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34-1・河川敷運動公園~ジャンヌの提案

-堤防上-


 スズキ・TS250ハスラーⅢ型を駆るアポロ(昭兵衛)と、それぞれのバイクで追走するゲンジ(紅葉)&ネメシス(美穂)&マスクドジャンヌ。アポロが想定した広い戦場が左側に見えてきた。


 河川敷の運動公園。50年前はただの荒れ地だったので、昭兵衛と尊はこのオフロードで頻繁にハスラーⅢのテスト走行をした。今は整備され、区画をされた広い芝生やグラウンドがあり、外周を2.5㎞の管理用舗装道に囲まれている。照明灯の類いは無く、深夜になればひとけが無い為、存分に暴れられる場所だ。


 アポロはミラーで「後方の3台のヘッドライトが付いてきている」と確認して、ハスラーⅢの進路を堤防道から逸らし高水敷側の坂道を降りていく。追走するゲンジ&ネメシス&ジャンヌが気を引き締めて、ハスラーⅢに続いて坂道を下る。


 ハンドルを握る手を見つめるアポロ。時折、粒子のような物が蒸発をしている。昭兵衛の念が曖昧になり、実体の維持が難しくなっているのだ。


「麻由・・・良い友達に恵まれたようだな」


 後ろから付いてくる少女達が腹を括っていたのは直ぐに解った。彼女達は、麻由の為に捨て身で挑むつもりだ。その熱さに宛てられて「麻由を任せても良いのでは?」と気持ちが揺らぎそうになった。粉木に「覚悟しろ」と釘を刺された意味が理解出来る。


「だが、ダメだ!気持ちだけでは、何も守れない!!

 尊・・・滑稽と思うなら、あの世でワシを笑え!

 それでもワシは、譲るつもりは無い!」


 昭兵衛は、麻由の父を守ることが出来なかった。寿命には抗えず、麻由を守ることも出来なかった。気持ちだけでは足りない。力が無ければ、無力に打ち拉がれるだけ。もう、そんな思いはしたくない。何が何でも、麻由から争いを遠ざける。今の麻由にどう思われても、未来の麻由が幸せになってくれれば良い。

 アポロは気持ちに喝を入れて、実体の粒子化現象を止める。


「見せてみろ!オマエ達の心と力を!!」


 決意を固めたアポロのマスクの複眼が真っ赤に光り輝く!フルブレーキで、ハスラーⅢを180度反転させつつ急停車!ウィリー走行で威嚇をしながら、追って来たゲンジ&ネメシス&ジャンヌに向かって猛スピードで突っ走る!


「んぁぁっっ!?」 「前フリ無し!?」 「いきなりか!?」


 ゲンジ&ネメシス&ジャンヌは想定外の奇襲に体を硬直させてしまう!


「甘いな、お嬢さん達っ!」


 先頭を走るネメシス(美穂)は、衝突を回避する為にキグナスバイクのハンドルを切る!アポロは、ネメシスの仕草から動線を読んで、上げていた前輪を地面に降ろし、すれ違いざまにキグナスバイクのボディーに蹴りを叩き込んだ!強制的に進路を変えられたキグナスバイクは、舗装道から芝生に突っ込んで地面の凸凹にハンドルを取られてスローダウン!


「・・・くっ!しまったっ!!」

「ふんっ!悪路に突っ込んでしまえば、もう、どうにもなるまい!」


 アポロは、続けて、ハスラーⅢを横滑りさせてタイヤスモークを上げながら、ゲンジ(紅葉)が駆る☆マシン綺羅綺羅☆(モトコンポ)の前輪にハスラーⅢのタイヤをぶつけた!ゲンジは☆マシン綺羅綺羅☆ごと吹っ飛ばされて、共に地面を転がる!


「んぁぁっっ!!」

「スピードはそれなりにあるようだが、重量が決定的に戦闘向きではない!」


 ゲンジとネメシスがアッサリと捻られたのを目の当たりにしたジャンヌは、ユニコーンバイクをジャンプさせて向かってくるハスラーⅢを回避!アポロは、直ぐさまハスラーⅢを反転させて、ユニコーンバイクの着地点に向かう!そして、ウィリー走行で着地直後のユニコーンバイクに体当たり!弾かれたジャンヌは、ハンドル操作でどうにかバイクを横滑りさせて体勢を立て直す!


「他の連中に比べれば、少しはマシなようだが、まだまだ甘いな!

 着地寸前は、どんなベテランでも無防備!

 ジャンプをするなら、敵の動きを読んでからだ!」


 アポロは、バイクを手足の如く自由自在に操る!たった数秒でテクニックの差を見せつけられた!


「問答無用ってか!

 なんか知らないけど、切羽詰まってるのは、あっちも同じみたいだな!

 綺麗事で戦うつもりが無いのは、こっちも同じ!気を引き締めてくぞ!」

「んっ!絶対に勝ぁつっ!!」


 アポロはアクセル捻って鳴り響き排気音で威嚇しながら、愉怪な仲間達を睨み付ける。

 吹っ飛ばされたゲンジは瞬時に闘志MAX。ネメシスも不意打ち同然に仕掛けられて頭に血を昇らせて「やられたら、やり返す」気分になっている。空では、真奈を背に乗せたままのHAバルミィが、右手甲の砲門を向けている。


「あれ?ジャンヌさん?」


 だが、真奈がバルミィの背で眺める限り、マスクドジャンヌだけは少し違う。臨戦態勢を整えていない。変身を解除してからユニコーンバイクを走らせて、ゲンジ&ネメシスとアポロの間に入る。


「なんで、ジャマすんのっ!?」

「落ち着け!!私達は、殺し合いに来たのではない!!

 昭兵衛殿を説得して、マユユへのHスマホの返却と、

 成仏をしてもらうのが目的ですっ!!」


 ジャンヌの一喝で、頭に血を上らせていたゲンジとネメシスは落ち着きを取り戻した。真奈を背に乗せたバルミィが降りてきて。ネメシスの隣に立つ。


「ここは、私に任せてもらいたい」


 生身のジャンヌを見たアポロも臨戦態勢を解いた。


「冷静だな、ジャンヌくん。

 だが、衝突を止めてどうする?戦いに来たのではないのか?

 ワシへの説得が無駄と言うことが、まだ解らないのかね?

「無論、説得で終わるとは思っていません。

 昭兵衛殿・・・貴殿と私、1対1のバイクレースを所望する!」

「なに?」

「見れば、バイク勝負に丁度いい場所。剣の打ち合いだけが勝負ではあるまい?」

「ワシにバイクで?先程の挨拶代わりのテクニックを見ても恐れずに挑むか?

 余程の自信があるのか、それともただの怖い物知らずか。」

「強いて言うなら心の躍動。

 バイクに美しさを感じる私は、バイクを愛する貴殿と、レースで勝負をしたい」

「ほぉ?・・・面白いことを言ってくれる」

「如何に貴殿のバイクテクニックが優れていようとも、必ず隙はあるはず!

 勝負は割れ物!私は“冑を脱ぐ”覚悟で貴殿に挑む!」

「良かろう!受けて立つ!」

「んぁぁっ!ァタシもワレモノレースしたいっ!

 ど~すんのっ!?

 ドンブリとかをいっぱい重ねて、落とさないように・・・うぐぅっっ!!」


 サシの勝負に水を差そうとするゲンジの顔面を、ネメシスが裏拳でブッ叩く。


「邪魔すんな。空気読め」

「だってぇ~~・・・ジャンヌばっかりレースなんて、ズルいんだもんっ!」

「それから、勝負は割れ物じゃなくて水物な。」


 バルミィと真奈は、ネメシスの粗っぽい行動にドン引きしつつ、ジャンヌを見つめる。


「『冑を脱ぐ』とは、敗北を認め、戦意を失って降参することだよ。

 ジャンヌさん、もう負ける気?

 相手の弱点を掴むって意味の『内兜を見透かす』って言いたかったのかな?」

「昭兵衛さんは、解ってないのかスルーしてくれたのかどっちばるかな?」


 ゲンジは不満そうだが、ネメシスとHAバルミィが「ここはジャンヌに任せよう」と同意をして、3人は変身解除する。


 運動公園の外周舗装路は、大小左右が混ざったカーブと程よい長さの直線で構成された小規模サーキットのようなコースだ。

 そんな舗装路の直線の真ん中をスタート&ゴール地点に決めた。ジャンヌとアポロは愛車を押して歩いて、仲間達が後に続く。


「どうにも解らぬ事がある」

「何だね?」

「昭兵衛殿にとって、本条殿やハスラーⅢとは何なのだ?」

「・・・・何が言いたい?」

「本条殿と一緒に戦い抜いた日々は、昭兵衛にとって単なる苦痛でしかないのか?

 貴殿等の努力で平和は守られた。その事に対する歓びや誇りは無いのか?

 本条殿は戦い犠牲になった。

 確かに辛い事だが、それで戦いの・・・

 本条殿の崇高な行動の全てを否定するのですか?」


 アポロの歩みが僅かに鈍り、直ぐ思い直したように足早に歩き出す。


「ワシが尊を否定しているだと?

 フン!何を言い出すかと思えば・・・。いつ、ワシが、そんな事を言った!?

 親友の孫を戦いから遠ざけることの何がおかしい!?

 何も知らんクセに、知ったふうな口を利くな!」

「私は、何も知らないから知りたい!

 だから、貴殿と本条殿に、何があったのかと尋ねているのだ!」

「ふんっ!・・・だったら教えたやろう!50年前のワシ等に起きたことを!」


 アポロは足を止め、ジャンヌ達の方に向き直る。

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