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3年生編④・麻由と優麗祭と海跳の思惑

-10月-


 生徒会役員の改変期を迎え、麻由が2年連続の生徒会長に信任をされた(第5話)。


 旧生徒会のバックアップを受け、新生徒会が主導する初めての学校行事が優麗高の文化祭=優麗祭になる。

 例年、優麗祭での各クラスの企画希望を集計して、人気が密集した部門から手薄な部門に振り分ける作業が行われる。今年は、校舎が使えない為に模擬店のスペースが限られるのだが、例年通り模擬店希望が殺到して、昼休みに集まって抽選が行われる事になった。


 生徒会副会長を引退した海跳は、引き継ぎを兼ねてアドバイザーに就任している。基本的には手際良く行事を采配する麻由を見守るだけなのだが、毎年恒例の企画希望の仕分けを、今年の生徒会長がどう取り仕切るのか興味を持ち、抽選の場に顔を出していた。


「事情が事情なので、今年は、出来る限り3年生の希望を優先させて、

 不自由な状況で良い思い出作りをして欲しいと思うのですが、

 いかがでしょう?」


 麻由の提案に、3年生の文化祭実行委員達は喜び、1~2年生の実行委員は動揺をする。その動揺の中に2年B組の源川紅葉の姿もあった。上記提案により2年生の模擬店枠は1つのみ。希望クラスは4。確率は1/4。


「模擬店希望の各実行委員には、企画のプレゼンをしていただき、

 その説得力に応じてクラス名を書いたクジの数を変えます。

 それでは早速、スピーチをお願いします。

 例え急でも、模擬店を企画したい気持ちが強いのなら出来ますよね」


 漠然と抽選をするのではなく、熱意あるスピーチで当選確率が変わる。海跳は、麻由の更なる提案に苦笑した。実に生真面目な彼女らしいお堅い選出方法である。

 一方の紅葉にとっては寝耳に水。満足はスピーチが出来ず、2年B組はクジに外れて模擬店の資格を失った。


 先程までは「面白い采配」と思いながら眺めていた海跳は、一連の流れを不審に感じた。校舎が使えずに不自由な状況で、3年生を優遇してくれるのはありがたい。充実した優麗祭にする為に、スピーチで熱意を確かめて優遇するのも理解出来る。だが、麻由は“突発的にスピーチ”を要求した素振りだったが、2B以外は前もって用意したような見事なスピーチだった。抽選に外れたクラスの実行委員が去ってから、麻由に近付く。


「なぁ、葛城。今のスピーチは、今、この場で要求したんだよな?」

「はい、それがなにか?」

「特定のクラスのみ突発的だった・・・ということはないよな?」


 麻由は、海跳に見透かされているような気がして僅かに怯む。実際は、2年B組以外には事前に「スピーチが必要」と情報が洩れて伝わるように仕組んでいた。だが裏を返せば、「2B以外に情報が洩れただけ」で、直接伝えたわけではない。だから、若干の疚しさはあるが嘘は付いていない。


「は、はい、もちろんです。冨久先輩の仰ることが理解出来ません」


 海跳がイメージする麻由は、やや独善的だが常に公平公正で、そのような不公平をするとは思えない。だが、同時に、源川紅葉に対して、麻由がペースを乱された春の生徒総会は、比較的記憶に新しい。紅葉と相対すると、麻由がおかしくなるように感じる。


「・・・そうか、なら良い。だがな、葛城。

 引退をした僕が言える立場ではないが、

 立派なスピーチだけでは解らない事が沢山ある。

 そこは考慮しなかったのか?」

「・・・え?」

「ここからは、あくまでも、僕が責任者だった場合の思惑なので、

 片耳だけで良いから傾けてくれ」

「・・・はい」

「生徒会の職務は公正公平、一個人の感情で采配をしてはならない。

 それは当然のことだ」

「わ、私は個人的感情なんて持ち込んでいません!」

「僕が喋っている。いいから黙って聞け。反論はそれからだ」

「す、すみません」


「公正公平が当たり前だが、僕ならば、企画成功の為に多少の個人的感情は挟む。

 問題の多いクラスや、覇気の無いクラスには、

 来客との接触頻度が高い模擬店は遠慮をしてもらいたい。

 その様なクラスに模擬店を希望された場合、

 企画面接で、意図的に外す場合もあるだろう。

 しかし、2Bの場合は逆だ。あのクラスには活気がある。

 学力や戦術的な協調性は2Aには適わないが、

 ノリの良さや元気は2Bが優れている」

「そ・・・そう・・・ですね」

「それらを考慮すると、2Bに展示部門や自主製作映画のような、

 来客との接触が少ない企画は不向きだろう。

 ステージ部門は、魅せる学力や知識が望まれる。

 優等生が集まっている君のクラスのようにな。

 そして、僕が見る限り、ステージ部門も展示部門も、それなりに充実している。

 そうなると、残るは模擬店だ。

 雰囲気が明るい2Bは、あきらかに接客に向いている」

「・・・た、確かに」

「優麗祭成功の為に、適材適所を視野に入れるのも、

 生徒会長の役目なのではないか?

 君ならば、理解出来るだろう?」

「・・・は、はい」

「皆が君のように、語彙力や説得力に優れているわけではない。

 熱意や適正があっても、スピーチが下手な場合もある。

 僕には、スピーチによる抽選確率の変動は、些か早計だったように思えるな」

「そ、そうかもしれませんね。

 ですが、今更、決定を覆して許可をするわけにはいきません」

「もちろん、決定した事を簡単に覆すわけにはいかない。

 2Bには些か気の毒だが、優麗祭は君が決定した通りに進めてもらう。

 僕が言いたいのは、今後の事さ。

 生徒会長として、適材適所を視野に入れた采配を期待してる」

「・・・わ、わかりました」

「じゃ、頼んだぞ生徒会長」


 海跳は笑みを浮かべて、麻由の肩を軽く叩いてから、その場から立ち去る。

 内心で動揺をしていた麻由は、必要以上の追及をされずに済んだ事に安堵の溜息をついた。海跳との舌戦になると、どうしても言いくるめられてしまい、誰が生徒会長なのか解らなくなる。


 これで、優麗祭の企画希望の悶着は片付いたと思われた。

 しかし数日後、麻由は2Bの模擬店希望を許可をする(第6話)。決定打は美穂による脅しに近い説得だが、海跳に見透かされ、注意を受けて気持ちが揺らいでいたのも事実だった。まさか、アドバイザーから横槍が入るとは思っていなかった。


「何なのよ・・・・何で揃いも揃って、私の前に立ち塞がるの? 」


 麻由は、強ばった表情で、悔しそうに拳を握り締める。




-翌日の放課後-


 英邦が機嫌良く鼻歌を歌っていたので、海跳は「何事か?」と尋ねてみる。


「平山しゃんとランチばしたんや」

「ほぉ?驚いたな。いつの間に、そんな睦まじい仲に?」

「む、睦まじかなんて、そぎゃんとじゃなかよっ!

 平山しゃんだけじゃかくて、源川しゃんや相撲部ん後輩も一緒ばい。

 相撲部んホットプレートば、

 優麗祭で平山しゃんのクラスに貸して欲しかって頼みぎゃ来たんや」

「たったそれだけで、そんなに浮かれているのか?」

「う、浮かれとらんばい」

「誰が見ても解るくらい浮かれているぞ。

 平山って源川と同じクラスだったよな?ホットプレートなんて何に使うんだ?」

「模擬店で使うったい。」

「・・・・・・・・・・・・ん?」


 2年B組の模擬店希望は通らなかったはずだ。勝手に店を出すつもりなのだろうか?海跳は、近くを歩いていた生徒会の現役員に寄って行って確認する。


「2Bの熱意に負けて、生徒会長が許可をしたらしいですよ」


 海跳は驚いた。2Bが通したのは熱意ではなくワガママだ。各クラスの役割が決まった後で、1クラスが放棄して要望を通すなんて許されるわけがない。


「何故、こんな無法が罷り通るんだ?」


 もし仮に、全クラスが「熱意という耳障りの良い身勝手」で模擬店を希望して許可をされたら、優麗祭は成り立たない。麻由らしくない裁定だ。やはり、源川紅葉が絡むと、麻由の何かが捻れてしまうように感じる。




-数日後・11月上旬(文架祭の数日前)-


 紅葉達に屈した麻由が“次”の露骨な妨害工作に動き出す(第9話)。


《本日より無期限に、体育館のピアノの無断使用を禁じます。

 ピアノの使用は、授業、式典、イベントの時のみ。

 使用時以外は、蓋を閉めて施錠します。

 使用希望者は、あらかじめ先生もしくは生徒会に申し出て、

 所定の手続きを行って下さい。

 なお、優麗祭・ステージ部門での使用は、

 既に届け出があるものは許可済みとします。

 ピアノは非常に高価でメンテナンスが大変な楽器です。

 予期せぬトラブルで使えなくなる事態を防ぐ為、ご協力をお願いします》


 突然、生徒会長の校内放送がスピーカーから流れる。

 3A教室内でクラスメイト共に、集まってきたオークション品の整理をしていた海跳は、手を止めて首を傾げる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???」


 今まで自由に開放していたピアノを急に使用禁止?放課後に生徒が趣味で弾くこともあるのに、使わせないって事か?誰かが乱暴に扱って不具合が生じたなら納得ができるが、そんな情報は無い。使用禁止にする意味が解らない。優麗祭の準備期間中に、生徒会長の意味不明な行動は2度目だ。一緒に作業をしていた文化祭実行委員に尋ねる。


「何日か前に、2Bの源川が、ギターを担いで登校してきたって噂になったよな?

 その後どうなったか知ってるか?」


 先日の模擬店騒動に疑問を感じていた海跳は、麻由の不可思議な行動と2Bの紅葉を直結させてしまう。


「それなら、放課後に何処かのスタジオでバンドの練習をしているみたいだぜ。

 同じクラスの平山や2Cの桐藤と一緒らしい。

 学校から直でスタジオに行く為に、持ってきたんじゃないか?」


 最初に噂を聞いた時は、てっきり「文化祭でライブをやる」為に許可を得るつもりだと思っていたが、文化祭実行委員が最終作成をした企画書の中には紅葉達のライブのスケジュールは無かった。


「何故、このタイミングでピアノを使用禁止に?」


 2Bの企画は模擬店だ。2Bがステージ部門(例えばミュージカル)だから、練習できないようにわざとピアノを使用禁止にしたわけではない。そんなことをしたら大問題になる。


「何がどうなっている?」


 思案をする海跳は、英邦が紅葉や亜美と接触をしたことを思い出した。英邦なら何かを知っているかもしれない。




-放課後-


「平山達は、バンドなんて組んで何を企んでいる?」

「ぶひぃぃっっっ!!!ぷぎぃぃぃぃぃっっっっっ!!」


 ホームルーム終了と同時に3Dに行って英邦を呼び出し、「何も知らない可能性はあるかも」とダメ元でカマを掛けたら、いきなりもの凄く動揺をした。あまりにも解り易すぎて海跳は溜息を漏らす。


「オマエ・・・動揺しすぎだ。少しは隠すことを知らんのか?」


 優麗祭で無許可のライブを強行する。2Bの平山がピアノを担当している。それが、英邦の自白した情報だった。

 案の定と言うべきか、とんでもない企てが秘密裏に計画されていた。会場は体育館ステージだろうか?さすがに、他のクラスや部活のステージイベントの邪魔はできないから、タイミング的にはステージ部門のトリになる軽音学部の後と予想される。

 ピアノを封じれば、無許可ライブで使用するメインの楽器が一つ消滅する。優麗祭のスケジュールに無い企画など、認められないのは当然だ。そんな物を黙認したら、皆が勝手なことをやり始めるだろう。一歩間違えれば、優麗高の品位を落としかねない。


 生徒会長の思惑が理解出来た。スタンスとしては賛同する。だが「露骨な嫌がらせ」としか思えないアプローチ方法が気にくわない。

 当事者達を呼んで「気持ちは解るけど、君達だけを特別扱いにはできない」と説得をすれば良いだけではないのか?ここは、渡帝辺高のような荒くれの集まりではなく進学校だ。生真面目な平山ならば、腹を割って説得をすれば納得をしてくれるだろう。


「何故、アイツ(麻由)は、話し合いを避けている?」


 アドバイスをするつもりで、海跳が2A教室に顔を出したら、麻由を中心に2Aの生徒達が真剣な表情でリハーサルをしていた。声を掛けられそうにない。


「・・・今、横槍を入れるのは無粋だな?」


 麻由の無許可ライブに対する妨害手段は良策とは思えないが、ピアノが使えなければ実行できないのも事実。仮にオモチャのピアノ程度を持ち込んだって、本格演奏をする軽音部のあとでは誰も相手にはしないだろう。

 今回の強引なやり方への注意は、優麗祭が成功をした後で、労い言葉と共に、それとなく伝えれば良い。何よりも、既に引退済みの立場で偉そうなことは言いたくない。

 海跳は、2Aのリハと総監督の真剣な姿をしばらく眺め、その場から立ち去っていった。


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