2年生編⑥・海跳vs黒井~生徒会長は1年生?
「自白していただき・・・ありがとうございました!予想通りです!」
「・・・・・・・・・・・ん?」
黒井から数歩離れ、ポケットからスマホを取り出して再生ボタンを押す海跳。
『葛城が作って生徒会室に持ち込んだ資料、持ち出して処分したの俺なんだ。
昨日、橋の上から川に捨てた』
黒井の供述が録音されている。黒井はまだ、海跳に謀られたと気付いておらず、訝しげな表情をしている。
「どういうこと・・・だ?」
「どうもこうもありませんよ。
生徒会から邪魔者を追い出す為、決定的な発言を記録させてもらいました」
「・・・ん?葛城を追い出すのと、俺の声に何の関係が?」
「鈍いですね。追い出される邪魔者は葛城ではありませんよ。
たった今、自白した資料盗難の犯人です!」
「お、おまえっ!!欺したのか!?」
ようやく、海跳に乗せられたと気付いた黒井は、青ざめながら拳を振り上げ、海跳の頬を殴った!殴られた海跳は数歩後退をして立ち止まり、唇の端に滲んだ血を手の甲で拭って、再び黒井を睨み付ける。
「今の一発は、黒井さんを欺した謝罪代わりに、わざと殴られました!
だけど、痛いのは嫌なので、もう殴られるつもりはありません!」
「スマホをよこせっ!」
「お断りします!」
「おまえっ!」
海跳に掴みかかる黒井!しかし、海跳は、素早く身を引いて黒井を回避し、足を引っ掛けてバランスを崩させる!
「黒い噂ばかりの黒井さんとサシで勝負するほど勇敢でもバカでもありません!
ましてや、黒井さんと殴り合いをするつもりもありません!
証人、兼、用心棒は、ちゃんと連れてきています!・・・・・英邦っっ!!」
海跳は、体の向きを変えて、英邦の名を叫びながら、手に持っていたスマホを、橋の方向に思いっ切り投げる!同時に、橋の下から巨漢が飛び出して、現役野球部がコントロール良く投げたスマホを片手でキャッチした!
「相撲部の・・・い、石松・・・か?」
黒井の視界が一瞬真っ暗になった。同じような体格の海跳が相手なら勝算もあるが、相手が相撲の全国3位では勝つ見込みは無い。スマホの奪取を不可能を悟り、力無くベンチに腰を降ろす。
「・・・・・何故だ?」
「黒井さんが、名声を得るだけの目的で、生徒会に所属している事は、
行動を見れば解ります。
だけど、そんな事どうでも良い。
黒井さんが、変な意地の為に他人に迷惑をかけなければ・・・ね」
「・・・・・・・・・・・・・」
「女の子を泣かせちゃダメですよ。
どんなに生意気でも、どんなに小煩くても・・・彼女は一途に頑張っています。
他人の意見にケチばかり付けて偉ぶっている黒井さんとは違いますよ。
生徒会にとって必要な人材がどちらかくらい、誰にでも解ります」
「あんな、独善ばかりの生意気な一年が必要なのか?」
海跳は「フッ」と微笑みを浮かべ、前髪を整えてメガネを上げ、遠い目で空を見上げた。
「必要です。
確かに彼女は独善ですが、
目に余る部分はフォローして軌道修正すれば良いだけです。
葛城が提唱する『品質の良い生徒会』を作れば可能だと思っています」
「・・・くっ!毒されやがって!俺をどうするつもりだ?」
「どうもしませんよ。
黒井さんが名声を欲している行為に文句を言うつもりはありません。
もちろん、黒井さんなりに作った名声に傷を付けるつもりもありません。
先ほども言いましたが、僕には、どうでも良い事です」
「・・・信用して良いのか?」
「はい、僕を信用してください。
ただし、二度と生徒会室には顔を出さないでください。
任期は、新生徒会が発足するまで、あと1ヶ月くらいはありますが、
黒井さんが居なくても何とかなります」
「・・・なっ!?」
「この件が明るみに出て追放されるより、
名ばかりでも副会長の肩書きが残った方がマシですよね?」
黒井は、しばらくは黙ったまま顰め面をしていたが、やがて首を縦に振って海跳の条件を受け入れた。
決着後、英邦から返されたスマホを見た海跳は、生徒会長からメールが入っていた事に気付く。開くと「ほどほどにしておけよ」とメッセージが入っている。生徒会長は、海跳が何をするつもりなのか把握をしていたようだ。海跳は、「すみません 手遅れです ちょっと熱くなっちゃいました」と返信を入れ、続けて「気付いてたんですか?」と追伸を送った。
海跳と英邦は、放心中の黒井に一礼をして、並んで立ち去る。
「ベストタイミングで飛び出してきてくれたな。
オマエのおかげで、黒井さんが直ぐに折れてくれた」
「そりゃ、おまんが殴られたばってん慌てて飛び出すとね」
「サンキュー!英邦なら、僕がヤバくなる前に助けに来てくれる思ってたよ」
「スマホ受け取っただけじゃけんど、役に立ったとね?」
「あぁ。今回ばかりは、かなり助けられた」
英邦を見て爽やかな笑顔を見せる海跳。つられて英邦も誇らしげに笑う。
「ばってん、海跳」
「・・・なんだ?」
「おまんが、野球以外で熱くなっちょるところ、初めて見たとね」
「ん?そうか?」
「庇った娘の事・・・好いとると?」
「たわけっ!なんでそうなる!?オマエの話は、いつも極端だ!
だけど・・・一生懸命な彼女を応援してやりたい・・・ってのはあるかな」
生徒会長は塾に通っているのだろうか?海跳が帰宅をして、スッカリ忘れた頃にメッセージが返ってきた。
『おまえの顔を見て直ぐに解った
ガチのオマエが相手ではクロ(黒井)じゃ勝負にならない
クロは恥をかくのを俺に見られたくないだろうから退いたんだ』
確かに、生徒会長が同席していたら、黒井副会長は面子に拘って、引くに引けなくなっていただろうし、なにより海跳自身が「葛城麻由を嫌いな演技」をやりにくかった。オマケに、黒井を欺す為とは言え、生徒会長の事もディスってしまった。会長の大人の配慮には感謝をしておく。
-数日後の放課後・生徒会室-
役員達の話題は「黒井が生徒会活動に不参加」の事だった。ただし、彼の名声を失墜させる事件の事は誰も知らない。事実を知っているのは、海跳と英邦、そして翌日に詳細説明を求めてきた生徒会長だけ。黒井は「本腰を入れて受験勉強をする」から「生徒会活動から手を引く」事になっていた。会話を聞いた海跳は「プライドの高い黒井さんらしい言い訳だ」と感じながら、生徒会長と視線を合わせる。
2年生の書記の間地芽江に引っ張られて、麻由が生徒会室に入っくる。生徒会室前の廊下で「行こうか行くまいか」と立ち止まっていたところを、芽江に見付けられて、半強制的に連れてこられたようだ。
恥ずかしそうに、皆に一礼をする。そして、何事も無かったかのように麻由を受け入れる生徒会役員達を見て安堵の表情を浮かべ、抱えていた封筒を開けて束ねられた資料を取り出し、役員達に配布をする。
「ん?これは?」
「以前提案した選挙改正案の資料です」
「紛失していなかったのか?」
「いえ、もう一度、同じ物を作りました。
同じとは言っても、事前にチェックして、部分的には修正してありますが」
海跳は目を丸くして驚いた。たいした努力家、すさまじいバイタリティーだ。資料には、いくつかの民主主義国家の選挙の成り立ちや、他校の選挙方法が簡潔に纏められ、麻由の論文形式の発議で〆られている。おそらく、資料の詳細を求めれば、麻由が口答説明をできるのだろう。
皆、「資料を用意していたクセに、来るかどうかで迷っていたの?」と疑問に感じつつ、あえて何も聞かない。彼女は来たくなかったのではなく、誰かに呼び込んでもらい、入るキッカケが欲しかったのだ。
「このクオリティーを・・・たった数日で?」
「はい、一度作ったものと同じなので、比較的簡単に作成できました」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「この資料があれば、直ぐにでも議論に移れそうだな」
海跳や生徒会長が、今まで以上に議論に積極参加をするからだろうか?他人の意見にケチばかり付ける黒井がいないからだろうか?会議は充実し、皆が忌憚の無い意見を出し合う。
麻由が主張する「推薦枠」は在野登用には確かに有効だが、やんちゃな数人が集まって適当な生徒を「推薦枠」に無理矢理押し込んで笑い物にする危険性がある。しかし、従来通りでは、生徒会の質を向上させることはできない。
落ち着いた意見交換により、「推薦者5人を要する立候補制」「推薦者は名前を貸すだけではなく、選挙期間中は一定の権限と責任を持って活動する」と、従来型と麻由案の折衷案で選挙改定が決まった。
麻由は、満足そうに微笑んでも納得をする。麻由がやりたかったこと、そして妨害が入って今まで出来なかったことは、このような前向きな意見交換だった。
「上手くいくかは、やってみなければ解らないが、今回はこれで試してみよう」
「推薦者に一定の権限と責任を与えれば、
推薦者と候補者の関係から、候補者の人間性がクロースアップされる。
これで、選挙活動中に、誰が誠意を持ち、誰が形ばかりなのか、
有権者が判断をしやすくなるな」
「在野登用については、今回は、書記、会計、庶務、執行部で試してはどうか?」
「それは名案ですね。
人望、やる気、能力のある人は、翌年の選挙への出馬を促す事ができます」
「それでは、選挙改訂については、先ほどの通りとして、生徒総会に発議を提出。
在野登用については、次回の生徒会への課題って事で良いかな?」
「はいっ!」×たくさん
有意義な意見交換は終わった。現生徒会長は、選挙改革の結果を期待し、次期生徒会の成立を楽しみに感じる。多少の急激な変化でも、人望ある副会長が会長に昇格する次期ならば、一丸となって様々な案件をクリアしていくだろう。現生徒会長だけでなく、役員達の誰もが、その場にいる次期生徒会長の最有力候補に期待をしている。
「来年の生徒会を頼んだぞ、海跳」
「はい!」
「まぁ・・・改訂はするけど、
順当すぎて、生徒会長選は盛り上がらんだろうな」
「葛城は?副会長に立候補したらどうなんだ?」
「いえ、私は、そこまでは考えていません。
魅力ある役職ですが、執行部として活動に参加できればヒラでも構わないので」
「あら、そうなの?葛城さんは、てっきり、立候補すると思っていたのに」
「俺は、冨久生徒会長、葛城副会長・・・悪くない組合せだと思うんだがな」
「ん?僕が生徒会長?・・・何の話ですか?」
海跳の言葉に生徒会室内がどよめく。誰が見ても、海跳以上に次期生徒会長が相応しい者はいない。その場にいる誰もが、海跳は生徒会長に立候補すると思っていた。海跳が立候補をすれば、一強他弱で海跳の圧勝。いや、海跳に対抗して生徒会長を狙う立候補者など存在しない可能性すらある。
「『何の話』ってオマエ・・・たった今、来年の生徒会を頼んだばかりなのだが」
「はい、頼まれました。だから続けるつもりですよ、生徒会役員は。
ただし、会長ではなく、次も副会長に立候補をします」
「はぁ?」×たくさん
海跳の言葉に、再び生徒会室内がどよめく。誰が見ても、海跳以上に次期生徒会長が相応しい者はいない。それが、副会長を希望するとはどういう事だ?ならば、誰が、生徒会長になる?自分は副会長職に座したまま、書記&会計&庶務の誰かを押し上げるつもりか?それとも、在野から引っ張るつもり?
「生徒会長なら、僕以上の適任者がいますよ。
『次年度の3年生以外は生徒会長に立候補できない』なんて規約はありません」
海跳は「フッ」と微笑みを浮かべ、気障ったらしく前髪を整えてメガネを「クイ」っと上げ、組んでた長い足を戻して優雅な仕草で一方向を指でさす。役員達がつられて、指でさされた方向に視線を移す。
指の先には、目を真ん丸く見開いて驚く葛城麻由がいる。
「えっ?」
「オマエが、次期生徒会長になれ」
「えぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!?」
生徒会室内に、麻由の驚嘆の大声が響き渡る。




