2年生編④・1年A組の躍進~生徒会改変期
-秋・各種新人戦-
各部活の3年生が引退をして、2年生を主力にした新体制の大会が始まる。
石松英邦は秋の大会では全国大会で3位となり、着実に相撲経歴に花を添えている。優勝をしたのは、大関力と言う。大会前の下馬評では「優勝は大関か英邦のどちらか」と言われていたが、石松は準決勝で足首を痛めてしまい、決勝戦には進出できなかった。
冨久海跳がキャプテンを引き継いだ野球部は、4回戦で優勝候補の一角と対戦をして延長戦まで縺れ込んだが、スタメンになって間もないショートのエラーが起点となり2点差で敗退をした。夏のレギュラーの半分以上が引退してしまったチームは、まだまだ課題が多い。この大会以降、3年生が居る間がサードを守っていた海跳は、内野の花形・ショートにコンバートをされる。
弓道着&胸当てで身を包んだ葛城麻由が、射位に立ち、意識を集中させて、弓を押して弦を引き、番えた矢を射る。矢は空を突き抜けて的に中る。
優麗高弓道部では、経験僅か半年の麻由が上級生をゴボウ抜きにしてエース候補の一角に育っていた。ただし、まだ会(的を狙う)~離れ(矢を放つ)の祭に気持ちにムラがあり、上位入賞は出来たものの全国大会には進めなかった。団体戦に至ってはメンバーに恵まれず予選で敗退をした。
生徒会長を含め、既に部を引退をした3年生の先輩達が、麻由の行射を眺めている。
「やはり、渡帝辺工業高校の圧勝か」
「だが、個人戦は、来年の夏は面白くなりそうだな」
「葛城さんは、成り上がる為の努力を惜しみませんからね」
県内で弓道が強い高校は、同じ文架市内の私立・渡帝辺工業高校だ。特に、2年生で、家に弓道場がある矢崎あたる&矢崎ゆみ(双子の兄妹)は別格で、他の追随を許さず、男子個人の部、女子個人の部、各団体戦は、渡帝辺高が優勝杯を総取りにして全国大会への出場を決めた。
「惜しかったね、葛城さん」
「いえいえ、私なんて、まだまだですよ」
定期テスト1位&統一模試上位、弓道大会上位、そして容姿の良さが加味されて、麻由は校内で目立つ存在に成りつつあった。春に海跳が提起した「実績」が徐々に備わっている。
「部長(新部長)、畳の縁を踏まないでください。」
「いや、今のは、バランスを崩してよろけただけで!」
「言い訳はしないでください。気持ちが浮ついているから、そうなるのです」
海跳に提起された項目のうち、「実績」は備わりつつあるが、まだ「頭ごなし」で「相手の意見を聞く」は全くできていない。様子を眺めていた3年生達は、相変わらず「自分にも他人にも厳しい」と苦笑をする。
-球技大会-
試験対策の影響で、麻由はクラス内での指導力を発揮するようになっていた。球技大会は、男子バスケットボール、女子ソフトボール、男女混合ドッジボールの3種目にクラスメイトを分散する。各種目の部活動に入っている者は、その種目には参加が出来ない。つまり、男子バスケ部と女子ソフト部は、ドッジボールにしか参加をできない。
黒井副会長にアドバイス(?)された通り、クラスメイト全員を積極参加させるにはどうするべきか?答えは簡単だ。適材適所に人員を配置して、「参加するだけ」ではなく、クラス一丸となって「勝つつもり」で参加をすれば良い。その為に、発言力のある者だけで一方的にメンバーを割り振るのではなく、クラス全員で会議をして、「自分が何処に配置されれば活躍できるか?」場合によっては「迷惑をかけずに済むか?」とアピールしてもらう。クラス全員で「1年生だけど2~3年生に勝つ!」をスローガンに掲げる。
「俺、スポーツ全般苦手だけど、ボールを投げるだけならできるよ」
「俺は、足の速さだけなら、それなりに・・・」
「ボールをよく見て逃げ回るなら、私にもできるっ!」
女子ソフトボールは、経験者が少なくて、どのチームも守備がザルだろうから、球を怖がらずに打てば、それがゴロやフライでも何とかなる。ピッチャーとキャッチャーとファーストだけは、球を怖がらない人材を配置して、できるだけランナーを一塁で潰す努力をする(一塁優先で、二塁以降に進んだランナーは無視)。
男子バスケットボールには球に慣れた者を配置する。また、小中のバスケ経験者(高校ではやっていない)を選ぶ。
ドッジボールは前衛依存で、後ろの者は逃げ回るだけなので、前衛が潰されたら総崩れになる危険がある。だから、前衛が取り損ねて威力が弱まったボールを、後衛がフォローする(当たった球が地面に落ちる前に取ればセーフ)練習はしておく。前衛が潰れれば崩壊をするのは、どのクラスも同じ。ボールを投げる際は、速球を投げられる者は速球を投げ、投げる事が苦手な者は不規則な横回転のボールを投げる。速球を正面から取り慣れた相手選手は、横回転のヘロヘロボールを侮ってキャッチ直後に手を弾かれて取り損ねるだろう。
ソフトボールは準決勝で敗退し、その後、3位決定戦を制して3位入賞。バスケットボールは、どのゲームも1Aペースで進めたが、体格の大きい3年生との試合で、リング下に入らせてもらえずにシュートの成功率が低くて5位(同学年ではトップ)。
そして、麻由が参加をするドッジボールは、準決勝で黒井副会長が在籍するチームを破り、決勝戦に駒を進めた。麻由との直接対決で敗れた黒井先輩は、かなり悔しそうだった。
「まさか、決勝の相手が、葛城のクラスとはね。なかなかやるな!」
「手を抜くつもりはありませんよ!冨久先輩!」
「当然だよ!」
決勝戦は、1年A組vs2年A組。これまでのゲームで、どちらのチームも真っ先に潰したい司令塔が誰なのか明白になっている。言うまでもなく、2Aは葛城麻由を潰す作戦を立てる。しかし、2Aの作戦は読まれていた。麻由は最初の数投で、わざとボールをぶつけられて内野から追い出され、外野から指揮を執り始める。事前に伝えられた作戦なので誰も動揺しない。一方の1Aは、敵司令塔の海跳を完全に無視して、早いパス回しで周りのプレイヤーばかり狙う。司令塔がほとんどボールに触れず、意図的に蚊帳の外に弾かれた2Aは、次々と外野に追い出された。
「参ったな。僕を完全に無視した戦術かよ?」
「正面から戦っても、勝てそうにありませんからね。
先輩ご本人を倒すのではなく、先輩の機能を封じさせていただきました」
ドッジボールの優勝は1年A組。会場で見学をしていた1A以外の誰もが、海跳率いる2Aの敗北に驚き、1Aは歓声を上げる。優勝をしたドッジメンバーだけではなく、善戦をしたバスケやソフトのメンバーからも笑顔が零れる。皆が、自分の役割を果たしたからこその一丸となる喜び。麻由は、黒井副会長からのミッション「先ずは、自分のクラスを纏めてみろ」を見事にクリアした。
1学期中間試験3位、期末試験1位、弓道新人戦(県大会)3位、優麗祭人気投票の女子部2位(学年では1位)。半年前は、ただの小生意気な1年生だった葛城麻由は、優麗高において確実に実績を積み上げていた。
だが、黒井副会長は、そんな麻由を目障りに感じ、明確な敵意を持って睨み付ける。生徒達が座古兄弟を倦厭するようになり、彼等依存の組織票を得られずに人気投票のランク外に転落した黒井は、麻由の躍進が面白くない。
-10月上旬-
次年度の優麗高・生徒会役員選挙の日が近付いてきた。本日の生徒会議題は選挙の改正案について。
例年の役員選挙は、希望者が推薦人2人を要して立候補をする。比較的簡単に集められる為、立候補のハードルは低い。立候補者が1人の場合は、信任・不信任の選択になるが、不信任をする者は殆どいない為、「他に対立候補がいれば票が入らない」人材でも、たいていは当選をする。
「これでは、生徒会活動の品位が低下します!
立候補枠の他に、推薦枠を設けてはどうでしょうか?」
「どういうことだ?」
「立候補者が定員内では、信任・不信任の選択しかありません。
承認欲求だけが強くて器の無い人が役員になってしまう危険性があります。
だから、他者からの推薦枠で、
器は有るけど立候補を考えない人を発掘するんです。」
麻由が理想論の演説を始めた。役員達は「また始まった」と感じるが、言うだけでなく行動を起こす麻由の実績を認めているので反論をしにくい。
「なんだそれ?従来の選挙で信任された今の生徒会にケチを付けているのか?」
唯一1人、黒井副会長だけが、いきり立って麻由の提案に噛み付く。麻由が発言した「承認欲求だけが強くて、器の無い人が役員になってしまう」が彼の癪に障った。
「そんなつもりはありません」
「フン!『そんなつもり』にしか聞こえないね!
『今の生徒会はカスばかりだから、
もっと上品な生徒会を作って、オマエが牛耳りたい』って言いたいんだろ?」
「言い過ぎだぞ、クロ(黒井のあだ名)!」
「俺達バカにされてんだぞ!言わなきゃ気が済まないっての!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「また、ダンマリかよ?都合が悪くなると直ぐそれだな!」
「クロ!それくらいにしておけ!
葛城も、言いたい事は解るが、もう少し言葉を選べ!」
「・・・は、はい」
「解ったよ!オマエ(生徒会長)に免じて、これ以上は言わないでやる!
ただし、葛城!言い方が悪くて俺達を傷付けたんだから、謝れ!」
「・・・・・・・・・・・えっ」
「クロっ!」
「・・・・・・・す、すみません・・・でした」
麻由が俯いて謝罪をして、黒井が勝ち誇った表情で腰を降ろし、どうにか場が納まる。黒井以外の役員達は、麻由の提案に一定の興味を持っているのだが、黒井が妨害をすると麻由が閉息してしまう為、聞き出す事ができない。この議論はこれで終わりだ。仕方なく、生徒会長が麻由に助け船を出す。
「葛城、議案の有効性を示す資料を提出してくれ」
「・・・は、はい」
「どの程度の期間があれば準備できる?」
「1週間程度あれば・・・」
「なら、2週間後。
誰も揚げ足を取れないほど完璧な状態に仕上げて提出してくれ」
口が出せなくなるなら、データを元に意見交換をするしか無い。生徒会長の提案を受け入れた麻由は頷き、「まだ廃案に追い込めていない」と気付いた黒井は舌打ちをする。
以前から麻由と黒井はソリが合わなかったが、最近は特に酷い。麻由が何かを提案する度に、黒井が暴言に近い反論で麻由を黙らせ議論が先に進まない。麻由が一言も喋らなければ黒井は攻撃的には成らないが、麻由にはそれができず常に何かを提案しようとする。そして黒井に潰される。おかげで、生徒会の会議は停滞気味だ。
どちらかが外れれば円滑になる事は、役員の誰もが感じていた。だが、どちらを外せば良い?露骨に足並みを乱しているのは黒井だが、彼は幹部職だ。外される事を認めないだろう。迂闊な事をすれば、黒井が麻由を逆恨みするのは目に見えている。ならば、ヒラの麻由を外すしかない。誰もが「有能で将来が期待できる人材だが仕方が無い」と感じつつ、口には出せずにいた。
-数日後の夜-
文架大橋の歩道の中間点くらいに立って、山頭野川を見下ろす黒井副会長がいた。脇には、資料が束ねられたチューブファイルを抱えている。
葛城麻由が憎い。第一印象では生意気と感じたが、高圧的に提案を潰したら途端におとなしくなった。容姿端麗なので、傍に置けば周りに自慢できると考え、親友の座古兄弟を嗾けて脅し、その後、助ける演技をして、優しい言葉をかけて落とすつもりだったが失敗をした。麻由が執行部に入って生徒会活動に参加をしてきたので、今度は直接交際を申し込んだが、即座にフラれた。腹いせを兼ねて、無理難題を押し付けて麻由を困らせるつもりだったのに、彼女はその無理難題をクリアしやがった。可愛げが無い。ムカ付いて仕方が無い。
葛城麻由の過去は、彼女と同じ小中学校だった奴から聞いた。今の強気な彼女からは考えられないが、小学校高学年~中学1年の頃はいじめられっ子で、悪意ある態度に対しては非常に脆かったらしい。言われてみれば確かに、彼女を潰すつもりで口撃をすると、彼女は露骨に勢いを失い議論をできなくなる。
「間接的妨害(嫌味)に動じないなら、今度は直接妨害してやるさ!
・・・元いじめられっ子め!」
黒井は、チューブファイルから資料を抜き取り、山頭野川に向かって思いっ切り投げた。数十枚の資料は、風に煽られながら落下して、山頭野川に流されていく。黒井は、その光景を眺め、満足そうに笑みを浮かべた。




