石松&亜美編①・ショッピングモール~美希と優花
-11月下旬-
優麗祭から数日が経過をした。プレハブの生徒会室に現役員とアドバイザーが集まる(第11話)。
「校内の生徒間の恋愛禁止を強化・・・ですか?」
「そうです!目に余るので、取り締まりを強化します!」
生徒会長・葛城麻由の突然の提案に、アドバイザーの海跳や役員達がポカンと口を開ける。高校生が恋愛をするのは当然だし、校内で周りを不愉快にするような「目に余る」交際など、特には耳にしない。
「『高校生らしからぬ行為の禁止、周りを不快にする男女間の接触の禁止』
どう追跡をして、何処までの接触を禁止事項にするか、判断が難しいですね」
「その辺は、お互いの意見を出し合って、明確にしましょう」
「『手紙等の受け渡しの禁止、及び、持ち物検査の徹底』・・・ですか?」
「そうよ!そんな物をヤリトリしている暇があったら、学業を・・・」
「では、この場合、禁止されるのは手紙だけでしょうか?
LINEやメールでのヤリトリが主流の現代社会で、
生徒会単独で、電子媒体まで規制をするのは、不可能だと思われますが・・・」
「・・・え?そ、そう・・・ね」
「『異性同士を比較して、誰が優れているかを話し合ってはいけない』ですか?」
「男女差別であり、人格差別や外見差別であり、いじめに繋がりかねません!」
「言いたい事は理解できますが、思想の自由と言論の自由を禁ずる事になります。
だいいち、ただの言葉を、どうやって取り締まるのですか?」
「これは、あくまでも原案で・・・会議をして具体的に・・・」
僅かな会話をしただけで、麻由はしどろもどろになってしまう。全く現実性が無い。完全に空回りをしている。生徒会が総会でこんな案を提示したら、生徒達の猛反発を喰らうのは確実だ。優麗祭でダメージを受けた生徒会が、これ以上、生徒達の支持を下げるのは拙いだろう。海跳は、生徒会長が名を貶めない為に、あえて、この穴だらけの案にトドメを刺すことにした。
「なぁ、葛城。この原案は『生徒間』の恋愛のみを徹底的に禁じている。
この文言では『先生となら恋愛しても良い』と拡大解釈される可能性があるぞ。
優高生に勉強に専念して欲しい気持ちは理解出来るが、少々現実的ではないな」
「・・・それは・・・あの・・・申し訳ありません」
海跳のダメ出しが決定打になった。麻由は提案を引っ込めてしまう。いつも的確な指示を出す生徒会長が、こんな穴だらけな原案を持ち込むなんて珍しい。理想が高すぎて息苦しい原案を会議にかけて現実的な規則に作り替える事はあるが、今回の提案は非現実的すぎる。
皆は知らないのだが、この規則が「生徒間」を消した状態で施行されると、「先生と恋愛」も違反対象になって、発案者の麻由が真っ先に処刑台送りになってしまう。だから麻由は、直ぐに提案を引っ込めたのだ。
海跳は、精彩を欠く麻由に違和感を感じたが、「優麗祭のミスから立ち直れていない」と判断をする。
-12月上旬・定期テスト終了後-
不動明王との戦い(第15話)を経て、紅葉&美穂&バルミィが麻由を受け入れる。
優麗高の一般生徒達は、彼女達の活動など全く知る由も無く、当たり前の高校生活を営んでいた。
海跳はフードコートで勉強をする為に大型ショッピングモールを訪れ、今は昼食を食べていた。自宅や図書館で勉強をする方が静かで捗るが、それだけでは試験会場のあちこちで筆記や咳をする雑音で集中力を削がれてしまう。周りが騒がしいこの場所は、本試験時の“雑音に負けない集中力”を養う為に時々利用していた。
「・・・で、何で、受験と関係の無いオマエがここに居る?」
海跳の向かい合わせの席で、石松英邦が飯を食べている。
「ぶひぃ?海跳がちゃんと勉強ばやっとるか見張る為や!」
呼んでもいないのに勝手に付いて来た。気楽な表情で焼肉丼を貪り食う英邦を眺め、海跳は溜息を漏らす。
英邦は進学をしない。既に相撲部屋への入門が決まっている為、「落第しなけりゃいいや」と、卒業までに残された高校ライフを気ままに送ってる。
「オマエに心配されずとも、やるべき事はやる!」
海跳はチキンバーガーとビッグバーガーを平らげ、アイスコーヒーを一口飲み、脇に寄せておいた教材を広げ、再び英邦を見つめる。
「邪魔をするなよ」
「・・・ぶひぃ!」
「集中したいから話しかけるなよ」
「・・・ぶひぃ!」
早速、問題集の攻略を開始する海跳と、暇そうに周囲を眺める英邦。「話しかけるな」と言われてから3分が経過をした。
「ぶひぃ!のう、海跳!」
「・・・・・・・・・・・・ちぃっ!」
「海跳、ちょいと、いいかいのう?」
「良くない!話しかけるなと言ったろうに、たわけっ!」
数式を一つしかクリアしていないのに、いきなり邪魔をしてきた。これで、大した理由じゃなかったら追い返したい気分だ。海跳は苛立ちながら視線を上げる。英邦が真横の方向を凝視していたので、つられて視線を追う。
「・・・なるほど。僕には大した理由ではないが、オマエには一大事だな」
優麗高のブレザーを着た女子3人が連んで、ファーストフードのレジに並んでいた。
「2年の平山・・・か?」
「・・・ぶひぃ」
「一緒に居るのは、同じ2年の藤林と太刀花だな」
2年生の平山亜美&藤林優花&太刀花美希。海跳のイメージでは、常に亜美は源川紅葉とセットで行動をしているように思えたが、今は紅葉は一緒には居ない。むしろ、最近では紅葉は葛城麻由と一緒に居るところを目にする。高校に入学して2年近くが経過したのだから、連む友達の種類が変化するのは不思議ではない。
「やれやれ、仕方が無い。部外者(僕)は退席するから、誘って来いよ」
「・・・ぶひぃ?」
「一緒に飯を食いたいんだろ?僕は帰るから、遠慮せずに声を掛けてこい」
「ぶぶひぃぃぃっっ!そげんこと言うとらんばいっ!」
「おいおい、眺めているだけか?」
英邦は黙り込んでしまう。海跳は、以前から、英邦が亜美に好意を寄せていることを知っている。優麗祭の時は、暴走気味の亜美達を学校の規則から守る為に、英邦は踏ん張った。ところが、普段は男らしいクセに、相対するとてんでダメ。急に温和しくなって口数が減る。
英邦は卒業後は上京をするので、想いを伝えても直ぐに離ればなれになってしまう。だから、気持ちを伝えるつもりが無いというのなら理解は出来る。だが、それなら「平山がいた」程度のことで、勉強の妨害はして欲しくない。
「声を掛ける気、無いのか?」
「・・・ぶひぃ」
小さく頷く英邦。しかし、その表情は全く納得できていない。
「のう、海跳」
「なんだよ?」
「海跳は、生徒会長さんとは進展しとらんのか?」
「・・・はぁ?」
飛び火だ。確かに、海跳は、生徒会長の葛城麻由に好意を持っている。だが、海跳は首都圏への進学を考えているので、もし恋が成就しても、あと3ヶ月で離ればなれになる。気持ちを伝えたところで先は無いので、ワザワザ伝えるつもりは無い。無駄なことはしない。何よりも、受験前の大切な時期に、色恋に現を抜かす余裕なんて無い。
「ハッキリしない奴め!
向こうから寄ってくるなんて御都合主義に期待しているわけじゃあるまいな?」
「・・・ぶひぃ~」
「付き合ってられん」
のぼせ上がっている「たわけ」が目障りで勉強に集中できない。どうやら、今日のこの場所は、勉強に集中できる環境では無いらしい。
「あれぇ?冨久先輩?先輩もここで昼食なんですか?」
御都合主義が発動して、向こうから寄ってきた。海跳の優麗校内での人気を考えれば、無理の無いことかもしれない。積極的な性格の太刀花美希が声を掛けてきたのだ。亜美は後ろに控えて少し恥ずかしそうにしている。
「同席しても良いですか?」
「あぁ・・・どうぞ」
「ぶひぃっ!?」
「ちょっ、美希ちゃん、お邪魔しちゃ悪いよっ!」
「先輩が『どうぞ』って言ってくれてんだから良いの。
さっ、亜美、優花、座ろうよ」
「お邪魔しま~す。私と美希はこっち、亜美ちゃんはそっちの席ね」
「え~・・・優ちゃ~~ん・・・」
野郎2人でムサ苦しかった一角が急に華やぐ。美希達3人はテーブルの上にバーガーセットの乗ったトレイを置いて、美希と優花が海跳の隣に、残された亜美が空いている英邦の隣に座る。
美希と優花は、この場には居ない紅葉から“亜美と英邦”のことは“かなり大げさに盛られた状態”で聞いている。ゆえに、美希が「この偶然をチャンス」とばかりに、ワザと英邦と亜美を合流させた。ただし、紅葉みたく露骨な冷やかしはせず、「亜美と石松のことなんて知らない」「私が冨久先輩と同席したい」を装って、亜美が逃げにくい状況を作った。
「あれぇ?先輩、お勉強中でしたか?」
「あぁ・・・まだ勉強を始めたワケではないから気にするな」
「冨久先輩は、どこの大学を狙ってるんですか?」
「可能なら、関東圏に行きたいな」
「頑張って下さいね!」
「あぁ、サンキュー」
美希と優花が海跳に話しかけ、亜美と英邦は海跳達のヤリトリを無言で眺めている。隣に座っているので、なんとなく互いに互いの体温を感じる。
英邦が亜美に好意を持ったのはいつからだろうか?亜美が優麗高に入学した直後から「可愛い子」と思っていた。
一方の亜美は、英邦が気になりだしたタイミングをハッキリと把握している。7月に野球部の応援に行って、負け寸前の試合で、英邦が意気消沈する応援団を押し退けてバッターボックスの冨久海跳を鼓舞した時。それまでは「冨久先輩のオプションの大きい人」くらいにしか思っていなかった英邦が格好良く見えた。身近に感じられるようになったのは、優麗祭でホットプレートのレンタルを依頼した時からだ。怖そうなイメージがあったが、優しい先輩だった。その後は、校内でも街中でも、会った時は挨拶をするようになった。
「・・・あのっ」×2
どうにか話し掛けようとしたら、相手も同時に話し掛けて来た。2人は直ぐに言葉を引っ込めて、「どうぞ、そちらから」「いえいえ、そちらから」と遠慮をしてしまい会話が成り立たない。見かねた優花が話し掛ける。
「石松先輩はタレントになるんでしたっけ?」
「ぶひぃ?たれんと?」
「違うよ、優ちゃん。石松先輩はお相撲さんになるんだよ」
「紅葉ちゃんが『先輩は食レポをするモノマネ芸人を目指してる』って・・・」
相変わらず、情報が雑と言うべきか、色々と残念と言うべきか、紅葉って英邦をそういう目で見ていたんだ?確かに、将来的にタレントになる人もいるけど、それはあくまでも、お相撲さんを経由後の話だ。
「ぷぷぷっ!」 「ぶひひっ!」
亜美は、英邦が食レポをするシーンを想像して思わず笑ってしまう。つられて英邦も笑う。そして、目の前にあるポテトフライを一口食べて、食レポの真似事をする。英邦の朗らかな笑い方が、亜美には暖かく感じられる。おかげで少しだけ緊張が解けた。
「石松先輩は、モノマネ芸人じゃなくて、
モノマネが出来るお相撲さんを目指しているんだよ」
「え?そうなんですか?」
「ぶひっ?平山さん、それはちょっと違・・・」
「得意なのは照ノ富士のモノマネ!」
「ぶひぃぃぃっっ!!?」
亜美の無茶ぶりだ。どうやれば照ノ富士関のモノマネが出来るのかなんて英邦には解らない。だけど、空気を読んで立ち上がり、その場で軽く照ノ富士っぽく四股を踏んでみる。亜美と優花は照ノ富士の四股なんて解らないから、英邦のモノマネが似ているのかどうか判断できない。よく解らないから、とりあえず「おぉ!」と小さく拍手をする。
「他にも出来るんですか?」
「阿炎もできますよね」
「ぶぅぅ・・・」
英邦は阿炎関をイメージしながら四股を踏んでみる。亜美と優花は先程の照ノ富士の四股とどう違うのか解らないが、とりあえず拍手をした。傍目に亜美と英邦のヤリトリを見ていた海跳と美希は、「へぇ」と頷いく。
「ねぇ、冨久先輩!LINEの共有しませんんか?ついでに、石松先輩も!」
「LINE?」 「・・・ついで?」
美希から目で合図をされた海跳は直ぐに察した。彼女の目的は、英邦と亜美に連絡先を交換させることだ。友人の為に応じ、全員でLINEのグループを作り、メアドの交換をした。
その後、美希の発案で、5人はゲーセンで遊んだ。海跳には遊んでいる余裕なんて無いが、親友の為に時間を割いてやる。
エアホッケーをペアで戦う事になり、英邦と組んだ亜美が、小さな声で「さっきは調子に乗って無茶ぶりして、すみませんでした」と謝罪をした。英邦は小さな声で「こっちも楽しかったから気にしなくて良い」と朗らかに微笑む。
ゲームは美希&優花ペアの圧勝。亜美&英邦ペアは、緊張もあって互いに遠慮して動けず大量失点で負けた。
30分程度が経過をして、海跳が「そろそろ勉強しなきゃ」と言って解散になる。
亜美達はもうしばらく遊ぶらしいので、海跳が英邦に「オマエも残れば?」とアドバイスしたが、英邦は「1人では間が保たん」と、海跳と一緒に帰ることにした。
店を出た英邦は、先程、後輩達と一緒に撮影したプリクラを手に取って見つめる。女の子達3人が前(美希が真ん中で亜美と優花が左右)で、野郎2人が後ろに並んで写っている。美白機能や目を大きく修正する機能で、全員ほぼ別人だ。だけど、英邦にとっては亜美と写る初めての写真。
「なぁ、英邦。平山って、相撲に興味なんてあったのか?」
「ぶひぃ?」
「気付かなかったか?横綱の照ノ富士はともかく、阿炎って力士、僕は知らない。
相撲中継を見てれば有名な力士なんだろうけど、
僕は、相撲中継は見ないからな」
「・・・・・・・・・・平山さんは、相撲中継を見てるってことになるとね?」
「まぁ、そうなるんだろうな。
趣味が渋いと言うか、相撲に興味を持っている子には見えないんだけどな」
「どういう事ばい?」
「さぁね、あとは自分で考えろ」
首を傾げる英邦。卒業までの残された時間は僅か。海跳には、不確実な推測で英邦を焚き付けるつもりは無い。あと4ヶ月弱で離れることを承知で前進を望むのか、4ヶ月弱で離れるのだから楽しい思い出を作って終わりなのかは、英邦が考えれば良いことだ。
海跳自身は、今のところ、意中の相手に気持ちを伝えるつもりは無い。もし成立しても、勉強が忙しくて交際なんてできないし、交際して、もし受験に失敗したら、彼女にまで変な責任を負わせかねない。受験生にとって、恋愛は無駄以外の何物でもない。
駐輪場で自転車に跨がる海跳と英邦。12月になると、時折吹く風が肌寒い。




