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30-1・偽美穂脱獄~合宿開始

 紅葉&美穂&麻由&バルミィの4人は、文架大橋西詰めの交差点付近を並んで歩いていた。

 何気なく、停車中の車のサイドガラスを見る美穂。そのまま、視線を動かせなくなる。さっきまで映らなかった美穂の姿がシッカリと映っている。


「・・・え?まさか?」


♪~♪~♪~

 美穂のスマホが着信音を鳴らす。モニターを確認したら発信者が文架署の雛子だ。


「もしもし、どうしました?」

〈やられたわ〉

「逃げられたって事?」

〈そういう事。さすがは貴女のコピーね。小賢しくて可愛げが無い〉

「・・・そ、そりゃどうも。今からそっちに戻った方が良いですか?」

〈詳細は明日にでも説明するわ。今日はもう遅いし、まっすぐ帰りなさい。

 貴女のことだから、鏡に自分が映れば解るでしょうけど、

 念の為に注意喚起の連絡をしただけよ〉


 通話を切った美穂は、紅葉&麻由&バルミィに「一筋縄ではいかない状況」を説明する。




-文架警察署-


 正面出入口と、鏡像の美穂を留置した部屋の扉脇の壁が大破をしていた。通路壁や天井も中破しており、ザックトルーパーの装着員が床に寝かされて怪我の手当を受けている。そして、署内が大変な状況なのにも関わらず、雛子は監視カメラに写ったエリス(鏡像の美穂)の映像を何度もパソコンのモニターで確認をしていた。


 偽者を拘束して、サマナーホルダを没収して、真っ暗な部屋に閉じ込めたまでは良かった。

 だが、偽者はとても冷静だった。部屋の中で僅かに聞こえる稼働音を聞き分け、暗視カメラの場所を特定した。あとは「死んだのではないか?」と思わせるほど息を殺して動かず、様子を見に来た看守が監視用の小窓を開けた時に差し込んだ僅かな光で、暗視カメラのレンズが反射して“映る物”になった瞬間に、黒鳥のモンスターを召喚して扉を破り、サマナーホルダを回収してザック部隊を蹴散らし、まんまと逃亡をした。


 迂闊だった。せめてバルミィは署内に残すべきだった。雛子は、美穂の機転には一定の評価をしている。だが、雛子の前では賢しさを見せずに比較的素直なので、つい、美穂(&偽美穂)の策士ぶりを過小評価してしまった。


「高い授業料を払わされてしまったわね。

 あの子(美穂)が手段を選ばなくなったら、私の手に負えなくなるワケか」


 逃げられっぱなしは癪に障る。やられっぱなしで、あとは女子高生達に任せるつもりは無い。エリスの映像から何かを掴んで、美穂達に伝えることはできないか?雛子は休むこと無く、エリスの映像の確認と分析を続ける。




-文架大橋西詰め-


 紅葉の母・有紀と、麻由の後見人・剛太郎が、「近くを歩く通行人」に変装して紅葉達を監視しているが、気配の消し方が見事なので紅葉達は気付かない。ついでに、有紀と剛太郎も、互いの変装が見事なので、互いが顔見知りと気付かない。


「よっしゃぁぁっっ!こうなったら、合宿だぁぁっっっ!!

 明日、マナが退院したら、マナとジャンヌも呼ぼぅっ!」


 紅葉がいきなり声を張り上げる。


「ばるっ?なんで、いきなり、そうなるばるっ!?」


 美穂&麻由&バルが驚いた表情で眺めた。相変わらず、説明抜きで、いきなり結論なので、紅葉の真意を美穂達なりに想像する。

 確かに鏡像の美穂は、美穂が鏡から目を離した隙に行動を起こしている。鏡に映る美穂を監視する眼が増えれば鏡像の美穂は動きにくくなるし、誰かが「美穂が鏡に映っていない」事に気付けば、対処は早くなるだろう。雛子が「美穂を監視下に入れて鏡像の美穂を焦らせた」作戦を、今度は仲間内でやろうというのだ。


「仲間内で固まっていれば、何かあった時には動きやすいのは確かだな」

「でしょでしょ!」

「有事の度に、ボクが順番に迎えに行くんじゃ大変ばるからね!」

「なかなか名案ですね。

 ですが、計6人・・・美穂さんのアパートでは狭すぎませんか?」

「思ってても言うな!失礼だろっ!

 あえて、そこには触れずに、別の合宿場所を考えろってんだ!

 例えば、麻由の部屋とかさ!」

「えぇぇっ!私のマンションですか!!?」

「おぉぉ!マユのぉうちなら、学校から近くて便利だねっ!」

「広いから快適だし、街中だから食料の調達も楽ばるっ!」

「いつでもお泊まりできるように、ァタシ達の専用ルームを作っちゃおか?」

「いいね!お菓子や2~3日分の服を置きっ放しにして、溜まり場にしよう!」

「そ、それはやり過ぎですっ!!」


 賛成3、反対1。愉怪な仲間達のアジトが決まった。メンバーは一度解散をして自宅に戻り(バルは美穂の護衛)、合宿に必要な道具を準備して1時間後に麻由のマンションに集まることにする。




-サンハイツ広院-


「たっだいまぁ~!」


 紅葉が慌ただしく帰宅して、自室に籠もって、お泊まりセットの準備を始める。監視役の有紀と、報告を受けた崇は合宿の経緯を知っているが、知らないフリをして紅葉がどんな理由を付けて許可をもらいに来るかを、リビングでテレビを見ながら待つ。しばらくしたら、紅葉がリビングに入って来た。


「あのぉ~・・・

 友達と青春について朝まで語りたいから、

 ちょっと、お泊まりに行っても良い?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2


 「友達を守りたい」って事情を説明できないのは解るが、もう少しマシな理由付けは出来ないのだろうか?


「ん~~~~っと・・・ダメ・・・なの?」

「し、試験が近いから、お勉強の合宿をするのね。

 い、良いわよ。ただし、ちゃんと良い点数を取ってね」

「あ、遊んでないで、シッカリ勉強するんだぞ。」

「う、うん、そうそう!オベンキョ合宿っ!」


 崇&有紀が紅葉の言葉足らずをフォローをしつつ、騙されてやることにした。嘘が下手=素直って事だが、ちょっとバカすぎて、親の方が辛くなる。




-麻由のマンション-


 先に来た美穂とバルミィが、麻由に通された8畳の和室を見回す。麻由は、和室前の姿見鏡で美穂が部屋に入ったことを確認してから、扉を閉めた。元々、物が少ない部屋で、窓ガラス等々、映る物は全て新聞紙で覆われている。テレビの画面も新聞紙で覆われている。美穂が来る前に、麻由が映る物を塞いだのだ。


「美穂の周りに映る物が無ければ、偽者は現実世界に出ることができないばるね」


 覆う為に使った新聞紙が、経済新聞や英字新聞ばかりで、周囲を眺めてるだけで美穂は頭が痛くなってきた。


「美穂さんは、基本的には、この部屋に滞在するようにお願いします」

「了解!でも、トイレや風呂なんかは、どうすれば良いんだ?

 まさか、全室の映る物を隠したわけじゃないんだろ?」

「はい、さすがにそれは無理ですね。

 全ての行動を監視をするのは不可能ですから、

 和室前の通路に姿見鏡を置きました」

「・・・ん?」

「和室からの出入りの祭に、必ず、ご自身の姿を確認してください。

 そうすれば、鏡像の美穂さんが別行動を始めたかどうかは把握できます」

「なるほど、至る場所に映る物があるとチェックが難しくなるけど、

 鏡の数を限定して確認がしやすくなるってことな」


 映る物を減らして、鏡像の美穂の行動をどの程度封じられるかは解らない。だけど、「いつ」「どこから」出現するか解らない奴を、「いつ」だけでも把握できれば、対応は早くなるだろう。

 美穂は、新聞紙が張り巡らされた室内で腰を降ろし、持ってきたカバンの中から束にした教科書を出して、部屋の隅に置いた。


「それ全部が、C組の明日の教材ですか?

 一日分にしては多すぎるような気が・・・」

「いや、家にある教科書全部持ってきた」

「・・・はぁ?」

「だって、ここを、あたし達のアジト(溜まり場)にすんだろ?

 なら、今後は、毎朝、学校に行く前にここに寄って教材を揃えれば良いわけだ。

 なんなら、原チャもここの駐輪場に駐めて、ここから歩いて学校に行こうかな」

「それは困ります!

 本気で、私のマンションを溜まり場にするつもりだったんですか?」

「うん、本気。冗談だと思ってたのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうせ、ジャンヌと共同生活してるんだから、

 もう一人くらい食客が増えても変わらんだろ?

 気が向いたら、ちゃんとアパートに帰るからさっ!」


 美穂はガチだ。偽者騒ぎが収まるまでではなく、その後も麻由のマンションに入り浸るつもりだ。「食客」って何だ?食事もここでするつもりか?「気が向いたらアパートに帰る」ってなんだ?気が向かなきゃ、ここで寝泊まりをするつもりか?

 ただでさえ、ジャンヌが居る所為で彼氏を自宅に呼べないのに、美穂まで居候したら色々と詮索されて夜のデートにすら出掛けられなくなる。

 麻由は表情を引き攣らせて「ふふふふ」と小声で笑いながら力無く立ち上がり、脱力した足取りで和室から出て行った。


「ばるぅ~~?麻由、気が触れちゃったばるか?」

「アイツ(麻由)、キャパ狭いからな」




-15分後-


 美穂が壁にもたれ掛かって雑誌を読み、バルミィはタブレットの画面を美穂に向けないように気を付けながら操作していたら、和室の扉が開いて目が据わった麻由が入ってきて、抱えていたプリントの束をテーブルの上にドサリと置いた。


「教科書を全部持ってきたなら丁度良いです!

 来週に備えて試験勉強をしましょう!」

「ばるっ?」 「・・・ん?こんな時に?」

「こんな時だからこそです!先ずは、私が作った予想問題をやってください!

 普通なら、予想問題は復習を一通り終えたあとの仕上げで使うのですが、

 美穂さんの場合は何処が苦手なのか先にハッキリさせる必要があります!」

「い・・・嫌がらせ・・・か?」

「違います!嫌がらせなんて、とんでもありません!復讐です!!」

「復習な。字を間違うと、とんでもない意味になるぞ!」

「い、言い間違えただけです!

 せっかく、皆で集まるのなら、時間を有意義に使って、

 勉強会をするべきだと言っているのです!」

「そんなに、帰って欲しいのか?」

「いいえ!帰れなんて、言っていません!

 生徒会長として、皆さんに優秀な成績を取っていただく義務があるのです!

 私の家に泊まり込んだのに成績が振るわないなんて、あってはなりません!」

「ばるばるっ!尤もらしい正論だけど、嫌がらせばるね。」


 だいぶ面倒臭いんだけど、ここ数日間は試験日が迫って不安だったし、麻由の指導のおかげで前回の試験の成績が上がったのも事実だ。映る物はNGなので、テレビも見られないし、スマホも遠ざけていて、雑誌を読む以外にすることも無い。なによりも、赤点を大量生産したあとで、麻由に「だから、あの時に勉強しておくべきだったんです!」とかって言われるのはスゲー嫌だ。


「解ったよ!この家、どうせマンガ本とかも置いてないんだろ?

 暇だし、やってやるよ!」


 麻由の言うなりは面白くないが、美穂は雑誌を置いて、テーブルの上で束になったプリントから一枚を引っ張り出して攻略を始める。




-30分後-


 和室に通された紅葉の目が点になる。遊ぶ気満々でマンガ本とか携帯型ゲーム機などをガッツリ持ってきたのに、美穂が黙々と勉強している。バルミィは「美穂の目の前で遊んでるのは申し訳ない」と気を遣って、日本史の教科書を読んで日本の文化を学んでいた。


「んぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!なんでなんでなんでなんでっ!!

 ミホ、頭おかしくなった!!?何で、ぉ勉強やってるのっっ!!」

「紅葉、うるさい!あたしは今、麻由が作った試験問題の攻略中だ!」

「うへぇぇ~~~・・・しゃ~ないなぁ~。

 なら、ァタシゎ、ミホの邪魔しないように、リビングでテレビ見てるね」


 肩を落とし、「1秒でも早くこの場から離れたい」って雰囲気を発しながら、リュックを引き摺って和室から出て行こうとする紅葉。しかし、世の中そんなに甘くない。


「はぁ?オマエ、何、悠長な事言ってんの?」

「紅葉もここに座って予想問題をやっていただきます!」

「んげげげっっ!!!」

「ずっと成績が低空飛行だった美穂に負けたら、シャレにならないばるよ!」

「はぁぅぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!」


 美穂の護衛をしつつ楽しい合宿をできると思ってたが、進級試験直前というとんでもない難敵が眼前に迫っていたのだ。まさか、両親に「勉強合宿をする」と言った嘘が、事実になるとは思っていなかった。


「持ち込んだゲームやマンガ本は、試験が終わるまで預かっておきますね」


 紅葉は麻由に引き摺られてテーブルの前に座らされ、予想問題の束を配られる。


「見たぃドラマあるから、1時間だけテレビ見てイイっ!?」

「ダメです。どうせ、内容の薄い下らないドラマでしょ?

 どうしても見たいのでしたら、録画しておくので、

 試験が終わってから見てください」

「んぁぁっ!?なら、10分でイイから気分転換にゲームをっ!!」

「気分転換とは勤勉の合間にするものです」

「うるさいぞ、紅葉!つべこべ言わず、観念して、サッサと予想問題しろっ!」

「ふぇ~~~~~~~~~~~~~~ん」


 前回の試験では、紅葉は102/240位、美穂は172/240位。熾烈な上位争いならともかく、中間層の102位と172位なら勉強の差で充分に逆転はできる。紅葉は、黙々と予想問題に挑んでいる美穂を眺めたあと、観念して気持ちを切り替え、自分の目の前にあるプリントの攻略を開始するのであった。


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