2年生編③・座古先輩~麻由の試験対策
-2時間後-
部活に終了時刻となり、急いで身支度を終える。屋外の部活は薄暗くなると活動が困難な(強豪校は照明設備があるが、優麗高には無い)為、屋内競技(弓道部など)よりも終了時刻が少し早い。正門に駆けていくと、英邦が待っていてくれた。相撲は屋内競技だが、やる気がある部員が少ない為に、野球部よりも更に少し早く終わる。
「急にどうしたとね?」
「ん?メールの通り!
先輩達を誘って飯に行きたいんだけど、1人じゃ心細いからオマエも誘った!」
「はぁ?海跳が『心細い』と感じる事なんてあるとね?」
「うん、まぁ~ね!」
言葉通り、海跳は、座古先輩達を飯に誘うつもりだ。ただし、落ちこぼれな先輩方と仲良く飯を食いたいわけではない。座古兄弟が「小生意気な女生徒を締めるつもり」と判断したので、飯に誘って行動を妨害して、それとなく釘を刺すつもりだ。尤も、1人ではさすがに怖いので、巨漢の用心棒をお供に連れていくことにする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
2時間ほど前に確認できた場所に座古兄弟の姿は無い。ただの思い過ごしだった?小生意気な1年女子を待ち伏せていたわけではなかった?周囲を見回していたら、弓道部の活動を終えた生徒会長が近寄ってきて、海跳に声を掛ける。周りには2~3年の弓道部員は居るが1年生の姿は無い。
「野球部も終わりか?
いつも居残って、自主トレするオマエが、もう帰り支度なんて珍しいな」
「お疲れさんです。弓道部も終わりですか?」
「おうっ!」
「1年は道場の掃除してから帰宅ですか?」
「いや、1年は、もう帰ったよ。
俺達と違って、手入れをする道具が、まだ無いからな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
拙い。小生意気な1年女子は下校をした後だ。座古兄弟は1年女子を追い掛けていった?確か葛城麻由は北中出身だから、帰宅をするなら正門を出て北側に向かうはず。考えすぎかもしれないが、追うべきか?でも、北中出身としか解らない生徒を、どうやって追えば良い?海跳は焦りながら正門を出て、北側に数歩駆ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれぇっ?」
「ありゃりゃ?あれは、確か3年生の・・・」
優麗高の対面にある空き地で、ボロ雑巾のようになった座古兄弟が転がっていた。何があった?学校の目の前で喧嘩騒ぎがあれば、校内に残った者の耳に入るはずだ。ましてや、グラウンドで活動をしていた野球部が気付かないわけが無い。この空き地に小生意気な1年女子を連れ込んで反撃を喰らった?いやいや、どう見ても華奢な女子が、誰にも気付かれずに不良共を瞬殺したなんて考えられない。
「ぶひぃ!防御痣無し、傷は急所への的確な一撃のみ」
探偵気取りの英邦が見分をする。
「こりゃ、とんでもない達人に、僅か数秒で叩き伏せられたとね」
ビルの屋上で、強面の中年男性=龍山剛太郎(うどん屋・麻由の影の後見人)が空き地を眺めている。
「薄汚い害虫共め!
お嬢様を傷物にする為に待ち伏せるなんざ、この俺が許さねぇ!
三途の川を渡る手前で許してやったことを、感謝するんだな!」
座古兄弟を叩き伏せたのは彼だ。
-数分後・リバサイ鎮守のフードコート-
「急に飯になんて誘ってくるからオカシイと思ったとね!」
「すまん!今日は何でも奢るから勘弁してくれっ!」
座古兄弟は謎の私刑となり、海跳の不安は杞憂に終わった。だが、理由も説明せずに巻き込もうとした英邦に「もう用は無いから、さよなら!」ってワケにはいかない。海跳は「1人で対立する度胸は無かった」「英邦が後ろに居てくれれば、相手は手を出せなくなると考えた」と、一連の思惑を全て打ち明けた。
「なんで、ハナっからそう言ってくれんかったと?
用心棒なんて言ったら、手を貸さんと思ったとね?」
「欺すつもりは無いのだが、どう説明すれば良いか迷ってな」
「あれこれ考えず、素直に『オナゴを助けたいけん、手を貸せ』でいいと!」
「・・・すまん」
「解ればヨシ!晩飯奢りと、次のテストの対策で許しちゃる!」
「おう、サンキュー、英邦!」
英邦は、海跳の奢りで、全乗せ特盛りラーメン&特盛りカツ丼(カツ2倍)を注文して、自分のテーブルに運んで食べ始めた。海跳は、英邦ほど大食ではないが、部活終わりで腹が減っているので、ご飯大盛りの唐揚げ定食を食べる。
基本的には、英邦が一方的に海跳に纏わり付くので、「海跳が頼ってくれたこと」を英邦は嬉しく感じていた。
「ばってん、オナゴに興味ないゆ~とった海跳が、オナゴを守る為にのう。
・・・ホレたとね?」
「ちげ~よ、たわけっ!そんなんじゃね~!なんでそうなる?
ただ、まぁ、ちょっと面白い子って思ってる・・・かな」
惚れてはいない。だけど、今まで異性に興味を持ったことの無い海跳が、小生意気な異性に初めて興味を持った。
英邦は茶化して笑い、海跳は少し動揺をして紙コップに入った水を飲む。
-6月・生徒会室-
生徒会長(弓道部の部長)の推薦で、麻由は執行部補佐として生徒会活動に参加をしていた。以前、海跳に提案された通り「内部から学校行事を変化させる」つもりだ。しかし、1年生はただのヒラ。暗黙のルールで発言力はほとんど無く、生徒会活動を体験して、やる気のある者が次年度以降に幹部を目指す為の“お試し期間”なのだ。
「ちょっと待ってください!
この方針では、
今年度の目標『全員がやりがいを持てる学校生活』にそぐいません」
発言力が無いはずのヒラが正論を振りかざしてきた。役員達は「またか」と溜息をつく。「一部だけじゃなく、全員がやりがいを持てる学校生活」と目標には掲げているが、現実的には達成は無理だ。一定の分別がある高校生なんだから、理想と現実の違いくらいは理解して欲しい。
「なら、どうしろと?」
「それを考えるのが、私達、生徒会の職務のはずです。
それなのに、相反する方針を示すなんて・・・」
「反してはいない!ただ、例年、消極的参加しかしない生徒もいるわけで・・・」
「昨年度も、同じ目標を設定していますよね?達成度はどの程度なのですか?
消極的な参加者を積極性を促す為にどうするべきか、
参考にすれば検討できるのでは?」
皆、麻由の提案が「身勝手」ではなく「生徒の為」と理解している。だが、その正論は理想論すぎる。
「だったら、先ずは、1年A組、自分のクラスを纏めてみろよ!」
副会長の黒井が、威圧的な声を上げる。
「今年のこれまでの校内行事で、葛城の在籍する1Aは積極的参加者は7割程度。
全学年全クラスで比較すれば、積極性は高いが、
大言を吐くなら、自分のクラスの積極的参加者を完全にしてもらいたいな。
定期テストも、やる気の無い下位層を中間層以上に引っ張り上げてみろ。
学校全体以前に、自分のクラスの“やりがいを持っていない奴等”を
どうにかして欲しいもんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・はい」
海跳は、黒井先輩と麻由の意見交換を聞きながら、生徒会長と視線を合わせて溜息をつく。麻由を目の敵にする黒井は大人げないが、それ以上に、自分の意見ばかり通そうとする麻由が悩みの種だ。麻由を執行部に誘った時の漠然とした不安が的中してしまった。生徒会長が、海跳に「どうにかしてくれ」と目で合図をするが、黒井が麻由にあからさまな敵意を持ってる状況では、海跳にも上手く仲裁をする手段は思い付かない。
3年生で噂好きの書記(女子)の話だと、黒井は2週間に麻由に交際を申し込んで断られたらしい。麻由への風当たりの強さは、個人的都合だ。観賞用としてはトップレベルの麻由を横に並べて歩けば、確実に箔が付くだろう。だが、見た目ばかりで中身の無い黒井に興味を持つ女子は少ない。麻由は、それなりに“人を見る眼”はありそうだ。
「じゃ、これで、今日の議事は終了な!
いつまでも無駄話をしている暇人はいない。
・・・あっ!葛城は、偉そうな事を言う前に、自分のクラスの底上げな!
オマエの御託を聞くのは、その後で!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黒井は、一方的に議事を打ち切ると、さっさと生徒会室から出て行った。残された連中は、「いつも最後まで残って無駄話をしていた黒井がそれを言うか?」と呆れ顔になる。生徒会長が溜息をつき、麻由に声を掛けた。
「葛城・・・アイツ(黒井)の言う事、あまり気にするな」
続けて海跳も、麻由にフォローの言葉を入れようとするが、麻由の眼を見て言葉を飲み込んだ。今の彼女は、口をへの字に閉じて押し黙っているが、瞳の奥に闘志を秘めている。
-5日後・図書室-
海跳は、同じクラスの弓道部員から「最近、葛城が部活動を休んで、ずっと図書室に籠もっている」「生徒会の仕事か?」と尋ねられた。生徒会として彼女に調べ物を頼んだ事実は無い。少し心配になって放課後に図書室を覗いたら、机の一角を占領して何冊も本を積んで黙々と書き物をしている麻由の姿があった。時にはスマホを操作して何かを調べている。弓道部員として前途を期待されている麻由が、部活動を休んで何をやっている?
「・・・葛城?」
少し離れたところから海跳が声を掛けるが、集中をしている麻由には聞こえなかった。近付いて、向かい合わせの席に腰を降ろして、もう一度声を掛ける。
「あれっ?どうしたんですか、副会長?」
「それは僕の台詞だ。部活サボって、図書館に缶詰になって、なにやってるんだ?
・・・・・・・・・ん?これは?」
麻由に尋ねつつ、麻由の手元で束ねられた用紙を見て、海跳は目を丸くした。用紙に手書きで書かれたソレは、様々な教科の自作問題集と、解答、及び、要点を纏めた資料だった。
「こんなの作って試験対策してんのか?」
「いえ、私自身は、ノートと問題集で対策をしてます。
わざわざ、自分の為に自作問題集なんて作りませんよ」
「だったらこれは?・・・・・・・・・・・え?これはもしかして?」
「はい、クラスメートに配布する為の予想問題です。
弓道部の先輩へのリサーチと、
中間テストで培った出題傾向を基準にして作りました。
理科の地学と国語の古文が苦手なので、想定したよりも時間が掛かってしまい、
なかなか部活に顔を出せずに、申し訳なく感じていました」
「良くまぁ・・・こんなモンを」
「黒井先輩から、クラスの成績を底上げしろってアドバイスを頂きましたからね」
「いや、あれは、アドバイスじゃなくて嫌味なんだが・・・」
「黒井先輩の仰る事は尤もだと思いました。
自分のクラスすら纏められないようでは、学校を纏める事なんてできません。
逆に、クラスが一丸となれば、勢いが付いて、
校内の改革はやりやすくなると考えられます」
「・・・おいおい、凄まじく前向きなのか?それとも天然?どっちだ??」
手書きの予想問題集を眺めると、海跳が1年時の1学期末に解答したのと同じような問題が並んでいる。確かにこれをクリアしたクラスならば平均点がかなり底上げされそうだ。1枚千円で売れば、数十万単位の利益が見込めそうな完成度である。
「参ったな、こりゃ!
ところで、黒井先輩にコクられてフッたって噂があるんだけど本当なのか?」
「黒井副会長に・・・ですか?いえ、覚えがありません。
興味の無い映画に誘われて、お断りした事はありますが・・・」
「あぁ・・・・・・・・そう。・・・それか」
なるほど、麻由は映画に誘われて断っただけで、黒井をフッた意識が無いから嫌味をエールと受け取ったらしい。あれだけ目の敵にされて落ち込まないわけだ。シッカリ者に見えるが天然の部分がある。
数日前に「麻由は、それなりに“人を見る眼”はある」と評価したが、あれをアドバイスと勘違いしてる有様では“人を見る眼”は無いのかもしれない。
7月中旬の1学期末テストで、試験対策が配られた1年A組の平均点は大幅にアップ。苦手分野にも時間をかけて問題作りに挑んだ麻由は、以降の定期テストで2位以下を大きく引き離して不動の学年トップに君臨する。




