32-3・子泣爺~無人のバイク~謎の怪人
―陽快町―
「着ぃたっ。ここだょっ!」
「YOUKAIミュージアム?博物館じゃん」
「変な名前の医者だね」
敷地内には築年数の経った木造一軒家と小さな博物館が建っており、美穂&真奈は博物館の入り口に向かおうとする。
「違う違う!そっちぢゃなくて、こっちの、おうちの方」
紅葉が美穂&真奈の手を掴んで、木造一軒家側に引っ張る。
「・・・ありゃ?」
玄関ドアに『セールス・勧誘、お断り』の札の他に、『学会で東京に出張の為、1週間休診』って紙が貼られていた。
「留守かよ?タイミングが悪いな」
「出張なら仕方が無いね。
いつから1週間なんだろ?今日から1週間だっらた、当分会えないね」
紅葉達は、「1週間後に出直そう」と決めて、踵を返して敷地から出ていく。
YOUKAIミュージアムの看板の下に、場の雰囲気に相応しくない防犯カメラが設置されていて、レンズが帰って行く紅葉達を捉えていた。
そして、粉木邸の地下にある堅固なオフィスで、粉木勘平が息を潜めながら防犯カメラから送られてくる映像を眺めて安堵の溜息をつく。有紀からの情報が無かったら危なかった。おそらく、何も準備せずに紅葉達と会って、アデスについて追及されていただろう。
「まさか、今になって、奴のサマナーホルダが出てくるなんてな」
防犯カメラの映像からは、紅葉達の姿は完全に消えた。粉木は、もう一度溜息をついてから立ち上がり、隣の格納庫に繋がる頑丈な扉のロックを解除して開ける。
その部屋には、スズキ・TS250ハスラーⅢが鎮座していた。
粉木は葛城昭兵衛を知っているが、50年前の“最後の戦い”以降は、互いに意図的に避けていた。頻繁に通った葛城モータースにも顔を出さなくなった。
ただし、たった一度だけ、10年前に、彼は粉木邸を訪れたことがあった。
『孫娘の周りから尊の存在を示す物を遠ざけたい。
あの子には、尊や隼人の背を追って欲しくない。
だが、あの子の本能は、これが自分に関係のある物と感じてしまったようだ。
すまないが、預かってもらえないか?』
昭兵衛が持ち込んだのは、本条尊の愛車・スズキ・TS250ハスラーⅢだった。粉木は、理由は問わずに、そのバイクを預かることにした。以降、尊のバイクは、ずっとここで、盟友だった粉木が保管している。
「おやっさん・・・ミスったのう。
アイツが、命を燃やした証・・・捨てられんかったんやな」
スズキ・TS250ハスラーⅢに触れて目を閉じる粉木。50年前の辛い出来事を回想する。
青い騎士のような異獣サマナーアデス・マキュリーと、朱色のバッタのような異獣サマナーアポロ・ヴァルカン。神のカードを発動させた2人の戦士が、悪の首領に立ち向かっていく。だが、首領は強くて、アデスとアポロは弾き飛ばされて地面を転がる。追い撃ちの衝撃波を喰らったアデス・マキュリーは、通常体にパワーダウン。マーキュリーのカードが地面に落ちる。立ち上がり、マーキュリーを拾い上げるアポロ・ヴァルカン。既にパワーアップ状態にも係わらず、マーキュリーのカードを翳す。アデスは「止めろ」と叫ぶが、アポロは聞く耳を持たない。「あとは頼んだ」と言い残して、マーキュリーとヴァルカンを同時に発動させて超パワーアップを遂げて、悪の首領に突進をしていく。
「おやっさんの所為で、いやな思い出・・・思い出してしもうたやないけ」
踵を返し、格納庫から立ち去ろうとする粉木。全身がピクンと反応をする。
「この気配・・・妖怪が出おったか?」
-田木モータース-
風も無いのに麻由の髪が揺れて、妖気を感知!近い!場所は河川敷!子泣き爺だ!
「行かなくては!」
「急ぎましょう!」
「ん?どうしたんだい?」
「ごめんなさい、田木さん!
急用が出来たので、少し出掛けます。直ぐ戻ってきますね!」
「あぁ、気を付けてな」
麻由は、紅葉&美穂&真奈&バルミィにLINEで「妖怪出現」のメッセージを入れて、ジャンヌと共に田木邸から飛び出す。呆気に取られて麻由達を眺める田木。しばらくの後「今のうちに作業を片付けよう」と立ち上がって作業場に降りる。
誰も居なくなった居間で、麻由の鞄が開き、中にあった黒焦げのサマナーホルダがゆっくりと浮上する。
〈・・・・麻由。まさか、オマエまで〉
―山頭野川の西の河川敷―
ユニコーンバイクが到着して、ドライバーのジャンヌと、タンデムの麻由が、バイクから降りて堤防斜面を駆ける。
「子泣き爺は一度背負ってしまったら最後!
石のように重たくなって、背負っている者を押し潰す妖怪です!
気を付けてください!」
「承知した!
戦闘中に敵を背負う状況があるとは思えないが気を付けます!」
河川敷運動公園の片隅でジジイがメソメソと泣いている!ジャンヌは一定の距離を保って構え、懐中時計のペンダントに魔力を込めてマスクドジャンヌに変身!
一方、弱ってる老人に心を奪われた麻由は、生身の状態でジジイに近付く。
「あ、あの・・・どうされたのですか?」
「迷子になってしまったんじゃ。
お嬢さん、すまないが、オンブして、家まで送り届けてくれんかね?」
「解りました。ご自宅はどちらですか?」
「あ・・・・・・マユユ?」
麻由はジジイ背中を向けて屈み、「乗ってください」と合図をする。ジジイは、何度もお礼を言いながら、麻由の背に覆い被さった。
「ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!」
「きゃぁぁ~~~~~~~~~~~~っっっ!!!」
途端にジジイが本性を現した!子泣き爺の変化して、麻由に重みを与える!麻由は子泣き爺の体重を支えきれなくなり、背負ったまま俯せに倒された!
コントのお手本のような展開だ!
「しまった!妖怪の罠だったわ!」
「こんな単純な罠に引っ掛かる方が悪いのでは?
・・・と言うか、罠と言えるかすら微妙です。
何故、数分前に注意喚起をしていたマユユが、真っ先に引っ掛かるのだ!?」
「ゆ、悠長な事を言ってないで助けてください!
子泣き爺が重すぎて動けません!」
ジャンヌは、麻由に気遣いつつ、ジジイを叩いたり蹴りを入れるが、麻由にしがみついたまま離れない。それどころか、麻由の理力を吸収して重くなっていく。ジャンヌがフィエルポワソードで斬りつけたら、瞬時に石化して跳ね返された。このままでは、麻由の理力が吸い尽されてしまう。
「ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!ほんぎゃあ~っ!」
「うわぁぁっっっ!!ドンドン重くなるっ!助けてぇっっ!!」
「マユユ、変身くらいは出来ないのですか!?」
「・・・へ!?」
「貴殿はテンパりすぎだ。
手はフリーなのですから、せめて変身くらいはして下さい」
「そ、そうですね」
セラフ変身完了!さっきよりマシになったけど、子泣き爺が重くて動けないのは変わらない。
「少しくらいは体が動くようなら、
適用な頑丈な物にしがみついて、身体を横向きにして下さい」
「は、はい!」
セラフは、重さに耐えながら這いずって、運動公園を覆っているネットの鉄柱にしがみついた。ジャンヌは、その間に、堤防に停めてきたユニコーンバイクを押してきて、馬形態に変化させる。
「奴を蹴り飛ばせっ!!」
命じられたユニコーンが、セラフに尻を向けて後ろ脚で子泣き爺を蹴っ飛ばした!クリティカルヒットを喰らった子泣き爺は悲鳴を上げながら吹っ飛ばされる!
それなり衝撃が伝わり、セラフも一緒に吹っ飛ばされそうになったが辛うじて堪えた。子泣き爺を見たら這って逃げようとしている。
「ご老人のフリをして私を欺くなんて許せません!
・・・シャイニングキックっ!!!!」
「マユユ。引っ掛かる方が悪い」
セラフの理力を纏った飛び蹴りが子泣き爺に炸裂。悲鳴を上げながら浄化・封印された。
変身を解除して、麻由が「討伐完了」とLINEでメッセージをする為にHスマホを弄り始めたところに、バルミィが到着。「既に終わった」と聞いて安堵の表情を浮かべた。
-YOUKAIミュージアム-
事務室に待機をしていた粉木が、子泣き爺の消滅を感知する。直後に、スマホがコール音を鳴らしたので通話に出でたら、相手は紅葉をストーキング中の有紀だった。
〈娘が到着する前に終わってしまったようね〉
「天の巫女も、だいぶ強なってるようやな。
まぁ、ワシを嗅ぎ廻っとるんは変わらんだろうから、
今後も、張り込みと情報は頼むで」
〈了解。・・・調子に乗ってアデスの姿で出しゃばるから、こんな事に成るのよ。
少しは反省してよね〉
「はいはい、えらいスンマセンな」
有紀の小言が始まりそうなので、適当に切り上げて通話を切ろうとする粉木。・・・その時!
「!!!!!!!!!」
子泣き爺とは別の念の発生を感知!場所は、子泣き爺が発生したのと同じ場所!だが、不思議なことに“念”は盛んなのだが、妖気は感じられない。
「何や、この、薄気味の悪い念は?」
〈西の河川敷ね。確認に行ってみるわ〉
「あぁ、頼むで!」
直後、地下階から甲高い排気音が轟く!「何事か?」と地下に降りようとして、何気なく窓から外を見たら、地下から地上の外部土蔵に繋がるハッチが勝手に開き、無人のスズキ・TS250ハスラーⅢが飛び出して走り去ってしまう。そのバイクは、見た目は確かに無人なのだが、粉木には、誰が乗っているのかハッキリと感じられた。その人物は、スズキ・TS250ハスラーⅢに念を残したまま逝ってしまった友人。
「おやっさん・・・どういうつもりや?
いきなり発生した謎の念に反応をしたんか?」
悠長に居留守を決め込んだり、家に待機して有紀の報告を待てる状況ではなさそうだ。粉木は自家用車に乗って、西の河川敷を目指して出発をする。
-公園通り-
美穂&真奈と共に現地に向かっていた紅葉も、謎の念を感知する。
「・・・んぁっ?変な念が発生してるっ?」
ハッキリと邪念を感じるが、妖怪の種類が解らない。嫌な予感を感じた紅葉は、状況を解っていない美穂&真奈を煽って駆ける。直後、背後の道路から、けたたましいエンジン音が近付いてきた!
「んぇぇっ!?」
ドライバーが居ないバイクが爆走をして、道行く車をゴボウ抜きにしながら紅葉達の目の前を通過!赤信号で、猛々しい排気音を轟かせながら大ジャンプをして、交差点を飛び越えて走り去る!
「なんだありゃ?」
「今のバイク、人・・・乗ってた?・・・てか、飛んだよね??」
「乗ってなかったケド乗ってった・・・。
人ぢゃなくて、バイクに取り憑いたどっかの爺ちゃんっ!」
無人のバイクが街中を突っ走っていたら、文架警察署に連絡が行くのは時間の問題だろう。美穂は、雛子に連絡を入れて、「まだ把握は出来てないが事件発生」と伝える。その間に、紅葉は、車長が異常に長い3人乗りのモトコンポを召喚していた。
「ミホっ!マナっ!乗って!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
たまに出現させる2人乗りのモトコンポでも、違和感しか無いのに、3人乗りは格好悪すぎる。そんな車体で曲がれるのか?紅葉のイメージで召喚できるのは便利だけど、それなら、3人乗っても違和感の無い物を具現化して欲しい。
「さ、さすがに、バイクに3人乗りは目立ちすぎるだろう。
あ、あたしは、インバージョンワールド経由で行くよ」
美穂は身近な映る物にサマナーホルダを翳して、乳白色に濁った空間に飛び込んだ。
「マナっ、乗って!行くよっ!」
真奈は、こんな格好悪いバイクに2ケツはしたくない。
「う・・・うん」
だけど、他に移動手段が無いのでどうすることも出来ず、仕方なく、異常に細長いモトコンポ(?)のタンデム(?)に跨がった。
-インバージョンワールド-
ネメシス(美穂)がサマナーホルダからヴァルカンのカードを抜き取って翳しながらキグナスターの名を呼ぶと、白鳥型モンスターが飛来してネメシスの目の前に降りてきて、キグナスバイクに変形した。ヴァルカン獲得をキッカケにして、召喚モンスターのバイクに乗れるようになったのだ。
「ふふんっ!便利便利!」
リアルワールドでも召喚して搭乗は可能なのだが、ただでさえ、無人バイクが爆走して大騒ぎになのに、ワザワザ、コスプレ(変身)状態で白鳥を模ったバイクを披露して、目立ちまくる必要は無いだろう。ネメシスはインバージョンワールド内で現地に向かう。
―西の河川敷―
子泣き爺を討伐して安堵したのも束の間、麻由も異常を察知していた。説明を聞いたバルミィとジャンヌも警戒して構える。山頭野川の川面の一部だけが異常に輝いている。日の光が反射した光とは違う。むしろ、美穂がサマナーに変身する際の乳白色の輝きに近い。そして、邪念は、その輝く川面から発せられている。
「山頭野川が依り代?・・・いや、さすがにそれは、有り得ないわね」
川の中に何かが沈んでいて、そこから邪念が発せられているのだろうか?麻由は恐る恐る近付いてみる。
〈解るぞ・・・アポロの血族・・・。奴め、子孫を残していたのか〉
「アポロ?一体何のこと?」
聞き慣れない単語を聞いた麻由は「アポロの血を引く者が誰なのか?」とバルミィ&ジャンヌの方を振り返るが、2人とも何の事か解らない。
戸惑ってる間に邪念は増幅をする!やがて黒い濁りを発して人の形を作り始めた!麻由は戸惑って足を竦め、バルミィとジャンヌが率先して動き出す!
「アーマードバルカンばるっ!」 「マスクドチェンジ!」
HAバルミィ&マスクドジャンヌ登場!バルミィが、まだ完成していない“黒い濁り”に対してジェダイと弾(光弾)を放った!しかし、まだ実体化をしていない為に邪念を通り抜けて川面に着弾!続けて、ジャンヌが突進してフィエルボワソードを振るうが、黒い濁りを散らすだけで手応えは全く無い!
直後、川の別の場所が乳白色に濁り、弾き飛ばされたネメシス(美穂)が飛び出してきて河川敷の地面を転がる!
「ばるっ!?」 「ミポリン!?」 「美穂さん!?一体何が!?」
「インバージョンワールドにヤベーもんがいるぞっ!
攻撃したら、倍返しを喰らった!
麻由も、サッサと備えろ!こっちに来ようとしてやがるぞ!!」
麻由がようやくセラフに変身!ネメシス&バルミィ&ジャンヌと並んで黒い濁りに対して構える!川面の反射から強大な闇が噴き出してきた!そして、既に発生して人型になりつつあった黒い濁りに吸収されていく!
「アレは、アナザービーストなのですか!?」
「知らん!あんなの初めて見た!」
出現したのは髑髏のような顔、黒いローブに包まれた体、手に握られたデスサイズ!まるっきり、死神のような姿だ!
〈見付けたぞ・・・憎々しいアポロの血族・・・。オマエだけは絶やす。
・・・オォォォォッ!!〉
セラフを睨み付け、構えていたデスサイズを振り上げて、足音無く突進をしてきた!
「狙いは麻由か!?」
「アポロって一体!?」
素早く後退をして、間合いを空けるセラフ!ネメシスとジャンヌが死神に突進をして、バルミィが飛び上がって砲門を死神に向ける!
〈無関係なサマナー、ガーディアン、バルカン人・・・オマエ等は後だ!
先ずは、アポロの血族を!〉
死神が念じると、死神の体から闇が3つほど分離して、中からスケルトンが出現!ネメシス&ジャンヌ&バルミィに襲いかかる!
「なに?分身か!?」
「いや、配下を生み出したばるっ!」
スケルトンは動きがスローだったので、ネメシス達は、宛がわれた敵を剣で叩いて粉砕する!しかし、スケルトンは砕かれた程度では倒されない!砕かれた場所が再生をして、再びネメシス達に襲いかかる!




