう一つは、渡帝辺工業高校の教員と教え子の女生徒の“わいせつな行為”が発覚して、懲戒免職になった事件。海跳の耳にも入っている。3Aの同級生は、渡帝辺に行った中学時代の知り合いに、興味本位で「女生徒って誰?」とメールで聞いている。海跳は、冷ややかな目でクラスメイトを眺めて溜息をついた。


「そんなものを追求して何になるんだ?当事者の女生徒を傷付けるだけだろうに」

「なんだ、冨久。オマエ、興味ないのか?

 もしかしたら、中学の時の知り合いかも知れないんだぞ」

「興味ない。これが、我が校の教諭と生徒というのなら一大事だがな」

「相変わらず、冷めてんな~。だけどさ、結構あるらしいぜ。

 女子側は、身近な大人の異性に恋愛感情を抱いたり、父性を求めるみたいだな。

 センコーの方は・・・スケベ根性が抑えられないんだろうけどな。

 うちの学校だって、あってもおかしくないんじゃね?」

「フン、バカバカしい!我が校に限って、そんな破廉恥な醜態など有り得ん!」


 会話をしながら教室から出て、仲間達は階段を降りるが、海跳は「また明日」と言って、逆方向に向かう。


「あれ?帰らないのか?」

「あぁ、生徒会室にな。生徒会長の呼び出しだ。相談したい議案があるらしい」

「まだ、生徒会に顔を出してんの?あぁ、そっか。生徒会長、美人だもんな」

「オマエじゃあるまいし、そんな下らない理由で行くかよ。

 優麗高には世話になったからな。

 卒業するまでは、アドバイザーとして僕なりに恩返しをするつもりさ」


 海跳は、仲間達と別れて生徒会室に向かう。

 クラスメイトの情報のせいで、以前見た、チョットしたことが妙に気になってしまった。半年くらい前、野球部の活動が終わって、帰宅をしている最中、信号機で停車をしていた校長の車の後部座席で、麻由に似た姿を見た。窓が閉まっており、しかもスモークが貼られていたので、実際に麻由だったのかどうかも解らない。


「フン、僕はバカなのか?葛城のわけがあるまい。」


 仮にそれが麻由だったとしても、「暗くなった夜道を、少女を1人を帰らせるのは物騒」と校長が家に送ったのだろう。あの時期は、弓道部も遅くまで活動をしていた。生徒会の仕事で、麻由1人が遅くまで残っていたことも多々あった。校長がそのくらいに気遣いをしても不思議ではない。

 海跳は、自分の中に湧いた疑問を「下らない」と一蹴して鼻で笑い、生徒会室の扉に手を掛ける。




-生徒会室-


 本来であれば、冬休み前に「2学期の反省会」と「今後の方針」を打合せを終わらせるのだが、今年度はグラウンドが荒れた事件で冬休みが前倒しされてしまったので、休み明け直後の活動になった。海跳が入室をして、役員達と談話をしながら生徒会長を待つ。やがて麻由が入ってきて会議が始まる。(第26話)


「先ずは、2学期の反省点ですが、どうでしょうか?」

「ふむ、概ね良好だったな。

 ただ、一点、反省すべき点を上げるなら優麗祭の無許可ライブくらいか」


 議案に対して、海跳が率直な感想を答える。続けて、風紀委員長が発言をする。


「一歩間違えれば、僕等の世代の汚点になるところだったからね。

 来年の優麗祭の為にも、何故、あんな無法が発生したのか、

 時期文化祭実行委員長が決まり次第、キチンと対策を打ち合わせなきゃだね」


 風紀委員長の発言に対して、海跳が、「フッ」と微笑みを浮かべ、気障ったらしく前髪を整えてメガネを「クイ」っと上げて、組んでた長い足を戻し、優雅な仕草と涼しい表情で麻由に流し目をして、再び発言をする。


「僕は、不穏分子を全面的に否定をする必要は無いと思っている」

「えっ?冨久さんは、無許可ライブを容認するのですか?」

「いや、もちろん『無許可』は反対だ。

 だが、同時に、多少の暴走は、今を謳歌する僕等の特権だと思っている。

 優麗高の皆にとって“充実した優麗祭”である為には、

 何もかもを“教科書通り”にする必要は無いのだろう。

 不穏分子が窮屈に感じて勝手なことをせず、

 且つ、優麗高の伝統を守れる範囲で、生真面目すぎず、遊びすぎない、

 ちょうど良い落とし処を見付けるべきって事さ。

 あのライブは、無許可だったから“腫れ物”扱いだが、

 公認をしていれば、優高生と宇宙人との友好記念ライブになる可能性もあった。

 運営側のスタンスで変化したって事さ。

 “彼女達を気に入らない”と考えて独断で握り潰そうとするのではなく、

 運営全員で協議をして、メリットとデメリットを考えるべきだな」


 ゲリラライブを独断で握り潰そうとして失敗した麻由は、自分が遠回しにダメ出しをされていると気付いて、僅かに俯いてしまう。麻由の思惑は海跳にはバレていたようだ。彼が理路整然と発言をすると、麻由ですら納得をさせられてしまう。


「やや手厳しい意見をしてしまったが、

 これは、直に卒業をする僕から君たち来年度の3年生に、

 より魅力ある優麗高になる為の手向けのアドバイスにさせてもらうよ」


 続いて、今後の方針についての打合せなのだが、3学期は球技大会が有るくらいなので、校内イベントだらけの2学期に比べると協議することも少ない。


「あ、あの・・・1つ、私からの議案があるのですが、

 推理研究会を、愉怪な仲間達という名称に変えて、

 依頼は生徒会経由にしたいのですが、どうでしょうか?」

「名称については、特に問題は無いだろうが、変更の目的は?」

「部員達の希望です。

 今のサークル名のままでは雑務ばかりを押し付けられるので、

 イメージを変えて、且つ、生徒会管轄にすることで、

 意義のあるサークルにしたいそうです」

「部員は、確か1人しか居なかったよね?」

「私も含めて、現在、4人になりました。」

「葛城さんまで参加をしていると、

 生徒会の私兵どころか生徒会長の私物化をしそうだね」


 推理研究会が生徒会の私兵と揶揄されていることについては、生徒会メンバーも快く思っていない。麻由を困惑を見た海跳が助け船を出す。


「僕はそうは思わない。葛城なら大丈夫だろう。

 それに、生徒会の管轄になるなら、役員全員でシッカリと管理すれば良い。

 生徒会としては異論無しで良いだろう」


 海跳は、麻由の議案を肯定しておきながら、少し意外な表情で麻由を見つめる。ゲリラライブを全否定しなかった事、そして、新たなサークルに加わる事、以前の麻由には無かった器のように思える。彼女は、内面的なところで何かが変わり始めているようだ。

 表情も変わった。出会った頃の麻由は、常に張り詰めていて、手を差し伸べなければ何処かでパンクをしそうな危うさがあった。だが、今の麻由は、適度に脱力して、自然な表情の笑顔を見せるようになった。最近では実年齢よりやや幼く見えることもある。


(今の、聞く耳を持つようになった葛城なら、

 来年の優麗高を任せても大丈夫なんだろうな)


 海跳は、窓の外に視線を移して遠い空を眺め、その場にいる誰にも聞こえないような小声で呟いた。


 あと数日もすれば、3年生は家庭学習の期間になり、学校に来るのが数回の登校日と卒業式のみになる。海跳が関わるのは、今回の議案が最後になるだろう。

 残された日数を指折りで数え、『麻由と生徒会の躍進』を期待する。

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