33-3・ファミレスで打合と決意~麻由抜駆
-麻由のマンション付近-
麻由が指定のファミレスにジャンヌを迎えに来たのだが、ジャンヌは居ない。待ちくたびれて、他の場所に移動をした?それとも、「直ぐに帰る」と言ったので、ファミレスには行かずに、自宅マンションの前で待っている?
麻由は小走りで自宅に戻ったのだが、ジャンヌの姿は無かった。スマホを取り出して電話をしてみたが、いくらコールしてもジャンヌは通話に出ない。
「全くもう。帰宅を煽っておいて、何処に遊びに行ってしまったの?」
そのうち戻ってくるだろう。麻由は先に帰宅をして、ジャンヌを待つ事にした。
-倍杜町・DOCOS-
ジャンヌの姿は、麻由の自宅マンションから離れたファミレスにあった。しかし、見当違いなファミレスで麻由待ちをしているわけではない。意図的に、麻由の行動範囲から外れたところで、待ち合わせをしていた。
「お待たせ、ジャンヌさん!」
「お呼びだてしてすまない」
店に入ってきてジャンヌと相席をしたのは美穂と真奈とバルミィだった。真奈はジャンヌの隣に、美穂とバルミィはジャンヌの対面側に並んで座る。
「急に、どうしたんだ?
アポロ追っ掛けてって、麻由に聞かせたくない話でも仕入れたのか?」
「うむ、その通りだ」
ジャンヌが麻由の帰宅を催促したのは、麻由を美穂から引き離して、美穂に伝えたい事があったから。
-数分後-
ジャンヌの説明を受けた美穂は頭を抱えてしまう。フライドポテト1皿とドリンバーしか注文していないのだが、僅かな量を飲み食いすることすら忘れてしまいそうになる。
本条尊は麻由の実の祖父。昭兵衛が白状したのなら事実なのだろう。美穂達が抱えている仮説と合わせると、異獣サマナーアポロが麻由の祖父で、幼い子供(麻由の父親)を残して戦死したので、昭兵衛が引き取って育てた事になる。母親は神様の血統で、父親は英雄の系譜。麻由は、とんでもない血統証付きだ。
「ま、まさか、紅葉ちゃんが思い付きで言ったのが正解だったの?」
「こりゃぁ・・・この場に麻由が居なくて良かった」
「ミポリンも、そう思いますか」
「うん。アイツのキャパじゃ、知ったらパンクする」
「ばるぅ~・・・時々、垣間見せる潜在能力は、その為だったばるね。
でも、普段の麻由は、その才能を殆ど使えてないばるっ!」
「だからさ、今のアイツが知っても、また焦るばっかになっちゃうんだ」
「だが、ずっと報せないのも、いかがな物かと思ったので、
こうして相談をした次第です」
美穂は、冷めたホットコーヒーをスプーンで掻き混ぜながら思案を重ねるが、名案は浮かばない。
「だけどさ、その事実を報せるのは、多分、あたし達の役割ではない・・・かな」
「・・・ん?」
「ばるっ?」
「どういう事ですか、美穂さん?」
「あたし達じゃなくて、昭兵衛ジジイに語らせるべきだ。
あたし達が踏み込んで良い話じゃない」
「昭兵衛殿に頼むのですか?どうやって?」
「わかんね。今、思案中」
アポロの活動を身近で置き換えてみると、何となく想像が出来る。自分達の解決した事件は、50年前の一連と同じように原因不明で処理されている。公になった事件は火車騒動くらいだ。
美穂は、「平和を守る英雄」扱いを望んでいない。変身できる事は隠して、私生活は平穏に過ごせる事を望んでいる。それは、本条尊や葛城昭兵衛、ついでに言えば、昨日、正体を暴こうとしていたアデスも同じだったのだろう。
「50年も前から、同じようなことが起きていたんだな。
あたしは、無責任な好奇心で、
爺さんが麻由の為に隠してきた過去を、散らかしてしまったんだろうか?」
「ばるっ!今の美穂、なんだか、麻由みたいばるっ!」
美穂が悩んでいたら、バルミィが「眉間にシワを寄せた美穂」や「暗く落ち込む麻由」の顔真似をしながら、美穂にダメ出しをする。バルミィのモノマネが可笑しくて、少し気持ちが和んだ。
「考えてばっかりで、美穂らしくないばるよ。
いつもの美穂なら、周りの迷惑を考えずに動くだけ動いて、
あとで、尤もらしい言い訳を適当に付け足して、自分を正当化するばるっ!」
「・・・あたしを、どういう目で見てんだよ?」
バルミィの言い分は的を射ている。ウジウジと悩み続けるのは自分らしくない。叱責を受け、美穂の眼に輝きが戻ってきた。
いつも、ゴールを決めてから動くのではなく、動くだけ動いた後に、臨機応変にそれなりに悪くないゴールに辿り着くのが美穂だ。知ってしまった物は仕方が無い。悩み続けても、多分、100%満足できる答えは出ない。だけど、やるべき事は決まっている。
「なぁ、オマエ等!提案があるんだけど、ちょっと良いかな?」
美穂は、真奈&バルミィ&ジャンヌに顔を近付けて内緒話を始める。
-深夜・麻由のマンション-
麻由がベッドから起き上がり、忍び足でジャンヌに提供している部屋に行って、そっと扉を開けて布団を被ったジャンヌを確認する。静かに眠っているようだ。忍び足で自室に戻り、動きやすい服装に着替えて、物音を立てないように廊下を歩いて玄関を出る。
ジャンヌに気付かれずに自宅からの脱出に成功。共有スペースで靴紐をキツく結び直し、エレベータで1階まで降りて外に出る。目指すは、葛城家の菩提寺・一文寺。アポロ(昭兵衛)の気配が一文寺で消えたのは察知している。
「お爺ちゃん・・・私は、昔の弱い私じゃない。
強い私を見せれば、お爺ちゃんだって解ってくれるはず」
決意を秘めた眼で満天の星空を見つめる。帰宅後のジャンヌが妙に余所余所しかったので、昭兵衛を追って何らかの会話をしたのは察したが聞くつもりは無い。自分で確かめる。これ以上、仲間達に迷惑は掛けられない。皆の足手まといにはなりたくない。
2月の深夜はかなり寒い。麻由は、白い息を吐きながら、一文寺に向かって駆けていく。
「・・・行ったか」
麻由が出掛けたことを確認したジャンヌが起き上がり、スマホを取り出して美穂に連絡を取る。
「マユユが動き出した」
〈了解。バルミィと合流してくれ〉
ジャンヌがベランダに出ると、屋上で待機をしていたバルミィが降りてきて背中を向けた。
「美穂の予想通りばるねっ」
ジャンヌがユニコーンを召喚すると、まだ近くに居る麻由に魔力を感知されてしまう可能性がある。だから、バルミィに運んでもらう。
「飛ばすばるよ!」
「心得たっ!」
ジャンヌを背に乗せたバルミィは、高速で上空を飛び、麻由とは反対方向に向かっていく。
-山頭野川の河川敷-
真っ暗な堤防上で紅葉&美穂&真奈が待機していたところに、空から降りてきたバルミィとジャンヌが合流。
「お待たせばるっ!」
「待ったってほどでもないよ」
美穂は、夕方に怜香からスマホに届いた調査内容の報告を読み返して、仲間達に伝える。
過去の事件を調べた結果、数十件の怪事件が発生して、その数件で“異形の戦士”が介入をした目撃談がある。そして、ある日を境にして怪事件は発生しなくなった。
知っている情報の全てを繋げると、麻由の祖父=本条尊=アポロは、様々な怪事件を妨害して首謀者のバルキリーを倒したが、何らかの原因で自身も死んだと推測できる。
なかなか重い話だ。残された昭兵衛には同情する。だが、麻由と離されて良い事にはならない。
「紅葉、真奈、ジャンヌ、準備は良いか!?」
「んっ!」 「うん!」 「無論だ!」
「バルミィは、真奈の護衛を頼んだぞ!」
「任せるばるっ!」
紅葉&美穂&ジャンヌは、川岸に駆けながら掛け声と共にポーズを決めて、妖幻ファイターゲンジ&異獣サマナーネメシス&マスクドジャンヌに変身完了!ゲンジは更にYスマホに「たぬき」と書き込んで雲外鏡を召喚して融合!同時に真奈が、ジャンヌに向けて手を翳す!
「熊谷真奈が命じます!ジャンヌさん、インバージョンワールドに進入を!」
「承りました!」
途端にジャンヌの体が光に包まれ、川面が乳白色に濁った!ネメシス、たぬきゲンジ、ジャンヌが川面に飛び込んでインバージョンワールドに進入する!
-インバージョンワールド-
「紅葉っ!解るかっ!?」
「んっ!邪念の気配、あるよっ!」
ネメシスの予想通りだった。ゲンジはバルキリーの存在を感知している。以前、ゲンジは「インバージョンワールドは虚無」「アナザービーストも虚無だから感知は出来ない」「だけど、インバージョンワールドに進入した人間は『虚無の中にある実存』としてハッキリ感じられる」と言っていた。バルキリーはアナザービーストとは違う。理由は解らないが、邪念がインバージョンワールドからリアルワールドに溢れ出して実体化をした。インバージョンワールドに存在しないはずの“念”ならば、ゲンジは「感知できるかも」とネメシスは考えたのだ。
たぬきゲンジを先頭にして、ネメシスとジャンヌが川辺を走る!ゲンジには、川の上空に浮かぶ邪念の塊が見える!
〈何をしに来た?オマエ達に用は無い〉
「そっちに無くても、ァタシ達にゎあるんだぁっ!」
「本命を誘き出す為の“前座”って役割がな!」
「貴殿には個人的恨みは無いが、諸事情により叩かせてもらう!」
目的の為なら相手の都合など知った事ではない!奇襲&先制攻撃上等!走りながらフィエルボワソードを装備するジャンヌ!
「はぁぁっっ!!テュエ・ディユ・セルパン!!」
邪念に向けて光蛇が放たれた!邪念は宙を移動して回避したが、ジャンヌの意思により光蛇は軌道を変えて再び邪念に向かって行く!更に、邪念を追走していたゲンジが、八卦先天図を通過して神鳥に変化!
「んんんんんっっっ!!!ウルティマバスタァァァッッッッッ!!!!」
〈冗談ではない!〉
昼間の戦闘では、バルミィとジャンヌの物理攻撃は、邪念にはダメージを与えられなかった。だが、ジャンヌの魔力攻撃やゲンジの邪気祓いならば話は変わる。脅威を感じた邪念は、急降下をして、川面を乳白色に歪ませて飛び込んだ。
-リアルワールド-
「来たばるっ!」
「第一段階、成功だね!」
川面が歪み、夜空に黒い邪念が飛び出してきた!空中で実体化をして、手に大釜を持ち、ローブを着た骸骨=バルキリーの姿になる!
「真奈は下がってるばるっ!・・・アーマードバルカンばるっ!」
待ち構えていたバルミィがアーマードを装着!右手甲の砲門からレーザー剣を発生させて、バルキリーに飛び掛かった!レーザー剣と大釜がぶつかり、HAバルミィとバルキリーがしのぎを削る!
「オマエは何者ばるっ!なんで麻由ばっかり狙うばるっ!」
〈俺は、アポロの血統がインバージョンワールドに干渉したゆえに、
アポロへの恨みで目覚めた存在。
去れ!アポロの血統以外には用は無い!〉
「オマエの都合なんてどうでも良いばる!
強いて言うなら、オマエは麻由を狙った!だから、ボク達はオマエを倒す!」
〈ザコが・・・出来る物ならやってみろ!〉
バルキリーの眼から光線が発射され、接近戦中のHAバルミィに炸裂!命中した場所がプロテクターだったのでダメージは受けずに済んだが、接近戦でのノーモーションからの光線は厄介だ!バルミィは間合いを空けて構える!
-一文寺-
「・・・むぅ?」
葛城家の墓の前で霊体化をしていた昭兵衛が、バルキリーの出現を感じ取って実体化をする。バルキリーは50年前にアポロによって滅ぼされた。だから、残されたバルキリーの思念は、アポロの血統を恨み、末裔の麻由を滅ぼそうとしているのだ。
「バルキリーめ、性懲りもなく現れたか!
だが、麻由には手は出させん!麻由は、ワシが守る!」
昭兵衛は、駐車場に駐めておいたTS250ハスラーⅢ型のところ駆けて跨がり、河川敷に向けて発車をさせる。
-常土町(一文寺付近)-
「・・・え?なんで?」
一文寺に向かって駆けていた麻由が、昭兵衛の念が遠ざかっていくのを感知して立ち止まる。
「河川敷に・・・昼間の死神の気配がある。お爺ちゃんは戦いに行った?
それだけじゃない・・・紅葉の気配も感じる。
既に戦っている。・・・どうなっているの?」
考えるより先に、麻由は河川敷に向かって駆け出していた。Hスマホを取り上げられて丸腰の事など忘れて、息を切らせて必死で走る。




