34-2・昭兵衛の回想
今回のストーリーは、『妖幻ファイターザムシード』の『外伝・異獣サマナーアデス』を抜粋して昭兵衛視点で編集したストーリーです。
-約50年前-
世界GPを目指して、本条尊はバイクの特訓に励んでいた。有名な大学に在籍をする優秀な頭脳を持ち、スポーツ万能・武芸百般、おまけに男前。誰からも好かれる優しい性格で非の打ちどころ無い男だ。
ゴール地点を全速力で駆け抜け、Uターンして戻ってきた尊に、ストップウォッチを持った葛城昭兵衛が駆け寄った。
「どうでした、おやっさん?」
「なかなか良いタイムだぞ・・・
コーナーを、もっとアウトから突っ込んでみろ!」
「はいっ!」
笑顔で走り去る尊を、昭兵衛は頼もしそうに見送った。
「あいつを鍛えたら、世界チャンピオンも夢じゃないぞ」
夢は無限に広がっていた。
だから、この直後から、尊の死のカウントダウンが始まる事なんて、全く予想していなかった。
「ん?・・・何だっ!?」
尊が快調に走っていたら、道路正面に動物のような物が立っていた。
「熊か何かが、山から迷い出てきた?」
獲物を見付けた“それ”は、尋常ではないスピードで飛び掛かってきた。
「うわぁぁっっっっっ!!!」
弾き飛ばされて地面を転がる尊。
既に、カーブミラーを経由して左右が反転した異世界に引き摺り込まれていたが、尊は異変には気付いていない。熊だと思った物は、蜘蛛の形をした人間だった。
尊は逃げ出した。誰かと接触して、警察に通報してもらうつもりだった。だが、ここは異世界。何処まで逃げても、尊以外の人間は存在しない。公衆電話を見付けて警察に連絡しようとするが、何処にも繋がらない。やがて、蜘蛛人間に追い付かれ、吐き出した糸に絡め取られてしまう。
「バルキリーめ・・・このような手段で、侵略を開始するとはな」
いつの間にか、尊と蜘蛛人間の間に、ローブを着た男が立っていた。
男は、尊を拘束していた糸を素手で切り、尊に向けてカードの入ったケースを差し出す。
「人間が“この世界”に引き摺り込まれてしまったからには、
サマナーになる以外に生還する術は無い。
サマナーになれば、バルキリーとの戦いからは逃れられなくなる。
修羅道か死か、好きな方を選べ」
「アンタは一体!?バルキリーって何だ!?」
「バルキリーとは、世界の制圧を目論む者。
俺はバルドル。奴等と敵対する者」
全く理解出来なかった。だが、死ぬのは嫌だ。尊は、差し出されたサマナーホルダを受け取る。
「闘争心を示せ。強くなったオマエをイメージしろ。
そうすれば、オマエに必要な形と力、オマエに相応しいモンスターが得られる」
「何の事だか解らないがやってやる!・・・うおぉぉぉぉっっっっ!!」
サマナーデッキを握りしめてアラクネに飛び掛かっていく尊!闘争心に反応して、正面に乳白色の歪みが出現したので、構わずに突っ切ったら、途端に朱色でバッタの意匠を持った人間に姿が変わった!尊の突然の変化に、アラクネが動揺をする!尊(変身体)は、アラクネが攻撃行動に移る前に、アラクネの懐に飛び込んで拳を放った!アラクネは十数mも弾き飛ばされて地面を転がる!
尊は自覚をした。これは人間の力ではない。人間がパンチしただけでは、同じくらいの質量の物をこれほどは飛ばせない。自分の全身を見廻して、先程までの自分の姿と違うことに気付き、振り返ってローブ男を見る。
「俺は・・・一体?」
「異獣サマナーアポロ。オマエの名だ。
ホルダ内のカードで、効果的に武器を召喚して戦え」
手に握っていたサマナーホルダをベルトのフックに掛け、バッタが描かれたカードを一枚抜いて、何気なく翳す。
後に知った事だが、それは必殺技を発動させるカードだった。メカニカルで巨大なバッタ=ホッパーサイクロンが出現して、足でアポロを掴んで飛び上がる!そして空で加速して、アラクネに向けてアポロを投げ出した!
「うおぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!」
無我夢中で跳び蹴りの体勢になるアポロ!サイクロンキック発動!弾き飛ばされたアラクネは、苦しそうな悲鳴を上げて爆発四散をした!
バルドルと名乗った男は、あまり多くは語らなかったが、尊が現状を理解出来る最低限の情報はくれた。尊を襲ったのは、人間と動物を合成してキマイラを発生させるワルキューレという組織。ワルキューレは既に暗躍をしていて、無差別に人を襲っている。最近発生した行方不明事件は、たいていがワルキューレによるものだ。
「な、何故、貴方は俺を助けてくれたんだ?」
「偶然だ。たまたま近くに居ただけ。
そうでなければ、オマエも、他の行方不明者と同じ末路だっただろう」
バルドルは、自身の目的は何も教えてくれなかった。ただ、「ワルキューレの兵隊レベルを相手に、自分の存在を公には出来ない」「サマナーはワルキューレへの対抗に必要な力」と語った。
「『修羅道か死』と言ったな。
この世界から生還した直後に、このサマナーホルダってのを捨てて、
戦いを放棄したらどうなるんだ?
俺は死ぬのか?」
「死ぬことは無い。捨てても構わん。
他の者がワルキューレに襲われる現実を、オマエが放置できるのならな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
正義感の強い尊には、戦う力があるにも関わらず、襲われる人々を見殺しにする事など出来なかった。バルドルは「偶然助けた」と説明したが、実際は、尊の正義感と優秀さを見抜いた上でサマナーに選んだのだ。
本条尊は、異獣サマナーアポロとして戦う決意をする。だが、それは、戦いの為にレーサーの夢を捨てることを意味していた。
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やがて、尊には、信頼できる協力者の葛城昭兵衛の他に、頼もしい仲間が出来た。
異獣サマナーアデス=粉木勘平。
尊と同じように、ワルキューレの事件に巻き込まれて、バルドルの提供でサマナーになったのだ。
当初、典型的な関西人で、ノリが軽率な粉木を、尊は好きには成れなかった。時には考え方の違いで衝突をしたが、その度に昭兵衛が仲裁をした。凸凹コンビでスタートをした尊と粉木だったが、徐々に息の合ったパートナーに成長する。
話したがらないことは聞かない主義の尊とは対照的に、口が達者な粉木は疑問に思ったことはバルドルに片っ端から質問した。バルドルは相変わらず最低限のことしか話さなかったが、「バルドルが人間ではないこと」、「サマナーは人間界を狙う組織の対抗策としてバルドルが開発したこと」、「バルドルはワルキューレの奥に潜む黒幕を警戒していること」を知った。
およそ2年に渡る戦いの間に、間一髪で救われた者、あるいは接した者による口コミで、人々の間で『アポロと名乗る戦士』の都市伝説的に広まっていく。
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本条尊と粉木勘平は、遂にワルキューレ最後の基地へ到達した。配下のモンスター達を倒し、基地の最深部を目指す。
≪ようこそ異獣サマナーの諸君≫
「オマエが首領か!!」
大釜を持ち、ローブを纏った髑髏が待ち構えていた。まるで死神だ。ただ立ってるだけだが、凄まじいプレッシャーに圧されて尊と勘平は後退る。
≪私がワルキューレ首領のバルキリーだ。
ここを貴様達の墓場とし、ワルキューレを再編して世界征服を成し遂げる≫
「そうはさせるかっ!!人間の力を舐めるなっ!!」
「オマンを倒し、平和な世界を取り戻すんや!!」
≪それが出来るかな?≫
「やってやるさ!!変身っ!!!!」 「変身っ!!」
異獣サマナーアポロ&アデスに変身して挑みかかる。だが、バルキリーが掌を翳したら、強力な念動力で弾き返されてしまった。
≪他愛ない・・・・ふんっ!!≫
「うわああっ!!!」 「ぐぅぅっっ!!!」
バルキリーが念じた途端に、アポロとアデスのボディーから火花が散った。それでも立ち上がって果敢に挑むが、結果は同じで突破口が見つからない。アポロ&アデスは、切り札の神のカード=ヴァルカンとマキュリーを発動させてパワーアップ。召喚モンスターの援護を受けながら戦うが、それでもバルキリーには届かず、アデスとアポロは弾き飛ばされて地面を転がる。
≪死ねい!!≫
追い撃ちの衝撃波を喰らったアデス・マキュリーが壁に叩き付けられ、通常体にパワーダウン。マーキュリーのカードが地面に落ちる。立ち上がり、マキュリーを拾い上げるアポロ・ヴァルカン。既に進化態の状態にも係わらず、マキュリーのカードを翳す。
「やめい、本条!神のカードは、一枚使っただけでも、相当の負担になるんや!
2枚も同時に使ったら、命の保証はできへんぞ!」
「だが、このままでは、バルキリーは倒せず、俺達は敗北する!」
アポロ・ヴァルカンは聞く耳を持たず、マキュリーのカードを発動させてしまう。アポロの周りに、凄まじい雷が出現して、アポロの体に吸い込まれていく。
「くっ・・・ぐわぁぁっっっっっ!!!」
アポロの体内に莫大なエネルギーが蓄積されて、体はパンクしそうな感覚に陥る!プロテクターに黄のアクセントが現れ、プロテクターと装飾が大きく派手になったアポロ・ユピテルに進化した!
「本条っっ!!」
「ぐぅぅっっ・・・粉木、あとは頼んだぞ!!」
アポロ・ユピテルは悲鳴を上げながら根性で立ち上がり、必殺技のカードを翳して、バルキリーに突っ込んでいく!召喚モンスターのユピテルポッパーが出現してバイクに変形!アポロ・ユピテルが飛び乗ると同時に全身から雷を発生させた!奥義・ホッパーゴッドパニッシュ発動!
バルキリーから余裕が消え、掌から発する念動力や眼から放つ光線で迎撃をするが、アポロユピテルを取り巻く莫大なエネルギーは全てを無効化する!
「よもや、このような事が!
おのれっ!おのれっ!おのれぇぇぇっっっっっっっっ!!!!」
「うおおぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!!!」
大爆発が発生!
濛々と爆煙が立ち込める中で、首領が木っ端微塵で果てており、直ぐ近くに傷だらけの尊が倒れていた。抱き起こしてみたが、どう見ても助かる状態ではない。だが、勘平は「本条が死ぬ」なんて現実を認められず、揺さぶりながら懸命に呼びかける。
やがて閉じられていた尊の瞼が薄らと開かれる。
「粉木・・・首領は?」
「安心せい、オマンが倒した」
「そうか・・・・」
「胸を張れ。オマンは世界を救った英雄や」
「・・・あぁ」
「しっかりしいや!英雄は死んだらあかんのや!」
勘平は瀕死の尊を抱きかかえて神殿を脱出する。外で待機をしていた昭兵衛が寄って来た。
「尊、しっかりしろ!何があったんだ!?」
「良かった。・・・おやっさんも無事だったんだな」
「本条は、サマナーの力を暴走させたんや。首領を倒す為に」
「首領は滅んだ・・・お、俺達は・・・平和を勝ち取ったんだ。
こ、これで・・・今日からは・・・ゆっくりの眠れる」
昭兵衛の顔を見た時点で、尊は安堵をして緊張の糸は切れていた。目を閉じて垂れる。そして2度と眼を開くことは無かった。
「尊ぅぅっっ!!!」
「こ、これはっ!?」
尊の体が灰になって崩れ、風に流されて舞い散っていく。これが、人間の限界を遥かに超える力を使ってしまった代償。尊の何もかもが朽ちていく。昭兵衛と勘平は、骨1つ残らない英雄の終わり方を、ただ眺めていることしか出来なかった。黒焦げになったサマナーホルダと、勘平と昭兵衛が握り締めた灰だけを残して、尊はこの世から消え去った。
見上げれば澄み切った青空が広がり、木の枝で野鳥が囀っている。その光景は平穏そのものだ。しかし、その平穏を掴み取った本条尊は、もう存在をしない。
嗚咽を吐いて号泣する昭兵衛。尊に協力をして、正義の味方の一員のつもりになっていた。何度も「もう止めよう」と止める機会はあっただろうに、昭兵衛自身が正義の大義に浮かれていた。その結果がこれだ。
何が正義だ?正義を貫いた果てに、平和をもたらした張本人が居ないなんて、あまりにも残酷すぎる。昭兵衛は「正義を気取って、尊の死を早めてしまったのではないか」と自分を責めた。
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この日を境にして、粉木は“人命を無視したシステム”に疑念を持ち、別の方法で平和を維持するシステムを模索するようになる。更には後身のサマナー達が無謀な戦いに身を投げ出さないように監視をすると決めた。
だが、大きな代償に打ちのめされた昭兵衛は、粉木が「これからも戦いに身を置く選択」をしたことが理解出来なかった。昭兵衛は「争いに身を置くなら、二度と顔を見せるな」「隼人(尊の子)の周りに、戦いの匂いを持ち込むな」と言い捨て、粉木と絶縁宣言をする。
その後、粉木と昭兵衛が会ったのは、昭兵衛がハスラーⅢを粉木に預けた1度きりだった。




