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29-1・ネメシスvsエリス~ネプトゥーの力

 ネメシス(美穂)とエリス(偽者)の鍔迫り合いが続く。エリスはネメシスの力業を凌ぎながら、マスクの下で笑みを浮かべた。


「こんな事やってていいの?のんびり戦ってると、バルミィが消えちゃうよ」

「・・・えっ!?」


 背後で倒れているバルミィに視線を向ける!途端にレイピアを押していた力が弱まった!エリスは、鍔迫り合いの支点をずらして、力んでいるネメシスの力押しを受け流し、体勢を崩して隙だらけになった腹に蹴りを叩き込む!


「うわぁっっっ!!」


 蹴り飛ばされて地面を転がるネメシス。レイピアを力強く握り直して構える。しかし、対照的にエリスは、構えを解いてリラックスした仕草で、ネメシスを見つめる。


「困っているみたいだな。

 教えてあげよっか?助けてあげる方法」

「・・・なに?」


 どう考えても罠としか思えない。だけど、バルミィを救う方法を思い付かない。あえて聞くことで、何らかの糸口を見付けられる可能性もある。


「簡単なこと。アンタがサマナーホルダをあげれば良いの。

 インバージョンワールドは、サマナーなら脱出できるんだから、

 バルミィをサマナーにしてあげればいいんだ」

「チィィ!その程度だろうと思ったよ!

 バルミィを助ける代わりに、あたしが死ぬってか!」


 確かに、エリスの提案は正解。美穂がインバージョンワールドで消える覚悟をすれば、ネメシスに変身したバルミィは脱出が可能。だけど、ネメシスが求めているのは2人とも助かる手段だ。

 エリスのサマナーホルダを奪い取ってバルミィに渡せば生還できるが、その程度の手段など見抜かれているだろう。決着が付かないようにダラダラと戦って、バルミィのタイムリミットを消耗させるに決まっている。

 しかし、ネメシスの思考を汲んだエリスは、首を横に振ってネメシスの考えを否定した。


「ちげーよ!アンタもバルミィも助かる方法だ!」

「!!!!?」

「バルミィは、アンタのカードデッキがあれば助かる。

 そしてアンタは・・・私と融合して一つになれば助かる!」


「・・・なに?どういう事だ!?」

「言葉の通りだよ!

 あたしはインバージョンワールドでは平気だけど、

 現実世界での活動には時間制限がある。

 アンタはインバージョンワールドでは生きられない。

 だけど、あたしとアンタが一つになれば、

 現実世界もインバージョンワールドも思いのまま。

 こんなに素敵な話は無いだろ?」


 蹲ったまま動けないバルミィをチラ見するネメシス。

 にわかに信じがたいが、エリスが圧倒的に有利な状況で嘘を言っているとも思えない。融合をすれば助かる可能性は高そうだ。ならば、融合の詳細は、今からジックリと聞いて判断するとして、先にバルミィを救出するべきか?

 いずれにせよ、このまま睨み合いをしていても手詰まりになる。ネメシスは小さく舌打ちをすると、変身を解除して、サマナーホルダをバルミィに差し出した。そして、生身の姿のままで、エリスの前に立つ。


「しゃーない!降伏だ!『融合』ってのを受け入れるよ!」

「さすがは“あたし”だね。状況把握が早い」

「バルミィの命で駆け引きされちゃ、どうにもなんね~からな。

 だけどさ、『融合』をする前に、もうちっと教えてくれ!

 アンタは一体何なんだ?

 なんで、鏡に映ったあたしが、勝手に動き回れる?」

「あたしは、アンタの思考と姿を得たアナザービースト。

 アンタが、何度もインバージョンワールドに干渉した事で生まれたんだ。

 まぁ、生まれたと言っても、生命力は持っていないんだけどな」


「へぇ・・・あたしの形をしたアナザービーストね。

 『融合』をすれば、現実世界とインバージョンワールドを

 自由に行き来できるのは解ったけどさ、それって目的じゃなくて手段だろ!?

 『融合』して自由になって、そのあとは何をしたいんだ?」

「ふふふっ!『融合』をして最強のサマナーになるんだ!」

「最強?そんな面倒臭そうなモンになって、どうするっての?」

「決まってるじゃん!人間共を支配するの!」

「・・・はぁ?」

「現実世界で無制限に動ける生命力と、

 “あたし”以外を拒絶するインバージョンワールドがあれば簡単なことだろ?」

「まぁ、確かに・・・

 気に入らない奴をインバージョンワールドに引き摺り込めば、敵は無くなる。

 その為に、障害になりそうな紅葉達を一時的に潰して、

 手応えを確かめたって事か?」

「そういう事。どいつもこいつも、搦め手から攻めたら楽勝だったけどね」


 美穂は、目を瞑って、しばらく思考をして状況を整理する。そして、目を開けて「ふぅ」と肩の力を抜いた。


「そっか・・・やっと“あたしみたいな誰か”の正体と目的が解った。

 挑発に乗って手詰まりになった・・・なんて無様な演技は、これで終わりだ!」

「・・・なに?」

「最強の力を手に入れて世界を支配するなんて、下らないって言ってんだよ!!

 アンタの暗躍でザック隊への就職が楽になるとか、

 融合すれば麻由並みに勉強できるようになるってなら、

 一考くらいはしてやっても良いけど、

 あたしは、見ず知らずの奴の支配なんてもんに興味は無い!」


 振り返り、バルミィの名を呼びながら手を伸ばす美穂!先程まで、全く動けなかったはずのバルミィが立ち上がって、サマナーホルダを美穂に向かって投げた!美穂は、受け取ったサマナーホルダを翳してポーズを決め、異獣サマナーネメシスに変身!レイピアを抜刀して、エリスに突進をする!


「ば、ばかな!!?」

「ふんっ!追い詰められたフリでもしなきゃ、魂胆を教えてくれないと思ってな!

 一芝居打たせてもらったんだよ!」

「バルミィは死ぬ気なのか!?

 このままでは、インバージョンワールドから脱出できずに消滅するんだぞ!」

「だろうね!ただし、ここに居るのが、本体なら・・・な!

 勝ち勇みすぎて気付かなかったのか?」

「なにぃ?」


 ネメシスの背後、エリスの視線の奥にいたバルミィが、「あっかんべー」をして、命の消滅とは別の方法で姿を消す。




-現実世界・バルミィが引き摺り込まれた窓の前-


 窓に向かって「あっかんべー」をするバルミィがいる。


「オマエが引き摺り込んだのは、ボクの分身ばるぅ~~~~!!」


 全ては美穂の作戦だった。真奈に付き添った救急車の中で、美穂は“自分を敵”に置き換え、自分で自分を追い詰める為なら、どう動くかを考えた。最も効率的なのは、挑発をして怒らせて判断力を削ぎ、インバージョンワールドから脱出できない者を引き摺り込んで、更に神経を逆撫でする。言うまでもなく、目の前で引き摺り込んだ方が、挑発する相手に絶望を与えられて効果がある。美穂ならばそうする。

 だから、2度も真奈が標的にされない為に、挑発に乗ったフリをして真奈から離れた。そして、バルミィには事前に指示をして、わざとインバージョンワールドに引き摺り込まれやすい状況を演出して、分身を飛び込ませたのだ。案の定、鏡の中の美穂は、美穂の思惑通りの作戦を実行した。



-インバージョンワールド-


 ネメシス(美穂)とエリス(鏡像の美穂)のレイピアがぶつかる!例え戦闘技術と性能が同等でも、勢いづく方は力強く、動揺する方は剣が鈍る!エリスはネメシスの力に押されて、体勢を崩して数歩後退!そこに強烈な蹴りを喰らって、地面を転がる!


「所詮、あたしのコピーだ!

 過去のあたしの思考は模倣できても、進化するあたしの思考には勝てない!」


 牽制の為に、サマナーカードで黒鳥型モンスター・ジャークスワンを召喚するエリス!ほぼ同時に、ネメシスは、既に準備しておいたサマナーカードを翳して、白鳥型モンスター=キグナスターを召喚!

 キグナスターとジャークスワンは互いを牽制して飛び回り、時折空中で激突をする!エリスは動揺を隠しきれずに、召喚モンスター同士の攻防を目で追う!


「言っただろ!アンタはあたしの複製!考えを読むなんて楽勝なんだよ!」


 牽制を妨害されたエリスは、ジャークスワン(黒鳥モンスター)を呼んで頭上で羽ばたかせた!黒羽が舞ってエリスの姿を隠す!

 しかし、ネメシスは動じない!黒羽が舞うテリトリーから距離を空けて、キグナスター(白鳥型モンスター)に合図を送って羽ばたかせた!瞬く間に黒羽が吹き飛び、身を隠していたエリスが姿を現す!

 構えていたネメシスは「待ってました」と言わんばかりに突進をして、エリスにレイピアの乱れ打ちを叩き込んだ!


「うわぁぁっっっっっっ!!!」


 全身から火花を散らせながら弾き飛ばされて地面を転がるエリス!ネメシスは直ぐさまエリスを追って、エリスが起き上がるよりも早く、その眼前にレイピアの切っ先を突きつけた!


「やっぱ、オマエはただのコピー!あたしとは違う!

 あたしは、あたしの武装の脆弱さや弱点くらいは把握している!

 昨日今日生まれた、あたしの模造品とは違う!

 どうやればオマエの技を封じられるかくらい、戦う前から知っているんだよ!」

「うぅぅ・・・さすがは、あたしの実体。

 “自分”を倒す手段なんて研究済みって事か。

 確かに、ただのコピーのままでは適わないみたいだな」

「そういう事!観念するんだな!」


 自分の姿をしたアナザービーストを倒せば、偽者騒ぎは収まる。正体が解るまでは不気味だったが、判明させてしまえば、どうって事の無い相手だった。ネメシスは、そう考えていた。

 だが、エリスのマスクの下の眼は、まだ闘争心を失っていない!


「だったら・・・コピーじゃない戦力を使うしかなさそうだな」

「ん?何を言っている?」

「切り札を使うって言ったんだよ!」


 エリスは、ネメシスの僅かな隙を突いて、レイピアの切っ先を蹴り上げ、素早く立ち上がって間合いを開ける!そして、サマナーホルダから、1枚のカードを引き抜いた!

 途端に周囲の空気が変化をする!まるで、ネメシスの接近を妨害するようにエリスの周りの空気が凍てつき、マントが翼のように広がる!


「何だ、そのカードは?」

「ふふふっ!水の神様のカード!言っただろ、切り札を使うって!」


 エリスが見せつけるようにして翳すカードは、通常の手札とは違った煌びやかな見た目で、水を操る神が描かれている!


《NEPTUNUS!!》


 電子音声の発声と同時に、エリスが青白く発光!そして、周りに出現した幾つものシルエットが反転しながらエリスと重なり、装飾やプロテクターが大きく派手になり、禍々しさが増す!威圧感に気押されて数歩後退をするネメシス!


「なんだ・・・これは?」


 異獣サマナーエリス・ネプトゥーフォーム!

 ネメシスの目の前に、ネメシスの知らない力が降臨をした。エリス・ネプトゥーは、ネメシスの狼狽えた様子を眺めながら、ヒルト(グリップ周り)が神像で模られたレイピア=ネプトゥーレイピアを構える。


「ちゃんと聞き分けできるように、教育してやるよ」

「舐めんなっ!!」


 ネメシスが突進をしてレイピアを振るう!しかし、全て見切られ回避されてしまう!


「ふふん!本気の攻撃?それとも遊んでんの?」


 エリス・ネプトゥーは嘲笑いながらネプトゥーレイピアを振るった。ネメシスは突き出された切っ先を避けつつ薙ぎ払うが、余りの重たさで柄を握る手に痺れが走ってレイピアを落としそうになる。


「・・・くっ!」


 構え直すネメシスに対して、エリス・ネプトゥーは歩み寄りながら一振り二振りとネプトゥーレイピアを振るった。エリス・ネプトゥーがレイピアを振るうたびに切っ先から冷気が発せられ、ネメシスが刃を交える度にレイピアを握っている手が凍える。

 ネメシスは堪えるのが精一杯で攻撃が出来ない。それでも懸命に応戦をするが、レイピアを弾かれ、仰け反ってガラ空きになった胸に蹴りが叩き込まれて弾き飛ばされる。


「うわあああっ!!!」

「あはははははっ・・・・・これ、すげえっ」


 エリス・ネプトゥーは力に酔いしれながら、腕や身体を眺めなる。そして、「何時でも挑んでおいで」と言いたげに人差し指を「チョイチョイ」と動かした。

 いやらしい態度がソックリだ。しかも陰険さは上回っている。「挑発に乗っちゃダメ」と思いつつ、ムカついて仕方ない。


「こんっのおおおおおお~~~~っ!!!!!」


 歯を食いしばって突っ掛かったが、滅多打ちにされてしまう。希にネメシスの攻撃がヒットしても、進化したプロテクターの高い防御力に阻まれてダメージが通らない。攻撃を受けるたびに体が凍てつく。相手が自分では手の内は全て読まれてるから、その場しのぎの小細工を弄しても通用すると思えない。強烈な回し蹴りを喰らって、再び転がされた。だが意地で立ち上がって、息を切らせながら睨みつける。


「なかなか、しぶといね。さすが、あたし」

「ただのコピーが『あたし』って言うなっ!!」

「・・・・・何だかムカつくなあ・・・・・・・もうちょい絶望させとくか」


 エリス・ネプトゥーは、カードを翳してネプトゥーハルバードを召喚!握りしめて勢い良く振り回しながら、ネメシスとの間合いを詰める!


「これ(ハルバード)は、さっき(レイピア)ほど生易しくはないよっ!」


 虚言ではない事は直ぐに解った。ネプトゥーハルバードを振り回して発生させた風が、吹雪となってネメシスを凍てつかせる!直撃を受けていないのに体力を奪われていく!これでは対処する手段が無い!

 だが、武器を扇風機のように振り回して「終わり」のはずが無い!ネメシスが凍えて動きが鈍ってきたところで、エリス・ネプトゥーが襲いかかる!

 ネメシスはネメシスハルバードを装備して応戦するが、冷気で体が硬直して思うように武器を振り回せない!エリス・ネプトゥーのハルバードの切っ先が容赦なく叩き込まれ、打撃を受けた場所が、まるで凍傷にかかったように麻痺をする!


「マジかよ・・・冗談じゃないっ!」


 たまらず、大きく後退して間合いを空けるネメシス。


「あははっ!強化されたのは武器だけじゃないよ!」


 エリス・ネプトゥーが指を鳴らしてジャークスワンを召喚!ジャークスワンは、一回り大きく派手な姿=ネプトゥースワンに変化!ネメシスの頭上で羽ばたくと、空気中の水分が集まり、無数の氷柱と化して、ネメシスの降り注いだ!


「うわぁぁっっっっっ!!」


 氷の刃を浴びて弾き飛ばされるネメシス。接近戦じゃ手も足も出ず、離れたら容赦無く凍てつく衝撃波や、氷の刃が飛んでくる。中身の思考が似ていて読みやすくても、ここまでスペックが違うと、打開策が思い付かない。

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