石松&亜美編②・拗れた(?)亜美と石松~パーティーの約束
-12月下旬-
優麗高で不可思議な事件が起きた。一夜のうちにグラウンドが穴だらけになり、周辺の植樹が枯れた(第17話)。
海跳は「調査の為に臨時休校」の連絡を受けていたが、様子を見る為に優麗高を訪れる。すると、英邦が背中を丸めて自信なさげに学校前の歩道を歩いていた。彼の場合は、未だ現役相撲部なので、休校を知らずに朝練の為に訪れたのだ。
海跳は挨拶をするが、英邦から返ってくる挨拶は小声で表情には覇気が全く無い。
「何かあったのか?」
「平山しゃんに嫌われっしもうたかもしれんとや」
先日、リバーサイド鎮守で遊んだ日の夜、英邦が亜美に一緒に遊んだお礼のメッセージを入れたところから、2人のヤリトリが始まる。最初は畏まった文章で当たり障りの無い内容ばかりだったが、徐々に打ち解けて、学校生活のことや、相撲のこと、そして趣味や見ているテレビ番組のことを話題にするようになった。
「オマエ、SEのタレントが主演しているドラマなんて見てたっけ?
以前、『あんな軟弱な奴等は好かん!』と言ってなかったか?」
「見てみたら、面白かったばい」
「平山に話題を合わせる為に見始めたのか?」
「ぶぅぅ・・・」
昨日の夜、打ち解けた話題からメールを始めて、英邦は少々気になっていたことを尋ねた。以前なら2人1セットの如く一緒だった紅葉と、最近は別行動が多い。「源川さんと何かあったのか?喧嘩でもしたのか?」と質問をした。
それまでは、テンポ良く送受信をしていたメッセージが急に止まる。そして、しばらく時間を空けて、「そんなことはありません」と畏まった返信が帰ってきた。英邦は「本当に大丈夫か?」と送信をするが、その後、亜美からの返信は無かった。英邦はもう一度同じ文面のメッセージを入れたが、やはり亜美からの返信は無かった。
「怒っているかどうかは解らんが、回答に困る質問をしたようだな」
察するに、以前とは違って紅葉と亜美が「2人1セット」ではないことを、亜美が気にしている。その件については、「最近の麻由は紅葉と連む機会が増えてきた」って視点で、海跳も把握している。
「どうしたら良いんじゃろか?」
自己研磨を優先させて恋愛はあと廻しにしてきた海跳は“女心”を理解していないので、上手いアドバイスが出来ない。
「と、とりあえず、平山の連れに様子を聞いてみたらどうだ?」
「・・・ぶぅ~~~」
それが出来れば苦労はしない。仲を取り持ってもらうような依頼をすれば、亜美に好意を持っていることがバレてしまう(とっくにバレてるけど)。そもそも、英邦には「女の子と気軽に会話する」「異性に恋愛相談」なんてスキルは無い。
しかも、臨時休校の所為で亜美と会う機会は無い。亜美が怒っているのか、亜美に嫌われてしまったのか解らないまま、英邦の亜美へのアプローチ作戦は詰んでしまった。
「ん?」
御都合主義が発動したらしい。正門の規制線前で亜美と出くわす。隣には藤林優花の姿もある。2人とも学校の様子を見に来たようだ。先ずは海跳が挨拶をして、優花が挨拶を返し、続けて英邦が覇気の無い挨拶をして、最後に亜美が小声で挨拶をするがそそくさと立ち去ってしまう。優花が「どうしたの?」と亜美を追っ掛けていく。
会えないと思った直後に会えたのは、幸運・・・ではなく、英邦にとっては不幸だったようだ。亜美の態度がトドメになった。「完全に嫌われた」と解釈して項垂れる。
「こりゃ、当分は、生ける屍かな?」
一方、早足に離れた亜美は、申し訳ない気持ちと恥ずかしさでいっぱいだった。
紅葉とは喧嘩なんてしていない。今でも仲は良い。でも、紅葉は超常的な力を得て戦場に身を置き、美穂やバルミィのような、同じ超常的な力を持つ者と一緒に居る機会が増えた。最近は、以前なら互いに避けていたはずの麻由も一緒に行動をしている。
一般人の亜美では彼女達と並び立てるワケがなく、人知れず戦場で命を張っている彼女達への見えない壁を感じている。ちゃんと隠してくれれば亜美は何も知らないノーテンキな一般人のスタンスで一緒に居られるんだが、日常会話に混ぜて普通に超常事件の話をしているので、話題に参加をすることが出来ない。しかも、紅葉は、まだ正体を隠しているつもりらしい。
今年は紅葉と美希の発案で、優花を含めた4人で初詣に行ったが、紅葉が忙しいらしくて来年の初詣の予定は無い。気にしているタイミングで英邦から「源川さんと何かあったのか?」の質問が来たので、気の利いた返信が出来なかった。
英邦のことが嫌いになったわけではない。優しい先輩だと思っている。だが、何をどう説明すれば良いのか解らなくて、思い掛けずに避けてしまった。
紅葉達の状況をキチンと説明すれば、「疎遠ではない」と理解してもらえるだろう。でも、紅葉達の秘密を話すワケにはいかない。
「どうしたの、亜美ちゃん?」
「べ、別に・・・何でもない」
「何でもなくは・・・ないよね?石松先輩と何があったの?」
態度が露骨すぎて、追っ掛けてきた優花には、亜美が英邦から逃げたのはバレていた。
「・・・・・・・何も無いんだけど、私、イヤな子だな~って」
話を聞いた優花は、驚くような事態は何も無いというか、何も無いのに話が拗れていて驚いた。単に、亜美が今までと同じように英邦と接すれば解決をする。
そもそも、英邦の質問に対して返答に困った理由が、優花には理解出来ない(紅葉の非日常を知らない)。確かに、最近の紅葉は、校内で最も目立つ連中(美穂&麻由)と連む機会が増えている。少し寂しく思えるのは事実だが、優花だって紅葉の事は今でも友達だと思っている。
友達が、別の友達と一緒に居るのは仕方が無いことだ。優花や美希だって、紅葉&亜美と仲良くなる過程で、同じ中学出身の友達とはあまり遊ばなくなった。だけど、仲違いしたわけではなく、今でも、時々は連絡を取り合っている。紅葉と亜美の場合は、今までがベッタリしすぎて亜美が紅葉の保護者みたいな状況だったので、「紅葉の独り立ち」に対する喪失感が大きいのだろう。
「今から学校に戻って先輩達と話をしよう」
「・・・イヤな子だと思われてるから行きなくない」
「もうっ!」
この“ガンコな人見知りモード”が発動すると、優花では説得できない。マイペースな紅葉ですら、亜美の“ガンコモード”を曲げることは出来ない。だけど、今回は、放置しては拙いように思える。
困った優花は「亜美が、石松先輩と会ったら、例の発作がでた」と美希にLINEメッセージを入れた。恋愛関係の処世術や駄々っ子のご機嫌を取るのは美希の得意分野。しばらくすると、美希から「また?」「駅前のマスド集合」と返信が来る。優花は余計なことは言わず、「『美希から朝マッスルしよ』って連絡来た」とだけ伝えて、亜美を連れて駅前のマスドナルド(ファーストフード)に向かう。
-美希の部屋-
美希は、ベッドの中で優花から来たメッセージを読み直して楽しそうに笑う。亜美が逃げ腰の時は、相手を意識している時。仲良くしたいけど、どうすれば良いか解らず、「嫌われたくない」「格好悪いところを見せたくない」と考え、ちょっとした自分の行動を自己嫌悪して相手を避けるようになる。
「あれれ~?これは、ひょっとすると、ひょっとするかな~?」
美希は、起き上がって、もう一度、優花のメッセージを見て、また楽しそうに笑う。
-駅前のマスドナルド-
美希が「自分の家から近い場所」を指定したにもかかわらず、亜美&優花が到着をして15分後に美希が店に入ってきた。相変わらず時間にルーズだ。紅葉を含めた4人で遊ぶ場合は、亜美が紅葉、優花が美希の時間管理をしないと、紅葉と美希のどちらかが大幅に遅刻をする。
「冨久先輩達を誘って、クリスマスパーティーしない?
イブが良い?当日が良い?イブイブが良い?
都合が悪ければ、他の日でも良いよ」
美希が唐突に切り出した。既にイベントをするのは決まりで、あとは日程調整らしい。紅葉が会話に参加をしている場合、美希の発案を紅葉が即決してイベント開催が決まる。ただし、紅葉と美希は大枠を決めるだけで、細かい段取りは亜美と優花の仕事だ。
約1年前の初詣も、美希が「行こう!31日深夜集合と元日集合とどっちにする?」と言い出して、紅葉が「2年参りが良いから深夜」と即決して、亜美と優花の意見は全く挟まらずに決まった。尤も、深夜集合は各親が許可を出さなかったので、結局は元旦集合になった。
「とりま、24日で冨久先輩達にも聞いてみよっか?」
「でもでも、受験生だよ。来ないんじゃね?」
「だよね、優ちゃん!先輩が来るわけないよね」
「受験生だって、たまには息抜きも必要だよ!」
冨久先輩を呼ぶのがメインみたいな言い方だが、「達」と言うからには、オプションも含まれているのだろう。むしろ“オプション”と亜美を会わせるのが目的で、ついでに海跳を引っ張り出したいのだが、明確に名前を出すと亜美が尻込みをしそうなので、あえてオプション扱いしかしない。
だけど、亜美はバカではない。冨久先輩達の「達」に誰が含まれるのかくらいは察しが付く。
「わ、私は遠慮しておこうかな。その日はバイト入ってるし」
「なら、バイト終わってから集合ね。
亜美が合流しやすいように、会場はドコスの近くにしよう」
「でも、バイトのあとも、色々あって・・・」
「あっれぇ~?まだ日にちを決めてないのに、色々あるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いつなら空いてる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「付き合い悪いよ、亜美!クリスマスくらい付き合ってよ!」
美希は、紅葉みたいに突っ走りすぎるタイプや、美穂みたいに強引なタイプとは違う。だけど、亜美の気の廻らない部分を器用に突いてくるので、いつも美希のペースに填まってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・う、うん」
確かに、まだ日時は決めてない。全部決まってから、「その日は都合が悪い」と言うべきなのに、動揺して、断る理由を先に使ってしまった。
気拙くて英邦と会いたくないが、自分抜きで美希達が英邦達と遊ぶのも嫌だ。亜美は渋々と観念をする。
-文架大橋東詰-
英邦の家は山頭野川の西側なのだが、「どうしよう?どうしよう?」と悩みながら、ずっと、海跳の帰路に付いてくる。
海跳は「恋愛は後回し」のスタンス。今まで寄ってくる女の子はいたが、自分からアプローチをした経験が無いので、アドバイスをしたくても何を言えば良いのか解らない。
「家に帰って受験勉強がしたいのだがな・・・」
海跳が対応に困っていたら、ポケットに入っていたスマホがLINEの着信音を鳴らした。確認をしたら、太刀川美希からのクリスマスパーティーのお誘いだ。
「おいおい、僕は受験生だぞ。誘うか?」
到底、誘いを受ける気にはなれないのだが、パーティー参加者に平山亜美がいることは推測できる。海跳が断れば、この提案は無かったことになるだろう。気が進まないが、女々しい“未来の関取”の為に、時間を割いてやるべきか?海跳は直ぐにはOKをせず、日時の確認をメッセージを入れる。直ぐに返信が来た。日時はいつでも良いらしい。溜息をついてから英邦に視線を移す。
「なぁ、英邦。オマエ、平山のバイトがOFFか早番の日は知っているか?」
「そんなら、○曜日と△曜日は休みで、×曜日以外は早番やったばい。
それば聞いてどぎゃんするったい?」
「僕の貴重な勉強時間を2時間ほど割いて、オマエにチャンスをくれてやる。
進むも退くも、あとは自分で考えろ」
「ぶひぃ??」
「いつまでも、生産性の低い悩みに付き合ってられんからな」
海跳は「亜美がフリーの日」から「自分の都合が悪い日と時間」を差し引いて返信をした。これで、満足なアプローチが出来ずに親密度が全く上がらなければ、サッサと諦めるべきだろう。
しばらくしたら、「23日の19時、ショッピングモール集合」とメールが来た。
-12月23日・19時-
海跳が自転車で大型ショッピングモールの駐輪場に到着したら、英邦が待っていた。
「何故、ここに?」
「1人で先に行くとは恥ずかしかばい」
「やれやれ・・・オマエは中学生か?」
まだ仲直り(?)は出来ていないらしい。2人は並んで、待ち合わせ場所のフードコートに向かう。待っていたのは、美希と優花、そして亜美。
亜美は伏し目がちにして友達の後ろに隠れ、一方の英邦も海跳の後ろで小さくなっている。合流をした5人は、同敷地内にあるカラオケボックスに向かった。
この日、この時刻、麻由はジャンヌとサシの勝負をする(第20話)。海跳の思い人は、海跳が全く感知できないところで、少しずつだが逞しく、且つ、活き活きと成長をしていた。




