3年生編⑥・祭りの顛末
-2日後-
≪♪ピンポンパンポ~ン
生徒会三役、及び、文化祭実行委員長、副委員長は、
至急、校長室に集まってください≫
校内放送が流れる。
「やれやれ、どう答えるべきか?」
クラスメイト達と共にチャリティーオークションの売り上げ集計をしていた海跳が、作業の手を止めた。
呼び出しの理由は想像できる。この度の騒ぎに対する事情聴取。生徒会はゲリラライブのことを事前に知って、意図的にスケジュールから隠していたのか?全く知らなかったのか?もし予想をしていたなら、事前に止めることはできなかったのか?
「知っていて隠した」は論外としても、どう返答をしても管理能力を問われるのは確実だろう。
「少しばかり顔を出すかな」
生徒会役員ではない海跳には無関係のこと。だが、放置はしたくないので、校長室に向かう。途中で、英邦が海跳を見付けて付いてきた。
「何故、オマエが同行する?」
「海跳も関係無かやろ?」
「引退済みとは言え、僕はアドバイザーだ」
「おいは首謀者ばい。彼女達はおいに脅されてライブをしただけ。
おいが責任を取るのは当然ばい!」
「まだその戯れ言を言っているのか?」
校長室の前に立って扉に手を掛けると、中から麻由の怒鳴り声が聞こえてきた。
「4人に、厳しい処分をお願いしますっ!!」
海跳には、麻由が怒る理由は納得できる。だが、校長に食って掛かる内容は気にくわない。間接的な妨害工作の次は、権力者の威を借る処罰。言いたいことは解るが、結局は自分の手を汚すことから逃げている。やはり、明確な敗北で麻由の目を覚まさせてから、改めて導かなければならない。
「英邦はここで待ってろ」
「なんばするったい?」
「生徒会長を落ち着かせる」
海跳は、石松を廊下に残して校長室に入る。そして、入室するなり深々と頭を下げた。
「この度は、申し訳ありませんでしたっ!」
自分の正当性を主張していた麻由と、事情を聞いていた校長&教頭が、海跳の突然の行動に面食らって言葉を失う。
「・・・ど、どういう事だね、冨久君?」
「なんで、冨久さんが謝罪をするんですか?
悪いのはライブを強行した4人ですよ」
「いいえ!この度の騒動は、我ら生徒会の管理能力不足が招いたことです!」
「君は知っていたのかね?」
「いや、知りませんでした!しかし、厳密に言えば、噂程度は聞いていました!
そのうえで『有り得ない』『できるワケがない』と間違った判断をして、
詳細を確かめることを怠ったのが、全ての原因です!
噂が飛び交う状況にも係わらず、生徒会からの注意喚起が何も無かったので、
実行をした4人が『反対はされていない』と判断してしまったとしても、
無理の無いことです!」
「発言を撤回してください!
その説明では先輩が責任を負うことになってしまいます!」
「はい、僕の責任です!
僕は生徒会のアドバイザーにも係わらず、職務を放棄しておりました!」
「それは事実かね、冨久君?」
「も、申し開きの言葉もありません!」
海跳が一方的に非を認めたので、校長も教頭も、先程まで関係者の厳罰を主張していた麻由も、何も言えなくなってしまう。特に麻由は、海跳の発言に心当たりがあるので反論をできない。間接的妨害で満足をして、コミュニケーションと詳細確認を怠ったのは事実だ。魂胆の全てが海跳から見透かされているように感じる。
「・・・すみませんでした」
麻由は蚊の泣くような小さな声で呟き、海跳に倣って校長&教頭に向かって頭を下げた。
これで、事情聴取は終わりかと思われたその時。
「すみまっせんでしたっ!今回ん騒動ん首謀者はおいばいっ!!
彼女達は、おいん指示に従うただけばいっ!!」
校長室の扉が開いて、英邦が飛び込んで謝罪をしながら頭を下げた。このままで「今回の騒動のA級戦犯が海跳になってしまう」と判断した英邦が、我慢できなくなって踏み込んだのだ。
「おいが、平山さん達を口車に乗せたとです!」
「そん証拠に、観客達ば先導したんな、おいばい!
罰するならおいば罰してくれん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×数人
海跳の謝罪内容にも説得力はあるが、英邦が中心になって客を煽ったのも事実。英邦が「首謀者」を名乗り、生徒会は「知っていて何もしなかった」と認め、見事なくらいに責任の所在が分散してしまった。これでは、麻由の主張する「当事者のみの厳罰」は難しいだろう。
「事情は解りました。
生徒諸君へのペナルティーについては、本日の臨時職員会議にて決定します」
校長室から解放された海跳は、直ぐに麻由のフォローをしたかったのだが、英邦にも言いたいことが山ほどあったので、「麻由へのフォローは後ほど」と決めて英邦と共に立ち去る。
「このたわけっ!
話がまとまりかけている最中に踏み込んで、状況を掻き回しおって!」
「ライブば止めようとした海跳ばじゃまくったんな、おいだ!
責任ば負うとは当然やろう!」
「全く・・・この、バカが付くほどのお人好しがっ!」
「ぶぅっひぃっひぃっひぃ」
後に、当事者4人も校長室に呼び出され、全てのペナルティーが決まった。
首謀者・石松英邦、反省文5枚と内申書の協調性、及び、学校活動への協力姿勢「×」。当事者の4人は、反省文2枚と2年生2学期の通知表で協調性、及び、学校活動への協力姿勢「×」。
そして、管理能力不足として、生徒会三役&文化祭実行委員長は、全校集会の場で全校生徒に謝罪をした。
-数日後・生徒会室-
海跳と麻由が窓際に立って外の景色を眺める。優麗祭当日と、その後数日間の喧騒が嘘のように、学校は平穏を取り戻していた。
「どうした、葛城?まだ何か不服か?」
「・・・・・・・・・・・・えぇ・・・まぁ」
「僕は見事な処分だと思うがな。
確かに、当事者4人の処分は軽いが、
無関係の者達が処分をされたことで、逆に罪悪感を残すことになった。
おそらく、自分達だけが処分されるより、彼女達には堪える結果だ。
自分達の暴走が他人を巻き込むと知った以上、
金輪際、軽率な行動はできないだろうな。
学名に傷を付けず、それでいて彼女達のバカな行動を封じられるんだ。
君からすれば、決して悪い結果ではなかろうに?」
「・・・は、はい。そうですね」
麻由の表情は冴えない。優麗祭において、彼女のやり方が全否定をされてしまったのだから当然だろう。
だからこそ、海跳は考える。卒業までの残り数ヶ月間、生徒会長をキチンとサポートして、「葛城麻由に、前以上に自信に満ちた笑顔を取り戻す」と。
窓から差しむ日射しが2つの影を作る。一つは、海跳と繋がる人の形。もう一つは麻由と繋がる蜘蛛の形。しかし、海跳は、麻由の心が闇に捕らわれかけていることに気付けない。そして、事態は、冨久海跳の思惑通りには進まない。
この事件がキッカケで、葛城麻由と源川紅葉の関係は険悪化の一途を辿り、やがて、海跳を含めた誰もが眼中には入れていなかった落ちこぼれの留年生・桐藤美穂の介入を経て治まる。そして、皮肉なことに、麻由は、目の敵にしていた“不穏分子”に信頼を委ねるようになり、「葛城麻由の笑顔」は、海跳ではなく“不穏分子”が与えることになる。
→→To be 第11話
-おまけ-
ペナルティー発表当日の放課後、海跳と英邦の姿は図書室にあった。英邦の前には400字詰め原稿用紙が5枚ほど広げられており、机を挟んだ向かいの席では海跳が問題集を解いている。
「ぶぅぅ~~~~・・・腹減ったとね」
「余所見をするな。集中して書け」
「ぶぅぅ~~~~・・・飯食いに行かんかね?」
「オマエの反省文が終わったらな」
「ぶぅぅ~~~~・・・」
「僕の貴重な勉強時間を、オマエの監視の為に割いてやってるんだ。
たかが5枚程度、サッサと終わらせろ」
「ぶぅぅぅ~~~~~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・終わったばい」
「ほぉ?やれば出来るじゃないか。どれ、見せて見ろ」
「ぴぃぎぃぃっっ!?」
英邦が折り畳んだ原稿用紙を奪い取って、内容を確認する海跳。
「ん?なになに?
『優麗祭の反省
3年D組 石松英邦
2度とこんな事はしません。ごめんなさい。
絶対に気を付けます。だから許してください』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだこれは?」
「ぶぅひぃ・・・は、反省文・・・」
「ほぉ・・・反省文ね。
なるほど確かに、とても簡潔に、良く纏まった文章だ。見事だな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・と、でも言うと思ったかぁぁ!!!
この大たわけものがぁぁっっっっっっっっ!!!!
98%が余白とは、どういう了見だぁぁっっっっっ!!!!」
「ぴぃぎぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ!!!!?」
激怒した海跳が、目の前の机を持ち上げて、英邦の脳天に叩き付けた!英邦の顔が、ビニールタイルの床にめり込む!これがギャグシーンでなければ英邦は即死だ!まだ怒り足りない海跳は、座っていた椅子を持ち上げて、英邦にトドメを刺そうとして、周りにいたモブキャラ達に羽交い締めにされて止められる!
「わぁ~~!冨久君落ち着いてっ!」
「えぇ~い!これが落ち着いていられるかっ!!
あれだけの騒ぎに荷担して、反省文がたったの2行とは、
いったいどういう事だぁっっ!!
たかが2000字の反省文すら書けないなら、
腹を掻っ捌いて責任をとれぇぇっっ!!!」
-2B-
ゲリラライブ当事者の4人が、一カ所に集まって、400字詰め原稿用紙を各2枚を広げて、反省文を書いている。重いペナルティーを覚悟していたので、原稿用紙たった2枚の反省文で済んで拍子抜けをした。
・・・と言いたいところだが、1枚目を書き終えて2枚目に着手している者が2名。1枚目の出だし3行だけを書いて、あとは「何を書けば良いんだろう?」と他人の書く反省文を眺めているのが1名。白紙の原稿用紙2枚の上に頭を乗せて昼寝をしている者が1名。
お勉強がチョッピリ苦手な連中にとっては、反省文は想像以上に過酷な刑罰だったようだ。
彼女達は、部外者の石松英邦が盾になってくれたことを知らない。
真面目に反省文を書いていた平山亜美が、ライブを応援してくれた石松英邦の姿を思い出して、ふと視線を上げた。
窓の外の青空を見つめる亜美の心の中で、薄らと現れた英邦の残像が「ぶひひっ」と朗らかな笑顔を浮かべる。




