29-2・援軍ジャンヌ
-リアルワールド・文架総合病院-
「むぅっ!?ミポリンがっ!」
ジャンヌが、別の世界で発生しているネメシスの戦闘を漠然と感じ取る。不思議な感覚だった。ジャンヌ自身、何故、別の世界の事が感知できるのか解らない。
「どぅしたの、ジャンヌ?」
「何か気になる事でもあるのですか?」
合流した紅葉と麻由は、インバージョンワールドで発生している事を感知できない。美穂の帰還を待ちながら、ジャンヌの動揺を感じて心配をする。
「い、いえ・・・別に」
意識を取り戻した真奈が、上半身を起こしてジャンヌを見つめる。
「美穂さんの心配をしているんだね。
ジャンヌさんの意識が、私にも伝わってくるよ」
「起きても大丈夫なのですか?」
麻由が、心配して寄り添おうとするが、真奈は「大丈夫」と手で制する。
「説明して、ジャンヌさん。美穂さんの何を感じ取ったの?」
「・・・そ、それは」
ジャンヌは、ネメシス(美穂)が、ネメシスに似た物に一方的に押し負けている事を説明する。
「確証は無い。何故、こんなビジョンを感知したのか解りません。
ただの思い過ごしかもしれない」
ジャンヌは一定の訂正をするが、真奈の意識の中に流れ込んでくるジャンヌの意識は、不安でいっぱいだ。
真奈は鏡像の美穂に直接襲われた。アレは美穂と同じくらい機転が利くが、美穂とは違って残酷さのリミッターが解除されているように感じた。美穂がアレと戦っているなら、容赦が無いぶんだけ美穂を上回るように思える。
「ジャンヌさん・・・命令権って、私以外を助ける為にも使えるのかな?」
「マスターの指示ならば、救助の対象が誰でも使えますが、それが何か?」
「試してみても良い?鏡の向こう側の世界でも助けに行けるかどうか?
美穂さん以外は、鏡の世界には入れない。
でも、ジャンヌさんが命令権で入れるかどうかは試した事が無い。
ダメだったとしても、『入れないだけ』だから、試してみるくらい良いよね?」
「・・・マスター」
確かに、真奈が言う通り、インバージョンワールドに入れなければ、「入れないという事実」が解るだけで話は終わり。特殊生命ゆえに、何らかの理由で入れたら儲け物。仮に入ったきり出られなくなったとしても、次の命令権で脱出すれば良い。ジャンヌにとって、真奈の提案に不利益は無い。
「ですが、マスター!?既に消耗した状態で、また、命令権を使うのですか!?
貴殿は、私を呼ぶ為の命令権の酷使で、意識を失っていたのですよ!」
「ジャンヌさんの予感が正しければ、今は、そんな事言ってられないよ。
私がカラッポになって、麻由ちゃんの生命力がジャンヌさんに供給されて、
迷惑をかけるかもだけど・・・許してね」
「わ、私は問題ありませんが・・・」
真奈の発言に対して、麻由が応じて頷く。続けて、紅葉も「試してみよう」と頷き、最後に、真奈の決意を受け取ったジャンヌが頷く。真奈は、ベッドに座ったまま、ジャンヌに掌を向けて、意識を集中させる。
「熊谷真奈の名の下に命じます!ジャンヌさん、鏡の世界の美穂さんを助けて!」
命令強制権発動!途端に、病室の窓ガラスが乳白色に濁った!ジャンヌが恐る恐る窓に触れると、手が通過して“窓の向こう側の世界”に入る。
-インバージョンワールド-
体力も策も尽きたネメシス(美穂)は立ち上がる事も出来ない。
「あははっ!アンタはあたしだから、考えてることが解るよ!
力の差が歴然としすぎて、抵抗しても無駄って解っちゃったんだね!
だったら、そろそろ終わらせてあげる!」
「・・・くっ!」
「だけど、安心して良いよ!
“あたし”と仲良しの紅葉達は、あたしの四天王って事にでもして、
今までと同じように駒としてコキ使って使ってあげる。
仲間達と一緒に世界の頂点に君臨できる。悪い話じゃないでしょ?」
エリス・ネプトゥー(鏡像の美穂)が黒鳥の描かれたサマナーカードを翳すと、ネプトゥースワンが飛来!ネメシスの向かって羽ばたくと、ネメシスの周りの地表が凍りついて氷が迫り上がり、ネメシスの太股~膝くらいまでを氷漬けにした!
「動けないっ!」
ネプトゥースワンがバイクに変形!飛び乗ったエリス・ネプトゥーがアクセルを捻って、ネメシスに突進開始!スワンバイクの周りで幾つもの氷柱が発生して、動けないネメシスに向かって飛んできて、ネメシスを氷り漬けにする!
必殺技・ブルーインパルス発動!スワンバイクが高速で突っ込んでくる!
「これで終わり・・・か」
戦いに身を置いている以上、いつかは、こんな日が来る覚悟はしていた。恐怖は感じなかったが、まさか、自分の偽物に倒されるなんて予想していなかった。
ネメシスは「案外呆気ないものだった」と諦め、マスクの中で目を閉じる。
「はぁぁっっ!!テュエ・ディユ・セルパン!!!」
上空から、蛇のように伸びる光が降りてきて、ネメシスの足を拘束していた氷を粉砕!ネメシスは崩れ落ちて地面に両膝をつく。光蛇は、軌道を変えて、今度は、突進してきたスワンバイクに向かって伸びていく!
「チィィッ!」
ハンドルを切って、辛うじて回避するエリス・ネプトゥー!そこへ、マスクドジャンヌが駆るユニコーンバイクが突っ込んで横から体当たりをした!弾き飛ばされたスワンバイクは横転して、エリス・ネプトゥーが投げ出される!
ユニコーンバイクはネメシスとエリス・ネプトゥーの間に入り、オラクルフラッグを持ったジャンヌがバイク上で構えた!エリス・ネプトゥーは起き上がり、ジャンヌを睨み付ける!
「真奈の命令権かっ!
ガーディアンがインバージョンワールドに入って来るなんて聞いてないぞ!
くそっ!・・・やはり、真奈の息の根を止めておくべきだった!」
「マナもミポリンも、私が守る!」
援軍が来るなんて予想していなかった。ネメシスの心を折るのに、余計なエネルギーを使いすぎてしまった。残量では、ジャンヌを退けるのは難しい。
「ちぃぃっっ!」
エリス・ネプトゥーの合図で、ネプトゥースワンがバイク形態からモンスター形態に戻って空中で羽ばたき、ジャンヌに向けて無数の氷柱を飛ばす!ジャンヌは、オラクルフラッグから魔力を放出して氷の刃を相殺!
「・・・むぅ?」
その間にエリスは消えていた。連戦を拒んで逃げたようだ。ネメシスを退けたジャンヌが、ネメシスに駆け寄る。
「な、何で、ジャンヌがここに?」
「マナの指示です。マスターの命令権ならば、私は鏡の世界に入れるようだ。
さぁ、人間界に戻りましょう」
ネメシスは差し出された手を掴んで、脱力した体に鞭打ってどうにか立ち上がる。
-インバージョンワールドの文架大橋-
鏡像の美穂が苛立ちながら歩いていたら、橋の手摺りに腰をかけて、足をブラブラとさせながら待ち伏せる美少年がいた。
「やぁ、お疲れ様」
「姿は変えてるけど、その気配と口調・・・あんた、天狗だなっ!」
「正解!だけど、人間に化けてるんだから、今は天狗とは呼んで欲しくないなぁ」
人間の姿の時は、そうだな~・・・なんて名前にしようか?」
「ふんっ!下らない!あんたの呼び方なんて何でも良い!」
「気は済んだかい?約束通り案内してもらうよ。」
「見て解るだろっ!気は済んでない!
余計な邪魔者のせいで、あたしは、まだ実体を手に入れていない!」
「なら“あの人”が眠っている場所に案内してくれるって約束は?」
「もう少し待て!」
鏡像の美穂は、美穂を殺す気は無い。心を折った上で、鏡像の美穂が精神的に有利な状況で融合をして、実態を手に入れるつもりだった。天狗を信用していない彼女は、自分の目的を達成する前に天狗の約束を果たして、用済み扱いされる事を警戒している。
「仕方ないなぁ。
まぁ・・・僕は、そんなに急いでいるワケじゃないから、
もうしばらくは待ってあげるよ。
だけど、僕の上司は気が短いから、僕が催促をされる前にしてくれよ」
「・・・ふんっ!」
鏡像の美穂は苛立ちながら立ち去り、彼女を見送った少年は穏やかに微笑んでから手摺りに座ったまま後傾姿勢になって、自ら山頭野川に落下。少年が念じると川面が乳白色に濁り、水飛沫を上げずに川面を通過する。
-リアルワールド・文架大橋-
乳白色に濁った川面から少年が飛び出してきた。背から翼を広げて飛び上がり、文架大橋上の照明灯の上に着地をする。そして、しばらく文架市の風景を眺めた後、再び翼を広げて空高く飛び去っていった。
―文架総合病院・病室―
「う・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・?」
「ぁ、気がっぃたっ!」 「美穂さん」 「ミポリンっ!」 「大丈夫ばるか?」
美穂が目覚めたら、殺風景な白い天井が映り、続いて真奈以外の仲間達が近寄って覗き込む。相当消耗していたらしく、インバージョンワールドでジャンヌに助けられた後、どうやって戻ってきたのか全く覚えていない。横を見たら、隣のベッドでは、疲れ切った真奈が熟睡をしていた。
「ま、真奈は?」
「覚えていないのですか?」
「美穂がジャンヌに連れられて戻ってきたのを見た途端に、
力尽きて眠っちゃったばるよ」
「ミポリンを救う為に、残り僅かな体力で、命令権の酷使をしたからな。
体力の限界を迎えたのです。しばらくは眠らせておきましょう」
「マナ、ミホの事を心配して、スッゲー頑張ったんだよっ!」
「・・・そっか」
自分と真奈が死なずに済んだ事に安堵をする。だが、お粗末な結果だ。悔しくて仕方がない。
エリス(鏡像の美穂)を策略でハメたつもりだったのに、ものの見事にしてやられた。真奈が襲われた報復のつもりだったのに、窮地に陥って、真奈に助けられた。
「私が鏡の中に入れた理由も気になりますが・・・
それは追々、確認をするとして・・・」
「先ずは、美穂。何がどうなっているのか、説明をして欲しいばる」
困憊の美穂を休ませてやりたいが、それほど悠長にしていられないことは、皆が察している。
美穂自身、「放って置いてくれ」と拗ねている状況ではない事は把握している。しばらくは、怒りで拳を振るわせていたが、眠っている真奈を見つめ、紅葉&麻由&バルミィ&ジャンヌを見廻して、どうにか落ち着きを取り戻そうと何度も深呼吸をした。
-数分後-
「かくかくしかじか・・・こ~ゆ~ワケで・・・」
美穂と同じ姿で美穂の思考を持つ“鏡像の美穂”が出現をした。
“それ”はインバージョンワールドの住人。
“それ”が現実世界に存在する時は、美穂の姿は鏡には映らない。
‘“それ”は黒いネメシス=異獣サマナーエリスに変身をする。更に、〈ネプトゥー〉というカードでネメシスを圧倒するくらいのパワーアップをする。
“それ”の目的は、美穂と融合して実体を手に入れること。
「んぁ~・・・ミホと同じくらいヒキョー者なんだ?」
「悪気が無いのは解るけど、言葉には気を付けるばるよ、紅葉」
「そうですよ、紅葉。
『勝つ為になら、どんな汚い手でも平気で使う』と表現するべきです」
「マユユ、それはボケか?それとも真意か?」
「麻由の場合は、悪気が無いんじゃなくて、
実際にそう思っていそうで、どう質せば良いのか解らないばる」
美穂と同等の策略と、ネメシスを凌ぐ戦闘力は、かなり厄介だ。しかも、リアルワールドとインバージョンワールドを行き来できるので、総力戦で追い詰めても致命傷を与える前に逃げられてしまうだろう。インバージョンワールドを戦場に指定されたら、ネメシスとジャンヌ以外は戦えない。それに、ジャンヌがインバージョンワールドに入るのは、真奈に大きな負担がかかる。どうにか、鏡像の美穂を現実世界に引っ張り出す手段はないのか?
「皆で鏡の周りで待機をして、偽ミポリンが出てくると同時に袋叩きにしよう!」
「紅葉じゃあるまいし、
待ち伏せされてるのが解っていて出てくるバカはいないだろ?」
「んぁぁっ!?ァタシ、バカにされてるっ!?
だったら、『ぉっぱい真っ平ら』とか『ヒンニュー』って挑発して、
鏡の中のミホを誘き出そうょっ!」
「悪気が無いのは解るけど、言葉には気を付けるばるよ、紅葉」
「そうですよ!
それでは、偽者の美穂さんより前に、
本物の美穂さんが挑発されてしまいます!」
「マユユ、それはボケか?それとも真意か?」
「麻由の場合は、悪気が無いんじゃなくて、
実際にそう思っていそうで、どう質せば良いのか解らないばる。」
ゴツン!ゴツン!ゴツン!ゴツン!
「んげぇっ!!」 「うぐぅっ!!」 「ばるぅっ!!」 「ハァゥァッ!!」
「おバカな紅葉と、フォローになってない麻由が失礼なのは言うまでもないけど、
フォローしてるつもりで肯定してるバルミィとジャンヌも充分失礼!
そ~ゆ~話題はスルーしろ!」
挑発された美穂の渾身のゲンコツが、紅葉と麻由とバルとジャンヌの脳天に炸裂する!




