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34-3・ジャンヌの反論~レース対決

-今に至る-


 昭兵衛は50年前の出来事を回想して、粉木勘平の存在には触れずに語って聞かせた。


「正義の行動の代償が、まるで尊の存在など無かったかのような、

 骨1つ何も残らない死。

 これでも、ワシが麻由を戦いから遠ざけることが間違っていると言えるのか?」


 愉怪な仲間達は、壮絶な戦いと本条尊の死に様を想像して、固唾を呑む。


「例えそうだったとしても、本条殿の尊い犠牲で平和を取り戻せた!

 本条殿の生き様は、昭兵衛殿の中で生きているハズだ!」

「何故、麻由がそれを背負わねばならん!そんな物は、他の連中に任せれば良い!

 ワシは、麻由が伝説になることなど望んではいない!」

「・・・くっ!」


 議論は平行線のまま。アポロ(昭兵衛)は聞く耳を持ってくれない。後ろで聞いていた美穂が、見かねて口を挟んだ。


「この頑固ジジイに何を言っても無駄だ。

 ジャンヌが勝てば、麻由はあたし達の仲間。

 ジジイが勝てば、麻由は戦いから手を引く。

 ゴチャゴチャ考えず、それが解りやすくて良いだろう」

「あぁ。ハナっから、そのつもりだ。君は話が早くて助かる。

 尤も、ワシは負けんがな」

「それは私も同じだ。マユユを失うつもりは無い」

「何周で勝敗を決めるつもりだ?10周もあれば、充分ではないか?」

「うむ、異論はない」


 そこで会話が終了。誰も何も言わず黙々と歩いて、スタート&ゴール地点に設定した場所に到着する。しかし、ジャンヌは、まだ納得が出来ない。


「・・・昭兵衛殿」

「話は終わったはずだ。まだ何か言いたい事が有るのか?」

「貴殿は、麻由殿の戦闘へのアプローチを理解しているのか?」

「ん?麻由の?」

「私は、麻由殿達を討つ為に、現世に呼び出された。

 だが、麻由殿の優しさに触れて敵対を止めた」

「あぁ・・・それは前にも聞いたな」

「それは私だけではない。

 麻由殿は、どんな敵であれ、問答無用では叩かない。最初は解り合おうとする。

 それは、戦士としては要らぬ感情。

 結果的に、麻由殿を窮地に追い込む事もある」

「だから何だと言うのだ?

 麻由は戦いに向いていない・・・と言っているようにしか聞こえんのだがな」

「い、いえ・・・そういうつもりでは。

 ただ私は、麻由殿は、本条殿の正義感、母方の才能、

 そして昭兵衛殿の優しさを紛れもなく引き継いでいると・・・。

 私のように、麻由殿を慕う者、

 麻由殿を憎んでいたにも関わらず戦いを経て手を引いた敵(弁才天ユカリ)、

 麻由殿が苦境を選択した結果、満足をして私に命を託して逝った老人、

 昭兵衛殿の思想は、今でも麻由殿に引き継がれ、様々な影響を与えて、

 新な可能性に繋がっていると・・・

 ただ憎み合うのではなく、滅ぼすのではなく、救おうとする麻由殿の心を・・・

 本条殿とは別の戦い方を選んでいる麻由殿を・・・

 昭兵衛殿に理解してもらいたくて・・・」

「・・・麻由が・・・そんな事を」


 アポロは、マスクの下で驚いた表情をしてジャンヌを見つめた。全身の表面が粒子化して蒸発するのを、慌てて強い意志を持って止める。


「い、言ったはずだ!問答は無用!白黒はレースで決めるとな!」

「はい、その手段に異論はありません!」


 気持ちを切り替えて集中し、それぞれユニコーンとハスラーⅢに跨ってエンジンを始動した。紅葉が「ジャンヌ頑張れ~っ!!」と声援を送ったので、ジャンヌは微笑んで頷いてから前方を睨み据える。美穂がスターター役を買って出て、道の真ん中に進み出て2人の少し前に立ち、片手を高々と掲げてジャンヌとアポロを交互に眺める。頷いたジャンヌがマスクドジャンヌに変身した。


 ユニコーンバイクとTS250ハスラーⅢ型のエンジン音が無人の公園で響き渡る。美穂は開いた手の指を順に折り曲げて、カウントダウン。親指、人差し指、中指、薬指・・・小指を曲げてグーにした手を力強く振り下ろした。


「スタートっ!!」


 ユニコーンとハスラーⅢが、爆音を轟かせてダッシュ!夜目にも解るくらいクッキリしたタイヤ痕を残して、第1コーナーに向かってフル加速をする。1テンポ遅れて巻き起こった突風が、美穂の長い髪を揺らした。


 ほぼ同時に第一コーナー入る。だが、イン側のジャンヌより、スタートと同時にアウトを抑えたアポロの方が有利だった。インの方がカーブがタイトになる為、ジャンヌはブレーキが早くなる。対するアポロは、ジャンヌよりも直線に近い走行ラインで、アウトからインに進入をして、ジャンヌの進路にハスラーⅢを被せた。接触を恐れたジャンヌはブレーキングで減速して凌ぐ。


「挨拶代わりだ!この程度で怖じ気づいたわけじゃあるまいな!」


 アポロのTS250ハスラーⅢが先頭を走り、ジャンヌのユニコーンバイクがピタリと追走をする。レースは全10周、逆転のポイントは幾らでもある。



―数分後―


 観戦者達の前をアポロが少々先行で走り抜け、レースは4周目に入った。紅葉が指で「3周終了」を示しながら少し焦った表情で「ジャンヌ頑張れ~っ!!」と跳ね回る。単純にジャンヌが後ろを走ってるのが面白くないのだろう。

 だがジャンヌは考えて走っている。むやみにスピードを出せば良いものではない。初めてのコースなので、あえてアポロを先行させて慎重に観察をしている。まずはコースの構成を頭に叩き込む。次に「ここは落ち葉が溜まってる」とか「ここは舗装が荒れてる」等の路面状況を把握する。新設の舗装ではないので、舗装の平坦性や破損、バンプも体で覚えておく必要がある。同時にアポロの走行スキルも把握して、仕掛けどころを練ってから勝負するつもりだ。


「もらった!!」


 アポロのライディングのクセは、だいたい解った。ジャンヌは、アポロがアウト側に車体を振ったのを確認してから、イン側を選択してコーナーに突っ込み、ブレーキングをコンマ数秒遅らせて、アウト側のアポロを更に外に追い出すようにしてコーナリングをした。しかし、アポロはマスクの下で笑みを浮かべ、ギアとアクセルワークで対応する。


「見事なテクニックだが、ワシが驚くとでも思ったかね?

 この程度で“仕掛けた”とは言わんだろうな?」


 コーナーを抜けた時点で、ジャンヌのマシンの方が、車体半分くらい前に出た。だが、ブレーキングでコーナーを曲がった為、立ち上がりのスピードでアポロのマシンに負けてしまい、直線で先頭を奪取されてしまう。ジャンヌは小さく舌打ちをして、TS250ハスラーⅢの後塵を走る。


「やはり・・・簡単に勝たせてくれる相手ではないか」


 昭兵衛の気配を追ってきた麻由が、堤防上で、真っ暗な運動公園でヘッドライトが動き回ってるのを発見。「間違いない」と確信して駆け寄っていく。理由は解らないが、ジャンヌと昭兵衛がレースをしている。麻由は「何故2人が?」とコースに割り込んでレースを止めようとしたが、気付いた美穂が寄ってきて麻由を止める。


「美穂さん!一体何をやっているんですか!?」

「見て解んね~の?レースだよ」

「それは解ります!でも何で、ジャンヌとお爺ちゃんが!?」

「バイクで走るのが好きだからなんじゃね~の?」

「質問の答えになっていません!

 まさか、私に為にやって下さっているのですか!?」

「それが解ってるなら聞くな!黙って見てろ!」

「余計なお世話です!私は自力でお爺ちゃんの説得を!!」

「その為に、あたし達には何の相談もせずに単独行動か!?」

「・・・えっ?」

「『私の事で皆には迷惑をかけたくありません』か?・・・見え透いてんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あの頑固ジジイを、どう説得するつもりだったんだ?

 ジジイ以前に、あたしを納得させる事が出来るのか?」

「そ、それは、そのぉ・・・・」


 麻由は痛いところを突かれて戸惑ったが、直ぐに違和感に気が付いて反論をする。


「でも、何で、私が単独行動をするって知っていたんですか!?

 見張ってたのですか!?」

「そうだよ。言ったろ『見え透いてる』って!

 今の麻由が一緒に来て、何が出来るっ!?」

「わ、解りません!でも、何もしないワケにはいきません!」

「『解らない』じゃなくて、何も出来ないんだよ!それくらいは解れ!」

「でも、これは私の問題なんですっ!美穂さん達には関係がありません!

 私がやらなければならない事なんですっ!!」

「あっそう・・・オマエ、そんなふうに思ってんだ?」

「・・・え?」

「あたしの偽物の件で、インバージョンワールドの入口を作った時、

 『関係無いのに何でこんな面倒臭い事をしなきゃなんだ?』って思ってたのか?

 妖怪退治は『紅葉の仕事なのに何で自分まで戦わなきゃなんだ?』って

 思いながらやってんのか?」

「ち、違います!美穂さん達は私にとって大切な・・・」

「言い分が矛盾してるの気付け!」

「そ・・・それは・・・。」

「オマエが1人で勝手に動いた所為で、

 あたし達の作戦に参加できなかったって考えね~のかよ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・」


 この弁舌は美穂の勝ち。だが美穂は「オマエが大切な仲間だから」なんて優しい言葉を掛けるほど気は利かない。「言わないけど気付け」くらいに考えている。


「あたし達の代表はジャンヌだ。ちゃんと見てやれよ」

「・・・はい」


 ハスラーⅢとユニコーンバイクが立て続けに目の前を走り去り、アポロが麻由をチラ見する。コース間近に立っていた美穂&麻由の髪が風圧で靡いた。アポロとジャンヌは、そのままの順番で5周目に突入する。


「・・・麻由、聞き分けてくれないのか?

 ワシの知っている“幼い麻由”は、もっと諦めが早かった。

 泣き虫だった麻由が、敵すら救おうとする戦いを?そんな事が有り得るのか?

 いや・・・ワシが育てた結果、そうなったのか?」


 途端に、ハンドルを握るアポロの手が僅かに粒子化して蒸発をする。気が付いたら第1コーナーに突入していた!咄嗟にハンドルを切ってブレーキをかけるが、マシンは大回りをしてコースアウト!土埃を舗装面に引っ張りながら、慌ててコース内に戻った!

 一方のジャンヌは、オーバーテイクのチャンスだったのに、あえて抜かずに一時的にマシンを減速させ、後方をキープしつつアポロの背中を見つめる。

 次のコーナーを通過して直線コースに成ったところで、アポロが振り返ってジャンヌをチラ見して、露骨に減速をした。ジャンヌは察して、アポロに追い付いてマシンを並走させる。


「何故だ!?追い抜くチャンスだっ・・・・・・・」

「馬脚を顕して私を愚弄する気か!?

 これは、私と貴殿が‘大切な者’をかけたレースだ!

 いい加減なライディングをした貴殿に勝利しても、何の価値は無い!」

「・・・なにっ!」

「集中していただきたい!」


 アクセルを緩め、再び、ハスラーⅢの後方に下がるユニコーンバイク。ジャンヌは「雑な運転に勝っても意味が無い」「ちゃんとやれ」と言っているのだ。


「ワシの隙を見逃すとは甘い奴め!

 だが、ワシは甘くないぞ!君が隙を見せれば容赦無く突く!」

「私とて、手を抜いた隙ではなく、全力でも生じさせた隙ならば容赦無く突く!」

「そうか・・・解った」


 アポロは、レース中に集中力を欠いた事を「失礼な事をした」と反省し、気持ちを高め直して、目の前のコースに集中をした。


「真っ直ぐで、正直で・・・良い友を持ったな、麻由」


 後ろを走るジャンヌの視点でも、アポロはレースへの集中力を戻してくれたように見える。

 一方、観戦中の紅葉&美穂&麻由&真奈&バルミィが、一斉に溜息を付いた。


「ジャンヌぅ~~~・・・格好付けたつもりなんだろうけど、

 『馬きゃくをあらわす』は違うよぉ~。

 こ~ゆ~時は『メッキが剥がれる』ってゆ~んだよぉ~」

「『メッキが剥がれる』と『馬脚を顕す』は同義語で、

 取り繕うことができなくなって、本性が現れるって意味。

 目上に言うには、もの凄く失礼な言葉だね」

「ジャンヌは、お爺ちゃんのことを、

 『上辺は見事だけど中身が無い』ってバカにしたのでしょうか?」

「多分、そんな意図は無いんだけど、

 ジジイが挑発されて本気になったから、結果オーライでイイんじゃね?」

「ジャンヌには、あとで、昭兵衛さんに、ちゃんと謝らせなきゃばるね」


 レースは5周を終え、後半戦に突入。常に数mの距離を保って、プレッシャーを与えながら走っていたジャンヌが仕掛ける。

 先行するハスラーⅢがコーナーに進入!インが僅かに空いたのを見逃さず、ジャンヌはギリギリまでブレーキを我慢して強引にコーナーに突っ込んだ!此処までは、先程(4周目)と同じだが、立ち上がりのスピードで負けないように、出来るだけスピードを殺さずにコーナーを脱出する事を考える!外側のステップに全体重を預けながら車体を限界まで傾け、身体は思いきり内側へ沈みこませた!膝のプロテクターが、アスファルトに擦れて火花を散らす!


「もらったっ!」


 見事に抜き去ってアクセル全開!今度は、アポロに進路を塞がれる事無くトップをもぎ取った!


「やるなっ!だが、まだあと5周有る!」


 直ぐ背後にピタリと張りついて走るハスラーⅢ!ジャンヌはプレッシャーを受けながら、奪った先行を必死にキープしてユニコーンバイクを走らせる!


「このまま逃げ切りたい!」

「ワシの前を走る恐怖を思い知らせてやるぞ!」


 アポロは、直線ではスリップストリームに入り「こちらは余力がある」とアピールをして、コーナー入口ではマシンを左右に振って「インとアウトのどちらから抜こうか?」と挑発をする。そして、コーナーを抜けた直後には、離される事無くジャンヌの背後にピタリと付いて、「一瞬でも気を抜けば、いつでも抜けるぞ」「僅かなミスで順位は逆転するぞ」と容赦無くプレッシャーをかけてくる。


「やはり・・・解ってはいたが、一度抜いて、諦めてくれる相手ではないか」


 この一連により、ジャンヌは一瞬たりともインコースを空けられなくなり、タイトなコーナーでは“車体を限界まで傾ける”コーナリングを強要される事になった。


「君がワシにぶつけていたプレッシャーとは次元が違うだろう?

 これがバイク乗りの戦い方だ!」


 残り4週。アポロは「そろそろ仕掛けるか」と動き出した。やや急なコーナーが迫り、ジャンヌはインを死守しながらも無理せず減速。基本を守って、無難に走り切るつもりでいた。だがアポロは、逆に急加速して、アウト側から無謀としか思えないスピードで突っ込んだ。


「アウト側か!?」

「どうかな!?」

「なにっ!?」


 舗装路と芝生の境目の段差を利用してアポロの駆るハスラーⅢがジャンプ!力業でハスラーⅢの姿勢を強引に変え、空中で水平に寝かせつつコーナー出口に鼻先を向け、コース脇に立ってる大木に後輪が触れた瞬間に、幹を足場にしてアクセル全開!ハスラーⅢは、しばらく滑空して、スピードを全く落とす事無くコーナーをクリアしてコースに着地!僅かに減速をしてしまったジャンヌは、慌ててハスラーⅢの前に入って進路を塞ぐ!


「あ、危なかった!まさか、コース外の木を利用するとは!

 だが、手の内が分ければ、対応策はある!」

「フン!ハナから、あんな強引な曲芸で抜けるとは思っておらんよ!

 今のは撒き餌!料理をするのはこれからだ!

 ワシの前を塞いだ所為で、インがガラ空きになったぞ!」

「チィィッ!」


 コーナリングで僅かに減速してしまったユニコーンバイクと、トップスピードを維持したままハスラーⅢ!ジャンヌが気付いた時には既に遅く、アポロが駆るハスラーⅢはインに滑り込んで、マシン長の半分ほどの差を付けてジャンヌより先にコーナーに入った!


「見せてやろう!綺麗事だけでは無い、バイク乗りのテクニックを!」


 車体を傾ける走法でコーナリングをするアポロ!ジャンヌも負けじと車体を傾けてコーナーを曲がり、アポロに喰らい付いていく!


「掛かったな!」

「なにぃっ!?」


 アポロは、コーナーを抜けて車体の傾きを戻した瞬間、ブレーキワークで意図的に後輪を滑らせた!ハスラーⅢに後輪が、まだ車体の傾きを戻し切れていないユニコーンバイクの前輪に接触!操作バランスを崩されるユニコーンバイク!ジャンヌが必死に操作をして体勢を立て直すが、ユニコーンバイクはコースアウト!どうにかコースに戻った時には、ハスラーⅢとは15mほどの差が付いていた!


「これで、迂闊にテイル・トゥー・ノイズが出来なくなったはずだ!」

「な、なんて走法だ・・・。

 だが、あと3周半、まだ諦めるには早すぎる!まだ諦められる距離ではない!」


 ジャンヌは気持ちを切り替えて先行するアポロを追う。一方のアポロは「してやった」と思う反面、もう少し楽に勝てると思っていたので、「ここまでやらなければならない」のは予想外だった。それほどまでに、ジャンヌは強敵だった。バイクスキルはまだ甘いが、麻由を失いたくない強い気持ちで補って挑んでくる。共に走っていて、その気持ちが伝わってくる。


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