33-1・奪われたHスマホ~墓前のジャンヌと昭兵衛
「これで終わりか?
これで諦めてくれるなら、これ以上、君たちを傷付けるつもりは無い。
ワシは、麻由さえ返してもらえれば、それで良いんだからな」
異獣サマナーアポロは死者なのに、何故、浄化の光が通用しない?冷静に戦況を分析していたネメシス(美穂)ですら、正体不明の強敵が相手では対抗策を思い付かない。闇雲に戦っても叩き伏せられるイメージしか浮かばない。
だけど「自分達が麻由に悪いことをさせている」ような言い分を受け入れるつもりはない。力押しでは打開できないと判断したネメシスが、変身を解除して美穂の姿に戻り、アポロの前に進み出る。
「あんた、麻由の爺さんなんだろ!?
それなのに、なんで、麻由が望むことを解らないんだよ!」
「フン!君こそ、麻由の何が解っているんだ!?
あの子は、昔から、付き合って良い友達と、
付き合っては成らない友達の区別が付かないんだ。
幼稚園の頃からそうだった。
妙な友達に囲まれて、家を友達にとっての都合の良い場所として占領され、
自分を実力以上に魅せることばかりに躍起になり、
空回りをして、やがて孤立をした。
今も、そうなのだろうに?」
「・・・チィィ」
「付き合っては成らない友達」のつもりは無いが、さすがは麻由の祖父と言うべきか、かなり当たっている。確かに自分達は、普通の友達ではなく、妙な友達なのかもしれない。麻由のマンションを溜まり場にしているし、麻由自身、チーム内で「役に立たなければならない」「皆と肩を並べたい」と焦っている。身の丈を無視してバルミィの学力に対抗して空回りをしているのも事実だ。
「だけど、それは、麻由が望んでっ!」
「その様な選択肢しか与えず、望んだように思わせたのだろう!?」
聞く耳を持っていない。踵を返して、美穂達のことなど「まるで興味が無い」と振り返る素振りも見せず、真っ直ぐに麻由の方に進んで、麻由の腕を掴む。
「お、お爺ちゃん」
「さぁ、麻由。此処はオマエの居るべきところではない。家に帰ろう」
「ちょ・・・ちょっと待ってっ」
「あんな乱暴な連中となんて付き合っちゃダメだ」
狼狽えるばかりの麻由だったが、仲間達を悪く言われた瞬間に、目をつり上げて、アポロが掴んだ手を振り切った。
「違います!紅葉達はイヤな子ではありません!
私に本当の居場所を与えてくれた大切な仲間達なんです!!」
美穂&バルミィ&ジャンヌ&真奈は、麻由の毅然とした態度に安堵の表情を浮かべる。自分達が何を言っても頑固ジジイ(アポロ)は聞いてくれないが、愛孫の決意には耳を傾けるだろうと。・・・だが。
「何も違わない!麻由、オマエは間違えている。
『本当の居場所』は、こんなところではない」
「私は、此処が良いの!私が望んで此処に居るの!だから!!」
「麻由・・・かわいそうに。オマエは、あの連中に欺されているんだな。
あの悪い仲間を徹底的に叩きのめさなければ目を覚ましてくれないのか?
ワシは、オマエを守る為なら、なんだってしてやるぞ!」
「おじい・・・ちゃんっ!」
アポロは愛孫の言葉にすら耳を貸さなかった。麻由の仲間達を「麻由を惑わす悪い奴等」と認定して、振り返って睨み付ける。
しかし、先程の戦闘では狼狽えていた麻由がアポロの正面に回り込んで、目に浮かべていた涙を拭って、決意の目で睨み付けHスマホを翳した!
「私の大切な友達です!
お爺ちゃんが戦うつもりなら、私がお爺ちゃんと戦います!」
麻由の全身が発光して、聖幻ファイターセラフに変身!
「尊・・・血は争えんと言うことか?麻由まで、オマエと同じ道を・・・。
そんな呪われた血・・・麻由の代で断たねば成らん!!解ってくれるな、尊!」
アポロは、愛孫が相手でも戦いを止める気は無い!
一方のセラフは、戦いの決意はしたものの、肉親相手に戦いを割り切れるわけがない。動揺したまま構えるが、アポロに懐に飛び込まれ、腹に強烈な蹴りを食らった!数歩後退しつつ小草薙(小太刀)を抜刀するが、踏み込んできたアポロの手刀で叩き落とされてしまう!そして、全身にパンチの連打を喰らう!
「・・・おじい・・・ちゃん」
セラフは無数のパンチを浴びながら、「優しいお爺ちゃんが怖かった時」のことを思い出していた。TS250ハスラーⅢに跨がってバイクごっこをした幼き日、お爺ちゃんは本気で怒った。「そんな大きなバイクに乗れるなんて凄いなあ」と微笑んでくれると思ったのに、少しも褒めてくれなかった。
「おぉぉぉぉっっっっ!!!!」
あの時と同じ、今のお爺ちゃんは、とても怖い。
アポロの渾身のビンタが、萎縮するセラフの頬に炸裂して弾き飛ばされる!元々、闘争心が鈍っていたのも相まって、変身が強制解除され、Hスマホが地面を転がって麻由から離れた。
「こんな物があるから・・・麻由は、あんな連中と付き合うんだな」
Hスマホを拾い上げて、手の平に力を込めて握り潰そうとするアポロ。しかし、アポロのパワーでも破壊することが出来ない。
「ちぃぃ!神山の技術か!?クソ野郎共めがっ!!」
麻由の頭の中が真っ白になる。Hスマホが無ければ変身が出来ない。皆と一緒に居られない。認めてもらえなくなる。真っ青な顔をして立ち上がり、アポロに駆け寄る。
「それは私にとって大切な物!返してっ!」
「オマエには必要の無い物だ」
アポロは相変わらず聞く耳持たず、むしろ麻由の反応を見て「Hスマホが元凶」と判断して意固地になり、麻由を突き飛ばして退ける。
「こんな物があるからいけないんだ。これはワシが預かっておく」
「お願い、お爺ちゃん!返してっ!」
「麻由、これ以上、ワシを困らせないでくれ。
オマエは、人を見る目が無さ過ぎる。
だけど、ワシには解る。麻由は優しい子だ。
麻由に争いは向かない。普通の女の子に戻るんだ」
「お爺ちゃんっっ!!」
踵を返し、Hスマホを持ったまま、その場から立ち去ろうとするアポロ。美穂&真奈&ジャンヌ&バルミィが「こんな横暴は有り得ない」とアポロに駆け寄って止めようとするが、アポロは「悪い友達」と認定した美穂達をまるで相手にしない。美穂達を振り払って、TS250ハスラーⅢに乗ろうとした、その時!
「マユをバカにするなぁぁっっっっっっ!!!!
マユゎ、大切な友達だぁぁぁっっっっっっ!!!!」
真上から怒鳴り声がしてゲンジ(紅葉)が急降下!渾身の拳が、アポロの顔面をブン殴った!奇襲を喰らって蹌踉けるアポロ!その顔面から白い煙のような物が上がって、空中に解けるようにして消えた!顔を押さえて片膝を付くアポロと、着地してアポロを睨み付けるゲンジ!
「ぐぅぅぅっっ!」
「マユのじいちゃんのクセして、なんでマユの気持ちがワカラナイんだぁっ!!」
「オマエ・・・化け物か!?我が奥義を食らったのに、まだ動けるのか!?
・・・うぐぐっ!」
「じいちゃんムカ付くから、痛いのなんてどうでも良いっ!!」
アポロはあきらかにダメージを受けている。今までどんな攻撃をされても、一撃必殺のウルティマバスターを喰らってもノーダメージだったが、ゲンジのパンチを受けただけで立っていられないほどのダメージを受けた。
「んぁぁぁっっっっっ!!!マユのスマホ返せぇぇっっ!!!」
「ワシに、近寄るなぁぁっっっっっっ!!!!」
アポロに飛び掛かるゲンジ!しかし、アポロは冷静に対応をして、足払いでゲンジの体勢を崩して腹に蹴りを叩き付けて退ける!そして、苦しそうな仕草でTS250ハスラーⅢに跨がって、急発進でその場から走り去っていった!
美穂とバルミィがゲンジに駆け寄って介抱し、真奈は麻由に肩を貸して立ち上がらせる。
「マスター!皆!詳細は後ほど説明します!
すまないが、先に帰っていて下さい!」
ジャンヌは何か思うところがあったらしく、ユニコーンバイクを召喚して飛び乗り、アポロの駆るTS250ハスラーⅢを追い掛けていった。
-数十分後・一文寺・墓地-
葛城家と書かれた墓の前に、半透明になった昭兵衛の姿があった。墓の前に腰を降ろし、葛城家の墓と、隣に立っている無名の小さな墓を悲しそうな視線で交互に眺める。
「尊・・・隼人・・・これで良いんだよな?
いや、もしダメだと言っても、ワシは考えを改めるつもりはないぞ。
麻由まで“オマエ達と同じ”にするわけにはいかんのだ」
何故、何年も前に死んだはずの自分が、この世に蘇ったのかは解らない。だけど、蘇ったからには、心残りだった愛孫を、正しい方向に導いてやらなければならない。
「三世代揃って、同じような道に足を踏み入れおって・・・このバカ共が!」
ゲンジの一撃は、麻由への想いが乗せてあった。昭兵衛の頑固を覆すほどの強い想いだった。だから、アポロを形作っている霊力を貫通して、昭兵衛の念にダメージを与えた。つい、麻由のことを任せたくなってしまった。
だがダメだ。麻由を普通の世界に戻してやらねばならない。だから、此処に来て気持ちを再確認して、ダメージを受けた思念を「麻由を守りたい」という強い想いで回復させる。
-一文寺・駐車場-
アポロを追ってきたジャンヌが、TS250ハスラーⅢを見付け、隣にユニコーンバイクを停車させる。墓地の方からアポロの気配を感じる。此処に居るようだ。バイクから降りて、墓地内に入っていく。
-一文寺・墓地内-
ジャンヌが見回すが人の姿は無い。だが、間違いなく気配を感じる。感じるがままに歩き、葛城家の墓の前に辿り着き、歩みを止めて見つめる。
「マユユの祖父・・・昭兵衛殿と言いましたか?居るのでしょう?
少し話がしたいのですが」
「姿を隠しても無駄か・・・。ワシの気配が解るようだな」
「はい、解ります。貴殿も、私が接近した気配に気付いたのですね」
「あぁ、不思議なことに、麻由と君の気配だけは、ワシにも解るようだ。
君には、ワシには解らない事が、解っているようだな。
先に言っておくが、麻由から取り上げた機械を返すつもりは無いぞ」
「今は、力尽くで奪い返すつもりはありません。
先程も言った通り、貴殿と話がしたいのです」
ジャンヌの後ろ、羽目(外枠)に、半透明の昭兵衛が腰を降ろしていた。昭兵衛を見つめるジャンヌ。昭兵衛の視線は名の無い墓石に向けられている。
「麻由と一緒に居た白人のお嬢ちゃんか?」
「その言い方・・・先程の河川敷での再会を指しているのしょうか?
それとも、それ以前・・・」
「ふっ!やはり、お嬢ちゃんには解っているんだな。
質問の答えは『それ以前』だ。麻由と君が、サマナーホルダを発見した時」
「やはり、そうでしたか。」
「君は何者なんだ?ワシのバイクに付いてくるなんて、なかなかの腕前だ。
白人さんは皆、バイクの腕が立つってワケでも無いんだろう?」
「名乗り遅れた無礼をお詫びします。私の名はジャンヌ・ダルク」
「ジャンヌ・ダルク?随分と立派な名を・・・」
「貴殿が思い浮かべた歴史上の人物と、同一と思っていただいて結構です」
「・・・ん?」
「昭兵衛殿と私は、同じ理由で実体化をしている特殊な存在なのです」
「・・・ほぉ?」
それまでは墓石に向けられていた昭兵衛の視線が、ジャンヌに向けられる。ジャンヌの話に興味を持ったようだ。察したジャンヌは、昭兵衛の許可を得て、墓に備え付けの荷物置き用の石に腰を降ろした。
「私は、数百年前に滅んだ身です。
今は、依り代を媒体に、マスターの許可の元、
マユユ・・・いえ、麻由殿に生命力に繋がれ、仮の命を得ているのです」
「麻由が君を?」
「すなわち、私とマスター、そして麻由殿の間には、
私に生命力を供給する為の肉眼では見えないパスが常に存在をしているのです」
「・・・ん?さっき、ワシと君は同じと言ったな。だったらワシにも?」
「はい、貴殿が『サマナーホルダを発見した時』と認めたので確信しました。
おそらく、私と麻由殿がサマナーホルダに触れた時、
パスがホルダの中で眠っていた念を通過したのです。
普段なら、その程度で念が実体化をすることなど有り得ないでしょう。
しかし、貴殿は麻由殿が会いたいと願っていた方です。
無意識に麻由殿と貴殿の間にパスが作られ、
麻由殿の貴殿に会いたいと願う心が、
生命力(理力)と共に貴殿の念に流入をした。
それが、今の貴殿と考えました」
「ワシが・・・麻由の想いで・・・」
「そうでなければ、貴殿が紅葉の神鳥を凌いだ説明が付きません。
神鳥は、念を焼き、この世在らざる者を浄化します。
同等の力で守られていなければ、無傷で済むはずがありません。
そして、紅葉と同等の力を持つ者など、麻由殿しか存在しません」
「確かに、神鳥とやらが飛んで来た時は焦った。
逃げ場無し、対応策無しと思った。
しかし、実際に触れてみても焼かれなかった。
・・・ワシは麻由に守られていたのか」
「麻由殿の昭兵衛殿を失いたくない思いが、貴殿に流入したのでしょうね。
つまり、貴殿は、麻由殿によって創られています。
その様な状態では、麻由殿は貴殿に勝てるはずが無い。
麻由殿がいくらダメージを与えても、
麻由殿本人が無意識に貴殿の体力を回復させてしまうのですからね」
「ならば、ワシの姿がアポロなのは?」
「おそらく、力を欲した貴殿が知る中で、最も強い存在が投影されたのでしょう。
バルキリーなる死神は貴殿を目の敵にしていた。
何か関係があるのかもしれません」
自身の体を眺める昭兵衛。確かに、急に現界した理由や、生前には無かった強さを持っている理由の説明がつく。バルキリーを倒す為に対極の存在の姿を借りたと考えれば、「なるほど」と納得も出来る。
「ところで、先程、君は『ワシ等は同じ存在』と言ったね。
もう少し詳しく教えてもらえないか」
ジャンヌは、天の巫女を討つ為に現界したこと、蜜柑のばあさんとの出会いと別れ、麻由の一騎打ち、ヴラドとの死闘、消えるはずだったジャンヌが麻由のおかげで肉体を存続できるようになったこと等、自分が現世に存在している経緯を説明した。
昭兵衛は、自分とジャンヌが「同じ存在」と説明されたことに納得をする。
「そうか・・・そんなことがあったんだな」
「私が出会う前なので詳しくは聞いていませんが・・・
おそらく、麻由殿を今のチームに寄り添わせたのは紅葉です」
「あぁ・・・小柄な鎧武者のことか?
それはワシも、殴られた時に感じたよ。
あの拳には、麻由への想いが詰まっていた。
ワシの麻由への想いを押し潰すほどの強い想いがな」
「だから、何の変哲も無い攻撃にも係わらず、
貴殿は大きなダメージを受けたのですね」
「あぁ、そうだ。
だから、揺れ動きそうになった決意を改める為に、此処(墓地)に来た」
ジャンヌから視線を外して、名の無い小さな墓石を見つめる昭兵衛。つられて、ジャンヌも墓石を眺める。
「昭兵衛殿、本条尊という男について教えていただけませんか?」
「君たちに話す気は無い。」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「そうですか。ならば質問を変えます。
昭兵衛殿の血縁と、本条尊の血縁は、何処で交わるのですか?
貴殿の奥方が、本条殿の姉や妹なのですか?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・いや、違う。
どうやら、話さずとも、おおよその見当は付いているようだな」
「はい。田木一八殿に写真を見せていただいた時に」
「あのバカ、余計な物を」
昭兵衛の遺品の中に、本条尊の姿を残したものは何も無かった。いつか気付かれることを恐れ、どうしても捨てられなかったサマナーホルダ以外は、昭兵衛が全て処分をした。だが、さすがに、知人の所有物まで処分する事は出来ない。
「固定観念のある麻由殿は気付かなかったようですが、
本条殿の端正な顔立ちは麻由殿とよく似ていました。
失礼ながら、祖父のはずの貴殿よりも」
「ふっ、失礼なことをズケズケと言ってくれるじゃないか。
だが、否定は出来んな」
「貴殿が時折見つめる無名の墓石・・・これが?」
「そうだ、麻由と血の繋がった祖父、本条尊の墓だ。
麻由には『知り合いの墓』としか言っていないがな」
再び無名の墓石を眺める昭兵衛。十数年前の記憶を思い出す。
お盆になると、昭兵衛は、小さな麻由と手を繋いで、麻由の父と母が眠るこの場所にお参りに来ていた。幼い麻由は、隣に在る無名の墓を見て首を傾げ「誰のお墓?」と尋ねる。昭兵衛は麻由の頭を撫でながら、「おじいちゃんのお友達のお墓だ。一緒にお参りをしてあげな」と説明をする。「うん」と頷いて、小さな手を合わせて、無名の墓にお参りをする麻由。昭兵衛には、これが、麻由と“麻由の本当の祖父”を合わせてやる、精一杯の手段だった。




