28-3・紅葉の弁当が無くなった~次の標的は真奈
―通学タイム―
紅葉が待ち合わせのコンビニへ来たら、美穂と真奈は、まだ来ていなかった。
「ぁれぇ?」
自転車から降りて、スマホいじったり、爪先立ちして美穂が来る方角へ何度も眺める。ややあって、美穂&真奈が大慌てで原チャリ&自転車を飛ばして合流した。
「また遅刻かと思っちゃったっ!」
「ごめんっ!スマホの音を消していて、アラーム(振動だけ)に気付かなかった!
真奈が起こしてくれなかったらヤバかった!」
「えへへっ!美穂さんのバイクが、まだ停まってたからね」
合流した3人は、並んで通学を開始する。
「ァミ最近チョット変なんだょね。どぅしちゃったんだろ?
朝すっげ~早く行っちゃぅし、
ぉ昼も『ちょっと』って、でっけ~ぉ弁当持って何処かに行っちゃぅんだょっ」
「あ~・・・・・」 「そうなの?」
美穂と真奈は適当に相槌しながら聴く。亜美と石松の件は、美穂は、一緒に弁当を食べているのを目撃したから知っている。真奈は独自の情報網で知ったので、美穂が口止めをしてある。紅葉が亜美と石松の関係を知ったら、確実に茶化して(本人は応援のつもり)上手くいくものも頓挫してしまう可能性があるので内緒にしているが、亜美の幼馴染み紅葉だけが知らないのは少々不自然だ。紅葉にも報せるべきだが、どんなタイミングで、どう報せるべきか、美穂は悩んでしまう。
窓ガラスに映った美穂が、現実世界の美穂と違う動きをして美穂を見つめるが、周りにいる連中も、美穂本人も全く気付かない。
-昼休み-
その日の美穂は、遅刻もせず、授業(1限~4限)もサボらずにクリアした為、「美穂のフリをした何か」は発生をしなかった・・・と思ったが、事件は昼休みに起きた。
昼休みになり、購買部でパンを購入した美穂が2B教室に行ったら、紅葉が白目を剥いて机につっ伏して死んでいた。紅葉の口から半透明の紅葉がハミ出していて、天に昇ろうとしている。美穂は慌てて紅葉の胸ぐらを掴んで、「起きろ!」と声を掛けながら揺さぶるが、紅葉の魂は、窓を通過して空へと上がっていく。きっと、アレ(魂)が雲の上まで行ったら、紅葉は帰らぬ人になるのだろう。半透明の紅葉を掴んで引っ張り戻そうとするが、美穂には掴むことが出来ない。仕方なく、霊体に干渉できる麻由を呼んで、紅葉の魂を掴んで、紅葉の口の中に押し込んでもらった。ようやく、紅葉が力無く首を上げ、虚ろな瞳で美穂を見つめる。
「一体、何があったのですか?まさか、紅葉の宿題まで紛失を?」
「オマエ(麻由)と違って、宿題が無くなったくらいで紅葉は死なね~よ!」
「ォベントが・・・無いの」
「はぁ?」 「お弁当?」
「ん・・・ォベント、忘れちゃった・・・の」
紅葉は、弁当を忘れたのがショックで死にかけていたらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
燃費が悪い紅葉にとっての食事は、とても大切なのだろう。だけど、たかが弁当を忘れたくらいで死ぬか?「購買でパンを買うか、学食に行け」と思うのだが、紅葉にしてみれば「弁当を忘れた」って事実が、プライドを著しく傷付けてしまったようだ。
たまに「買い出しが面倒臭い」って理由で飯を抜く美穂や、つい自学に夢中になりすぎて気が付いたら夕飯抜きになっていた麻由からすると、理解不能だ。美穂はヤレヤレと溜息をついて、パンを一つ紅葉に差し出した。
「食え!足りないだろうけど、無いよりはマシだろ?」
「んぁぁ!?アリガト、ミホっ!」
紅葉は「パンて飲み物だっけ?」ってくらいの勢いで、あっという間に食べ終わった。
「購買部に行ってパンでも5~6個買ってくるか?」
「ぅんっ!」
紅葉&美穂&麻由がパンの買い増しに行こうとしたら、亜美がもの凄い剣幕で教室に飛び込んできて、紅葉を見付けて怒鳴り声を上げる!
「ちょっと、何の嫌がらせよ、クレハ!美穂ちゃん!」
「んぁ?」 「なんだ?」 「あら、平山さん」
「なんで、石松さんに食べてもらうお弁当の中に、
クレハのお弁当を紛れ込ませているのよ!!」
「んぁぁ?石松先輩にオベント?」
「わぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!逆上して暴露するなっ!!」
美穂は、慌てて亜美にヘッドロックを掛けて2B教室内から引き摺り出し、階段の踊り場まで連れて行って、壁ドンをして宥める。
「何があったのか、落ち着いて話せ!
あと、あんな大声で怒鳴り散らしたら、
紅葉どころか、クラス全員に交際がバレるぞ!」
「石松さんに食べてもらうお弁当のカバンの中に、
紅葉のお弁当を紛れ込ませたのって美穂ちゃんだよね?」
「はぁ?なんのこと?」
「酷いよ!何の為に、こんな嫌がらせをするの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美穂には心当たりが無い。だが、昨日の騒動を考えると、思い当たる節はある。
「あたしが、亜美のカバンの中に、紅葉の弁当を?亜美が見ている前で?」
「うん!忘れたなんて言わせないよ!」
~~~亜美の回想:昼休み開始直後~~~
弁当を詰めてあるカバンを持って、校庭の“待ち合わせ場所”に向かうべく階段を降りていく亜美を、美穂が呼び止める。
「デカい弁当だな。誰と食べるんだ?」
「あっ!美穂ちゃん!こ、これはちょっと・・・」
「見せてよ!」
亜美は恥ずかしそうに弁当袋を背中で隠そうとするが、美穂はお構い無しに近付いて弁当袋を奪い取って中身を覗く。
「へぇ~~・・・亜美一人で食べる分・・・ではないよな。
この量だと、一緒に食べる相手は男・・・か?」
「うぅぅ・・・うん。でも、美穂ちゃんが考えてるのとは違って・・・」
「へへへっ!皆には内緒にしておこう」
「・・・う、うん」
亜美は、美穂から返された弁当袋を、照れくさそうに受け取って、改めて“待ち合わせ場所”に向かう。そして、いつものように、校舎の裏庭のベンチで待っている石松の隣に座って、弁当袋から超巨大な弁当箱を取り出して・・・
「・・・あれ?」
亜美が持ってきた弁当の他に、見慣れない弁当箱が入っている。首を傾げながら、見慣れない弁当箱と、準備した弁当箱をベンチの上に並べて、見慣れない弁当箱を開けてみる。
「おぉぉ!いつもと違うパターンで新鮮ばい!亜美ちゃん、いつもありがとう!」
「あっ!それは違っ!!」
石松は、見慣れない弁当を手に取って、モリモリと美味そうに食べ始めた。そして「いつもと違う味付け」「こういうのも新鮮で良い」「いつもより頑張ってくれた?」とお弁当を褒めてくれる。
亜美は、しばらくは、何がどうなっているのか解らなくて呆然としていたが、徐々に怒りが込み上げてくる。目の前にいる男子は、亜美が作った弁当ではなく、他人が作った弁当を褒めている。「新鮮で良い」って事は「亜美の味付けは飽きた」ってことか?石松にそんな悪意は無く、純粋に亜美の弁当(と思って)を褒めているが、亜美は我慢ができない。亜美の知らない弁当については「いつもと違ってマズい」と言って欲しい。
先程は「見慣れない弁当箱」と表現をしたが、落ち着いて良く見ると「とても見慣れた弁当箱」だ。冬休み前までは、その弁当箱の持ち主と一緒に昼休みを過ごしていた。
弁当袋に、紅葉の弁当が紛れ込んだのは、おそらく、美穂にチェックをされた時だ。石松が食っている最中にも関わらず、亜美は無言で立ち上がり、肩を怒らせて目を吊り上げ、2B教室に向かって駆けていく。
~~~回想終了~~~
事情を聞いた美穂は、溜息をついて頭をかく。どうやら、また出現をしたらしい。
「なるほど・・・紅葉の弁当は石松に食われたって事か。
専業主婦で、如何にもオールマイティーって感じの紅葉の母親が作る弁当と、
学業優先の亜美が、学生生活の合間に作る弁当じゃ、質が違うってか。
何も知らずに紅葉の弁当を褒めた石松が、ちょっと気の毒だな」
「なんで、そんなことをすんの!?」
「え~~と・・・亜美の弁当をチェックしたのって、間違いなくあたしか?」
「何言ってるの!?ついさっきの事だよ!」
「あ~~~~・・・・それ、あたしじゃないんだ。
あたしは、昼休みになったら、直ぐに購買に行ってパン買わなきゃだから、
悪いけど、亜美を茶化している暇なんて無い」
「・・・え?でも」
「あたしの格好をした、あたしじゃないヤツがウロチョロしてるっぽいんだ」
「・・・そ、そうなの?」
「うん。多分、ソイツが、紅葉の弁当を盗んで、亜美の弁当の中に紛れ込ませた。
だからさ、色々と不満だろうけど、紅葉のことも、石松のことも許してやれ」
「う・・・うん」
弁当騒ぎは、どうにか落着したが、美穂は“自分の近況”を友達にすら秘密にしている亜美にも、少し物を申したい。
「あと、良い機会だから言わせてもらうけど、ちょっと、行動が極端すぎるぞ!」
「・・・え?」
「リア充を批難する気は無いけどさ、
あたし等は眼中に無しで、男ばっかに一生懸命なのは、どうかと思う。
そんなんだから、紅葉が弁当無くして死にかけてたのも知らずに、
紅葉を疑っちゃうんだ。
昼休みは男優先で良いとしても、せめて、登校くらいは友達を優先しろ!」
「う・・・うん・・・ごめん」
「近いうちに、紅葉にはちゃんと話すこと!」
「・・・うん」
「よしっ!解ったら、サッサと石松のところに戻れ!
きっと、いきなり放置されて、戸惑っているぞ!」
石松のところに戻る亜美を見送り、美穂が階段を上ろうとしたら、紅葉と麻由が壁に半身を隠して眺めていた。
「ァミと石松先輩、なんかあったの?」
「・・・げっ!聞かれた?」
「にぃっひっひっひ!よし、ァミを追っ掛けて見に行こう!」
「見に行ってどうすんだよ!?」
「もし、ァミと石松先輩がラブラブだったら、みんなでぉ祝いすんのっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・だから、オメーには教えらんね~んだよ!
亜美と石松は何でも無い!今は、石松の話なんてしていない!
オマエの聞き間違えだ!
亜美にトイレの場所を聞かれたから、教えていただけだ!」
「えぇぇ?・・・でも、ァミが『石松さん』って」
「言ってない!『石松さん』ではなく『大便』って言ってた!」
「み、美穂さん!『石松さん=排泄物』と変換するのは、どうかと思いますが!」
「似たようなもんだ!気にするな!」
美穂は、紅葉の頭をアイアンクローで締め付けたまま、「イタイ、イタイ」と喚くのを無視して2B教室に押し戻すのであった。
-放課後-
事前に呼んでおいたバルミィ&ジャンヌも含めて、2A教室で‘放課後ミーティング’が始まった。まだ正体も目的も解らないが、「美穂のフリをした何か」は間違いなく存在をしているようだ。
卑劣な攻撃(?)で、昨日は麻由が廃人寸前に追い込まれ、今日は紅葉が三途の川を渡りかけた。チーム内フィニッシャー(兼、足手まとい)2名が、手も足も出ずに敗北(?)したのは、少し厄介な状況なのかもしれない。
「目的は解らなくても、せめて、いつ出現するのか解れば、対処できるばる」
「ク~チャンとマユユの気配探知で、どうにかなりませんか?」
「ん~~~~・・・ハッキリとゎ、ワカンナイんだよねぇ~」
「違和感を感じることはありますが、微弱すぎて探知しにくいんです」
「困ったな。先生を騙す程度なら、そこそこの精度でも可能だろうけど、
亜美を騙したとなると、かなりのクオリティーって事だ。
そんなモンにウロチョロされたら、次は誰が騙されるか予想が出来ない」
いつもならば、「このサークルの責任者は私よ」なんて顔でチームを仕切っている真奈の存在感が無い。違和感を感じた美穂が見回したら、真奈の姿が無い。
「あれ?真奈は?今日は先に帰ったのか?」
「んぁっ!言ってなかったっけ?
マナなら、ミホと、リバサイ鎮守で試験勉強するって言って、先に帰ったょぉ」
「あら、美穂さんと勉強会ですか?それは感心ですね」
「へぇ~・・・美穂が勉強に誘ったばるか?珍しい事があるばるねっ!」
「ミポリンは行かなくて良いのですか?」
「ん?なんであたしが、ワザワザ勉強なんかの為に・・・・・ん??」
「えぇぇぇっっっっっっっっっ~~~~~~~!!!!」×たくさん
真奈は「美穂のフリをした何か」と一緒だ!
麻由がスマホで真奈に連絡をするが、何度コールしても反応が無い。「美穂のフリをした何か」の魂胆は解らないが、急いで真奈と合流をして引き離すべきだ。場合によっては、麻由、紅葉に続いて、今度は真奈が死にかける事態になってしまう。
「くそっ!」
焦り気味に、窓ガラスにサマナーホルダを向ける美穂!インバージョンワールド経由で目的地に向かうつもりだ!しかし、変身をしようとした美穂は、窓ガラスを見つめたまま、表情を引き攣らせる!
「なに?どうなっているの?」
美穂の姿が窓ガラスに映っていない。「何事?」と覗き込む紅葉や麻由の姿は映っているが、美穂の姿だけが無い。窓ガラスはサマナーホルダには反応を示すが、変身対象を感知しないので乳白色化をしない。
何が起きているのか解らないが、ハッキリしていることは「美穂にだけ異常が発生して変身ができない事」と、「真奈が正体不明の存在と一緒にいる事」だ。
「こうなったら、真奈と一緒にいる“あたし面”を取っ捕まえて問い詰めてやるっ!
バルミィっ!乗せてくれ!」
美穂を背に乗せたバルミィが、2A教室の窓から飛び出していく。
「美穂さんっ!」
麻由は焦りを募らせる。美穂は、変身を出来ない状態で、真っ先に現場に行って何をするつもりなのか?真奈のことも心配だが、冷静さを失っている美穂も心配だ。
「私達も、急ぎましょう!」
紅葉&麻由&ジャンヌは、急いで教室から飛び出し、階段を駆け下りていく。
―十数分前―
昼休みに“美穂”から「ちょっと化学で解らないとこあるんだけど、教えてくれないかな?」と誘われた真奈は、頼られるのが嬉しくて即時OKをした。どう考えても、勉強なら麻由に聞くべきなのに、あえて真奈を選んだのが誇らしい。
真奈より先にメンバーだった紅葉は思考力が低い、麻由は優秀だが新入り(5番目に参加)。チームは真奈と美穂で作り上げていきたいと思っている。
きっと、美穂は、融通が利かない麻由よりも、古参メンバーで話しやすい真奈をアテにしているのだ。
6限目終了後のホームルームが終わると同時に、麻由にすら声を掛けずに教室から出たところで、紅葉と擦れ違った。
「んぁ?・・・マナ何だか嬉しそぅだねぇ。ぃぃ事ぁったのぉ~?」
「えへへっ、これから美穂さんと一緒に、リバサイで試験勉強するのっ」
「へぇ~っ。ぢゃ、今日のミーティングゎミホとマナ抜きかぁ~。
ミホに『頑張れ』って言っとぃてね~」
真奈は、「美穂に頼られてるのは私だけ」「他の連中は邪魔だから来るな」と考えながら、正門へダッシュ。美穂(?)を見つけて駆け寄り、肩を並べて賑やかに喋りながら、リバーサイド鎮守に向かう。真奈の絶頂は、この時がピークだった。




