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30-3・試験合宿2日目~美穂の思い出の地

―放課後の2A―


 バルミィ&ジャンヌと、少なからず巻き込まれた亜美も呼んで、定例ミーティングが始まった。


「あたしの偽物がウロついてるってのは決定だ。亜美も気を付けてくれ」

「うん、解った。鏡に映った美穂ちゃんなんだよね?」

「ぅん。鏡の国のミホ」

「だったら胸ポケットが右側で、ブレザーの校章が左右反転してたんじゃない?

 昨日は事情が解らなくて、私も気付けなかったけど」


 制服の左胸には、優麗高のマークが刺繍されたポケットが付いている。鏡像なら左右が反転しているはずだ。


「昨日の美穂さんの偽物は、ブレザーを脱いでいたから、校章まではちょっと。

 確かに、良く見ればシャツのボタンの左右や胸ポケットは違うんだろうけど、

 そこまで見ている余裕が無くて・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


 さすがは、美穂のコピーだ。露骨に左右が逆って解る服なんて着ているワケがない。


「だけど、予防策として、美穂さんが文字の入った服を着るのは有効ですね。」

「でも、昨日は、ブレザーを脱いでたんでしょ?

 また脱いじゃったら、見分け付かないぢゃん」

「トップスやボトムスもプリント入りを着れば良いのでは?」

「全部脱いじゃったらダメぢゃん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×たくさん


「下着姿、もしくは、全裸の美穂ちゃんが居たら、偽物って事だね」


 皆で一斉に「左右反転を誤魔化す為に、全裸になった鏡像の美穂が不敵な笑みを浮かべながら襲ってくる姿」を想像して笑いそうになった。


「ばるっ!亜美は、美穂を、そんなにバカだと思っていたばるか?」

「多分、あたしが、左右反転が一目で解る服を着たら、

 アイツは小賢しい偽物作戦を止めて、もっと強行手段に出るだろうな。

 あたしならそうする」


 左右反転を見分ける有効的な手段は無し。互いに、「美穂を見たら一定の警戒をする」「直ぐには信用しない」って事に決まった。


「くそっ!アイツの所為で、あたしが警戒されるのか!・・・ムカ付く!」


 続いて、バルドル(ローブの男)に提示された攻略ヒントに取り掛かる。


「なぁ、バルミィ。

 あたしの周辺に“ヴァルカン”ってカードが有るらしいんだけど知らないか?

 “バルカン”’と”ヴァルカン”。発音が同じだから、もしかしたらって思ってさ」

「カードばるか?ちょっと・・・知らないばるね」

「あっ・・・そう」


 美穂がピンと閃いた件は、僅か数秒で話が終わった。


「ミポリンは、カードに封じられた力を召喚して戦ってるな。

 新しい力もカードで召喚するのか?」

「偽者は、ネプトゥーってカードで、エリス・ネプトゥーって名乗っていた」

「ミホが”ばるかん”を使ったら、ミホ・バルカンって名前になるの?」

「生身で使うのではなく、変身して使うのですから、

 ネメシス・ヴァルカンになるのでは?」


 答えらしい答えに行きつけない。勝利の切り札と言っても過言ではない”ヴァルカン”は、いったい何処にあるのだろう?結局、偽物の見分け方も”ヴァルカン”も解らないままミーティングは終わった。


「あの・・・・・私、その話に加わっていいのかな?

 薄々は気付いているけど、詳しくは知らないって設定だよね?」


 皆が知っている前提で会話を進める為、亜美は申し訳無さそうに耳を塞いで「聞こえないフリ」で対応をしてくれた。




-1時間後・ヒロインズのアジト(麻由のマンション)-


 真奈とジャンヌも加わって、試験合宿の2日目開始。麻由は、皆に予想問題を提示してから、自分は帰宅時に購入した問題集を開いて攻略を始めた。麻由の問題集を見た真奈が目を見開いて驚く。


「麻由ちゃん、その問題、今回の試験範囲じゃないよね?」

「さすがは真奈さん、見ただけで直ぐに解るのですね。

 これは、大学入試用の応用問題集です。

 試験範囲ですが、このレベルの応用問題は学校の試験には出題されません」

「うへぇ?なんで、いま、そんなメンドイ問題すんのっ?」

「今回の試験範囲は、既に一通りクリアしていますから、

 今更、改めてやる必要はありません。

 前日に再確認の為に一通り目を通して、

 あとは万全を期して凡ミスを気を付けるのみです。

 私は、ミーメさんが楽勝で解いた設問を上廻りたいんです!

 本来ならば、バルカン人の問題集を取り寄せたいのですが、

 ミーメさんに頼みづらいので、今はこの問題集で我慢します!」

「バルカン人の問題集が必要ならば、素直にミーミーに所望すれば良いのでは?」

「敵からの施しを受けるわけにはいきません!!」

「バルミィは、敵じゃね~だろ。今は目前の試験に狙いを定めろ。

 その辺がオマエのダメなところって、いい加減に気付けや」


 麻由は、昨日のバルミィの秀才ぶりを根に持っているようだ。実に麻由らしい、無駄な背伸びというか、負けず嫌いというか、器量の狭さだ。

 バルミィは長寿だし、科学力だって地球とは雲泥なんだし、基礎力が違いすぎる。どうして、そこで勝とうとする?麻由は金星に留学する気なのか?




-1時間程度が経過-


 教科によっては真奈は一定の自信があるので、美穂や紅葉にヒントを出してくれるが、時折「ほぼ解答」なアドバイスを口走ってしまい、麻由に「それでは勉強にならない」と注意をされる。いつの間にか、麻由が紅葉に教え、真奈が美穂に教え、真奈が苦手な部分は麻由がヒントを出すシステムになっていた。

 ジャンヌは、1人だけ「無関係」を決め込んでリラックスをしにくいので、世界史の教科書の祖国の歴史について学んでいる。


 紅葉は、最初は「勉強メンドイ」と愚痴っていたが、皆が相手にせずに勉強に集中していたら、やがて誰よりも静かになって黙々と予想問題の攻略を始めた。美穂は紅葉をチラ見して「負けてらんね」と対抗心を燃やす。


 キリが良いところで一息つき、時刻を確認して「もう30分くらい勉強したら夕食にしようか?」って雰囲気になった頃に、文架警察署の手伝いを終えたバルミィが合流してきたので、少し早いが購入しておいた弁当をレンジで温めてから広げ、夕食を取りながらミーティングをする。


 話題は「美穂の偽物が次はどう動くか?」の予想と、ヴァルカン獲得のヒントになっている「過去の記憶を手繰り寄せろ」の意味を解読すること。


「ァタシとマユとマナゎ、もう嫌がらせをされたから、

 次ゎバルミィかジャンヌだねぇ」

「そんな単純な行動はしないだろう」

「そうですよ。紅葉は美穂さんの事を何も解ってないんですね。

 相手は、美穂さんのコピーですよ。

 むしろ、今まで嫌がらせをした3人の中から最も潰し甲斐のある標的を選んで、

 真綿で首を絞めるようにジワジワと苦しめながら嘲笑うのではありませんか?」

「なるほど~。一理あるばるね」

「麻由、バルミィ・・・あたしの事を、そんな奴だと思ってるのかよ?

 まぁ・・・当たってるけど」

「そうなると、美穂さんが狙うのは誰だろう?

 私は、ジャンヌさんを呼べるから無いと思うんだよな~」

「うむ。マナは私がガードするし、私は奴を鏡の中まで追える。

 マナが狙われる可能性は低いだろう」

「なら、狙うのは、最も思考が単純で、策に引っ掛かりやすい紅葉で・・・・」

「一番、いぢめ甲斐があるのは麻由だ。あたしが偽物の立場なら、麻由を狙う」

「え~~~~~~~~~っっ!!!!私ですかっっ!!な、なんでっっ!!?

 わ、私は、美穂さんの卑劣な策になんて、簡単には引っ掛かりませんっ!」

「けっけっけっ!そ~ゆ~直ぐテンパるところが面白いからな」

「み、美穂さんっ!私を狙っても面白くないので私以外の人をっ!」

「テンパりすぎばる。美穂本人が、麻由を狙うわけじゃないばるよ」


 美穂は、冗談半分で麻由を茶化したが、半分は本気の注意喚起だ。麻由が弄りやすいかどうか(弄りやすいけど)はともかく、麻由の「誰でもインバージョンワールドを出入りできる」スキルは厄介だ。鏡像の美穂が真っ先に潰したいのは麻由だろう。美穂が奴の立場なら、間違い麻由を狙う。美穂は逆に「麻由が異獣サマナーにとってどれだけ厄介なスキルを身に付けたのか」を解ってないことに驚いてしまった。


「例え、ヤツ(鏡像の美穂)の行動を把握できたとしても、

 あの凶悪な攻撃力をどうにかしないとな」

「ばるるっ!ヴァルカンを獲得するたって”過去の記憶”の見当が付かないばるね」

「切り捨てようとしている記憶を・・・手繰り寄せる・・・。妙な表現ですよね。

 『切り捨てる』を『忘れる』と解釈すれば、良い記憶ではなさそうですね」

「ばるっ!美穂は、そう言う記憶はあるばるか?」

「んなもん、幾らでもあるよ。まぁ、そのセンでもう少し考えてみるかな」


 忘れたい嫌な思い出なんて誰にでもある。就寝時間になってから思い出してみるつもりだが、パワーアップのカードにどう繋がるのか見当が付かない。

 食事が終わり、各自で弁当の容器を洗ったあと、試験勉強を再開する。




-深夜-


 和室で、美穂の他に紅葉&真奈&バルミィが寝息を立てている(麻由&ジャンヌは別室)。



 殺風景な真次郎の部屋で、美穂がイケメン新任教師=真次郎の怪我の手当をしている。


「いてえっ!!染みるっつ~のっ!!」

「自業自得でしょっ!バカっ!」

「あのなあっ!!俺、仮にも先生だし年上っ!!バカ言うなっ!!」

「だってバカじゃん。

 見ず知らずの人達の喧嘩の仲裁に入って、

 いつの間にか三つ巴で殴り合ってるなんて有り得なくね?」


 美穂は、真次郎の治療をしながら、ふと違和感を感じる。なんで真次郎がここに居る?生きていた?美穂が呆気に取られた表情で真次郎を見つめる。



 真っ暗な中で布団から起き上がる美穂。紅葉&真奈&バルミィが寝息を立てている。また、真次郎との思い出を、夢で見てしまった。




-朝(土曜日)-


 山本先生がジョギングの催促に来るかと思って、紅葉&美穂&麻由&真奈&バル&ジャンヌは、昨日と同じ智拝橋東側に来ていた。だが、時間になっても待ち人は来たらず。代わりに「勉強合宿、頑張れよ!試験、期待しているぞ!」とメールが来た。テスト2日前、さすがにジョギングよりも、試験対策を優先させる時期ってことだ。


「寒っ!帰ろ~ょっ!」

「せっかく出てきたのですから、走りましょうよ」

「・・・ばるっ?」

「麻由に賛成。

 あたしって、適度に体を動かしてた方が、頭が冴えるみたいなんだよね」

「ほぉ、なるほど。昔から“身から出たサビ”と言いますからね」

「それを言うなら“健全な精神は健全な肉体に宿る”だよ、ジャンヌさん」


 麻由はストレッチの段取りに入るが、美穂は「省略」と言って、いきなりジョギングを始める。紅葉&真奈が美穂を追って走り出したので、麻由もストレッチを諦めて追い掛ける。

 先頭の美穂が「先ずは昨日と同じコース」って雰囲気で、堤防上を南へと走る。だが、サンハイツ広院(紅葉のマンション)を通過した辺りで、急に進路を変えて、住宅街側の坂道を駆け下り始めたので皆が後に続く。


「コースが違いますよ、美穂さん」

「ァタシのおうちに行くの?」

「コースなんて決まってない。今日はこっちを走ってみよう」

「この地域は、ク~チャンの家より先には行った事がありませんでしたね」

「この先は、本陣町や陽快町。住宅地しかありませんよ」

「い~から、い~から!コースなんて気の向くまま!」


 美穂がトントンと先に進んでしまうので、紅葉&麻由&真奈&ジャンヌは“気ままなコース”を受け入れて美穂を追い、バルミィが飛んで後に続く。道路を横断して、サンハイツ広院を北側に望みながら通過。堤防コースほどではないが、ジョガーとか犬の散歩してる人と擦れ違い、見知らぬ人達と軽く挨拶を交わす。

 美穂は「コースなんて気の向くまま」と言ったが、実は「気まま」ではない。以前は川沿いのショッピングモールに遊びに行くついでに頻繁に寄り道をしていた。いや、正確には、ショッピングモールは口実で、寄り道が目的だった。


 ジョギングをする美穂の脳裏に「この道を歩く新任教師の真次郎と、彼に付きまとう今より少し幼い美穂」のイメージが浮かぶ。


  「先生の家に遊びに行っても良い?」

  「よくない!くるなっ!」

  「なんで?彼女が待ってるから?」

  「そんなの居ないよ!」

  「だったら行っても良いじゃん!」

  「そういう問題では無いだろう!オマエは生徒、俺は教師だぞ!」

  「あっ!もしかして、あたしが可愛いからって、いやらしい事考えてる?」

  「考えてない!考えるわけないだろ!」

  「だったら、遊びに行っても良いじゃん!明日、休みだから行くね」

  「おい、こら!勝手に決めるな!」


 広院町より東側に来るのは久しぶりだ。この辺の“昭和にタイムスリップ”したような町並みは、あの頃と変わっていない。ジョグをする美穂の表情が懐かしさで僅かに綻ぶ。無意識の走るペースが上がり、後ろを走っている紅葉達は首を傾げながら付いていく。


  「うわっ!こんなオンボロアパートに住んでんの?オバケ、出そう!」

  「うるさいよ!安月給なんだから仕方ないだろ!」

  「こんなボロアパートじゃ、彼女呼べないね!あっ!いないんだっけ?」

  「余計なお世話だ!おい、こら、勝手に入るな!帰れって!」


 真次郎が過去に住んでいたアパートは、本陣町に今も建っていた。相変わらずオンボロのままだ。


(もしかしたら、まだ住んでいたりして?)


 そんなハズはないと知りながらも、アパートの手前でペースを落として“アイツ”の部屋の入口や小窓を眺めながら走る。

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