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30-2・バルミィは天才?~朝のジョグ

―2時間経過―


 小休憩を挟んで2教科の麻由特製テストを受け、美穂は気分転換を兼ねて風呂を借りる事にした。


「すっげ~!ホテルかよ?」


 アパートの狭い風呂と次元の違う広々とした最新設備のバスルームを眺めて、歓声を漏らしてしまう。のんびり風呂を堪能した後は家着用のジャージを着てキッチンに行き、勝手に冷蔵庫を開けてオレンジジュースを見つけて「これでいっか」とグラスに注ぎ、チビチビ飲みながら和室に戻る。


「ん?紅葉まだ瀕死?」

「・・・ずっと、こんな感じです。」

「余程ショックだったみたいばる~」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 血の気が失せた紅葉が部屋の片隅で転がっている。美穂が大差をつけて麻由の作ったテストをクリアしたので、敗北をした紅葉はショックで瀕死になってしまったのだ。


「この部屋は退屈ばる~。ボクも何かやるばる~」


 日本史の教科書を読み終えたバルミィが、山積みのテキストから一冊を引っ張り出して、鼻歌を歌いながら問題を解きだした。興味が湧いて覗き込んだ麻由と美穂は揃って驚嘆する。日本でトップの大学の赤本の設問を、まるで一桁の足し算でもするようにスラスラ解いていた。


「あたしには、何が書いてあるかすら解らん」

「公式も使わずに?有り得ませんっ!

 ミーメさんはデタラメな答えを書いています!」


 麻由が赤本巻末の解答を確認すると、全問正解。麻由ですら公式を幾つも使って、数分をかけて正解を導き出せるかどうか解らない設問を、バルミィは暗算でクリアしているのだ。


「簡単すぎるばる。もっと難しい問題は無いばるか?」

「これが簡単?バルミィ、スゲーなぁ」

「あれ、話さなかったばる?

 バルカン人のIQを地球人で換算したら、平均で200くらいになるばる。

 ボクは音楽じゃ誰にも負けないけど他が苦手だから、IQは平均くらいばるね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 呆気にとられたが、考えたら当たり前の話だ。地球人よりも長寿な生態なのだから、勉強する時間なんて幾らでもあるだろう。美穂は暫くバルミィを眺めてから、思いついた事を訊ねてみる。


「・・・・・・・・・・あの」

「何?」

「バルミィの科学力でインバージョンワールドについて、何か解らないのか?」

「ん~・・・・あちこち見てきたけど、あれは初めての事例ばる。

 力になりたいのは山々だけど、あの環境を数式化して、

 自在に行き来や滞在できる方法を割り出すには、ちょっと時間が必要ばる」

「『ちょっと』って、具体的にどんくらい?」

「う~ん・・・・美穂達がテンジュってのを全うして、

 カソーされてオハカってとこに入る頃には」

「どこが『ちょっと』だよ?・・・さすがは長寿生命。時間の概念が違いすぎる」


 万能なバルミィでも、直ぐに対応するのは無理らしい。バルドル(ローブの男)は、そんな大天才なのか?どんな方法でサマナーホルダや異獣サマナーを開発したんだろう?


「解らんことを悩んでも仕方が無いか」


 今やれる方法で打開するしかない。その前に試験勉強だ。「偽物に振り回された所為で、赤点を大量生産して落第」になったら、ムカつくどころじゃない。

 気持ちを切り替えた美穂は、瀕死な紅葉の頬を叩いたり足裏くすぐって蘇生させた。ようやく我に返った紅葉は、美穂を見るなり食ってかかる。


「ミホ、ずるぃっ!!ァタシの答案ぉカンニングしたなっ!?」

「してね~よっ!!自力だっ!!

 ってか、あたしより劣ってる奴の答案カンニングしてどうするっ!?」

「納得ぃかな~ぃっ!!前ゎ、ァタシの方が順位上だったのにっ!!」

「あの件が悔しくて、普段から勉強してたんだよっ!!」


 2年生を2度留年した美穂は、当然、今の授業を受けるのは3回目。僅かながらも残ってる記憶を手繰り寄せれば、紅葉を上廻る自信は有る。


「・・・・ぬぅぅぅ」

「麻由っ!!採点ついでに、間違い教えろっ!次は紅葉を超えてやる!!」

「マユっ!ミホよりもァタシの方が先っ!ぜってーミホに勝つっ!」


し~ん。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁれ?」

「・・・・んっ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 麻由が放心している。バルミィの所為だ。IQ200の実力を見せつけられたショックで意識が飛んでしまったらしい。今に始まった事じゃないが、何たる器量の狭さか?ちなみに、麻由のIQは130前後。医者になれる頭脳なので充分に凄いんだけど、バルミィには遠く及ばない。

 美穂は溜息を吐き、心情的には頭にゲンコツを喰らわせたかったが、尻を平手で引っぱたいて覚醒させてやる。




―さらに1時間ほど経過―


 限界を迎えた紅葉が、机に向かってペンを握りつつコックリコックリと頭を前後させてる。教えてる麻由も辛そうだし、「教えろ」と催促した美穂自身も眠気に襲われて集中できなかった。元気なのはバルミィだけ。

 【亜美の弁当騒動】【真奈の拉致&入院】【偽物との遭遇+敗退】【ゲンジとセラフの新能力発見】【偽物が大暴れ】【偽物の捕獲と逃亡】そして唐突に合宿が開始されて試験勉強。今日は色々あり過ぎた。


「今日は、もう良くね?風呂入って寝たら?」

「ん・・・んぁぁ・・・・・そぅする・・・・」

「お先にどうぞ」

「ボクは後で良いばる」

「マュ先に入りなょ」

「いやいやいやいや」 「ばるばるばるばる」 「ぃゃぃゃぃゃぃゃ」

「あ~~っ!!もう、やかましいっ!!一緒に入って親睦深めろっ!!」

「んぁぁ~、それもぃぃかも」


 紅葉と麻由が着替えを手にして、3人で浴室へ向かった。残った美穂は、4人分の布団を用意して、端っこの布団に寝転がり、天井のLED蛍光灯を見つめながら考える。

 バルドル(ローブの男)は「美穂は既に火の力を所有している」「過去の記憶を手繰り寄せろ」と言った。念の為に、サマナーホルダ内のガードを調べたが‘ヴァルカン’のカードなんて混ざっていない。

 バルドルは、「1枚は、アデスが所有をしている」「深入りはやめておけ」とも言った。異獣サマナーに変身して戦いに身を置いてる時点で、「後戻りは出来ない」と覚悟をしていたつもりだったが、カードを使うと更なる深入りをしてしまうのだろうか?つまりアデスは、深入りしている事になる。接触して、「どう深入りしているのか?」を聞きたいが、アデスが何者なのか解らない。

 去り際のバルドルに「そこまでの期待はしていない」と戦力外通告されたのは、かなりムカ付く。




―翌朝―


♪~♪~♪~♪~

 まだ薄暗い時間に、枕元に置かれた美穂のスマホが着信音を鳴らした。山本先生のお誘いだ。「げ!そう言えば、これもあったんだ」と飛び起きた。

 サボりたいが、何て言い訳しよう?昨日みたく気付かないフリしとくか?(昨日は代わりに偽物が走った)

 だけど、邪険にするのも申し訳ない。ちょっと迷ったが結局は電話に出た。


「・・・・おはようございます」

≪おはようっ!!アパート前で待ってるぞ!!≫

「あの、すいません・・・実は今、麻由のマンションにいるんです」

≪まゆ?≫

「A組の葛城麻由です。

 ちょっと皆で勉強を・・・そのまま泊まっちゃいました」

≪そうだったのかっ!!頑張ってるんだな桐藤っ!!≫

「だから、今日は、ジョギングはちょっと・・・」

≪葛城の自宅は何処だ?迎えに行くぞっ!!≫

「・・・・・・・・・・・・・・・・マジか?」


 山本先生には「今日は免除」の発想が無いらしい。


「申し訳ないので、今日は・・・・・・」

「ジョギングコースが変わるだけだ!俺のことは気にするな!」

「そ・・・そうですか。

 なら、20分後に、智拝橋(現在地から近い橋)の東詰に行きます」

≪そうか!待ってるぞっ!≫


 通話を終えた美穂が部屋を見回した。物音に敏感なバルミィが目覚めて「先生とジョギングばるか?」と訊ねてくるのに頷く。熟睡中の紅葉&麻由に気を使って、物音を立てずに準備をするが、呑気な寝顔を見ていたら、「なんで、あたしだけ?」と徐々にイライラしてきた。


「おい、紅葉、麻由、起きろっ!」


 美穂は、紅葉&麻由の頬を叩いたり、布団を引き剥がして無理矢理目覚めさせた。


「朝っぱらから何ぃ~っ?」

「まだ起床には少し早いのでは?」

「山本(先生)からジョギングのお誘い来ちゃってさ。一緒に走ろう!」


 麻由は素直に起きるが、紅葉は頬を膨らませながら寝転んで布団を被り直して二度寝を決め込もうとする。


「走ったあと、先生の奢りでDOCOSファミレスのモーニング食べ放題だ」

「んんっ!!」


 一陣の突風が吹き、次の瞬間には紅葉が戸口に立って満面の笑みを浮かべながら、ツインテールをせっせと結ってた。


「何モタモタしてんのっ!!早く行こっ!!」

「単純おバカ」

「なんだとぉ~~~!!」

「先生に奢っていただくのは申し訳ないので、ジョギングだけで良いのでは?」

「だったら行かないっ!ァタシゎ寝るっ!」

「ほら、やっぱり単純おバカだ」


 紅葉&美穂&麻由はジャージに着替え、バルミィと共に外へ出て、山本先生が待つ智拝橋の東側へ。朝食に釣られた紅葉は「ぉはょぅござぃま~すっ!ゴチになりま~す!」と張り切ってる。先日も通ったコースを皆で走る。民家や車の窓を警戒するが、特に異常は無し。


 やがて、彼方にDOCOSファミレスの看板が見えてきた。山本は「人数が多いから今日は牛丼屋にしよう」と思っていたが、紅葉が「っしゃぁ~!!」と突撃。麻由も「ちょっと待ちなさい」なんて言いつつも止める気ゼロで店に飛び込む。

 約20分後、呆けてる山本先生の目の前で『2人の大食い女子高生により、モーニングバイキングのメニューが一時的に消え失せる』事件が起きた。美穂は赤面しながら「すいません」と謝る。

 バイキングなのに取る料理が無いのは、2ヶ月前に続いて2回目。『バイキングの時間帯は出入り禁止』にされそうだ。




-優麗高・5限目・2年C組-


 美穂が板書をノートに写す合間に、窓の外に視線を向ける。


  『火の力“ヴァルカン”を使え。既にオマエは、そのカードを所持している』

  『切り捨てようとしている過去の記憶を手繰り寄せろ』


 いくら考えても“ヴァルカン”なんてカードは知らない。「過去の記憶」って何だ?「ヴァルカン」「ヴァルカン」と、心の中で何度も復唱していたらピンと来た。身近な仲間と、同じ発音の固有名詞だ。


 授業と関係ない事を思案してみたのが見透かされたらしく、先生から、「今、説明した問いに答えよ」と名指しされた。

 焦って立ち上がったら、斜め前のクラスメートが、教科書を美穂に見えるように向けて、「この問題」と指でさして教えてくれた。その問題なら、昨日、麻由のマンションで解いたばかりだ。麻由は「授業の復習」「既にやったはずなのに覚えてないんですか?」と小言を交えながら教えてくれたが、それは授業が進んでいるA組の視点で、美穂達のC組にとっては「予習」になっていたらしい。直ぐに解答をして「正解」をもらい着席をする。


(ヤバいヤバい、学年末試験のことも考えなきゃならない時期だった)


 試験は3日後(本日は金曜日、テストは月曜日から)から始まる。美穂は“ヴァルカン”の事は放課後に相談する事にして、今は、授業に集中しようと気持ちを切り替える。


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