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2年生編②・人気投票議案~副会長黒井

-週明け月曜日の放課後-


 生徒会役員、文化祭実行委員長、人気投票廃止案の発議者が生徒会室に集まって、臨時会議が始まった。葛城麻由は、冒頭から冷静だが攻撃的な態度で人気投票の弊害を説明して、「何故、こんな無駄なことをしているのか?」を実行委員長に尋ねる。ハナっから押され気味の実行委員長は、優麗高における人気投票の歴史を語り始めた。


「・・・で、平成○年に№1に選ばれた人は、

 今は、比良代町でパン屋さんを・・・」

「そんな事はどうでも良いんです!私の質問に答えてください!」

「で、ですから、選ばれた人は、卒業後もそれなりに頑張って・・・」

「それは違います!

 選ばれたから頑張ったのではなく、

 努力をできる人が選ばれたのではありませんか!?

 努力をできる人は、選ばれる選ばれないに関係なく努力を続けます!

 選ばれて知名度が上がったから、

 資金援助を受けてパン屋さんをオープンしたんですか?

 その先輩は、選ばれなければパン屋さんには成れなかったのですか?」

「そ、そういうワケでは」

「なら、やはり、人気投票の歴史は、私の求める答えではありません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私も調べました。

 人気投票上位者が、人生の成功者ばかりで、

 人気投票上位がステータスの一つになっているなら、

 それなりの価値は有るのかもしれません。

 ですが、どちらかと言えば、その場限りのもの。

 普通に進学をして普通に就職をした人が大半、

 勘違いをして芸能人を目指して上京して、

 今は劇団員崩れの人も長い歴史の中で数人、

 もし選ばれなければ、勘違いなんてしなかったでしょうに・・・

 こんな有様で、何処にメリットが?」


「なぁ、葛城・・・たかがお祭りなんだから、そんなに小難しく考えるなよ」

「今は、弓道部部長と後輩ではなく、優麗高の一生徒として意見をしています!

 意見が無いなら、生徒会長は黙っていてください!」


 穏やかに仲裁をしようと試みた生徒会長だったが、麻由に即座に噛み付かれて閉息する。確かに、麻由の意見は正論だ。しかし「聞く耳を持たず、頭ごなしに喧嘩腰で論波をする態度では、味方を作ることはできない」と海跳は考える。


「1年生なのに、ちょっと生意気なんじゃないか?

 その意見は横暴だろ。優麗高のことを何も知らないクセにさ」

「・・・な?」


 もう一人の副会長・黒井が呟いた。意見ではない、ただの感想に、麻由の表情が変わる。


「わ、私が横暴かどうかなんて、どうでも良いんです!

 今は、人気投票が不要か必要かの議論を・・・」

「だから言ってんだ!新入生に何が解るっての?

 楽しみにしている人も沢山いるんだよ!

 自分の“推し”が上位に来るか来ないかで盛り上がる!

 オマエが1年目の人気投票を経験して、

 それでも、人気投票は不要って思うなら、

 生徒会か文化祭実行委員に入って変えれば良いんじゃのか?」

「もっと別の手段でも盛り上がる方法があります!

 私の中学では、各クラスのステージイベントを・・・」

「中学と高校を一緒にしないでくれ!」

「そ、そんなつもりでは・・・」


 先ほどまで理路整然と説明をしていたのに、副会長・黒井が攻撃的に麻由を押さえ付けようとした途端に、トーンダウンをして防戦一方になり、やがて何も喋れなくなってしまう。黒井は「してやったり」の表情だ。

 その場に居る皆は知らないことだが、仲間外れにされた経験のある麻由は、疎外感と攻撃的態度に対して脆い。


 しばらくの後、しんと静まりかえった生徒会室で、生徒会長が口を開いた。


「意見が出尽くしたようなので、念のために多数決を取ります。

 人気投票を不要と思う人は、挙手をお願いします」


 背中を小さく丸めて俯き、恐る恐る手を上げる麻由。四面楚歌、孤立無援の中で、負け犬の最後の意地と言ったところか?不要派の挙手は1名のみ。誰もが「例年通り人気投票を実行する」と考えたその時。


「はい、僕も不要と思います。発議者の意見に賛同します」


 生徒会室内がざわめき、自信なさげに俯いていた麻由が顔を上げる。麻由の視線の正面で自信を持って真っ直ぐに手を上げているのは、生徒会副会長の冨久海跳だった。注目を集めながら、前髪を整えてメガネを上げ、微笑みを浮かべる。


「冨久君、なんで?」

「なんでたって、個人的には無駄・・・いや、むしろ迷惑だと思うからです」

「だったら、なんで意見を言わないんだよ?」

「僕の個人的意見より、発議者の正論の方が説得力ありましたからね。

 彼女の正論で中止にならなければ、僕の感情的意見なんて言っても無駄ですよ。

 不要派2票、あとは継続希望、僕がどっちの意見だろうと、

 継続で結論は出たんだから良いじゃないですか」

「あ・・・あぁ・・・」 「そう・・・ね」


 臨時会議の結果は「人気投票継続」で決まった。葛城麻由は、俯き加減に一礼をして、居心地の悪い生徒会室から立ち去っていく。

 小生意気な1年生を返り討ちにした保守派幹部達は良い気分・・・と言いたいが、最後の多数決で海跳が寝返った事が気になって、気持ちがスッキリとしない。


「冨久君、なんで?」

「冨久が中止派とは思わなかったぞ。」

「あの子(麻由)が可哀想で、顔を立ててやったのか?結構、可愛い子だし」

「ん?まさか!そんな理由で賛同なんてしませんよ。

 先日も言ったけど、伝統を全否定する気は無いけど、

 僕個人は、人気投票には否定的です。

 多数決は個人を反映して良い意思決定方法だから、中止に賛成をしました。

 それだけですよ。

 賛否が拮抗していて各1票が重要な局面なら、もう少し深く考えますが、

 僕が中止に賛同して結論が覆るような情勢でもありませんでしたからね。

 ほんの軽い気持ちで、意思表示したって事です」


 海跳は素早く後片付けを終えると、書記に「今日の議事録よろしく」と言葉をかけ、グラウンドでトレーニング中の野球部に参加をする為に生徒会室を出て行った。足早に階段を駆け下り、生徒玄関に差し掛かる。


「・・・あ!」

「・・・ど、どうも」


 元気の無い表情の葛城麻由と遭遇。グラウンドに向かう海跳、弓道場に行く麻由、どちらも生徒玄関を経由する。海跳は内履を下足入れに入れて外履に履き替え、麻由に軽く挨拶をして通過。しかし、麻由が海跳を眺めているので、立ち止まって声を掛けた。


「どうした?何か言いたい事でも?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「あるみたいだな」

「・・・・・・・・・はい」

「言ってみろよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 麻由は一呼吸置いて、意を決したような表情で海跳を見て口を開いた。


「・・・ひ、卑怯じゃないですか?」

「・・・ん?」

「私の意見に賛成なのに、何故、何も意見を言わなかったんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・うわぁ~・・・面倒臭い質問だな」


 会議の時と同じ、静かだけど攻撃的な質問だ。それに、軽くあしらえた生徒会幹部達の「何故、意見を言わなかった」って質問よりも、はるかに濃くて面倒臭い質問だ。口八丁で誤魔化せる相手ではないことは、先日の生徒総会と本日の臨時会で把握をしている。海跳は一呼吸置いてから、メガネを上げて口を開いた。


「北中だっけ?北中から優麗高に来た1年、何人くらいいるんだ?」

「・・・は?」

「せいぜい、学年全体のの1割程度・・・だよな?」

「・・・は、はい」


 2人は、生徒玄関を出て、会話をしながら並んで歩き、それぞれの部活の練習場の分岐点で立ち止まる。


「君は、北中では“鶴の一声”が効く大物だったかもしれないけど、

 同じ出身校が少ない優麗高では君の威光なんて無いに等しいんだ。

 それは理解出来てるのか?」

「何が言いたいんですか?」

「この学校で意見を通すには、君はまだ何も実績が無いって言ってるんだ。

 それなのに、いくら正論でも、あんな頭ごなしじゃ・・・なぁ。

 君さ、会議の途中から、生徒会の連中が、君の意見なんて全く聞く気が無くて、

 どうやって君の意見を潰そうかって空気になってたの気付いていないだろう?」

「・・・・・・・・・・・・え?そうなんですか?」

「見事に正論過ぎて、誰も反論できなかったからな。

 どうやって君の揚げ足を取るか・・・そんな空気だった。

 もう少し、周りの空気を読んだ方が良いのではないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気付きませんでした」

「一方的に意見を押し切るんじゃなくて、

 例え受け入れられなくても、相手の意見をキチンと聞いた上で、

 自分の意見で訂正をして相手に納得してもらう。

 それができなければ、相手を怒らせてしまうだけさ」

「・・・・・・・・・・・は、はい」


 海跳は先輩らしく後輩の麻由にアドバイスを送る・・・と言えば聞こえが良いが、それは表面的なこと。

 先輩達の顔を立てて波風を立てない前提はあるが、「卑怯」「賛成なのに意見を言わない」は正解だった。「波風を立てたくない」のに、「何故、麻由の意見に賛同したか?」も上手く説明できない。孤軍奮闘の麻由に同情したから?自分が言えない意見を言ったから?海跳には、麻由が納得してくれるように説明をする事はできなかったので、論点のすり替えで誤魔化して麻由を閉息させただけ。


「じゃ、僕、部活があるんで。

 君は生徒会長と同じ弓道部だろ?早く行った方が良いぞ。

 生徒会長より先に退出したのに、遅れていくわけには行くまい?」

「・・・は、はい」


 誤魔化した上で体よく追い払う。ただ、少しばかり罪悪感があったので、去り際に麻由に向かって呟く。


「1年生でも、役員の推薦を受けた希望者なら執行部に参加できる。

 何かを変えたいなら内側に来いよ。」


 そう言い残して、海跳はグラウンドの隅にある野球部部室に向かうべく足早に立ち去っていった。彼女が、言葉通りに執行部に来るのか解らない。無責任に煽っておきながら、もし本当に来たらトラブルメーカーに成りそうで少し不安だ。だが、そうなったら、その時に考えれば良い。

 一方の麻由は、海跳の背にお辞儀をして見送り、踵を返して弓道場に向かった。




-数分後-


 既にグラウンドの半面ではチームメイト達が、ユニフォームを泥だらけにしてノックされた白球を追っている。もう半面では、サッカー部が汗を流してボールを追い掛けている。

 アップ(ランニング)をするスペースは無いので、ユニフォームに着替えた海跳は、外周(学校の敷地の外側)を走って体を暖める事にした。

 1キロ弱の外周コースを2周ほど、最初は軽いジョグから初めて、徐々にペースを上げて軽く汗をかく。最後は、正門前の通りで約200mはダッシュ。同じコースを走っていた女子の集団を何人か追い抜いた。


「先輩、ファイトォッ!」


 見覚えのある後輩達(同中学出身)から声を掛けられるが、応じてる余裕は無い。むしろ、「邪魔」「やる気無くダラダラ走るな」と感じてしまう。正門にゴールすると、女子の集団の先着組が、タオルで汗を拭きながら後続のチームメイトを待っていた。その中に、葛城麻由の姿もある。女子の集団は弓道部だったようだ。麻由から会釈をされたので、軽く手を振って返した。


「まだ道具を持っていない新入部員(弓道部)は、

 基礎体力作りがメインなんだっけ。

 生徒会長は?もう、(部活に)参加してるのか?」

「はい」

「何か言われた?」

「いえ、別に」

「そっか」


 気になったので声を掛けたら、普通の反応を返してきたので安堵をする。臨時会議で案件を却下され、海跳からダメ出しまでされて、落ち込んだのではないかと心配していたが、腐らずに部活には参加をしていたようだ。

 海跳は、すぐにグラウンドに戻ろうとしたが、違和感のある視線を感じて立ち止まった。3年の座古兄弟(第1登場)が正門近くのベンチを占領している。座古ざこ園一&園次と言えば、「不真面目」でそこそこ有名な連中だ。授業は休みがちで、登校をしてきても放課後のホームルームまで残ることは珍しい。


 優麗高は、市内で2番目に優秀な普通高で、大半が国公立4大~私立短大のいずれかに進学をする。専門学校に進学するのは1割程度。だが「なんで優麗高に進学できた?」的なハズレも数パーセントは存在をしている。


 放課後になってからしばらく経過した時間帯なのに、座古兄弟が校内に残っている?あきらかに不自然だ。奴等は厭らしい笑みを浮かべながら、弓道部の新入部員達を眺めているように思える。

 生徒会のもう一人の副会長・黒井繋狩くろい つなかり先輩が座古兄弟と仲が良く、生徒会の選挙で彼等に依頼をして組織票を集めたって噂は聞いている。確証は無いが、人気投票でも同様の不正行為をして、上位入賞をしたって話もある。海跳が人気投票を不満に思いながらも中止に追い込まない理由は、その様な事情もある。


「黒井先輩が座古先輩達に依頼して、

 人気投票を真っ向から否定した葛城を潰そうとしている?」


 海跳自身は、それなりに立場を弁えて、彼等にも当たり障り無く接している。これまで、生意気な新入生男子が、彼等に締められて温和しくなったという噂は聞いたことがあるが、自分と無関係の連中を心配するつもりはない。だが、目の敵にされた対象が女の子ならば、見て見ぬフリはできない。


「・・・まったく!目立ちすぎるからこうなる。」


 海跳は「考え過ぎならそれでも良い!」と判断して、部室に戻りロッカーからスマホを取り出して、LINEの石松英邦の画面を表示させて「今日ヒマ?部活終わったら、先輩誘って飯行かない?」と短い文章を打ち込んだ。英邦からの返信は直ぐには来ない。部活動に打ち込んでいる真っ最中なのだろう。海跳は、返信を待たずに「部活終わったら正門で待ち合わせな」と続投メールをして、スマホをロッカーに片付け、愛用のグローブを握りしめてグラウンドに戻っていった。

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