31-3・雛子の説得~エリスの罠~美穂の賭け
-文架大橋の上-
怜香は、橋の手摺りから身を乗り出して、夢中になってデジカメの撮影ボタンを押し続けた。黄色鎧武者が川に薙刀を突き刺して“何か”をしていて、ツインテールの小柄な少女が桃色鎧武者に変化して川の中に飛び込んで消えた。小柄な少女は、以前、接触をした源川紅葉って娘だ。
とんでもないスクープだ。「美少女高校生の正体は怪物」とタイトルを付けて配信をすれば、間違いなく視聴者が殺到する。
「・・・だけど」
一部始終を撮影したデジカメと、ポケットに忍ばせて置いたレコーダーを眺めて俯く。
彼女達には、正体を隠す為に怜香を見捨てる選択肢があったはずだ。怜香が殺されたあとならば、彼女達が存分に暴れても、誰も正体に気付かないだろう。警戒心の強い桐藤美穂ならば、「怜香を助けるリスク」を承知していたはずだ。その上で、彼女達は怜香の救出を選択した。ましてや、怜香は巻き込まれたのではなく、美穂達の正体を知る為に自ら首を突っ込んだ。彼女達が怜香を助ける理由なんて何も無い。
スクープは、喉から手が出るほど欲しい。たった今、手に入れた。だが、この事実を公に晒すのは、恩を仇で返す行為になってしまう。
怜香が手摺りに凭れ掛かって悩んでいたら、パトカーが停車をして、下車をした夏沢雛子が血相を変えて寄ってきた。
「無事だったのね?良かった!」
「・・・え?」
「私の勘が合っていれば、今、貴女は、とても危険な状態なの!」
怜香は察した。雛子は、つい数分前まで、怜香が死のカウントダウンをされていた事を言っているのだ。
「それなら、彼女達に救われました」
「彼女達?」
怜香に促されて河川敷を見下ろす雛子。川岸でセラフが川面に薙刀を突き刺しているのが見える。怜香は、その光景を当然のように受け入れる雛子に疑問を感じて尋ねた。
「刑事さんは、彼女達のことを知っているの?」
雛子は、しばらく躊躇った後、「怜香が察してしまった」と判断して、怜香の眼を見て口を開いた。
「えぇ、知っているわ。
情け無い話だけど、今の文架市の平和は彼女達に守られてる。
警察は無力と言われても、反論のしようが無いわね」
「・・・・・・」
「彼女達は、自分達の利益にならず、自分達が傷付くだけなのに、
人々の為に命を張っている。
私は止めたいけど、今の無力な私では文架市は守り切れない。
悔しいし、間違ってるのは解る。だけど、彼女達に頼るしか無いわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「貴女はどう思っているの?真実と興味を優先させて、彼女達を晒し者にする?
あの子達を、英雄視する人ばかりなら良いけど、
現実的には、珍獣扱いをする人ばかりでしょうね。
それを承知で記事を出すつもりなら、良いアドバイスをあげるわ」
「・・・え?」
「彼女達より先に、彼女達の秘密を隠蔽していた悪徳刑事として、
私を晒して、免職に追い込むか、絞首台送りにでもしなさい。
そうしなければ、私は、違法捜査と冤罪で、彼女達を晒した貴女を潰すわよ。
私は、それが卑怯な手段でも、私に出来る範囲で、あの子達を守りたい。
それが、汚い手を使える大人の私が、
純粋なあの子達にしてあげられる精一杯のこと」
怜香は、スクープが詰まったデジカメとレコーダーを握りしめて見つめる。既に迷っていた怜香の心は、雛子の説得で大きく揺らぐ。
-インバージョンワールド・文架大橋-
「んぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!
ウルティマバスタァァァッッッッッッーーーーー!!!!」
冥鳥の強烈な一撃が真上から落ちてきて、オーク③&④を粉微塵に消滅させた!冥鳥が消えてゲンジ(紅葉)が出現!巴薙刀を振り回して、手近なオークに突っ掛かっていく!
照明灯の上で高みの見物をしていたエリスが指を鳴らした。その合図で、オーク⑦&⑧&⑨&⑩&⑪&⑫等々、今まで隠れて待機をしていたオーク達が次々と出現して、チーム愉怪に襲いかかる!
「オッグッグ」 「オッグッグ」 「オッグッグ」 「オッグッグ」
「なにっ!まだいたのか!?」
「イヤらしい感じの作戦が、美穂ソックリばるっ!」
エリス(鏡像の美穂)にしてやられた。前座戦でこちらを消耗させてから戦いに参加すると予想していたが、ヤツは、自分の手を汚さずに、物量戦で決着を付けるつもりなのか?
「んぁぁぁっっ!よーかいキックッッ!!」
「おぉぉぉぉっっ!ノイエ・ペティ・ディアブル(黒炎の小悪魔達)!!」
「ばるばるばるぅぅぅっっ!!」
ゲンジとラピュセル(ジャンヌ+真奈)が奥義を発動させ、HAバルミィが上空から光弾を乱れ打つ。バルミィは時折、照明灯の上で見物をしているエリスにも光弾を撃つが、エリスは楽々と飛び上がって回避する。それどころか、黒鳥モンスター・ジャークスワンを呼び寄せて、バルミィを牽制をする。
ゲンジ&バルミィ&ラピュセルは、次第に数で押されて余裕が無くなる。
「・・・くっ!この展開はマズい。
時間と体力だけが消耗する。偽物、ムカ付く!」
エリスを睨み付けるネメシス(美穂)。「今の位置が私とオマエの差」と嘲笑い、地上のネメシスを、照明灯の上から見下ろすエリス。どうにか地上に引き摺り下ろしたいが、その為には、もう少し雑魚モンスターを減らすしか無いのだろう。ネメシスは腹を括り、周りの敵に集中をする。
「ふふふっ・・・頃合いだな」
ゲンジ、バルミィ、ラピュセル、そしてネメシスが懸命に戦う姿を見て、エリスはマスクの下で、勝利を確信した笑みを浮かべた。
-リアルワールド・歳埜河原運動場-
「うぅぅ・・・私も入れないのかしら?」
残されたセラフ(麻由)が、リアルワールドとインバージョンワールドの接続を続けている。あっちの世界では仲間達が苦戦をしている。援軍に駆け付けたいが、その手段は無い。
インバージョンワールドの出入口を作れる能力を発見した時は喜んだが、今は、仲間達の善戦を願う事しかできないことを歯痒く感じる。
〈ふふふっ・・・入りたいのか?あたしが手伝ってあげれば入れるぞ。
出ることは出来ないけどさ〉
不快な気配と聞き慣れた声。見慣れた姿が川辺に腰を降ろしていた。ただし、形は見慣れているが、色は初見。美穂から話で聞いていた黒いネメシス=異獣サマナーエリス(鏡像の美穂)だ。セラフが動揺をした途端に、集中力が途切れてインバージョンワールドの出入口が曖昧に揺らいだ。セラフは慌てて集中力を維持して、インバージョンワールドの出入口を復旧する。エリスは、その様子を見て小さく笑う。
「へぇ・・・術者の精神状態で途切れそうにうなるんだな」
「なんで、アナタがここに!?」
「ふふふっ・・・暇だったから遊びに来たんだ」
「あ、遊びに!?」
「・・・な~んて言うとでも思った?
麻由の知るあたし(本物)が、戦闘中にそんな無駄な行動をすると思う?
そんなわけ無いじゃん。もちろん、あたし(偽物)も同じ!全ては作戦通り!」
「美穂さんや紅葉達はっ!!?」
「インバージョンワールドで、あたしが居なくなった事にも気付かずに、
必死こいて雑魚と戦ってるよ。
あたしは、本物や紅葉と戦うつもりなんて無い。
オマエ以外の全員を、インバージョンワールドに呼び寄せて閉じ込めるのが、
あたしの作戦なんだ。」
「なんですって?」
「あたしの狙いは、ハナっから麻由1人!
オマエの周りから誰もいなくなるのを、ずっと待っていたんだ!
麻由がダメージを受けて技が停止すれば、
紅葉達はインバージョンワールドから出られなくなる。
そして、技を発動中の麻由は完全に無防備!いくらでも、切り刻める!」
エリスは立ち上がって素早くセラフに近付き、レイピアを軽く振るって三太刀ほど叩き込んだ。防御も反撃も出来ず、セラフはマスクの下で苦痛の表情を浮かべる。
「わ、私は・・・負けない!」
「ふぅ~ん・・・あっそう!
麻由ってバカなの?自分が終わってる事に気付いてないんだ?
なら、もっとハッキリと、終わってる事を教えてやるよ!」
エリスは数歩後退してハルバードを構え、サマナーホルダから必殺技のカードを抜き取って、セラフに見せつけるようにして翳す。水面からジャークスワンが出現して上空を飛び、セラフの正面で待機をする。あとは、エリスが奥義を発動するだけで、ノーザンクロススラッシュが発動されて、身動きが出来ないセラフは餌食になる。
「さぁ、詰んだけど、どうする?逃げたきゃ逃げても良いんだよ!」
「・・・くっ!」
マスクの下で青ざめるセラフ。動揺でインバージョンワールドの出入口が曖昧に揺らぎ、慌てて意識を集中させる。インバージョンワールドのリンクを解除しなければ迎撃は不可能。だがその選択は、ゲンジ達をインバージョンワールドに閉じ込めてしまう。仲間を見捨てて自分だけ助かるか、意地を張って全滅をするかの2択。どちらを選択しても、リアルワールドとインバージョンワールドの接続は維持できなくなり、ゲンジ&バルミィは助からない。ジャンヌ単体ならともかく、真奈と融合したラピュセルも助からない。打つ手が無い状況で、何を選択するべきか?
そこまで考えたセラフは、考える必要なんて無いと気付く。そして、気持ちを落ち着けて、インバージョンワールドへの干渉に意識を集中させた。
「逃げるつもりはありません!」
エリスはセラフの対応に軽く苛つく。「逃げない」を選択した理由が理解出来ない。
「はぁ?・・・逃げないんだ?」
絶対にセラフは「逃げる」と思っていた。逃げても、また、リアルワールドとインバージョンワールドを繋ぎ直せば、ゲンジ達は生還できる。
ただし、易々と再リンク作業はさせない。セラフを少々痛めつけて行動を妨害して、ゲンジ達がインバージョンワールドに閉じ込められた状態にして絶望感を煽り、本物の美穂に「融合を受け入れなければ、全員死ぬ」と駆け引きを持ち掛けるつもりだった。本物は、最初は拒むだろうが、インバージョンワールドに閉じ込められた仲間達がタイムリミット寸前で、有効策を思い付けず、最終的には受け入れるしか無い。
セラフ以外をインバージョンワールドに引き付けて、手薄なセラフを威嚇するところまでは予定通り。あとは、セラフが術を解けば全ての作戦がクリアになるのに、何故か意地を張って応じない。このおバカさんは、下らない仲間意識で全滅を選んだのか?これでは仲間達を駆け引き材料に使えない。
「だったら、もういいや!
四天王にしてあげるつもりだったけど、使えないバカは要らないから死ね!」
「四天王なんて地位、私には必要ありません!」
「はいはい、負け惜しみね。バカと会話するつもり無いから永遠に黙れ!」
人質を盾にした駆け引きは出来なくなるが、実力行使で美穂と融合すれば良い。
「仲間を巻き添えにして死ねぇぇっっっ!!役立たずっ!!!」
エリスは苛立ちながら身動きできないセラフに対してハルバードを構え、必殺技のカードを川面に向けて翳す!黒鳥モンスター・ジャークスワンがセラフに襲いかかる!
「させね~よ!ニセモノ!!」
白鳥モンスター・キグナスターが飛来して、ジャークスワンに体当たりをして妨害!
「なにぃ!?」
同時に、ネメシス(美穂)が急降下してきて、エリス目掛けてネメシスハルバードを振り下ろした!エリスは舌打ちをしてセラフへの攻撃を諦め、エリスハルバードを振り上げる!
ネメシスハルバードとエリスハルバードの激突!エリスは数歩後退し、ネメシスは軽く宙に押し上げられてからマントを翻して着地をした!
「何でオマエがここ(リアルワールド)に?」
ハルバードを構えて、睨み合う白鳥の騎士と黒鳥の騎士!
「なんでって・・・オマエとあたしは同じ思考だから・・・だろな」
「バカなっ!思考が同じでも、あたしとオマエでは状況が違い過ぎたはずだ!
あの状況で、あの数のオークどもを片付けて、
リアルワールドに戻ってくる事なんて不可能・・・」
「あぁ・・・アナザービースト共なら、全部、紅葉達に押し付けてきた。
もう温存しないで良いから、本気で戦えって指示してきたし、
3人居れば何とかなるんじゃね?」
「・・・くっ!」
「オマエはあたしだ!オマエの狙いが麻由って事くらい、ハナっから解ってた!
あたしだって、同じ状況なら、真っ先に麻由を狙う!
だから、紅葉をサッサとインバージョンワールドに呼んで、
オマエが次の行動に移りやすい状況にして、
しかも、わざわざ戦力温存して、苦戦を演出してやって、
オマエがインバージョンワールドから居なくなるのを待ったんだよ!
これでやっと、オマエは高みの見物から降りてきた!オマエとサシで戦える!」
同じ思考同士で、どちらが相手の思考の上を取るかの勝負だった。
美穂は、鏡像美穂が「人質を取って仲間達をインバージョンワールドに誘い込む」と予想をしていた。鏡像美穂は、美穂が「仲間を使って直ぐに人質を救出する」と予想していた。鏡像美穂の目的は、美穂達をインバージョンワールドに集めることなので、人質が生死はどうでも良かった。
鏡像美穂は、「麻由がインバージョンワールドの入口を作る」と予想して狙いを麻由に定め、美穂は「麻由がインバージョンワールドの入口を作る作戦が鏡像美穂に読まれている」と予想していた。
だから美穂は、紅葉がインバージョンワールドに入って麻由が単体になったあと、鏡像美穂が居なくなるタイミングを警戒した。鏡像美穂は、美穂が警戒すると予想してモンスターを最初から全投入はせず、小出しにして戦闘時間を長引かせ美穂が焦るように仕向けた。
作戦が全部バレていたとしても、オーク達で足止めをしているうちに、麻由がインバージョンワールドのリンクを解くと予想していた。普通に考えれば、一時的にリンクを解いて、危機を回避して、また直ぐにリンクを作る。だが、一時的とは言え、自己優先で見捨てられて窮地に陥った紅葉達は麻由を信頼できなくなり、一枚岩が崩れて四天王への調略は容易になったはず・・・鏡像の美穂は、そう考えていた。
だから、まさか、麻由が「逃げない=全滅」を選択するとは思っていなかった。紅葉達を部下にしたい鏡像美穂にとって、愉怪な仲間達の全滅は駆け引き材料で、本気で全滅を狙ってたワケではなかった。この予想外で生じた僅かなタイムロスに間に、美穂はインバージョンワールドから戻ってきた。
「オマエはあたしで、あたしはオマエ。
同じ思考同士で化かし合いをしてもキリが無いからさ。
最後の選択は、あたし自身じゃなくて、麻由に任せる事にしたんだよ!
オマエはあたしだけど、麻由じゃない。
だから、あたしの思考は読めても、麻由の思考は読めなかった!」
「最後の選択を・・・よりによって、テンパりやすい麻由に・・・だと?」
「事前に美穂さんからのアドバイスが無ければ、
私は、鏡像の美穂さんの策に填まっていたでしょうね」
「・・・事前だと?」
「オマエはあたし、知識と思考は共有される!
多分、オマエが離れている間にあたしに起きた事は、
オマエがあたしの鏡像に戻った時点で、コピーされてオマエの経験になる。
だけど、あたしから離れている間に起きた事で、オマエがフリーのうちは、
オマエには、あたしの経験は共有できない!」
数分前、美穂は麻由に、ビンタをするように依頼をした。要求通りに美穂の頬を叩く麻由と、つい反撃をした美穂。謝罪をしながら麻由を介抱をする美穂は、小さい声でささやいた。「多分、今回の人員配置上、麻由が貧乏クジを引く事になる。だけど、どんなヤバい局面でも、あたしを信じろ」と。麻由は腹を押さえて蹲りながら頷く。
「だから私は『逃げる』を選びませんでした!
美穂さんが来ると信じていましたから!」
「あたしも麻由を信じていた。
通常じゃ有り得ない選択をしてニセモノを戸惑わせて、
あたしが戻ってくるまでの時間を稼いでくれることをな。
同じ思考でも、あたしが持っていて、オマエに欠けているもの。
・・・それは仲間だ!オマエは、私以外はコピーすることが出来ない!!」
「チィィ!」
ハルバードを構えるエリス(鏡像の美穂)とネメシス(美穂)!策による欺し合いはこれで終わり!ここから先は、1対1の純粋な力と力の勝負!
「あたしが負けたら、融合されるんだろ!?
でも、あたしが勝っても副賞は何も無し!
これって、不公平じゃないか!?」
「何が言いたい!?」
「あたしにも副賞をよこせ!
あたしが勝ったら、何故、オマエが存在しているのか?
インバージョンワールドを出入りできれば、誰にでも有り得ることなのか?
神のカードを何処で手に入れたのか?・・・それを話せ!」
「・・・くっ!」
「何だ、話したくないのか!?負けが怖くて、了解できないのか!?」
「ふざけるなっ!」
ハルバードをぶつけ合うネメシスとエリス!




