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31-1・偽美穂と怜香~自分への制裁

 怜香は、美穂の反応から一定の手応えを感じていた。だが、あれだけ警戒をされてしまうと、情報を得るのは難しいだろう。「美穂達が関係者と知っている」と言って、もう一度、警察関係者に取材をしてみるか?一定の情報を持っているフリをすれば、誰かが口を滑らせてくれるかもしれない。車に乗り、住宅街から広い道路に出て文架警察署方面に向かう。


「・・・あら?」


 文架大橋の東詰で、「鏡の国」と書かれた画用紙を掲げて、道路に身を乗り出してヒッチハイクをしている者がいたが、今から警察署に行くので要求には答えられそうにない。「鏡の国」とは、テーマパークだろうか?若干気になり、通過をしながらヒッチハイカーを見る。


「えっ!?」


 怜香は驚き、ブレーキを踏み込んで車を急停車させた。つい先程、接触をしたばかりの人物だ。停車を確認した美穂が駆け寄ってくる。


「乗せてもらっていいですか?」

「桐藤さん?急にどうしたの?」

「ちょっとイライラしちゃってて、

 記者さんに冷たい対応して、申し訳なかったって思って待ってたんです」

「そ・・・そうなの?」


 怜香は美穂の態度の急変ぶりに一定の警戒をして、周囲を見回す。相乗りをして、ひとけの無い所に誘い出して、仲間達の手を借りて袋叩きにするつもりだろうか?しかし、美穂以外の姿は何処にも確認できない。


「何の用かしら?」

「用ってほどでもないんですが、

 あたし、明後日から定期テストで忙しいんですよ。

 記者さんにウロチョロされて勉強に集中できないのがイヤで、

 さっきは話を聞こうとしませんでした。

 でも、少し冷静になって考えたら、知ってる事を全部話して、

 あたしの周りをウロチョロしないでもらった方がイイのかな?と思いましてね」

「話す代わりに干渉しないでほしい。・・・取引って事かしら?」

「まぁ、そういう事ですね」


 話の筋は通っている。確かに、知りたい情報を得られれば美穂を追い回す必要は無くなり、あとは得た情報を警察関係者にぶつけてボロを出させれば良い。美穂の情報次第では、重要な事を秘匿をする警察を糾弾する記事だって書ける。警戒心の強い少女なので怜香が知りたい事の全て(例えば、白い騎士)を教えてくれるとは思えないが、「ウロチョロして欲しくない」と言うからには、ある程度は納得させて取材の矛先を自分達から外すくらいの情報は期待できそうだ。


「貴女、1人?」

「あたしだけです」

「そう・・・乗って」

「はい、ど~も!」


 助手席に美穂を乗せて車を走らせる。怜香にしてみれば“棚からぼたもち”の気分だ。今度は怒らせないように、出来るだけ多くの情報を引き出したい。車を走らせながら話をするか、何処に駐車をして話すか、あるいは喫茶店にでも入るか?思案をしながら運転をする。


「お友達は?」

「きっと今頃は、勉強中です」

「そう。試験勉強で忙しいのに悪いわね」

「いえ、話をする代わりに、そのあと邪魔をされなければ大丈夫です」

「解ったわ、約束する」

「桐藤美穂には、ニセモノが存在するんです。ソイツが、警察署を破壊しました」

「えぇぇぇっっっっっっっ!!!!!」


 軽い世間話から様子を見て徐々に本題に入るつもりだったのに、いきなりとんでもない情報が飛び出した。怜香は、橋上を走行中にもかかわらず、慌ててブレーキを踏む。車はアスファルトにタイヤ痕を付けて急停車をした。


「え?え?今、なんて言ったの?」

「聞いてなかったんですか?」

「き、聞いてたけど、急すぎて驚いたというか、

 軽く聞き逃してしまったというか・・・ごめんなさい」


 突飛なデマ?とんでもない事実?ながら作業で聞いて良いレベルの情報ではない。ポケットに手を突っ込んで、レコーダーのスイッチをONにする怜香。後方確認をしてから、ゆっくりと車をスタートさせ、改めて美穂が言った情報を復唱する。


「貴女の偽物がいて、警察署を爆破した・・・そう言ったのかしら?」

「若干違いますが、だいたいそんな感じですね。

 喋ってる内容、録音しているんですか?」

「あら、解っちゃった?今みたいに聞き逃したくないからね。

 イヤかしら?イヤなら止めるけど」

「いえ、構いません」

「ありがとう。ご協力を感謝するわ。

 ところで、偽物ってどういう事?

 妖怪とか宇宙人とか、そういう類いの物かしら?」

「いえ、違います。

 言っても解らないと思いますが、桐藤美穂が何度も変身をして、

 インバージョンワールドに干渉をした結果によって生まれた残留思念です」

「・・・・・・・・・何度も・・・変身?」


 またもや爆弾発言が飛び出した。今度は信用できる。何故なら、怜香は既に「白い騎士=美穂」と疑っているからだ。どう質問を組み立てれば「白い騎士」の話題になるか?今回は警察の事件だけを聞けて、「白い騎士」の情報は聞けないかもしれないと思っていたが、アッサリと喋ってくれた。これは、他社を出し抜いて面白い記事が書ける。「ニセモノが破壊」「変身」たった2つの情報だが、密度が濃すぎて怜香の頭は飽和状態だ。何処に車を落ち着けて話を聞くべきかと、気持ちばかりが焦る。


 同時に、助手席に居る美穂の言葉には違和感がある。乗っていたスクーターはどうした?一人称に「あたし」と「桐藤美穂」を使っている。まるで、「あたし」と「美穂」は別人のような口ぶりだ。何か意図があるのだろうか?妙な胸騒ぎがして、運転をしながら横目で助手席をチラ見する。


「・・・え?」


 助手席に居たはずの美穂の姿が無い。再び、慌ててブレーキを踏んで橋の上で車を急停車させ、目を見開いて振り返って荷台を見るが、やはり美穂の姿は無い。走行中なのに怜香に気付かれずに車から降りた?有り得ない。さっきまで隣に居た美穂は幻?夢でも見ていた?


〈うふふふ・・・意図的に違和感があるように喋ってあげたんだけど、

 ちゃんと気付いてくれたみたいだな〉

「え?・・・桐藤さん?」

〈あたし、記者さんが嫌いだからさ、殺す前に怖がらせてあげようと思ってね〉


 怜香の右側には運転席側の扉しか無いはずなのに、右から声が聞こえる。声のする方に振り返った怜香は、美穂の姿を発見して表情を引き攣らせた。美穂は怜香の目の前に居た。だけど、助手席でも、荷台でも、車外でもなく、運転席側のサイドガラスの中だけにいて、怜香を見つめて挑戦的に微笑んでいる。


〈あたしは桐藤美穂だけど、記者さんが知っている桐藤美穂とは別の桐藤美穂。

 あたしが、インバージョンワールドから生まれた桐藤美穂だよ。

 記者さん、要らないから死んでよ〉

「ひぃぃっっっ!」


 サイドガラスから美穂の手が出て来て、怯える怜香の腕を掴む!




-文架警察署-


 夏沢雛子が署の外を見回して首を傾げる。例の女記者の車が無い。昨日はずっと、路肩に駐車をして張り込んだり、しつこく嗅ぎ廻ってたのに、何処に行った?簡単に取材を諦めて帰ったとは思えない。近くに居た署員に訪ねてみる。


「あぁ、美人記者さんのことだな?

 もしかしたら今頃、見当外れの方向で取材をしているかもな」

「どういう事?」

「さっき『爆発が起きる前に、署内に女の子達が居たか?』って聞かれたんだよ。

 だから『居た』って教えてやったら、血相を変えて何処かに行ってしまった。

 爆破事件と関係ない女の子達を探して、何を聞き出すつもりなのやら?」

「なんですってっ!!」


 雛子は青ざめた。葵怜香は、爆破と美穂達が関係があると考えて動いたのだ。情報漏洩を防いで美穂を守る為、彼女達と爆破が関係している事は数名しか把握をしていない。署員が記者に、抵抗なく「彼女達が居た」と話したミスを責める事は出来ない。


「マズいわ!」


 怜香と美穂が対峙をしたらどうなる?おそらく、美穂が、簡単に手玉に取られる事は無いだろう。だが、怜香だって、手も足も出ずに美穂に誤魔化されるとは思えない。今回の取材では成果を得られなくても、何度も取材を繰り返して、美穂がボロを出すのを待ち続けるだろう。美穂は、確実に怜香を警戒する。


 一昨日、美穂が雛子に向けた怒りにリンクして、偽者が雛子を殺す為に動き出した。美穂と偽者は、同じ感情を持ち、美穂は理性で抑えるが、偽者は気の赴くままに行動をする。つまり、怜香の行動を、美穂が「煩わしい」と感じれば、偽者が怜香を亡き者にする為に動く。




-アジト(麻由のマンション)-


 美穂が駐輪場に原チャを駐め、深呼吸をしてマンションを見上げる。ここに来れば仲間が居ると思うだけでも、逆立っていた気持ちが幾分か落ち着く。収納スペースから“遺品の封筒”を取り出して、上着の内側に隠してから、エレベーターに乗って最上階に上がる。


「入るぞ~!」


 アジトに戻ったら、皆、一様に静かになって勉強をしていた。入室しようとしたところで、スマホが着信音を鳴らす。ポケットから出してディスプレイを見たら、発信者は夏沢雛子だった。


「今頃なんだ?聞きたい事でもあるのか?」


 警察署への呼び出しは勘弁して欲しいと思いつつ、電話に応じる。


〈ごめんなさい。

 こちらのミスで、一昨日の夜、貴女達が文架署に居た事が、

 葵って記者に伝わってしまったの〉

「あぁ、ど~りで!さっき来ましたよ」

〈やっぱりね。何か聞かれなかった?〉

「あぁ、聞かれたけど、相手してる余裕無くて、追い払いました」

〈本当にごめんなさい。貴女に、大きな借りを作ってしまったわ〉

「・・・ん?」


 夏沢雛子って、こんな簡単に謝罪をする人間だったっけ?もし雛子の落ち度でこちらが迷惑を被っても、「貴女なら何とかすると思っていたわ」くらいしか言わないイメージなのに、何で謝罪なんてしている?怜香が取材に来た以外に、何か問題が発生しているのか?

 紅葉が何気なく美穂の方に視線を向け、「あれ?」と一拍置いて驚いた。つられて視線を向けた真奈&麻由バルミィ&ジャンヌも青ざめる。

 仲間達の驚嘆の声を聞き、姿見鏡を眺める美穂。姿が映っていない事に、ようやく気付いた。そして、同時に、雛子の謝罪の意味も理解した。


「一昨日、偽物が夏沢さんを狙ったように、

 今度は、女記者が狙われてるって事か?」

〈・・・多分ね。こちらも出動するけど、彼女が何処に居るのか解らないわ!

 桐藤さんなら、居場所の見当は付くかしら?〉

「ど、どうだろう?

 会ったのは、浜丹生町だから、そんなに遠くには行ってないと思うけど」

〈浜丹生町ね、解ったわ!〉

「こっちはこっちで探してみます」

〈頼んだわよ!〉


 遺品の件で気持ちがいっぱいいっぱいになり、怜香の接触で頭に血が上り、周りが見えなくなって重要な確認を怠っていた。自分自身の間抜けっぷりに呆れて、目の前が真っ暗になるような錯覚に陥る。


〈桐藤さん、それからね。少し言いにくいんだけど、伝えておくわ〉

「まだなんか有るんですか?」

〈貴女が狐の怪物(火車)やザックトルーパーと戦った時のデータと、

 貴女の偽物の変身体データを分析すると、

 パンチ力やキック力で1.5倍、武器や特殊攻撃で2倍、

 瞬発力は1.1倍程度、貴女より偽物の方が優れているわ〉

「・・・1.5~2倍?そんなに!?」

〈つまり、1対1で戦っても、戦力差が大きすぎて、

 多少の工夫程度では全く勝ち目が無いって事ね。

 まだ戦力分析しか出来ていないんだけど、これが現実って事。

 貴女の事だから、これだけでも伝えておけば、無謀な戦いはしないでしょ〉

「・・・き、気を付けます」


 通話を切り、一つ溜息をついてから、怜香にもらった名刺を見て、電話を掛けてみる。しかし、通話に出ない。運転中なのか?手遅れなのか?

 雛子の謝罪の意味は、おそらく「雛子のミスの尻ぬぐいを、美穂がしなきゃかも」ってことだろう。女記者の事は苦手だが、死んで良いとは思っていない。


 怜香へのTELを諦めた美穂が、やや申し訳なさそうに仲間達を見つめる。偽物との戦力差が1.5~2倍で、思考が同じでは、美穂1人が踏ん張っても覆せない。

 だが、美穂の心配など必要無いらしく、紅葉、バルミィ、麻由、真奈、ジャンヌ、皆が「美穂が鏡に映っていない」と確認した時点から、教材を閉じて出動の体勢を整え、美穂の報告を待っている。誰1人、「今は勉強が優先」とごねる者はいない。


「ニセモノゎどこっ!?」

「出動で時間を費やして勉強できなかった分は、

 睡眠時間を削れば良いだけです!」

「ばるっ!麻由にしては上等な意気込みばるっ!」

「決着を付けなきゃね」

「マスターの指示、承った!」


「・・・みんな」


 何も理由を言わずに飛び出したあげく、偽物の別行動に気付かずに戻ってきた無様っぷりなのに、なにも聞かずに動こうとしてくれる仲間達を有り難く感じる。美穂は、頭を何度も振ってモヤモヤした気持ちを追い出し、皆を見回してから、麻由に近付いて肩を軽く叩いた。


「なぁ、麻由。今まで、何度もあたしに殴られてるお返しをしてくんね~か?」

「・・・はっ?」

「あたしの事、一発殴って欲しい。

 多分、今のあたしは、麻由に殴られるのが、一番、目が覚める」

「・・・そんな急に」

「麻由には急でも、あたしには、そんだけの理由があるんだ。

 後腐れ無しで、ビンタ一発頼むよ!」


 美穂の表情は真剣だ。理由は解らないが、麻由に殴られる事で何かをスッキリさせたいようだ。麻由は「気が進まない」が「指名を受けた私がやらないと収まらない」と空気を読んで腹を括る。


「わ、わかりました・・・い、いきますよ。」


 麻由が美穂の前に立ち、自身の平手に「は~っ」と息を吹きかけた。美穂に心の中で「オッサンかよ?」とツッコミを入れられつつ、掌を振り上げて、丁度良い力で叩き込んだ!


パァン!

ドゴォッ!!! 

「うぐぅっっ!!」


 直後、美穂が反射的に放ったカウンターの拳が、麻由の腹の一番柔らかい場所に炸裂!美穂的には麻由に攻撃を加えるつもりは無かったが、つい、いつもの「やられたらやり返すクセ(?)」が発動しちゃった。麻由が腹を押さえて苦しそうに蹲る。


「あっ!ごめん!」

「な・・・なぜ?」


「あっりゃぁ~・・・マユ、痛そぉ~」

「美穂が‘殴れ’なんて珍しい事だと思ったけど、結局は、こうなるばるか?」


 いずれにせよ、美穂の美穂自身への制裁は終わった!

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