3年生編⑤・ゲリラライブ強行
-優麗祭当日-
9時から体育館で優麗祭の開会式が行われた。麻由が『開催宣言』をして、優麗祭が始まる(第10話)。
ステージ部門の1番手で演劇『円卓の騎士』をやる1Cの生徒達と、2番手の野球部が残り、皆それぞれの場所へ散って行く。
校庭では、招待された高校のサッカー部が準備運動に励んでる。
やや離れた場所に設置されたテントでは、模擬店をやるクラスの生徒達が、10時開店に向けて支度をしている。
ステージ部門の午前中の目玉企画・3Aのチャリティーオークションは、メインMCの海跳の上手さもあって盛況のうちに幕を閉じた。野球部の後輩達がステージで行った盆踊りは、目を覆いたくなる完成度だった。去年、海跳達が中心になった模擬店・ストラックアウトが好評だったことを考えると、少々情けなく感じる。
自分の出番を終えた海跳は、何名かにコクられてお断りしつつ展示部門や模擬店を一通り廻り、14時20分開演の2Aの『オズの魔法使い』を見る為に5分前に体育館に入って後方で腰を降ろす。
概ねは誰もが知っているストーリーに忠実だが、所々にオリジナルの伏線が散りばめられており、終盤で独自解釈が取り入れてあり、面白いストーリーに仕上がっていた。
「ふむ・・・実にアイツ(麻由)らしい構成だ。
だが、これでは高校生ならともかく、子供達には難解だろうな」
2Aの演劇が終わったので、海跳は次の出番の為に舞台裏で待機しているであろう友人に声を掛けに向かう。しかし、舞台裏を覗き込んだ海跳は、英邦の姿を確認しただけで、あえて声を掛けることをやめた。
「ほぉ?これも、何かの縁というものか?」
恋愛は後回しな海跳でも、ここで踏み込んだら邪魔なことくらいは判断できる。
非常口付近で、英邦と2Bの平山亜美が並んで座って待機をしていた。余所余所しい雰囲気だが、亜美も少なからず意識をしているように見えるので「可能性ゼロ」とは言えないようだ。
「ステージんスケジュールに無かったばってん、ライブはやめたんか?」
「・・・え~っと・・・ですね。色々と忙しくて諦めました」
英邦と亜美は無許可ライブの話をしている。亜美は「諦めた」と話しているが、信じて良いのだろうか?踏み込んで詳細を聞きたいが、英邦の邪魔はしたくないでの盗み聞きに留める。
「石松!ラブいとこ悪いけど、そろそろ時間だぞ」
英邦のクラスメイトが茶化し気味に英邦を呼びに来た。3Dの演劇が始まる時間らしい。海跳は、ステージ裏から降りて、友人のステージを見守る事にした。だから、直後に、亜美を呼びに来た源川紅葉達が「ゲリラライブの打合せ」をするのだが聞き逃してしまう。海跳の最初のミスは、友人を優先させてしまったことになる。
「英邦がヒロインか?斬新だな」
3年D組の『項羽と劉邦』を題材にしたコメディー劇は面白かった。優麗高の人気女子トップ3の一角・田村環奈が、劉邦(主人公①)の悪妻役(呂皇后)を堂々と演じている。石松英邦が、何故か項羽(主人公②)の妻で、作中で最も美しい役(虞美人)を演じている。
「常識的に考えれば、田村が虞美人役で、英邦は豪傑役だろうな」
会場の集客、及び、熱気は、麻由が総監督をした2年A組の『オズの魔法使い』を超えている。田村環奈の容姿と演技力が客を湧かせているのだ。2Aも、麻由が裏方ではなく出演者になっていれば、もっと観客を集められただろう。その辺の「客に媚びる配慮」が足りないところが、クソ真面目な麻由らしい。
「田村・・・か」
2年前の優麗高・人気投票で、1年生では男子は海跳、女子は田村環奈がトップだった。優高には「人気上位同士は交際に発展しやすい」という都市伝説がある。「その気」になった環奈から告白をされたが、海跳は「今は友達と遊んでいる方が楽しい」と断って、「人気上位同士は交際に発展しやすい」噂を台無しにした。
1年前の人気投票は、2年生では海跳と環奈がトップ、1年生では麻由がトップだった。ただし、海跳、麻由共に、辞退をして表彰式には参加をしていない。そして、麻由が生徒会長になった今期は、人気投票は中止になった。
「もし、今年も人気投票があったなら、僕はどうしただろう?」
投票をしたい相手は一人しかいないが、彼女が今以上に注目を集めるのは胸中穏やかではいられない。海跳が男子のトップに選ばれて、彼女が女子のトップになった場合、「人気上位同士は交際に発展しやすい」噂を、ただの噂ではなく、現実にできた可能性はあるのだろうか?
「フン!バカバカしい」
海跳は、妄想を鼻で笑った。下らない噂に期待をするなんて自分らしくない。
ステージ上では、3年D組の劇が終わり、引き続き軽音学部のライブの準備が始まる。生徒会長が目の敵にする不穏分子が動き出すならそろそろだろう。軽音学部の演奏終了と同時にステージに乱入するなら、楽器を準備して舞台裏に待機をするはず。
「・・・・・・・・・・・・・・」
しかし、不穏分子達は最前列で軽音部の応援をしていた。海跳は念の為に舞台裏を覗き込んだが、楽器の類いは用意していない。亜美の言葉通りに「諦めた」ようだ。海跳は安堵の表情を浮かべる。
舞台裏からコート側を眺めたら、顰め面の麻由が軽音学部の演奏を眺めていた。ライブを楽しんでいる様子には見えない。優麗祭を成功させる為に、不穏分子の乱入を警戒しているのだろう。海跳も同じ、まだ警戒を止めたわけではない。
ステージ正面は麻由に任せ、海跳は舞台裏で腰を降ろし、背中でライブを聴きながら不穏分子の乱入を警戒する。海跳は、麻由の面子を優先させて、引退した自分が表立って動くつもりは無かった。裏方として不穏分子の予防をするつもりだったので、麻由と接触をして意見交換をしなかった。
海跳の2つ目のミスだった。麻由と接触をして「上空の宇宙船の情報」を得ていれば、海跳ならば違和感に気付けたかもしれない。
♪~♪~♪~
軽音部の後奏が終わって会場内が余韻に包まれる。
≪優麗祭の演目は、全て終了しました。皆さん、お疲れ様でした!≫
文化祭実行委員長のアナウンスが流れる。
「何も起こらなかったか」
不穏分子による無許可ライブは発生しなかった。警戒は空回りだったようだ。舞台裏からコートを覗き込むと、麻由も「無事に終わった」と安堵の表情を浮かべている。
彼女の「話し合いによる説得」ではなく、「権力を使った妨害」は窘めなければならない。権力の乱用を続ければ、いつかは噂になり、評判を落としかねない。だが、今は、生徒会長を「ご苦労様」と労ってやりたい。
≪優麗祭の大トリ!【バルミィラィブ】ぉ始めるよぉ~~~~~っ!!!
集まれぇ~~~~~~~っ!!!≫
屋外から大音量で歌声が聞こえてくる。歌声を追うようにして演奏も聞こえてくる。後夜祭には早すぎる。
「全演目終了後に屋外でイベント?」
海跳は、ポケットからスケジュール表を出して眺める。屋内外の全てを含めて、優麗祭のトリは軽音部のライブだ。もう、歓声が上がるようなイベントは残っていない。
「し、しまった!体育館ではなく、グラウンドかっ!!」
最前列で軽音部を応援していた不穏分子の姿が無い。彼女達は諦めていなかった。体育館に警戒を集めて、別の場所で準備を整えていたのだ。
海跳は慌てて非常口から屋外に出ようとする。海跳の人望と実績があれば、不穏分子を「足並みを乱す悪者」にして、無許可ライブを封じ込めることが出来る。・・・だが
「頼むけん、目を瞑って、やらせてやってくれんかいのう?」
背後から押さえ付けるようにして肩を叩かれた。振り返ると、英邦が海跳を見つめている。
「今はオマエの無駄話に付き合っている暇は無い!」
英邦の手を振り払い、改めて非常口に駆け出そうとする海跳。しかし、再び、背後から英邦が、今度は海跳が動けなくなるほどの力で、肩を押さえ付ける。
「なんのつもりだ!?」
「言うた通りや。平山しゃん達ん思い通りに、やらせてやって欲しか」
「・・・ふ、ふざけるなっ!
平山達は、ライブを諦めたのではなかったのか?」
「諦めたっちゃ聞いとる」
「だったら、この暴走はなんだ!?」
「諦めとらんかったんやろうな」
「それを理解した上で・・・
騙されたって把握した上で、彼女達の味方をするつもりか?」
「情報が漏れて、行動ばする前に妨害ばされよごたなか。
それくらい必死やったんやろうな」
再び英邦の手を振り払う海跳。しかし今度は非常口に向かおうとはしない。「どうせ、また止められる」と判断して、踵を返して英邦の方に向き直り、英邦の胸ぐらを掴んで睨み付ける。
「悪いが、今は、呑気にオマエを説得をしている時間は無い」
「おいは、海跳がじゃまくっとば、なんが何でんじゃまくるつもりや」
「・・・そうか、解った。覚悟はできているんだな。
だがここでは、人目につきすぎる。
決するつもりなら、立入禁止になっている屋上でいいな?」
「それで良かばい!」
校舎内の生徒や来訪者が、外の騒ぎを聞いて「何事か?」と校庭に向かう。海跳と英邦は、その波に逆らうようにして無言で階段を目指す。そして、立入禁止のバリケードを潜り抜けて、屋上に続く階段を上がる。
-屋上-
向かい合って睨み合う海跳と英邦。
「アレ(ゲリラライブ)は、運営の苦労に泥を塗る行為なんだぞ!」
「解っとるばい。やけんこうして、目ば瞑れと頼んどるったい」
「頼まれて、納得できる次元では無い!
あんな勝手な行為を認めたら、誰も運営の言うことを聞かなくなる!
オマエは、運営が積み重ねてきた物を、なんだと思っているんだ!?」
「解っとる。やけんこうして、海跳ば止むるったい。
もう引退したけん関係無かって考ゆるほど薄情ではないことば知っとるけんな」
「状況を理解しているのか!?
刹那の享楽の為に、運営は『管理不足』と赤恥をかかされ、
当事者の平山や源川は『騒ぎを起こした問題児』のレッテルを貼られ、
内申点を大きく下げることになる!
これは、誰も特をしない“その場しのぎの暴走”なんだぞ!」
「だったら、全責任はおいが取る。
彼女達は、おいに脅されて、渋々やったって事にしてくれんかいのう?
おいに内申は関係ない。卒業さえできれば、そいでいい。
騒ぎの首謀者は、おいって事で構わんたい」
「ふざけるなっ!そんな道理が立つわけが無い!」
「呑気に説得をしている時間は無かったんじゃなかとね?
マゴマゴしていたら、海跳が止める前に終わると」
「・・・くっ!オマエがその気なら、遠慮無く行くぞ!」
英邦に向かって拳を振り上げる海跳!対する英邦は、腰を落として両手を広げ、海跳を迎え撃つ!麻由のプライドを守りたい海跳と、亜美の自由を後押ししたい英邦、2人の意地と拳がぶつかる!
-数分後-
♪~♪~♪~
海跳は、仰向けになって、秋晴れの青空を眺めていた。1年半前の“海跳と英邦の初顔合わせ”とは真逆の状況だ。
「・・・なぁ、英邦」
「おっ?気が付いたとね?」
「僕は何分くらい落ちていた?」
「さぁ、計っとらんかったけど、30~40秒くらいじゃなかと?」
「・・・そうか」
不穏分子のゲリラライブの演奏は、伸されて寝転がっている海跳と、隣に腰を降ろしている英邦の耳にも届いていた。
「のう、海跳?」
「・・・なんだ?」
「なんで、本気を出さんかったと?
あの時(1年半前)と同じく、おいの急所を狙っとれば、
負けたんは、おいだったかもしれんのに」
「あれは喧嘩ではない。
オマエと喧嘩をする気が無かったから、適当にあしらっただけ。
でも今回は違う。
オマエに言い訳をさせない為に、何が何でも真っ向勝負で勝ちたかった。
だが、結果はこのザマだ。
座古先輩達や黒井さんとの争いで、自分の手を汚すことを嫌い、
オマエをアテにしたシワ寄せだな」
「・・・海跳」
英邦は少し申し訳なさそうに海跳を見つめるが、海跳は青空を眺めたまま小さく微笑み、仰向けのまま腕を上げて、英邦に向かって手首を振って「しっしっ」とゼスチャーをする。
「平山を応援したいんだろ?サッサと行けよ」
「ぶぅぅ・・・でも、そいじゃあ、海跳が置き去りばい」
「子供じゃあるまいし、置き去りなど、なんの問題も無いだろう」
「・・・じゃけんど」
海跳は寝転がったまま溜息をつき、顔だけを英邦の方に向けて睨み付ける。
「この、たわけっ!ここで、客の反応を聞いて気付かんのか?」
「ぶひぃ?」
「ゲリラライブに対する声援は、半分以下。あとは動揺だ。
あんな足並みを乱す行動をすれば当然の結果だ。
万人が、一過的なお祭り騒ぎを受け入れるわけがあるまい。
オマエは、冷たい視線の中で、平山達に演奏を続けさせるつもりか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「全責任は、オマエが取るんだろう?
だったら、会場に行って、責任を持って見物人達を盛り上げろ!
この下らないバカ騒ぎを、優麗祭の恥ずべき汚点で終わらせるな!」
頷き、立ち上がる英邦。仰向けのままの海跳に、「ライブが終わったら、また来る」と言い残して、駆け足で去っていく。英邦を見送った海跳は、青空を眺めながら、見えなくなって英邦に対して、小声で「サンキュー」と呟いた。
英邦が「本気を出していない」と見抜いた通り、海跳はハナっから勝つつもりは無かった。正面から挑めば、高校相撲の全国区ランカーに勝てるわけが無いことくらい百も承知だった。一発で伸されず、数発持ち堪えただけでもマシな方だろう。立場上、ゲリラライブを止めなければならないので、「止められなくなる」事情が欲しかった。そして、海跳の希望通り、海跳は英邦に打ち倒されて、ライブを止めることができなくなった。
空を眺めながら、校庭から届くゲリラライブのMCを聞く。しばらくの静寂があって、突然「豚の鳴き声」のような大声のエールが発せられた。そして、会場内に歓声が戻り、次の曲がスタートをした。
先程までと比べて、会場の雰囲気が変わった気がする。歓声の量が多くなり、会場全体が一体となっている。英邦が公約通りに見物人達を牽引する責任を果たしたのだろう。会場の大半が不穏分子の支持を始めたのだ。
実績を持たず、ちょっとした人気者や目立つ程度の存在では、大衆を味方に付けることはできない。大半が「物珍しいバカ」として扱うだけだ。だけど、実績を持ち、皆から認められた者が、神輿を担ぎ上げれば、大衆が支持をして「バカ」は「英雄」になる。
つまり、石松英邦という実力者が、堂々と応援に廻って大衆心理を先導した瞬間に、「物珍しいバカ」は「英雄」に変わり、型に填まった運営の計画が想定外の行動に敗北したことを意味していた。
♪~♪~♪~
「いててっ!あのバカ、本気で殴りやがって」
トドメの一発となった腹へのダメージが痛い。全身を引きずって手摺り側に寄って、凭れ掛かりながら校庭の状況を眺める。そして、屋外ステージに集まった見物人達が盛り上がる中で、蹲っている麻由を見付ける。普段から華奢な背中だが、いつも以上に小さく見える。
「葛城・・・オマエは、一度、その慢心を打ち砕かれるべきなんだ」
生徒会長ならば、ゲリラライブを糾弾して止めることはできただろう。麻由には、それくらいの統率力はある。
しかし、彼女にはできなかった。理由は簡単だ。今まで、不穏分子との直接交渉を避け、間接的な妨害しかしなかったので、土壇場で対峙をする度胸を失ったのだ。ずっと説得を続けてきたのに不穏分子に無視されたのであれば、「不穏分子は身勝手な奴等」と認識され、会場は生徒会長の味方になったはずだ。
「今回の敗因は、生徒会の権力を、オマエ自身の能力と錯覚したこと。
仮初めの権力でネジ伏せるのではなく、
話し合いで譲歩案を見付けなければならなかった。
だからオマエは、オマエの意思を上廻る行動力に負けたんだ」
今のままでは、近い将来、麻由は「権力を笠に着て、自分の都合で好き勝手をするヤツ」と孤立することになる。
会場の半数が、ゲリラライブに冷ややかな視線を向けていたうちに、海跳がステージに上がって糾弾すれば、不穏分子を悪役にすることは容易かった。しかし、それでは、麻由の手助けすることになり、権力に溺れつつある彼女を目覚めさせることはできない。
海跳には「自分ならば麻由を言い負かせる」自信があるが、生徒会を引退済みの立場で、麻由に恥をかかせたくない。だからこそ海跳は、共に敗北することを選んだ。
「僕は君を見捨てたりはしない」
目を閉じて曲に耳を傾ける。痛む海跳の全身に、不穏分子・バルミィの美しい歌声が染み入る。
♪~♪~♪~




