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29-4・ヴァルカンの情報~偽美穂逮捕

 美穂は、立ち止まってカーブミラーを見つめる。病院に居た時から“面倒臭そうな気配”は感じていた。


「あんまり会いたくないんだけど・・・

 サマナーのことは、インバージョンワールドの案内人に聞くしかないか。

 なぁ、鏡の中の男!ちょっと、聞きたいことがあるんだけど!」


 呼び出しに反応して、カーブミラーの鏡面が歪み、ファンタジー世界の魔法使いが着るようなローブを着た男が出現。過去(第3話参照)に、美穂にサマナーホルダを渡した男だ。


〈無様に、やられたな〉

「余計なお世話だ!その事で、アンタに聞きたい事があるんだよ!

 “ネプトゥー”ってなんだ!?あたしは、あんなカードは知らないぞ!」

〈風の力・マキュリー、

 水の力・ネプトゥー、

 地の力・セレス、

 そして火の力・ヴァルカン。

 サマナーに強大なる力を与える“神のカード”だ〉

「アンタがインバージョンワールドの管理者なんだよな?

 なんで、アイツ(エリス)に“神のカード”を与えたんだ?

 あたしに似せて、あたしと戦わせる魂胆は何だ!?」

〈俺が仕組んだワケではない。

 偶発的にオマエがインバージョンワールドに残した影に、

 別の意思が力を与えたのがエリスだ〉

「あたしの影?別の意思?・・・一体何の事だ!?

 そもそも、オマエは何者なんだ!?

 何でジャンヌはインバージョンワールドに入れる!?解るように説明しろ!」

〈・・・・・・・・・・・・・・・・・〉


 美穂の問いに対して、鏡の中の男は、しばらく無言で美穂を見つめる。そして徐に口を開いた。


〈俺の名はバルドル。

 ガーディアンがインバージョンワールドに入ったのは、

 異獣サマナーやアナザービーストと同じ根源ゆえ。

 4枚の“神のカード”のうち、2枚は失われた力。

 その1枚がエリスの手に入れたネプトゥーだ。

 ネプトゥーの所有者が出現する事は想定していなかった〉

「だったら、失われていない2枚はどうなったんだよ!?」

「1枚は、アデスが所有をしている」

「・・・アデス?」


 火車戦の時、突如、乱入をしてきて、美穂に戦術の必要性を説いた異獣サマナーがいた。そのサマナーは「アデス」と名乗っていた。


〈エリスに勝ちたくば、火の力“ヴァルカン”を使え。

 既にオマエは、そのカードを所持している〉

「・・・えっ?どこにっ!?」

〈だが、オマエが手にする前に忠告しておく。

 使えば、インバージョンワールドの真の戦いから逃れられなくなる。

 覚悟が無くば“神のカード”への深入りはやめておけ。

 覚悟があるならば、切り捨てようとしている過去の記憶を手繰り寄せろ。

 落花流水の先に“ヴァルカン”はある〉

「・・・なに?覚悟って?」

「俺は、オマエに、そこまでの期待はしていないがな」


 戸惑う美穂。バルドルと名乗った男は、踵を返し、美穂の前から立ち去っていく。黙って見送りそうになった美穂だが、まだ聞きたい事を全て聞いたワケではない。慌ててバルドルを呼び止める。だが、バルドルは立ち止まろうとはせず、「興味本位で首を突っ込んで良い世界ではない」「オマエが知る必要は無い」と言葉を残して、カーブミラーから消えた。


 知りたい事は沢山あったが、何も聞けなかった。「覚悟が無ければ“神のカード”への深入りはするな」と忠告されたが、そもそも「過去の記憶を手繰り寄せろ」と言われても、何の事だか全く解らない。結局、解ったのは、エリスが美穂の影って事と、火の力“ヴァルカン”は美穂の身近にある事だけ。

 美穂は、不満そうな表情を浮かべて、その場から立ち去っていく。


 その数分後、通過した直後のファミレスの窓ガラスに映った美穂が、現実世界の美穂を見つめて不敵な笑みを浮かべる。しかし、思考中の美穂は気付かない。




-1時間後-


 浴室で体を暖め終えた美穂が、ブラトップ&ハーフパンツの無防備な姿で、冷蔵庫にあったペットボトルのお茶を飲み、タオルに濡れた髪の水分を吸収させながらスマホを見て驚いた。

 文架署の夏沢雛子からの着信履歴が3件。愉怪のグループLINEで紅葉&麻由&バル&ジャンヌがヤリトリをしている。


  紅葉《ひなこから連絡来た?》 

  麻由《来ました》

  ジャンヌ《来ました》

  バル《こっちも》

  紅葉《どうする?行く?》

  麻由《行くしかないですね》  

  ジャンヌ《真奈の護衛があるので私は行けません》 

  バル《なら、真奈のことはジャンヌの任せて、ボクが行く》

  紅葉《美穂はどうしたんだろ?》

  バル《もう寝ちゃった?》

  麻由《ミーメさん、申し訳ありませんが、迎えに来ていただけますか?》

  バル《了解》  

  紅葉《やばっ!自転車、リバサイだ!バルミィ、迎えに来て!》

  バル《了解、麻由の次にね》


 雛子からの留守録には、切迫した声で「何をしている?」「電話に出ろ」「今すぐ電話をよこせ」のメッセージ。リバサイ鎮守の爆発に真奈が巻き込まれた事件が雛子の耳に入って、詳細説明を求めている?いや、違う。事後報告程度なら、雛子は紅葉達には連絡をしない。何か事件が発生したのだ。

 バルミィに連絡をしてみたら、既に皆、文架警察署に集まっていた。美穂も紅葉と同じで、原チャを学校近くのスーパーに置いて来たので、バルミィに迎えに来てもらって文架警察署に向かう。


 道中、文架大橋の上空を通過したところで、車が数台横転して通行止めをされているのが見えた。衝突事故や爆発が原因ではなさそう。まるで車数台が纏めて吹っ飛ばされて転がったような状況だ。


「バルミィ・・・夏沢さんの呼び出しの原因はこれか?」

「ばるっ!こればるよ!

 容疑者は、もう一人の美穂っぽいばる。

 細かいことは、警察に行って聞くばるよ!」




-文架警察署-


 文架大橋に設置された観測カメラの映像を見た美穂は言葉を失った。カメラ目線でVサインをする美穂が映っている。ソイツは、カメラに存在をアピールしたあと、欄干から川を眺めて合図をした。その直後、橋の下から黒鳥モンスター=ジャークスワンが出現して、羽ばたきで強風を発生させ、通行中の車数台が吹っ飛ばされて転がった。


「この映像に映っている子、どう見ても桐藤さんよね?」


 堂々と手掛かり(映像)を残して、他人を巻き込み、美穂の神経を逆撫でするという丁寧な嫌がらせだ。

 戦ったばかりなので、しばらくは襲撃は無いと甘く判断してしまった。だが、美穂は自分の思考を理解すれば解ることだ。美穂がヤツだったら、標的の首を真綿で締めるようにジワジワと追い詰めるだろう。

 映像に記録された時間は美穂の帰宅中だ。アパートに帰って、浴室に入った時には、鏡に美穂の姿は映っていた。そして、今も、美穂の姿は鏡に映っている。


「どういう事なのか、説明をしてもらえないかしら?」

「やれやれ・・・面倒なことになってきた。実は・・・・・」


 本日の出動は、真奈の保護が目的で、成り行きで戦闘になった(しかもインバージョンワールド内)ので、雛子への報告はしなかった。キチンと報告をして、雛子が把握をしていれば、ここで呼び出される事は無かったのかもしれない。

 いや、違う。ヤツは「報告を怠った」のを承知の上で、その判断がミスになるような“雛子が把握できる事件”を発生させたのだ。

 雛子は、美穂が説明をしている間、ひたすら、美穂の眼を見つめていた。そして、説明が終わったと判断して口を開く。


「貴女たちの正体を知る私以外が、この映像を見ても、

 お調子者の女の子が、観測カメラの前で騒いだ直後に、

 怪事件に巻き込まれたようにしか見えないでしょうね」

「だったら、お咎め無し?」

「いいえ、それは無理ね。

 私は、女子高生の空想話を真に受けるほどおバカさんではないわ!

 鏡の中から桐藤さんに偽者が出現したなんて都合の良い作り話を、

 私が信じるとでも思っているの?」

「・・・え!?」

「貴女は重要参考人です!容疑が晴れるまでは、署内で拘束させてもらうわ!」

「ちょ、待って・・・夏沢さん!」

「そんなっ!」 「美穂の疑いが晴れてないばるっ?」 「ミホが犯人っ!?」


 雛子が合図をすると同時に、取調室の外で待機をしていた秋川と春室が飛び込んできて、抵抗する美穂を瞬く間に取り押さえて、強制的に引っ立てていく。紅葉&麻由&バルが、慌てて美穂のフォローをするが、一切聞く耳は持たず、「邪魔をしたら公務執行妨害で逮捕する」と忠告して退かせる。

 美穂は秋川と春室に引っ張られて、窓一つ無い狭い部屋に放り込まれて、外側から扉を施錠されてしまった。


「ちょっと待って!なんであたしが!!」


 扉を叩いて釈放を求める美穂。扉に付いた小さな監視用の窓が開いて、雛子が美穂を睨み付ける。


「ここは、監視カメラで、貴女の行動を24時間、見張り続けることができます。

 少しでもおかしな動きをしたら全て記録されるから、温和しくしている事ね」

「ふざけるなっ!あたし達のこと信用してくれてると思ったから話したのにっ!」

「ガッカリしたのはお互い様ね。

 貴女が、あんな下らない作り話で誤魔化そうとするなんて思っていなかったわ」


 監視用の小窓が雛子の手で閉じられる。その後しばらくは、紅葉達が外で騒いでいたが、「無関係の者は帰れ」と追い散らされ、やがて廊下からは誰の気配も無くなった。

 美穂は怒りで振り上げた拳を床に思い切り叩き付ける。そして、扉のノブに映る自分を睨み付けた。


「・・・・・・・・・・・・・・・え?」


 鏡面のノブに美穂の姿が映っていない。周りを見回して、他の“映る物”で姿を確認するが、どの“映る物”にも、美穂の姿は映っていない。

 奴は、美穂が取調室から留置場に運ばれる間に、別行動を始めたのだ。




-警察署前の駐車場-


 署内から追い出された紅葉&麻由&バルが途方に暮れていた。力尽くで美穂を脱獄させるのは簡単だが、さすがにマズいだろう。雛子のあの剣幕では、美穂が直ぐに釈放される可能性は低そうだ。だからって美穂を置いて帰るってのは気が引ける。

 麻由は、困惑と同時に、雛子の行動に違和感を感じていた。美穂は所有物を没収されていない。つまり、サマナーホルダは持ったままで留置場に放り込まれた。美穂が変身できることを把握している雛子が、そんなミスをするだろうか?雛子は、わざと所持品没収をしなかった?脱獄をさせるつもり?だが、そんなことをしたら、美穂は指名手配をされてしまう。

 麻由には、「雛子は美穂を拘束する気が無い」けど「捕まえた」としか思えない。何の為に、そんな矛盾する行動をしたのだろうか?


「んぁっ!?」 「えっ!?」


 紅葉と麻由が同時に僅かな気配を感じた。この、解りにくい気配は、数日前から何度か経験している。この気配の直後に、美穂が関与をしていない美穂絡みの事件が発生している。つまり、偽美穂が現実世界に出て動き出す兆しだ。




-署内-


 廊下を歩く雛子の周辺で不愉快な気配が漂う。雛子は「何事か?」と周囲を見回して、真横の窓ガラスで視線を止めた。ガラスに映る自分の隣に美穂が映っている。直ぐに周囲を確認するが、雛子の隣に美穂はいない。だが、鏡の中にだけは、美穂の姿がある。


〈あたし、本物のあたしから離れてられるの、時間制限あるからさ、

 本物のあたしが動けないと、あたしも動けなくなっちゃうんだ。

 だから、拘束は困るんだよね〉

「桐藤・・・さん?」

〈うん、あたしは桐藤美穂。ただし鏡の中のね。

 紅葉達は、飼い慣らして四天王にしてあげるつもりだけど、

 アンタは小煩いから要らないや。だから、死んで!〉


 鏡像の美穂は、窓ガラスの中でサマナーホルダを翳し、黒いネメシス(エリス)に変身!エリスレイピアを装備して、ガラスの中から、現実世界に侵入してくる!そして、切っ先を雛子に向けた!


「秋川君!今よ!!」

「はいっ!」

「なにぃっ!?」


 赤い腕が伸びてきて、実体化をしたエリスの手を掴んだ!赤ザックトルーパー(秋川)だ!雛子の指示で隠れて待機をしていた赤ザックが、窓の中からエリスを引き摺り出して、力任せに床に押さえ付ける!更に、緑ザック×5が押し寄せてきて、エリスを押さえ付ける!エリスは藻掻いて脱出を試みるが、ザック隊6人がかりでは振り切ることができない!


「賢しいアナタでも、私にハメられることは、想定していなかったみたいね」

「・・・ぐぅぅぅっっ!」

「秋川君、その子は人間ではないらしいから、

 多少は粗っぽく扱っても大丈夫らしいわよ!」


 赤ザック(秋川)が、雛子の指示を受けて頷き、エリスにに、電磁警棒を押し当てた!


「うわぁぁっっっっっっっ!!!」


 電流を浴びたエリスは、全身が硬直してコンマ数秒間だけ体が動かなくなる。雛子にとっては、そのコンマ数秒の隙で充分だった。事前に準備をしていた暗幕をエリスに被せ、ザック部隊が、エリスをグルグル巻きにする。これで、エリスは鏡の向こう側の使役モンスターに指示を出したり、ガラスの中に逃げることはできなくなった。

 暗幕の中で暴れるエリスをザック部隊が担いで、窓一つ無く、備品が全て撤去され、電灯すら外され、天井に暗視用の監視カメラのみがある部屋に放り込む。扉を閉めて施錠すれば室内は真っ暗。光が無いので反射が発生せず、映る物が存在しなくなり、エリスはインバージョンワールドに一切干渉できない。


「ぐぅぅぅぅっっっ!!!夏沢雛子、マジでムカ付くっ!マジでウゼェっ!」

「ふん!それは、褒め言葉として受け取っておきましょう」




-30分後-


 部屋の中で大の字に寝転んでいた美穂が釈放をされる。雛子が直々に美穂の留置室の施錠を解いてくれた。特に取り調べの追加も無く、30分間、閉じ込められていただけ。何故、こんな簡単に釈放されたのか美穂は解らない。


「あ・・・あの・・・どうなってるの?」

「貴女の情報を総合的に分析した結果、貴女を監視できる状態で閉じ込めれば、

 それでは困る貴女の偽者が、貴女を自由にする為に動き出すと判断したのよ」

「・・・・へ?なら、あたしの偽者は?」

「私に誘き出されて、捕縛されて、今は真っ暗な留置場の中よ。」

「あたしを拘束したのは、偽者を捕まえる為の作戦?」

「まぁ、そういう事ね。

 尤も、貴女に作戦を伝えてしまうと、

 偽者は、貴女を脱獄させる為の動きしかしなかったでしょうね。

 私を囮にして誘き出すには、貴女と仲違いをして、

 貴女にも、偽者にも、私が目障りと思わせる方が確実だったの。」

「だから・・・あんな、聞く耳を持たない演技を?

 ・・てゆか、ホントはあたしの言ったの信じてくれてたんだ?」

「信じがたい話だったけどね、

 貴女が嘘や空想話をしていないことくらい、眼を見れば直ぐに解るわ。

 しかも、偽者の行動中は、貴女のアリバイは、監視カメラが証明してくれた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「偽者がいると、貴女の姿は鏡に映らないんだっけ?

 まぁ不便でしょうけど、しばらくはガマンしなさい。

 偽者に好き勝手に動き回られるよりはマシでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか・・・スゲー」


 美穂は、いとも簡単に偽者を拘束した雛子のことを恐ろしく感じる。本物の美穂も、鏡像の美穂も、思考はそれほど変わらない。普段は策士気取りの美穂だが、雛子がその気になれば、赤子の手を捻るように策に絡め取られるということだ。

 だけど、今日に限っていえば、その恐ろしさが頼もしく感じられる。偽者が一泡吹かされたのは気分が良い。

 美穂は、事情を知ってロビーで待っていた仲間達と合流してハイタッチで再会を喜び、そろって帰路につく。

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