29-3・ゲンジとセラフの鏡攻略
-十数分後-
真奈の付き添いでジャンヌが病室に残り、屋上には真奈防衛の為にバルミィが待機をする。
美穂は本心では真奈に付き添ってやりたいが、「自分が傍にいることで、真奈を巻き込む可能性が高い」と判断をして、紅葉&麻由と共に帰宅をする。病院を出たらスッカリと日が落ちていた。
「ねぇ・・・ミホもマユも、チョット付き合ってよ。試したいことがあんの」
紅葉が、美穂と麻由の腕を掴んだ。勝ち負け以前に、インバージョンワールドに入れず、戦いに参加すらできず、美穂の敗退を待つことしかできなかったのが余程悔しいようだ。
麻由は病院前から路線バスに乗るつもりだったが、紅葉の真顔を見て応じる。美穂も同意をした。3人はしばらく歩いて、ひとけの無くなった鎮守の森公園に入り、紅葉がカバンの中からコンパクトミラーを取り出して地面に置く。
「ねぇ、ミホ、ねぇ、マユ、ちょっと試してみたぃから、見ていてっ!」
紅葉は、妖幻ファイターゲンジに変身をして、Yスマホに指を滑らせて『うんがいきょー』『合体』と書き込む。雲外鏡が召喚されてゲンジと重なり、基本の姿は変わらないが、頭にタヌキ耳が生えて腹に鏡が出現。【ゲンジ・たぬきフォーム(以後、たぬきゲンジ)】にフォームチェンジして、雲外鏡の戦闘行動をイメージする。
「んんん~~~~~~っっ!!!とえぇぇぇぇっっっっっっっっっっっ!!!!」
たぬきゲンジは、腹にある鏡に気合いを溜めて、地面に置かれた小さな鏡に向かってダイビング!そのまま鏡を踏み潰すかと思ったが、鏡の中に吸い込まれていった。
「えっ!?紅葉が鏡の中に?」
「あのバカ!無茶しやがって!」
麻由はゲンジが妖気を高めて何かをしようとしていた事は解っていたし、美穂は雲外鏡はインバージョンワールドには入れることを知っている。だが、何をやるかも告げず、いきなり鏡の中に入るとは思っていなかった。
「あのバカ、鏡の中から出られなくなったら、どうするつもりだ?」
美穂が慌ててネメシスに変身をして、ゲンジの後を追ってインバージョンワールドに飛び込む。
-インバージョンワールド-
ネメシスが到着をしたら、たぬきゲンジ(紅葉)が突っ立って物珍しそうに周囲を眺めていた。たぬきゲンジの視線の先では、遠くに見えるリバーサイド鎮守の看板の文字が左右反転をしている。
「へぇ~?全部反対の世界なんだ?」
「無事・・・か?」
「んぁっ?」
ゲンジの体からは、粒子化現象は起きていない。ネメシスは安堵の溜息をつく。雲外鏡の能力で、インバージョンワールド内での生命の維持が出来ているようだ。
「ミホゎ10分くらい、鏡の中に居られるんだっけ?」
「ん?あぁ・・・サマナーは・・・な」
「ん~~~~~~~~~・・・あたしの場合、保って5分くらいかな?」
「解るのか?」
「んっ!この中に居るだけで、
妖力がすっごい減ってくのが解るょ。
きっと、戦えば、5分くらいで腹ぺこになっちゃうね」
「そっか。なら、大技を連発したら、2~3分が限界ってところだな。
オマエがインバージョンワールドに入れるって解っただけでも収穫だ。戻ろう」
「んっ!」
たぬきゲンジとネメシスは、地面に置いてある鏡に飛び込んで、現実世界に戻る。
-数分後-
「やぁぁっっっ!!!」
今度は、雲外鏡を借りたセラフ(麻由)が、タヌキのキーホルダーを握りしめて、鏡の中にダイビングをする!
ドカァッッ!パリィン!
ゲンジみたく腹に鏡が出現しなかったので「ダメじゃね?」と思っていたけど、案の定ダメだった。
「いったぁ~~~~~~~~~~~~いっっ!」
勢い良く鏡に飛び込んだセラフは、鏡を通過することなく、頭突きで鏡を割り、両手で顔面を押さえて悶絶している。
「ありゃぁ~・・・ァタシの鏡、割れちゃったぁ。
100均で買ったヤツだから、まぁイイけど」
「へぇ?紅葉と麻由は同じような性能かと思ってたけど、特殊能力は違うんだな。
妖幻ファイターと聖幻ファイターの違いってヤツか?
そういや、紅葉は妖怪の能力をフォームチェンジでダイレクトに使うけど、
麻由の場合は武器に妖怪の能力を付加していたっけ」
「わ、私にだって、インバージョンワールドを攻略する方法があるはずです!」
セラフは「ゲンジより性能が劣る」と認めたくないので、自分のカバンの中からコンパクトミラーを出して地面に置き、今度は薙刀の柄にタヌキのキーホルダーを引っ掛けて理力を充填して、鏡の中に突っ込んでいった。すると、薙刀の先端がスッと鏡の中に入った。薙刀の柄を中心にして、水面に発生するような波紋が鏡の中に広がっている。だが、それだけ。セラフがいくら力を入れて押し込んでも、薙刀の後ろ側半分は鏡の中には入らない。これでは、鏡の前に立っている敵しか倒せない。
「麻由の能力だと、これが限界みたいだな」
「・・・くっ!まだ、何か方法があるはずです!少し時間を下さいっ!」
「次ゎ何すんの?」
「麻由の、躓いた途端に視野が狭くなる悪癖がモロに出てんぜ。
そういや、前から、紅葉に対しては変な対抗意識を持っていたな」
紅葉は期待をして、美穂は溜息を付いて、セラフを見守る。
セラフは鏡から薙刀を抜いて、その場にしゃがみ込んで独り言を呟きながら思案を始めた。セラフでは、ゲンジのように妖怪の能力を借りたフォームチェンジは出来ない。
出来ないことを悩んでも仕方がない。セラフに出来るのは、武器を半分だけインバージョンワールドに入れられる能力を、どう応用するかになる。
「そ、そうだ!武器の持つ能力を増幅できればっ!」
何かを閃いたセラフは、立ち上がって、コンパクトミラーを見つめ、呪文を唱え始める。そして、手で印を結び、目の前に曼荼羅を出現させた。
「もしかしたら、曼荼羅を通して雲外鏡の能力を増幅させれば、
インバージョンワールドに飛び込めるかもしれません!」
セラフは、薙刀を曼荼羅の中心を通して、再びコンパクトミラーを狙ってみた!薙刀の切っ先が曼荼羅を通過すると同時に、薙刀がドクンと鼓動を打ち、これまでとは違う手応えが伝わる!セラフの理力が、薙刀に奪われるようにして、急速的に消耗していく!
しかし、結果は同じ、薙刀は半分だけインバージョンワールドに入ったところで止まり、いくら力を入れても、それ以上はインバージョンワールドに入らない。
ただし、コンパクトミラーは、鏡全体が乳白色化をして歪んでいる。
「・・・おいおい、まさかこれって?」
黙って見守っていた美穂が、目を大きく見開いて立ち上がった。今の“鏡の歪み”は、ネメシスに変身する時の鏡の状態に似ている。「そのまま維持しろ」と指示をして、コンパクトミラーに近付き、恐る恐る鏡面を触れてみる。
「マジかよ?」
手が歪んだ鏡の中に入る。美穂は自分の手足を見て確認をするが、今はネメシスの姿ではなく、間違いなく生身の美穂のままだ。鏡の中に入れるわけがない。しかし、セラフが発生させた歪みに、手を入れることが出来る。
「なぁ、麻由。オマエ、とんでもない事をしているのかもしれない。
もう一回、同じ事できるか?
ただし今度は、こんな小っこい鏡じゃなくて、公園の真ん中にある池で」
「同じ手順を踏めば可能ですが、何故、池で?」
「もっとでっかい“映る物’”で試してみたいんだよ!」
「は、はい、解りました」
紅葉&美穂&セラフは、公園内にある鎮守池の畔に立つ。月明かりや外灯に照らされ、水面は鏡のように紅葉達の姿を映している。美穂の指示で、再びセラフが曼荼羅を発生させて、雲外鏡の能力を有した薙刀で水面を突いてみた。薙刀の切っ先側半分が、先程と同じように水面を通して向こう側の世界に入る。そして、水面には乳白色の歪みが発生している。
「麻由は、もうしばらく、今の状態を維持。
紅葉は変な好奇心に煽られずに、この場で待機!いいな!」
「ん?なんで?コーキシン??」
「イイから、言うことを聞け!
あたしの勘が間違ってたら、取り返しのつかないことになるから、
絶対にそこから動くな!」
「ん~~~~~~よくワカンナイけど、解った」
美穂は、池の歪みを見つめて息を飲み、勢い良く池の中に飛び込んだ!
「んぁぁっ!?」 「え!?美穂さん!??」
池に飛び込んだ美穂の体は、水飛沫も水音も立てず、歪みの中に消えていく。
-インバージョンワールド-
「マジかよ?」
池の畔で美穂だけが佇んでいる。池には歪みが発生して、その中心に、セラフ(麻由)の薙刀の切っ先側半分だけが突き出している。
周囲を見回すと、全てが反転していて、此処がインバージョンワールドということを証明している。念のために、手足を眺めて確認するが、生身の美穂のままだ。しかも、粒子化現象は発生していない。
セラフは、雲外鏡の能力を曼荼羅で増幅させて、現実世界とインバージョンワールドを繋げたのだ。おそらく、曼荼羅が結界の効果も機能させている為、一定の範囲内ならインバージョンワールド内での生命力の消耗(消滅)からも守られている。
「アイツ(麻由)、スゲー事をやってくれるなぁ。
偶然の産物なんだろうけど、たいした才能だ。
まぁ・・・褒めると調子に乗りそうだから、
アイツ(麻由)の前では褒める気は無いけどさ」
美穂は、池に出来た歪みを眺めて再び飛び込んだ。
-現実世界-
池に出来た歪みから飛び出して畔に着地をした美穂が、今度は待機をしていた紅葉を手招きする。
「付いて来い、紅葉」
「んぁっ?」
美穂は、セラフに「維持」を指示して、紅葉を連れてインバージョンワールドに飛び込み、1分ほどして、2人揃って現実世界に帰還をしてきた。
「んぉぉぉぉっっっっ!
フツーにインバージョンワールド行けたっ!すげー、マユすげー!」
「お疲れっ!もう技を解いていいぞ!」
変身を解除して、疲れた表情で近くのベンチに腰を降ろす麻由。その隣に美穂が腰を降ろす。
「今の技、どれくらいの時間、維持できる?
今ので、だいたい5分くらいは続けていたよな。」
「そうですね。体感としては、10分くらいでしょうか。
でも、私自身が入れないのでは意味がありませんね。」
「いやいや、オマエ以外が全員は入れるなら、充分に価値が有る」
池の畔では、「麻由スゲーんじゃね?」って空気に対抗意識を燃やした紅葉が、歪みが無くなった水面を眺めている。セラフがやったことを思い返してゲンジに変身!薙刀を装備して、タヌキのヌイグルミを括り付け、八卦先天図を発生させ、薙刀で思いっ切り突いた!
「とぇぇぇぇっっっっっっっ!!!」
セラフの時と同じように、水面が歪んでインバージョンワールドと接続・・・はされず、八卦先天図を経由して威力が増幅された突きが、水面を貫いて池の底を抉る!ただ単に、超火力で池を攻撃しただけ!泥と水が上空に押し上げられ、冷たい集中豪雨となって辺り一面に降り注いだ!
「きゃぁぁっっっっっっっっ!!!」×2
変身中のゲンジはともかく、状況を眺めていた美穂と麻由は一瞬にして下着までズブ濡れになってしまった。美穂が肩を怒らせて立ち上がり、マスクの下で紅葉の顔が青ざめる。
「紅葉のどあほぉぉぉぉっっっ!!!」
「ひぇぇぇぇっっっっっっ!!!」
美穂の怒りのラリアットがゲンジに炸裂!吹っ飛ばされて池に落ちるゲンジ!
真冬の日没後に、全身ズブ濡れは寒すぎる。本日の特訓はこれにて終了。美穂は、池ポチャをしたゲンジを振り返ろうともせず、戸惑う麻由の手を引いて帰って行くのであった。
「ふぇ~~~~~ん・・・ミホ~、マユ~、ゴメ~ンっ!」
「あ・・・あの・・・美穂さん、紅葉がまだ・・・」
「気にしない!
ちっと、池の中で頭を冷やして、自分の得手不得手を考えろってんだ!
それに、アイツの家は此処から近い!
ズブ濡れのまま、しばらく歩かなきゃならない、
あたし達に比べればはるかにマシだ!」
何故、麻由と同じ事が出来ると思った?紅葉には、同じ事が出来なかった場合、池の水を吹っ飛ばすことになるって発想は無かったのだろうか?
「ハックションっ!うぅぅ・・・寒っ!」
「試験前の大事な時期ですから、風邪を引かないように気を付けてくださいね」
「オマエもな。
紅葉に池の水をぶっかけられて風邪を引いて、
トップから陥落なんて、笑い話にもならんぞ。」
文架大橋の東詰で麻由と別れたあと、美穂は寒さで震え、自宅アパートに向かって歩きながら今回の特訓を振り返る。同じ行動をしたつもりでも、紅葉と麻由では大きな違いがある事が改めて解った。元々、紅葉は攻撃特化&接近戦主体で、本能的に動くかわりに小手先の技術は苦手。麻由はサポート&遠距離攻撃主体で、技術力はあるが慎重すぎて行動が遅い。
そもそも、ゲンジとセラフの差は何なんだろう?単純に、性能の差なのか、それとも性格で差があるのか?紅葉は「やる」か「やらないか」で物事を判断するから、最初から「出来ない」事は考えない。麻由は「できる」か「できない」で判断をするから「できなかった時」のリスクばかりを考えてしまう。反面、麻由はリスク管理が上手く「理力のコントロール」に長けているが、紅葉は常に「妖力を全開」で消耗させる。
雲外鏡の能力を発現させた場合、ゲンジは自力でインバージョンワールドへの出入りが可能だが時間制限がある。ジャンヌの場合も同様で、真奈を著しく消耗させてしまう。セラフは現実世界とインバージョンワールドを繋げる結界を発動させることが可能だが本人は入れない。一長一短なので使い処を選ぶ必要があり、インバージョンワールドに関しては、異獣サマナーの性能が最もバランスが良いようだ。
「紅葉の才能と麻由の才能、戦術的に使えば、かなり有効だな。・・・だけど」
もし、美穂がインバージョンワールド内でゲンジと戦う事になった場合、必ず、正面からぶつかることを避けて、ゲンジのタイムリミットを待つだろう。挑発して逃げ回る戦いなら、ゲンジはそれほど怖い相手ではない。
セラフが結界を作った場合は、ゲンジ&バルミィ&ジャンヌがインバージョンワールドに入って来るので一見するとかなり厄介だが、インバージョンワールド進入組を無視して結界に集中して戦えないセラフを先に叩けば、ジャンヌ以外は現実世界に戻ってくる術を失い、揃って消滅をする。便利な代わりに、一つミスれば全滅をする、恐ろしくリスクの高い作戦だ。
「あたしが、アッサリと思い付くくらいだから、
当然、偽者のあたしだって思い付くだろうな」
紅葉と麻由が「戦う手段」を発見してくれたおかげで、敗北直後に比べて、だいぶ気が楽になった。特に、紅葉の「悩むより行動する」スタンスには、精神的に、かなり助けられる。
だけど、肝心な“敵”のことは、まだ解らない。ジャンヌがインバージョンワールドに入れた理由も曖昧なままだ。




